5.黄色いカーネーション
〇にわか知識です。『まちがい』や『かんちがい』をふくみます。
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〇登場キャラクター紹介です。
・メイ・ウォーリック:17才の魔女。魔術の名門校【学院】に所属する、高等部の三年生。
・結鶴 小機:花屋の店員。
町の花屋を通りがかった。
【学院】のある山のふもとの町トリス市。
中世欧風の街並みの、かたすみに出ているワゴンの小さな花屋。
荷台に色とりどりの植物が積んである。
「母の日。ですか?」
「はい。そうなんですよ。お客さん」
手押し車にある、カーネーションを活けたバケツにさした『母の日のプレゼントにどうぞ』のポップ。
それをみて、長い黒髪の魔女は聞いた。
快活に答えたのは、三角巾にエプロンの女性である。名札には結鶴 小機と記されている。
本名かビジネス用の偽名かは不明だが。
「あ。【裏】ではまだ定着しきってないんですね。買ってくれる人が増えたから。てっきり……」
魔女――メイ・ウォーリックは、白と薄紅のワンピースドレスをつけた身体をかがめて花々をながめた。
「わたくしは初耳ですわね。なにぶん不勉強でして」
「じゃあこの機会に。『母の日』っていうのは、そのまんま。母親に日頃の感謝を伝える日なんです。五月の第二日曜がその日で、カーネーションをプレゼントするのがならわしみたいになっていますね」
「つかぬことをききますが。なぜカーネーション?」
「正確なことはわたしも知りません。でも『母性の象徴』とも言われますし、その関係でしょうか。もちろん。花言葉とのむすびつきも無視できませんが」
「これは?」
「はい?」
「一色だけ大量にのこっていますが。黄色の」
「……。『赤』がずばり、『母への愛』。『紫』には『気品』の花言葉があります。でも。『黄色のカーネーション』は『軽蔑』で……。それで。避けられるかたも多くて」
「そうですか」
すっ。
肩にかけていた鞄からメイは財布を取りだした。
「では店員さん。黄色いのをひとつください」
「あ。はい」
結鶴はリボンと紙で一輪のカーネーションをラッピングした。
「でもお客さん。いいんですか?」
おずおずメイに渡す。
「花言葉。気にされないかたなんですね」
「いえ。関心はありますし、わたくしは意味あいごと母に贈るつもりです」
「だ……。だいじょうぶなんですか?」
「ええ。多少の毒気もふくめて、黄色いカーネーションが一番すてきに見えたので」
結鶴はぽかんとした。
「それに。母ならきっと、我が子の気持ちをわかってくれますわ」
一輪分の小銭をメイは差しだした。
あわてて店員はお金を受けとる。
「ありがとうございました」
「ごきげんよう」
あいさつをして、メイはストリートをあるいていった。
――例年どおり、『黄色いカーネーション』は売れのこった。
〈【短編5:母の日】おわり〉
読んでいただき、ありがとうございました。