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27話 新たな召喚英霊(2) 『老剣士』バルク

♢




老剣士・バルク。


彼を召喚したのは、数週間前のことだった。


期待していたのは、開発に直接関わるような生産関係の英霊だったから、はじめはどうしたものかと思った。


しかし、これが古代剣術の達人だったのだ。




俺たちは屋敷を出て、彼らが稽古をする村外れへと出向く。


そこでは、ちょうどバルクがクマベア族たちを相手取り、実践稽古をしていた。


俺の姿に気づくと、クマベア族らは雄叫びをあげる。


「強い剣士相手だろうと関係ねぇ! ディルック様の前で、恥をかきたくない! 全力でいくぜ!!」


その太い腕を遠慮なく、バルクへ向けて振り下ろした。

たぶん、地面にあたれば大きな揺れが起きただろう強さだ。


俺との特訓で鍛えたこともあり、急所を狙う器用さも覚えている。



しかし、バルクは片手のみで握った剣によって、それを止めていた。

まるで重さを感じていないかの如く、軽々しかった。


「な、なんだと!」


そのままクマベア族の腕を地面へと払いのけてバルクは言う。


「魔力がなくとも、『気』の扱い方を覚えれば、貴殿らももっと強くなれよう! 爺のいた時代のお主らクマベア族は、もっと強かった。

 『気』を扱う、クマエリートになるのだ、お前たち! そのためには、さらなる訓練でござる!」


……しかしまぁ、熱血だなぁ。見た目は、白髪白髭で、もう老人だというのに。


俺は半ば呆れるほかない。


バルクの言う『気』。

それこそが、この4000年のうちに忘れ去られ、古代にしかない概念であった。



魔力とはまた別ものらしい。

研ぎ澄まされた心、磨き上げられた技術、強靭に仕上げられた身体があって、発動できるという。


身体に纏わせることで、身体能力の全てを引き上げられる秘技だ。


彼いわく、訓練をすれば誰でも扱えるような代物とのことだった。


バルクはひと段落つくと、俺の前に片膝をつき頭を下げる。


「これはこれは、若様。それに、シンディー様。ご見物とは至極光栄でござる」

「バルクさん。あんまり虐めすぎないでくださいよ。いざと言うときに、全員疲れ切って戦えないのでは困りますから」


「はは、それはそうでござるな。すまぬ!  もう少し非常時のことも考えて、特訓することとしますぞ。

 では再開にござる、者ども! まずは素振り100回!」


果たして、どこまでいじめ抜くのだか。


歳を感じさせぬキビキビとした動きで、彼は再び稽古に入る。

それを目にしたシンディーは、手をぱたぱたと自分の顔を仰ぐ。


「ディル様。わたくし、なんだか暑くなってきました……」

「あぁ、もう夏だしなぁ」

「それもありますけど、なんかこう……暑いんです」


溌剌とした掛け声とともに、クマベア族らの素振りは一斉に始められる。


彼らの汗が太陽光に晒されて、きらきらと光っていた。


たしかに、これは暑苦しい。

眺めていると、俺も意識の境界線がぼうっと薄れていく心地になる。


まさに、その時のことだ。


「…………これは!」


身体の表面で、ぶわりと毛が逆立った。

突如襲ってきた禍々しい気配が、そうさせたのだ。


俺はすぐ剣に手をかけ、あたりに気を配る。




近くまで、魔物が降りてきているらしい。


バルクやクマベア族たちも気づいたようだが、その場所までは把握できないようで、あたりを警戒する。


ただ俺には、龍の探索能力も備わっていた。


すぐさま場所を探知し、それが潜む草陰の前まで駆ける。


のそりと出てきたのは、怪蠍・キルスコーピオン。危険度はAランクと高位に君臨する魔物である。


ここらで見かけるのは、初めてだった。


「ひ、ひぃっ! なんかすごい見た目! よ、余裕のよいじゃありません。ディル様!」


シンディーが俺の後ろで悲鳴をあげる。がしりと腕を掴んできた。


大きな節足は、間近で見ると確かになかなか堪えるものがあった。


