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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編1 桃の節句
1/36

1-1.魔女たちのひな祭り【前編】


 〇登場とうじょうキャラクター紹介です。


 ・史貴しき あおい:魔術学院の女学長。20才。

 ・シロ:葵の使つか。外見の年齢ねんれい17才くらい。

 ・史貴 あかね:魔術学院の賢者けんじゃ。16才。葵の妹。

 ・チャコ:茜の使い魔。外見の年齢ねんれい18才くらい。


三月三日(さんがつみっか)はひな祭り」

 魔法(まほう)の世界にある魔術(まじゅつ)の学校――【学院(がくいん)】。

 大陸(ない)で最高(ほう)魔法教育(まほうきょういく)研究(けんきゅう)活動を(ほこ)る施設である。

 山腹(さんぷく)にひらかれた、広大な敷地の一画(いっかく)に、ででんとそびえるゴチック調(ちょう)の城。幼少(ようしょう)から大人おとなまでの学生を抱えるしゃれた校舎(こうしゃ)最上階さいじょうかいに、学院長(がくいんちょう)おんなはいた。

 午後の三時。おやつの時間のできごとである。

「でもこの世界には、ひなまつりもなければおひなさまもないのよね」

 学長室(がくちょうしつ)のデスクでため息をつく若い魔女(まじょ)(なが)金髪(きんぱつ)(あお)(ひとみ)蒼穹(そうきゅう)の色をしたドレスのうえから黒い法衣(ほうえ)をつけている。

 (じゅう)代で学院長がくいんちょうの座についた才女(さいじょ)である。いまの年齢(ねんれい)二十才(はたち)。今年の四月をむかえれば、二十一才の身空(みそら)である。名前(なまえ)史貴(しき) (あおい)


「でもってたぶん。そんなもんに興味(きょうみ)もってるおんなもいないですよね。ご主人(しゅじん)

 本棚(ほんだな)からにこっと笑いかけたのは、白いボブショートにうさぎの(みみ)をはやした少女しょうじょである。『シロ』という()彼女かのじょは、みどりを基調(きちょう)としたベストにミニスカート、まださむさがのこるためか単なるおしゃれか――黒のオーバーニーをはき、あつみのあるショートブーツを愛用(あいよう)している。

 十七才(じゅうななさい)ほどの少女にけているが、ほんとうのすがたは『カイウサギ』という小さなウサギである。

 あおいが学生時代に契約し、重宝(ちょうほう)している使(つか)()である。

 デスクにひじをついて葵は文句もんくをつづける。

「大体ねえシロ。この世界は娯楽(ごらく)がすくないのよ。ゲームもパソコンもスマホもない。息がつまるを(とお)りこして……。息がつまるわ」

語彙力(ごいりょく)……」

 がっくりうなだれる主人しゅじんにシロは(あか)()半眼はんがんにした。(あおい)かおをあげる。

「ないのなら。つくってみましょう。ひなまつり」


「私はきこまないでくださいね」

「なにを言ってるの。あなたも来るのよシロ。まずは――。そうね」

 がたん。

 と椅子いすを蹴って(あおい)は立ちあがり、シロに手で合図あいずをした。部屋を出ていく。

 ぱたん。

 ()みこんでいた資料(しりょう)――あたらしくはいってきた生徒の名簿(めいぼ)だ――を閉じて、シロは主人(しゅじん)に従った。




   〇




「ご主人しゅじんさま。てください」

 ほくほく(がお)一人ひとり女性(じょせい)がやってくる。

 ――学院(がくいん)の敷地(ない)

 森林(しんりん)庭園のかたすみに建つ一軒(いっけん)屋敷(やしき)魔術師(まじゅつし)最高位の実力者(じつりょくしゃ)、【賢者(けんじゃ)】にあたえられるまいである。

 その二階(にかい)。広い実験室に小さな魔女(まじょ)はいた。

 おおきな(グリーン)ひとみに、肩ほどまでのびた金の(かみ)。フルジップジャケットとハーフパンツの服の上から賢者(けんじゃ)専用(せんよう)(あか)法衣(ほうえ)をまとっている。

 史貴(しき) (あかね)である。女学長(おんながくちょう)史貴 (あおい)の、実の(いもうと)だ。十一才(じゅういっさい)ほどのだが、それは諸事情(しょじじょう)あってのこと。実年齢(じつねんれい)十六才(じゅうろくさい)で、あたまのなか――頭脳(ずのう)悠久(ゆうきゅう)のときを生きた存在のごとく明晰(めいせき)である。知識にかたよりはあるが。


(もも)はなだね。ってきたのチャコ?」

 ザツな手つきで触媒(しょくばい)魔法陣(まほうじん)にほうり込み、あかね女性じょせいにたずねる。

 茶色いながかみを先端のほうでふたつにゆった、メイド服の女性である。十八才(じゅうはちさい)ほどの人間のすがたをとっているが、その正体しょうたいは『まめしば』とばれるような小型のいぬ

