月光
その次の日、女の子は昨日と同じように夜空を眺めていたが、レフは現れなかった。やはり一度きりの出会いだったのかと少女は少し肩を落とした。彼女は毎晩草原で星を数えた。時々彼がいる気配がしたけれど、そんなことはなかった。
レフが再び現れたのは、それから丁度一か月後の新月の夜だった。女の子はレフが来るなり彼に尋ねた。
「もう会えないかと思ったわ。どうして一ヶ月も来てくれなかったの?」
すると彼は少し微笑んで答えた。
「ごめんね。僕も来たかったんだけれど、なかなかそうはいかなくて」
「明日は来てくれる?」
女の子がそう聞くと、彼は首を傾げた。
「どうだろう」
女の子は少しだけ、強引だった。
「じゃあ来てね。約束だから」
彼は少し困ったように笑ったけれど、同時に少し嬉しそうでもあった。
次の日も、女の子が星を眺めていると彼はやって来た。その次の日も、その次の次の日も。二人は会うたびに話をしながら星を眺めた。雨の日も、木陰で彗星の話をしたり、太陽の輝きを語ったりした。星の話だけじゃない。透き通った氷柱の話も、綿毛の話も、何だって話した。ある日、女の子が彼に言った。
「ねえ、今度、満月を一緒に見ましょうよ。ここから見る満月は、本当に綺麗なのよ」
すると彼は悲しそうに微笑んで、静かに首を振った。
「ごめんよ。それは、できないんだ」
淡い白銀の光を放つ彼の瞳を覗き込みながら、女の子は聞いた。
「どうして?」
けれど彼は答えてはくれなかった。その時、女の子ははっとした。覗き込んだ彼の顔の向こうに、その向こうにあるはずの林が見えたから。
驚いた彼女は飛びのいて、彼を指さしながら震えた。
「どうして、どうしてレフは透き通っているの?」
すると彼は悲しそうにため息をついて、空を見上げた。そこには少しだけ光を放つ白銀の月があった。
「僕は、君達とは違うんだ。月が満ちていくにつれ、月は僕が必要になる」
その言葉を聞いた途端、女の子の胸は締め付けられた。淡い光を放ちながら彼は女の子の頭を撫でた。
「一緒には見られないけれど、僕も、ちゃんと見ているよ」
彼はそう言い残すと、姿を消した。
残された少女は月を睨みながら、目にいっぱいの涙を溜めた。短い恋だと、彼女は自分にそう言い聞かせて、それ以降、夜空を眺めに草原へ出る事はやめた。
そうして大人になった彼女だったけれど、彼女はその月を見るたびにレフの事を思い出した。淡く、凛と、静かに輝く月を見るとどうしても彼を思い出してしまった。彼女はそれが彼だから彼を思い出すのかと思っていた。でも違った。
人間というのは、たいていそうなんだ。月を見ると、そう思ってしまうものなのだ。
彼女はそう思った。毎度月が満ちるたびに、そう思った。
「月が、綺麗だねえ」
話し終えたナターシャは再びそう言って、窓の外を眺めました。ルーシーも黙ってそちらに目をやりましたが、相変わらず雪と闇が静寂をまき散らしているばかりでした。
しかし二人のいるその小さな家、そしてルーシーの愛する人のいる場に雪を降らすその雲を、天の上の宙の上から、静かに月光が照らしているのでした。
最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。