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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編8 七夕(たなばた)
18/36

8-1.巨大バンブーを攻略せよ。




     〇登場とーじょーキャラクター紹介しょうかい

    ・和泉いずみ:18才の青年せいねん魔術学院まじゅつがくいん所属しょぞくする若手の教授きょうじゅ。下の名前なまえは「よわそう」って言われてからなるべく人におしえないようにしている。

    ・シロ:外見の年齢ねんれい17才くらいのおんな学院長がくいんちょう使つか

    ・チャコ:外見の年齢ねんれー18才くらいの女性じょせい。【賢者けんじゃ】の使つか








巨大(きょだい)バンブー?」

 北の(やま)にひらかれた、壮麗(そうれい)学術施設(がくじゅつしせつ)――【学院(がくいん)】。

 白亜(はくあ)(あお)の、石とスレートでできた巨城(きょじょう)は、魔術師(まじゅつし)たちに最上(さいじょう)教育(きょういく)を約束する【学舎(がくしゃ)】である。

 一階(いっかい)の大ホールに和泉(いずみ)はいた。脇に抱えているのは受け持ちの講義(こうぎ)教材(きょうざい)である。まだ十八才の若者(わかもの)だが、彼はれっきとした【学院】の教授(きょうじゅ)だった。

 白髪(はくはつ)に黄色いサングラス。えない私服の上から、教員用(きょういんよう)黒法衣(くろほうえ)をまとっている。

 ホールには、食堂(しょくどう)へ急ぐ生徒たちのすがたがちらほらあった。

 そんななかで、正面階段(しょうめんかいだん)すわったウサギ(みみ)少女しょうじょあかいメイド服の少女はいかにも邪魔じゃまだ。

 ――和泉は冒頭(ぼうとう)のせりふの続きをふたりに言いはなつ。


「って。なに?」

「やだー。和泉いずみ知らないの?」

 と白いボブショートにウサギ(みみ)少女しょうじょ――シロが言った。みため十七才(じゅうななさい)くらいの可愛い(かお)に手をあてて、「きもーい」とあからさまに和泉(いずみ)をばかにした笑顔えがお

巨大(きょだい)バンブーを知らなくていいのは小学生しょうがくせいまでですよねー」

 こっちもくちに手をあてて、メイド服の(おんな)が笑う。

 茶色(ちゃいろ)なが(かみ)にホワイトブリムが堂にいった、十八(じゅうはち)才ほどの女性(じょせい)だ。

 彼女かのじょもまた、シロ同様(どうよう)和泉を盛大にばかにしていた。

 前者(ぜんしゃ)学院長(がくいんちょう)使(つか)()後者(こうしゃ)は学院最強(さいきょう)魔術師(まじゅつし)、【賢者(けんじゃ)】の使い魔である。

 シロは(みみ)に形質がのこっているとおり、本職(ほんしょく)(?)は『うさぎ』である。

 もうひとりのほう――チャコという()だが――は、動物の名残(なごり)はないものの。元にもどったすがたは『まめしば』とばれる小型のしばいぬである。


 がん。がんッ。

 和泉いずみはとりあえずふたりの(あたま)をぶあつ資料(しりょう)なぐった。

「うるさいなっ。そっちからはなし掛けといてそれはないだろ」

「言われてみれば。確かに」

 けろっ。と()れたのはシロのほうだった。

 午前の講義がわり、魔法(まほう)転移装置(てんいそうち)で城のホールにのこのことりてきた和泉に、「あれ。和泉は行ってないんだ」と声をかけたのは、誰あろう彼女かのじょだったのだ。

 そして質問の意味(いみ)がわからなかった和泉(いずみ)が「え。ひょっとして、学長(がくちょう)からび出しとかあったか?」と問いかえすと、シロの(よこ)にいたチャコが「巨大(きょだい)バンブーですよ」と答えをいだのだった――。

「で」

 憤然(ふんぜん)と。和泉は鼻息(はないき)き出す。

結局けっきょくなんなんだよ。シロ。チャコ。巨大(きょだい)バンブーってのは」

 シロが両手(りょうて)で自分のひざに頬杖ほおづえをついてあごを支える。

一年(いちねん)にひとつだけねがいをかなえてくれるおおきな竹だよ。【迷宮(めいきゅう)】に、この日――。七月七日(しちがつなのか)にだけ出現(しゅつげん)するフロアがあってね。そのおく一本(いっぽん)だけえてるんだってさ」


