新月の夜に
その昔、ある田舎町に少し変わった女の子がいたんだよ。
夢見がちで、お調子者で、歌を歌うのが大好きだった。みんなから、かわりもの、そう呼ばれてからかわれたりもした。でも彼女はそんなこと気にもしないでね。自慢の赤毛のおさげを揺らしながら、一日中元気に走り回っていたさ。
女の子は夜が好きだった。夜のにおいをかぎながら、静かな森と星をながめて家のすぐ近くの丘で寝転ぶんだ。女の子の家は裕福だったけれど、女の子はひとりぼっちだった。だから彼女が夜中に家を抜け出して、草原で星を眺めていたって、誰も、何も言わなかったんだよ。
でもね、ある夜に一人の男の人がやって来て、彼女に言ったんだ。
「お嬢さん、こんな夜中に出歩くのは危ないですよ。早くお家にお帰りなさい」
寝転んで星の瞬きを眺めていた女の子は、驚いたさ。新月の夜だったから、星が良く見えた。その星明りに照らされた、一人の背の高い男の人が女の子のすぐそばに立っていたんだ。
「あなたは誰?」
女の子がそう尋ねると、男の人は少し考えてから言ったんだ。
「単なる、通りすがりの者です。それよりも、こんな夜中にあなたは一体何をしているんです?」
女の子は少しつんとして、答えた。
「私、ただ星を眺めていただけよ。あなたにどうこう言われることも、心配される覚えもないわ」
すると男の人は少し困った顔をした。それから一度、短くため息をつくとこう言った。
「星が、好きなんですか?」
女の子は素直に頷くのがなんだか嫌だった。
「綺麗なものが、好きなだけよ」
そう言いながら、女の子はその男の人にちらりと目をやった。美青年、と言っていいのかわからなかったけれど、色白で物静かそうな人だった。気のせいかわからないけれど、心なしか優しく光っているように見えてね。その儚そうな瞳に、女の子は心奪われた。ちょうど、星や月を美しいと思うようにね。
男の人は女の子の隣に座って、それから二人は一緒に星を眺めた。男の人はずいぶんと星に詳しくてね。女の子はそりゃあいろんな話を聞かせてもらった。でもいよいよ東の空が、白みがかって来て、二人はさよならを言わなければならなくなった。別れ際に、女の子が彼に名前を聞いたんだ。
「ねえ、あなたのお名前は?」
すると男の人は少し考えてから、答えてくれた。
「レフ。そう呼んでください」
それから二人は別れたんだ。