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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編4 こどもの日
10/36

4-2.成長すっぺ ~かぶと編~




 〇このものがたりは、『4-1.成長せいちょうすっぺ ~つるぎ編~』の、つづきです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 〇登場とうじょうキャラクター紹介しょうかいです。


 ・史貴しき あかね:17才の少女しょうじょ魔術まじゅつの学校【学院がくいん】の最高実力者さいこーじつりょくしゃ。【賢者けんじゃ】の称号を持つ。

 ・チャコ:あかねの〈使つか〉。正体しょうたいは小型のしばいぬ。普段はメイド服の女性。

 ・リョーコ・エー・ブロッケン。19才の女魔術師。【学院】付属の研究所けんきゅうじょにつとめている。あかねの友人。





   〇


「あれ?」

 屋敷(やしき)前庭(まえにわ)に、いつもいるメイド――チャコがいない。

 【学院(がくいん)】の森林(しんりん)庭園。その居住区(きょじゅうく)側の出ぐち付近である。

(あかね)ちゃん留守(るす)なのかな?」

 【賢者(けんじゃ)】にあたえられる邸宅の門前(もんぜん)に、(あか)いセミロングの魔女(まじょ)――リョーコは来ていた。

 (しろ)いハイネックのノースリーブに、ダークブラウンの革のスカート。ベルトのゴテゴテついたショートブーツといった派手はでで立ちに、(なつ)仕様(しよう)黒法衣(くろほうえ)をまとっている。

 両耳(りょうみみ)には銀のピアスを刺し、肩には使(つか)()黒猫(くろねこ)がダラリとぶらさがっていた。

「なーんか。おもしろそうな(ほん)かりて行きたかったんだけど。しょーがない。事後承諾(じごしょうだく)でいっか」

 がしょん。

 門をあけてリョーコはなかにはいる。


 庭のアプローチをすすんで。ポーチの下へ。

 (りん)をいちおう()らしたものの、反応(はんのう)はなし。

(から)(くだ)く、ピクシーの(まい)

 呪文(じゅもん)(とな)えてリョーコは玄関口の施錠(せじょう)をはずした。

 エントランスホールにはいって、階段へ――。

 かッ。

 背中(せなか)にナイフが刺さった。

「これはこれは。ブロッケンさま」

 ぐいっ。

 えりくびを掴まれる。たいそうなちからで外に引きもどされる。

無断(むだん)でひとの家の敷居(しきい)をまたぐとは……。結構なご身分(みぶん)ですわね」

 リョーコは振りむいた。

 チャコ――(あかね)使(つか)()不穏(ふおん)表情(ひょうじょう)が、太陽(たいよう)逆光(ぎゃっこう)に昏く()える。

「……(きゃく)背中せなかにいきなり刃物(はもの)突き立てるあなたも、そーとーいい性格してるとおもうけど」

無法者(むほうもの)にはなにをしてもいいというのが我が()のルールなのです」

「おっかないわねー」

 リョーコの(ねこ)主人(しゅじん)の背中のナイフをひっこぬいた。

 ぴゅーぴゅー血がき出る。ぴゅーぴゅー。


「てか。いたのねチャコさん」

「いま帰ってきたところです」

(あかね)ちゃんは?」

 ひょこ。

 リョーコはチャコのうしろをのぞきこんだ。

 門をはいってすぐのところを、赤法衣(あかほうえ)少女(しょうじょ)があるいてくる。

 (ぼう)っきれを持って。下を()て。

 とぼとぼと……。

「ちゃおー。茜ちゃん。(ほん)かりに来たわよー」

「『ぬすみに来た』のまちがいなのでは? ブロッケンさまの場合(ばあい)

「ちゃんと返しにはきてるじゃないのよ」

「ええ。半年(はんとし)とか一年(いちねん)ほどったあとですが」

 つめたく言いつのるチャコのうしろのほうで、(あかね)(かお)をあげた。

 リョーコはにこっと笑顔(えがお)を作りなおす。

 (あね)のほうは能面(のうめん)愛想(あいそ)もへったくれもないが、茜は表情(ひょうじょう)に出やすくて……。


「ん?」

 ぐっ。

 とあかね(した)くちびるを引きむすんだ。

 十七才(じゅうななさい)にしてはおさなかお――みどりおおきな両目(りょうめ)に、みるみる(なみだ)が溜まっていく。

 (はし)りだす。

「リョーコちゃああああんん!!」

 どごおおッ!

