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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編7 梅雨(つゆ)
15/36

7-2.幻の貴公子 ~追っかけ編~



  〇このものがたりは『7-1.まぼろしの貴公子きこうし ~イメチェンへん~』のつづきです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 〇登場とうじょうキャラクター紹介しょうかいです。

 ・史貴しき あおい:金色のロングヘアにあおの、二十一才にじゅういっさい魔女まじょ魔術まじゅつ名門めいもん学院がくいん】の学院長がくいんちょうをつとめる。

 ・リョーコ・エー・ブロッケン:あかいセミロングに赤いおんな魔術師まじゅつし。【学院がくいん】の研究所けんきゅうじょにつとめている。二〇はたちあおいの元クラスメイト。

 ・ノワール:リョーコの使つか




   〇


(まぼろし)貴公子(きこうし)というのがいるみたいでね」

 ばんッ。

 と(あおい)黒板(こくばん)をたたいた。

 のっそり。

 リョーコ――赤毛(あかげ)赤目(あかめ)女魔術師(おんなまじゅつし)――は、布団から(かお)だけを出す。

 (ante)(meridiem)の九時。

 とどのつまりは午前の九時で、たいていの人は、まあきている時刻(じこく)である。

 が。せっかくのやすみであるリョーコはまだていたかった。

 のまえのブロンド美人に関しては、いま仕事中(しごとちゅう)であるはずなのだ。そしてその業務(ぎょうむ)に、ここ――。研究者(けんきゅうしゃ)たちのアパートメントをおとずれるという内容(ないよう)はふくまれていない。

「帰れ」

 と低血圧(ていけつあつ)気味ぎみ半眼(はんがん)を、勝手に部屋にあがってきた葵――金髪碧眼(きんぱつへきがん)の若い魔女(まじょ)にリョーコはむけた。

 とーぜん。相手あいて素直すなおに聞くわけもないのだが。

 (あおい)なが(かみ)の毛をひるがえした。

 黒板(こくばん)に、白のチョークでなにやらいっしょおけんめー書きこんでいる。


「聞きなさいリョーコ」

 最後の項目に黄色でアンダーラインをひいて、あおいはふりかえる。

「私にとっては一世一代(いっせいいちだい)の転機なのよ?」

「もーおお。知らないわよあんたの人生なんて。ひとりでやってなさいよ!」

 リョーコは布団にぐずぐずもぐった。

 ――一世一代(いっせいいちだい)ったって私とひとつっきゃちがわない二十一(にじゅういち)じゃない。チャンスなんていまのががしたってあとからでもゴロゴロじゃんじゃんはいってくるわよ。きっと。たぶん。おそらくは。

「いいから聞きなさい」

 ぶわさあっ。

 (あおい)はリョーコのシーツをはぎとった。相手あいて寝巻ねまきすがただが、かまわない。タンクトップにホットパンツなら、外にほうりだしたってそのまま『私服(しふく)』で通用(つうよう)するだろう。

 問題があるなら、それは靴をはいてないってことくらいで。


「【図書館塔(としょかんとう)】で、このカレが目撃されたというウワサなのよ」

「はあ?」

(あめ)の日に、唐突にあらわれたって言うわ。『あの司書(ししょ)』の後継者(こうけいしゃ)が」

「こうけい? あおい……。あんた。ノワールのほかにもあたらしい司書やとったの?」

「そんなわけないでしょう」

「ああ?」

「だから事実確認のためにも、私は()まなこになってそのカレを()っているの。『まぼろしの貴公子(きこうし)』とばれるその人を!」

「なんだ。けっこーまじめな理由(りゆう)だったのね」

 リョーコはベッドに腰かけた。サイドボードの(みず)差しを取って、グラスにつぐ。

 ぐいっ。とかわいたのどにながしこんで、水分すいぶん補給(ほきゅう)する。

 ()のまえの魔女(まじょ)――金髪碧眼(きんぱつへきがん)にドレスすがたの美女(びじょ)は、魔術(まじゅつ)名門(めいもん)校である【学院(がくいん)】の学院長(がくいんちょう)だ。

 【学院】の設備は広範(こうはん)におよび、小さな(みやこ)ほどもある土地には学生や教員(きょういん)らの居住施設(きょじゅうしせつ)はもちろん、病院(びょういん)や【迷宮(めいきゅう)】もある。

 仔細(しさい)はぶくが、彼女(かのじょ)のいう図書館――【図書館塔(としょかんとう)】も、その設備のひとつにふくまれていた。


 でもって。彼女かのじょ――史貴(しき) (あおい)学院長(がくいんちょう)である以上(いじょう)は、この【学院(がくいん)】につとめる人物ならば、かならずいちどは面識(めんしき)のあるはず。