 あかねがみっつの時に契約した使(つか)()で、ながいあいだ主人しゅじん()のまわりを世話してきた。

 給仕(きゅうじ)にして優秀ゆうしゅう助手じょしゅである。

 彼女(かのじょ)――チャコは、主人しゅじんあかはなのついた枝を突き出して笑った。

「はい。きれいだったので。へし()って持ってきました」

「もおちょっと言いかたってないのかな」

「ないですね」

 触媒(しょくばい)魔法陣まほうじん反応はんのうして、ぼふんっとくまのぬいぐるみが出現(しゅつげん)する。

召喚(しょうかん)魔法(まほう)ですか?」

「ものをつくる魔法。錬金術(れんきんじゅつ)に近いかな。つってもみじかい時間しか形をたもってられないけど」

 ぬいぐるみは、言ってるあいだに(すな)になった。

 本棚(ほんだな)を背もたれにしてフローリングに(すわ)ったまま、(あかね)は手にしたノートに記録する。


「それで。その(もも)はななん材料(ざいりょう)にしたらいいのかな」

「飾るだけです。知っていますかご主人しゅじんさま。今日きょうおんなの――」

 ぐへえっ。

 という悲鳴ひめいでチャコのセリフはわった。

 蹴りあけられたドアが、入りぐちのまえで立っていた彼女かのじょを吹っ飛ばしたのだ。

女子(じょし)の日よ。あかね

 かつかつ。

 ハイヒールを高く()らして――ついでにたおれていたチャコの背中せなかおもいっきり踏んづけて。(あおい)が部屋にはいってくる。

 がたたっ。

 (おと)らして立ちあがって、(あかね)闖入者(ちんにゅうしゃ)から距離きょりをとった。

 ずんずん近づいてくる(あね)内心ないしん「うぜーなあ」っておもいながら見上みあげる。

「えーと。女子じょしの日? なにそれおねえちゃん。みんなが生理(せいり)になるって現象げんしょうでもこるの?」

きません。人形にんぎょうを飾って甘酒(あまざけ)のんで()()()を食べてひたすらみんなにちやほやしてもらうだけの()よ」

()()って言う割りにはやることとか他人に要求ようきゅうすることおおいよね。――むぎゅっ!」


 くちを片手で封じられ、(あかね)(もく)した。

 息もできなくなる。

「おねえちゃんのはなしはちゃんと聞きなさい。いいことあかね。あなたにはこの『女子(じょし)の日』……。いわゆる『ひなまつり』に飾る人形にんぎょうを作ってほしいの。どっかの(みせ)()いてるなんて期待を私は持とうとおもったけどやめたわ。ない気がするのよ。なんとなくだけど――って。聞いてるの? あいづちくらい打ちなさい」

「あのお」

 うしろからついて来ていたシロが、たまらずにあおい進言(しんげん)する。

「ご主人しゅじん長口上(ながこうじょう)してるあいだに茜。窒息(ちっそく)して死にかけてるんだと思う(おも)んですが」

「なさけない。賢者けんじゃ()が聞いてあきれるわね」

「いや完全にご主人がわるいんですからね。肩をすくめてるひまがあったら、はやく手え、はなしましょうよ」

 (あおい)は手をはなした。ついでに(いもうと)に回復魔法(まほう)をかけてやる。

 清涼(せいりょう)な光をあびて、「ごほごほっ!」と(あかね)は息を吹き返した。

 呼吸(こきゅう)をととのえ、涙目なみだめ(あね)をにらむ。

「ひとりで盛りあがってるとこわるいけど……。つくらないからね。そんなくっだらないの。おまつりなんてどおでもいいよ」


「ぬいぐるみはつくるのにね」とシロがよけいなことを言う。

「実験だからいいのっ」

「そーゆー人たちばかりよね。【学院(がくいん)】の住人じゅうにんは」

 ふっ。と悟ったように(あおい)微笑(びしょう)した。すこしさみしそうに……。

「おぼえてないあかね?【(おもて)】にいた時。私もあなたも毎年まいとし(もも)節句(せっく)雛人形(ひなにんぎょう)を飾っていたのよ」

「うん。わすれた。だからもーいーでしょ。はやく出てってよ。勉強(べんきょう)邪魔じゃま!」

 ごッ。

 (あかね)の広いおでこに、葵は全力(ぜんりょく)頭突ずつきをした。

 どさっ。と相手あいてがくたばる。

 さーっとあおくなったシロが、あわてて茜を介抱(かいほう)にかかる。おきない。

「ご主人しゅじん。なんでいきなりこんなこと……」

悪気わるぎはないのよ。ただ衝撃(ショック)をあたえたらおもいだすかなって」

「そんなことばっかりやってるからあかねに嫌われていくんじゃあ……」

「聞こえないわね。なにか言ったかしら」

「……。……」


 のびているチャコのとなりにあかねをねかせて、シロはそのまましれっと退散しようと小走(こばし)りした。

 がッ。

 うしろからうさぎのみみ(あおい)の手がつかまえる。

「つぎは――。まあ。あてにするとしたらあの子かしらね」

「ご主人しゅじん被害者(ひがいしゃ)ってもう大体()まってますよね。ほかに友達いないんですか?」

「さあ。聞こえないわね」

 使(つか)()の耳をとらえたまま、あおい空間転移(ワープ)魔法まほうを展開した。

 青白(あおじろ)い光がふたりを包みこみ、【宿舎(しゅくしゃ)】のエントランスへといざなう。

 彼女(かのじょ)たちの去ったあとには――。

 物言ものいわぬものとなった賢者(けんじゃ)と、その従者(じゅうしゃ)だけが取りのこされた。






          ―【後編こうへん】につづきます―






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