 茜はリョーコの(むね)に飛びこんだ。

 みぞおちに(あたま)が激突するかたちになったがリョーコはなんとか()える。

 (はな)と涙で、白い洋服(ようふく)がぐしょぐしょになる。

「あー。……」

 リョーコはだいたいの事情(じじょう)を察した。

「また姉貴(あねき)になんか言われたのね?」

 (あかね)何度なんどもうなずいた。

 (かみ)(ぼう)を握りしめたまま。



   〇



「こどもの()かあ」

 チャコから経緯いきさつを聞き()えて、リョーコはつぶやいた。

「聞く限りだと、それって『(おや)が子の出世(しゅっせ)成長(せいちょう)(いの)って(がん)かけする日』みたいだし。(あかね)ちゃんがその日にかこつけて姉貴(あねき)になにかをねだるってのもおかどちがいなんじゃないの?」」

 三人は現在、一階(いっかい)居間(いま)にいる。

 チャコがいれた紅茶(こうちゃ)を、ふたりの対面たいめんでリョーコはのんでいた。

「はいはい。中立(ちゅうりつ)的なご意見ありがとうございます」

「どおおいたしましてチャコさんん」

 茜のまるいあたまをよしよしとなでながら、リョーコに(がん)くれてチャコ。

「わかってるよ」

 ぐすぐす。茜はべそをかく。

「でも私、親のことなんておぼえてないもん。お(ねえ)ちゃんはちょっとおぼえてるみたいだけどさ……。私には……」

(あおい)くらいしかあまえられる相手あいてがいないから、ねだっちゃったってわけね」

 (あかね)はうなずいた。


 リョーコは(うで)くみして率直(そっちょく)に意見する。

「けど。あえて言わせていただくけど。あかねちゃんの味方みかたをすることはできないわよ私。あおい判断(はんだん)妥当(だとう)だもの」

「そんなのわかってるよ。でも。でもさああ……。あんな他人行儀(たにんぎょうぎ)な言いかたすることないじゃん」

「ま。そのへんがあんたら姉妹(しまい)長年(ながねん)なやみ(ネック)になってるテーマよね」

 リョーコは(ちゃ)をあおった。カップをからにして、チャコに新聞(しんぶん)を取りにやらす。

 彼女(かのじょ)がもどってくると、リョーコは新聞をいちまいに()いだ。

 直角ちょっかく三角形に()って、あまった部分をやぶく。ひらいて正方形せいほうけいになった紙を折っていく。

「おりがみ?」

「うん」

 (あかね)がソファからのぞきこむ。

「あんたの姉貴(あねき)からおしえてもらったのよ。ガキの頃にだけど。ちゃんとやりかたおぼえてるかしら」


 うろおぼえの記憶(きおく)をたよりに、リョーコは(かみ)っていった。

 なんとかできたやつをあかね(あたま)にかぶせる。

「かぶと?」

 ぽつりと茜はこぼした。

「そ。【学院(がくいん)】の生徒がはなしてるの聞いたんだけど。今日きょうは【トリス】の(まち)でサービスしてくれる(みせ)があるみたいよ?」

 ひとさしゆびを立ててリョーコはウインクする。

「それつけてるとタダでお菓子くれるんだってさ。数量(すうりょう)限定だから、茜ちゃんも行ってみるなら急いだほうがいいかもね」

「そんな気分じゃないんだけど」

 (あかね)(かみ)(ぼう)を小さくふりふりして言った。

 リョーコを()る。

「リョーコちゃんはそのお菓子かし食べたいの?」

「ええ。でも(あかね)ちゃんが『あげたくない』って(おも)うなら、いらないわよ」

「……ううん。行ってきてあげるよ」

 リョーコは「ありがと」と手をふった。

 (あかね)とチャコは、さっそくと(せき)を立つ。

 屋敷(やしき)をあとにする。



                            〈つづく〉





 

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