7-3.幻の貴公子 ~大体こんな感じ編~
〇このものがたりは『7-2.まぼろしの貴公子 ~おっかけ編~』のつづきです。
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〇登場キャラクター紹介です。
・『メイ・ウォーリック』:黒いロングヘアに黒目の十七才の魔女。【学院】の高等部三年生。【貴族】のおじょうさま。
・『リョーコ・A・ブロッケン』:赤いセミロングに赤目の、二〇才の女魔術師。【学院】の研究所につとめている。メイの友達。
〇
ひゅるるるるるるるる。
ぼとっ。
リョーコは森林のなかに頭から着地した。
「……。……」
先客の少女は、土にさかさまに埋まっている先輩魔術師を見おろす。
「どうしたんですかブロッケンさま。靴もはかないで」
はしたない……。
とあきれて、彼女――メイ・ウォーリックは〈銃器〉の練習を中断した。
いちおうの友人――リョーコを地面からすっぽぬく。
ぽんっ。
「あー。助かったわ。ありがとメイちゃん」
「どうも」
ウエストに巻いていたカーディガンをメイはリョーコに投げた。
射的をはじめるまえまで着ていたものだが、訓練をしているうちに暑くなったので、今はカットソーいちまいである。
魔力でつくった〈マスケット〉をたずさえて、メイは近くの切り株に腰かける。
「また史貴先生のご不興を買ったのですか?」
「まあ。そんなとこなんだけどさ」
立ったままかりた上着にそでを通して、リョーコ。サイズがすこしでかい。
メイはうろんげに、むらさきがかった瞳を濁らせた。
「情けない。あんな庶民の娘に毎回してやられるなんて。あなたはそれでも誇りある大家の子女なのですか?」
「うっさいなあ。家がどーとかいうまえに。私は私なのっ」
「わたくしたちに、それが通用するくらいなら……」
そこから先はただのグチをばらまくことになりそうだったので、メイは手でくちを閉ざした。
「なあーんか。葵のあほがまーた色ぼけたみたいでさ」
リョーコはやけくそに、連日の雨でぬかるんだ地面をはだしで踏む。今日はまだ曇っているだけだが、そのうちにまた降りはじめることだろう。
「『まよなかの奇行者』って言ったかな」
「まぼろしの貴公子?」
「そう。それ。さっすがメイちゃん。耳がはやいわね」
「家業で情報屋をやっておりますので」
メイはたっぷり皮肉を込めて言ってから。
「それに。【学院】で今ホットな話題ですものね」
「へーえ」
「ただ。ブロッケンさま。あれは……」
「みなまで言わないでよ」
「あれは、」
「わかってるから――」
「あなたのことですわよね?」
「言うなっつってんでしょおおおおおお!」
リョーコは樹の幹に取りすがって嘆いた。
そのままよろよろと地面に四つんばいになる。
メイは一言、「服、よごさないでくださいね」とクギを刺した。