 【迷宮めいきゅう】は、【学院】の敷地内(しきちない)で管理している、モンスターや魔法素材(まほうそざい)の群生地である。

 【ポーター】という次元のひずみを入りぐちとし、そこをくぐれば何十(なんじゅう)もの(そう)が地下へとつらなる重層構造(じゅうそうこうぞう)のダンジョンになっている。

 最下層はいまだ発見(はっけん)されておらず、内部(ないぶ)構造も未知(みち)の部分がおおいため、一時的(いちじてき)に開拓されるエリアがあってもおかしくはない。

 ――が。

 シロはつづける。

「そのフロアってのが【七.七(ななてんなな)(そう)】。初等部(しょとうぶ)中等部(ちゅうとうぶ)の子はだめだけど、高等部以上(いじょう)連中れんちゅう許可(きょか)されてる階層だからね。大半(たいはん)の人たちが授業(じゅぎょう)とかほっぽって、そっちに行っちゃったみたいよ?」

「そうか……」

 シロの説明せつめい和泉(いずみ)はようやく合点(がてん)がいった。

 てみると。ホールをせわしなく移動しているのは中等部以下の子どもがほとんどだ。

「だから今日きょうのオレの講義。誰も来ていなかったのか」

「それについては和泉さまの人望(じんぼう)皆無(かいむ)だからなのでは?」

「つーか。誰もいなかったならあんたいままで講義室でなにやってたのよ」

「ばかだなあシロ。無人(むじん)の空間にむかってひたすら講釈(こうしゃく)たれてたに決まってるだろ♡」

 意味(いみ)もなくさわやかな笑顔(えがお)になって。和泉。

 シロとチャコは(しめ)わせたようにそれ以上いじょうなにも聞かなかった。


「そうだ。ねがいごとがかなうってならオレも行かなきゃ」

「いいの和泉いずみ。午後の仕事はどーすんのよ」

「オレばっか真面目まじめにやってられるかよ」

 すこしべそをかきながら和泉(いずみ)は抗議した。

「では和泉さま。行くならこちらの短冊(たんざく)をお持ちください」

 みかねたチャコがたす(ぶね)を出してくれる。

「あと。いまからスタートとなりますとかなり不利とはおもいますが。……まあ。可能(かのう)な限り急いだほうがよろしいかと」

「不利?」

 チャコの差し出した青色(あおいろ)(かみ)切れを受け取って和泉は問う。

 要領(ようりょう)をえない青年(せいねん)に、シロがぴっと人さし(ゆび)を立てて教授(きょうじゅ)する。


巨大(きょだい)バンブーがかなえてくれるねがいは()()()だけ。でもってそれが出現(しゅつげん)するのは一本(いっぽん)だけなのよ。つまり――」

先着一名(せんちゃくいちめい)さまのみ有効(ゆうこう)ってわけか!」

「そゆこと」

 シロはぱちんとウインクした。

 和泉いずみはシャツのポケットにしていた万年筆(まんねんひつ)を取って、短冊に手早てばやねがいを書きこむ。

 おそらくは――。【(おもて)】にいた頃とおなじように願いごとをするのだろうとおもいながら。

 そう。

 七月七日(なのか)七夕(たなばた)の日。

 実家や小学校(しょうがっこう)(ささ)()に短冊をつるし、願掛(がんか)けをしたように。


 織姫(おりひめ)彦星(ひこぼし)? それは知らん。

 アベックは古今東西(ここんとうざい)問わず和泉(いずみ)の敵なのだ。

「よし。書けた!」

 教授用(きょうじゅよう)黒法衣(くろほうえ)をひるがえして、和泉(いずみ)はシロとチャコのふたりのまえから(はし)っていった。

「じゃあ行ってくる!」

「ばいばーい。和泉せんせ」

 とシロが手を振る。その(よこ)で。

 チャコがぽつりとつぶやいた。

「……。無事に帰還できるといいですけれどね」






                              【つづく】









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