この魔物も、以前対峙した大蛇と同じく毒を持つ。


「若! ここは一つ、この爺が得意の剣技を」

「いや、剣はまずいよ。たしかこいつら、切り付けられると、毒を撒き散らす習性があるんだ」


「なんと! ではどうするのでござるか」

「今は、大人しく帰ってもらうほかないかな。シンディー、すぐ終わらせるから離れてくれるか?」


こくりと、彼女はか細く頷く。


俺は剣にかけていた手をだらんと下ろし、腹の下、丹田に意識を置いて呼吸を落ち着けた。


こうして、身体の端々から内側へ中心へと溜めていくのが『気』である。


目を閉じた後、キルスコーピオンを強く睨みつけた。

バルクを召喚した俺も、その今はなき力を扱えるようになっていたのだ。



真正面から、殺気がぶつかり合う。


「す、すげぇぜ! 領主様、気だけで魔物とやり合ってやがる!」


どちらも引かぬ競り合いであったが、やがて薄れていったのは、キルスコーピオンの放つそれだった。


「……ク、クォー」


草むらを長い手足でかき分け、身体を前に向けたまま、そのまま山へと引き返していく。


「あれ……」


思わずこう口から漏れたのは、去っていく気配が二つであったためだ。


すぐさま残されていった足跡を観察しにいけば、犬のような足跡が残っている。


コボルトでもいたのだろうか。

スコーピオンの放つ強烈な魔力で、気づくことができていなかったらしい。


いずれにしても、


「あぁ、見たか今の! 領主様、雰囲気だけであの獰猛な魔物たちを追い払ったぞ」

「さすがだ……! あれが『気』か! なんて格好いい。戦わずして勝った……!」

「やんっ、さすがディル様♡!」


ひとまずの危険は回避できたようだ。


さまざまな感想が、交わされる。



バルクに至っては、ずっと目を閉じずにわなわなと震え、俺を見つめていた。


「やはり、若は格が違うよのぉ」

「いいや、バルクさんを召喚したときに覚えた『気』を使っただけだって」


「なにをおっしゃるやら。今のは『気』を超えているでござる。言うなれば、『剛の気』!」


……ん? なんだろう、それは。


「『柔の気』と対をなす圧倒的なオーラでござる。

 追い払うのが『剛』、従えるのが『柔』。どちらも、『気』を極めたもののみがたどり着けるものぞ!」


「……極めたって、最近覚えたばかりなんだけどなぁ」


「元より素質があったのでござろう。若様の家は代々、剣術の家だったと聞く」


そりゃまぁ、人並み以上の鍛錬はこなしてきたつもりではあるが、実感には乏しい。


「爺の前に生きていた時代において、『剛の気』を纏うものは唯一、伝説となった剣王ベルセルクのみであった。

 若様にも、その才覚があるでござる!」


……剣王って、なんかとんでもないな、おい!


とはいえまぁ、剣術の達人にそう言ってもらえるのは、自信にしてもいいのかもしれない。



そして、


「なんだかやる気が出てきたぜ、おい!」

「こんな強いボスがいるんだ、俺たちもディルック護衛団の名に恥じぬよう、強くなろうぜ! まずは気をマスターするぜ!」

「「おう!!」」


士気の上昇に繋がってくれたようで、なによりだった。


「これなら心配なさそうだろ。シンディー」

「はい、たしかに……! これなら安心して、ディル様といちゃつけます!」



おいおい、そもそもはアクドーたちの侵攻を心配してたはずじゃなかったっけ……?




お昼からも頑張っていきましょう〜!!


引き続きよろしくお願いします。

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【コミカライズ告知】 当作の2巻紙版が発売されました! 今回も漫画家様に素敵に仕上げてもらいました。 書店様などで見掛けられたら、ぜひお手に取ってくださいませ。 (この画像がノベマ! さんへのリンクになっております) 1037.png?d=20231120052239
また、2巻は電子版もございますよ!
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