 にもかかわらず、葵が「知らない」と言いはる『司書(ししょ)』がいるというのは、なんともけったいなはなしだった。

 ましてや。【図書館としょかん塔】である。

 その場所(ばしょ)には少々(しょうしょう)事情(じじょう)を抱えるリョーコとしても、正体不明(しょうたいふめい)闖入者(ちんにゅうしゃ)があると聞いて、ほうっておくわけにはいかなかった。

「ほんで。特徴(とくちょう)は? そのなんとかのなんとかってーのの」

「せめて『まぼろし』か『貴公子』のどちらかくらいはおぼえなさい」

 言いつつ葵は、黄色(きいろ)から(しろ)チョークに持ちかえて、黒板(こくばん)のトピックをかんかんっ。とたたいた。

 チョークの先には、第一(だいいち)項目(こうもく)――。


「なんでも。ものすごく美形らしいわ」

「ほかには?」

(とし)た感じ十五(じゅうご)、六才くらいなんだけどね。でもこの(さい)私。もう年下でもいいかなあーって」

私情(しじょう)ありまくりじゃないのよ……」

「そりゃあ多少(たしょう)はね。個人的にも()ってみたいのは事実よ」

「ふーん。まあ。あんたがあたらしい恋をみつけたっていうなら、私もそれは応援おうえんしてあげようかな」

「ありがと。リョーコ」

「どおいたしまして」

「それで聞いたはなしでは、あの『図書館(としょかん)(きみ)』に似てるみたいなのよね。で。ここが重要(じゅうよう)なのだけれど――。彼よりはるかに『性格がよさそう』なんですって」

「あんたさあ……」

 基本的(きほんてき)に「みためがよければ中身なかみ問わない」葵だが、同おなじクオリティの外見なら「性格(なかみ)のいいほうがいい」というのも本音(ほんね)である。


「けっきょく。その系統(けいとう)にいきつくわけ」

「そうよ。ねえリョーコ。私は勝手にあなたの()()()かなにかじゃないかと睨んでいるし。くだんの彼をかけたっていう女子生徒(じょしせいと)たちも、そうじゃないかってはなしてるんだけど」

「いとこなんていないっつーの」

 リョーコはぐったりうなだれた。

「――にしても。他校の生徒ってわけでもなさそうなのね?」

「ええ」

「ほかに手掛てがかりはないの?」

目撃者(もくげきしゃ)たちにると。私の(いもうと)一緒いっしょにいたみたいなんだけど」

「あ。そーなんだ。じゃあ(あかね)ちゃんに訊けばいっぱつじゃ……」

 ――ん!?

 リョーコの脳裏(のうり)にぴぴぴんッ。と電撃(でんげき)はしった。

 くちもとに手をあてて、(あおい)から(かお)をそらす。

(ひょっとして……。()()()()の?)


「はーああ」

 (おお)きな溜め息があおいからもれた。

()いつめたわよ。でもあの子。知らないって言うの。『そんな(おとこ)ひとなんていなかったよお!』って」

「へえ……」

えた(あぶら)の上に逆さづりにして訊いてみたのに主張(しゅちょう)を変えなかったから、多分ほんとうなんでしょうね」

「可哀想なことしてんじゃないわよ。……てか葵。そのおー。……申し訳ないんだけどさあ」

「いいえあなたには協力(きょうりょく)してもらいます」

 かかかあんッ。

 葵はいきおいをつけて黒板(こくばん)表題(ひょうだい)二本(にほん)のアンダーラインを引いた。


 『まぼろしの貴公子』――。


「彼がどこの誰かわかり次第、私に報告(ほうこく)に来なさい。ってうかつれてきなさい。ここでってるから」

「いや自分の部屋で待機(たいき)しなさいよ。じゃなくってあおい。その『なんちゃらのなんちゃら』なんだけどね――」

「『まぼろしの貴公子(きこうし)』ね。――つべこべ言わずに」

 (あおい)はリョーコにむかって手のひらをかかげた。

 高熱(こうねつ)かたまりが白い光となって葵の手のなかに収斂(しゅうれん)する。

 熱波(ねっぱ)魔術(まじゅつ)を解きはなつ。

きな……。()きなさい!」

「なんでいま言いなおしたのよおおおお!」

 ちゅどおおおおおおんッ!

 【学院(がくいん)】の居住区(きょじゅうく)一画(いっかく)爆発(ばくはつ)した。

 ひゅーん。

 白煙(はくえん)にまじって、ひとつの影が曇った空に飛んでいく。






                       (つづく)





 

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