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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編4 こどもの日
11/36

4-3.成長すっぺ ~かしわもち編~




   〇このものがたりは、『4―2.成長せいちょうすっぺ ~かぶと編~』のつづきです。


    ・・・


   〇登場とうじょうキャラクター紹介しょうかいです。

   ・史貴しき あかね:17才の少女しょうじょ魔術まじゅつの学校【学院がくいん】の最高実力者さいこうじつりょくしゃ。【賢者けんじゃ】の称号しょうごうを持つ。

   ・チャコ:あかねの〈使つか〉。正体しょうたいは小型の『しばいぬ』。ふだんはメイド服の女性じょせい

   ・メイ・ウォーリック:17才の魔女まじょ。【貴族きぞく】の令嬢れいじょう。【学院】の高等部の三年生さんねんせいあかねの知りあい。

   ・華川はなかわ 煤衛門すすえもん和菓子わがし屋の店主てんしゅ






   〇


行事(ぎょうじ)がなさすぎるんだよ行事が」

 【トリス】の(まち)市場(いちば)

 あたらしくできた和菓子屋(わがしや)で、店主てんしゅ華川はなかわ 煤衛門すすえもんがぶつくさ言っている。ねじり鉢巻はちまきにそでまくりの。いかにもな和風の職人(しょくにん)

「はあ……」

「そのマント。じょうちゃん【学院(がくいん)】の生徒だろ?」

 (とお)りに(めん)したカウンターからのびてきた華河はなかわの手から、ながい黒髪(くろかみ)少女(しょうじょ)紙袋(かみぶくろ)を受けとった。

 餅粉(もちこ)のいいにおいがする。

校長(こうちょう)先生に言ってくれよ。『節分(せつぶん)』とか『ひなまつり』とか『七夕(たなばた)』とか。もっと季節の行事を公式化してくれってさあ」

「と。言われましても」

 少女――メイ・ウォーリックは、もらったふくろを横目(よこめ)にながめた。

 黒髪(黒目(くろめ)魔女(まじょ)である。白皙(はくせき)はだ(りん)としたかおつきは洋風(ようふう)美人。

 女性(じょせい)では長身(ちょうしん)部類(ぶるい)にはいる体躯には、略装りゃくそうのみじかいマントの下に、白と薄紅(うすべに)基調(きちょう)としたプルオーバー、マキシ(たけ)のスカートをつけている。右手(みぎて)にはフリルのついたリストカバー。


「わたくしはべつに。そうしたイベントごとはくてもこまりませんので」

「つめたいねえ。無料(ただ)()いもんもらっといて。その言いぐさ

「あら。このわたくしとあなたのような庶民(しょみん)言葉ことばを交わすのは、お菓子などではまかなえないくらい高価な名誉(めいよ)だと(おも)うのですが?」

「はあ……。これだから貴族さまってのは」

 華河はなかわは会話をあきらめた。

 (みせ)のこまづかいに「ヒロ。いまので最後だからはたしまっちまえ」と言って、のぼりを片付けさせる。

 『先着(せんちゃく) 五〇〇(めい)さま限定。無料(むりょう)配布(はいふ)

