7-1.幻の貴公子 ~イメチェン編~
〇登場キャラクター紹介です。
・『メイ・ウォーリック』:黒いロングヘアに黒目の十七才の魔女。【学院】の高等部三年生。【貴族】のおじょうさま。
ざあああああ。
【学院】に雨がふる。
大陸北部の山岳地帯に位置する、魔術の名門である。
幼年期から老年までの学生をかかえる【学舎】をはじめ、広大な敷地には居住地や病院など。各施設がそろっている。
それはもはや、一個の都市と言えた。
天然の森林をのこし、要所のみを開拓してつくった広い庭。学院内において【森林庭園】とよびならわされる憩いの場所。
その中心に屹立する塔――【図書館塔】に、若い女子生徒たちがむらがっていた。
硝子の格子窓にしがみついて、きゃあきゃあ沸いている。
「あー。メイちゃん」
かさを手に庭を散策する長い黒髪の少女を、ひとりの女子生徒がみつけた。
声をかけてくる彼女――クラスメイトのセーラ・アルエリッヒに、めいわくそうにメイは怜悧な顔をゆがませる。
「気安く呼ばないでください」
「ごめんごめん」
「呼ぶなら『ウォーリック』と」
「うんうん。で。メイちゃん。メイちゃんならあれ。誰か知ってるんじゃないの?」
「顔ひろいもんねー」
「……。……」
少女――メイ・ウォーリックは、セーラをはじめとする同級生らに手まねきされて、図書館につまさきを向けた。
つきあう理由はなかったが、ことわる理由もない。
雨つゆにけぶる硝子窓の先には、金髪碧眼の少女――【賢者】がいる。
本名は史貴 茜だが、メイは敬意と尊崇をこめて『賢者さま』と呼んでいる。
呼ばれる本人はいやがっているが。
そして。彼女の横にはもうひとり。紳士服の魔術師がいた。
セーラたちはそちらにきゃあきゃあ言っているらしい。
(あれは……)
【賢者】といっしょに、仲むつまじく館内を整理している魔術師。
硝子の曇りのためか、くすんだ臙脂にみえる頭髪。さほど長くはないその髪を、うしろでたばねてゴムでとめている。
見目よい顔には黒縁の眼鏡が掛っていた。
そうしてみると、その魔術師はひどく知的にみえる。
――いつもとはちがって。
(つづく)