6.こんな時もあったとさ。
〇登場キャラクター紹介です。
・ホーエンハイム:二十代ほどのみための美青年。リョーコの生みの親。
・リョーコ・A・ブロッケン:ホーエンハイムがつくったこども。
「おじいちゃーん」
魔術師の最高教育機関にして、学問の楽園たる学術施設――【学院】。
山林にかこまれた敷地には、壮麗な古城の形をした【学舎】とともに、目をひく高い塔がある。
その地下室にリョーコはいた。
六才の女の子である。
みじかい赤毛に赤い眼は、『おじいちゃん』と呼んだ目のまえの男によく似ている。半ズボンとタイをしめたワイシャツという服装もあって、男の子とよくまちがえられるが、リョーコ自身はそのことについてあまり気にしたことがない。
「どーした。リョーコ」
ふりかえったのは若い美男だった。
『おじいちゃん』とよばれるには、あと四十年ほどはやい風采。また。彼がリョーコをつくったという事情をかんがみれば、『おとうさん』とよばれるのが妥当だった。
が。この男――ホーエンハイムは、「責任ある立場になりたくない」という理由から、つくった小人に『祖父』とよばせている。
だがリョーコにとってはそれもまた。どうでもよいことだった。
「これあげる」
書庫の床で本を読むホーエンハイムに、包装した箱をリョーコは渡す。
さっそくホーエンハイムはリボンをほどいてなかをあけた。懐中時計が出てくる。
「なんだい。ボクの誕生日――。では、ないよな」
「うん。今日は『父の日』なんだって。『おとうさんに感謝をする日』って葵が言ってた。だからあげる」
いちおうホーエンハイムは「ありがとう」と礼を言った。
だが彼の関心は、いつだってべつのことにある。
「あおい? 女の子かな」
「うん」
「かわいい?」
「とーおっても。美人さんだよ」
「へーえ」
「でも年上の人とはうまくいってないみたい。また【寮】の部屋が変わるんだって」
「そりゃ気の毒に」
かわいそう。なんてちっとも思っていない笑顔で、ホーエンハイムはリョーコの肩をぽんぽんとたたいた。
「いいかいリョーコ。その美人さんに、うんと優しくしてあげるんだぞ」
「うんっ」
「で。その子が大きくなったら、ボクのところにつれてくるんだ」
同級生の話しをすると、大体ホーエンハイムはそういう。美人限定だけど。
子供心に、リョーコは「どうしてつれてこなきゃならないんだろう」と不思議に感じていた。
でもそれも。いつかきっとわかる時が来る。
「ねえ。おじいちゃん」
「ん?」
「私からもおじいちゃんに頼み事していい?」
「ボクにできることならね。でも、交換条件なんて。誰の入れ知恵なんだか」
「ノワールだよ。『自分の要求通したいなら、相手の要求も多少はのむべきよね』って」
「あいつ……。余計なことを」
しゅん。とリョーコはうなだれた。
「だめなの?」
「いいさ。言ってみな」
「やったあっ。じゃあね――」
ぱあっ。とリョーコは破顔する。
本当は交換条件うんぬんは関係なく、これを言いたかったがために、きっかけていどに高価なプレゼントをしたのだった。
あきれ顔のホーエンハイムに抱きついて、お願いする。
「おじいちゃん。ずーっと一緒にいてね!」
(【短編6:父の日】おわり)
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