「ずいぶん気前(きまえ)のいいサービスですが。今日きょうはなにかあるので?」

「知らねえで来たのか」

(とお)りすがりですわ。こちらのおみせからいいにおいがしたので。のぞいただけ」

「ありがとよ。――じつはなじょうちゃん。きょうは『こどもの()』なんだよ。日本(にほん)ではその『かしわもち』とか『ちまき』を食うのがならわしになってんだ」

 (みみ)なれない言葉ことば

 ウォーリックは店主(てんしゅ)華河はなかわに、「こどもの()?」と問いかえした。




   〇




 【トリス】は(やま)のふもとにある中世(ちゅうせい)欧州おうしゅう(ふう)のいなか(まち)だ。

 その大通(おおどお)りを、(かみ)で作った(ぼう)(かぶと)を装備した【賢者(けんじゃ)】――史貴(しき) (あかね)はあるいていく。

 法衣(ほうえ)をはずしているので、彼女かのじょが【学院(がくいん)】きっての天才魔術師(てんさいまじゅつし)と悟るものはいない。

数量(すうりょう)限定ってほんとだったんだね」

「ええ。『かぶとをつけていればもらえる』はウソでしたが」

(みせ)のおじさん笑ってたもんね。『そこまで気合(きあい)いれてくるたあ、嬉しいねえ』って」

「まあ。よかったのではないですか。なでなでしてもらえましたし」

「踏んだり蹴ったりだよ!」

 あっちに行ったり。こっちに行ったり。ふりまわされた感覚だけが、疲れと共に(あし)にたまる。

 ふたりは近くの広場(ひろば)にベンチをつけてやすんだ。

 あっちこっちで、小さい子がブロックの(ゆか)にチョークでらくがきしたり、車輪(しゃりん)をころがしてあそんでいる。


「私にもあんな時期があったのかな」

「ご主人(しゅじん)さまは、ご幼少(ようしょう)のころから(ほん)と実験と魔法(まほう)練習(れんしゅう)没頭(ぼっとう)なさっておりました」

「たのしかったから文句はないけどね」

 すん。

 と(はな)を動かしたのは、チャコだった。

「なんか。おいしそうなにおいがしませんか」

「チャコは鼻がいいからね。私にはわかんな」

 ――と。()があう。

 ひとつとなりのベンチにいる少女(しょうじょ)と。

 彼女(かのじょ)は、いままさに食べようとしていた柏餅(かしわもち)を、ゆっくりとおろした。

奇遇きぐうですわね。賢者(けんじゃ)さま」

「なんだ。メイか」

「『ウォーリック』とんでいただきたいものですわね」

「それなに?」

「気まえのいい日本人(にほんじん)無料(むりょう)くばっていた和菓子です。なんでも今日きょう――。こどもの日に食べる縁起物(えんぎもの)なのだとか」

「いいなあ。私が行った時もうかったんだよね」

「でしょうね。わたくしで最後でしたから」


 (あかね)はメイのもとにてててと(はし)りよった。

「いっこちょーだい」

 よこすわって「ん」と()を突き出す。

「知ってる? メイ。今日きょうってこどもにほしいものあげる日なんだよ」

「らしいですわね。ですが賢者(けんじゃ)さま。おとしに関することでしたら、わたくしとあなたはそんなに変わらなかったと記憶(きおく)しているのですが」

「でもメイのほうが一個いっこうえじゃん。ちょっとくらいあまやかしてよお」

「あなたのすえ()気質については、わたくしもキライではありませんが……」

 とりあえずお菓子をふくろになおす。

 まじまじと。メイは(あかね)の格好をながめた。

「これはまた奇抜(きばつ)な装備でいらっしゃることで」

「お(ねえ)ちゃんとリョーコちゃんがくれたの。なんでかはよくわかんないけど」

「つけやき()の知識ですみませんが。こどもの日とは『武者人形(むしゃにんぎょう)』や『こいのぼり』を飾り、こどもの立身出世(しゅっせ)や幸福をねがうものらしいですわね」

「そうなの。リョーコちゃんもそんな感じのこと言ってたけどさ。なんかもらえるだけの日じゃなかったの?」

「『子の人格(じんかく)をおもんずる』という側面(そくめん)もあるそうですわ。ですから。それを形にするという意味(いみ)で、当人の要望(ようぼう)にそったものを(おく)るというのも、一理(いちり)はあるかと」

「ふうん」


 メイはふくろから出した小さな鯉のぼりを風にあてた。

 からから。

 てっぺんの風車(かざぐるま)がまわる。

「聞いてよ。メイ」

「ウォーリックですわ。賢者(けんじゃ)さま」

「お(ねえ)ちゃんてば、私のはなしまともに聞こうとしないんだよ」

「……。……」

機械(きかい)がほしい。って言ったんだけど。『どうして?』とか『どんな機能(きのう)がほしいの?』とか。いっさいなし」

「……。……。……」

「いきなりあしらうんだもん。むかッとくるよ」

 メイはミニチュアの鯉のぼりをながめていた。

 店主手製(てんしゅてせい)のおもちゃだ。

 それをふくろにもどす。


「賢者さま」

「ん?」

「ひとつと言わず。全部こちらをお持ちなさい」

「いいの?」

 ずい。

 メイは柏餅(かしわもち)千巻(ちまき)のはいっているふくろを(あかね)に差し出す。

 不思議に(おも)いつつも、茜は両手(りょうて)でしっかり受けとる。

「ひょっとして、もう何個(なんこ)か食べたとか?」

「食べてはいません」

「あんまりメイのくちには()いそうにないの?」

(あじ)も知りません。そして。『食べたい』という気持ちもあります。ですが、そちらはさしあげます。ですから姉君(あねぎみ)さまとのことは、がまんをなさい」

「……。……」

 (あかね)かみぶくろのなかを()おろした。

 植物(しょくぶつ)()につつまれた和菓子と、みばえのよろしくない鯉のぼり。

 にこ。

 とメイが笑った。

 ベンチから立ちあがり、彼女かのじょは貴族式の礼をする。

「では。賢者(けんじゃ)さま。今後もご聡明(そうめい)であられることをねがっております」

「うん。ありがとう。メイ」

 茜はメイがあたえてくれたものにあたまをさげる。

 ふたりのまえから、すぐにメイは去っていった。

 (あかね)とチャコも、【学院】への帰途(きと)につく。




   〇




 もぎゅー。

「けっきょくさあ」

 【学院(がくいん)】にある【賢者(けんじゃ)】の自宅。

 森林に建つ屋敷(やしき)のリビングで、(あかね)たちは早目はやめのおやつを食べていた。

 テーブルの中央(ちゅうおう)には、鯉のぼりをスタンドに立てて飾っている。

いまの私があるのって。ああいう人たちのおかげだと(おも)うんだよね」

「はあ……」

 (ゆび)にくっついたもちをなめて、チャコは緑茶(りょくちゃ)をのむ。

 ふたりのあいだにある皿には、もちを()いていたかしわの()と、ちまきの(ささ)の葉だけがのこっている。

「ご主人(しゅじん)さま。ああいう人たちというのは?」

 おりがみの(かぶと)をつけたまま、茜は(かみ)をくるくるといただけの(けん)をふりふりした。

 けはなした硝子がらす(まど)からはいる風に、ちっちゃい鯉のぼりがゆらゆらおよぐ。

 柏餅(かしわもち)をもぎゅーっとんで。なかのこしあんをあじわいながら。

「まあ、そういう人たちだよ」

 と、(あかね)はチャコに答えた。







                  〈【短編たんぺん4:こどもの日】おわり〉













     んでいただき、ありがとうございました。





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