サンタさんのおくりもの
プレゼントはオモチャばかりではありません。
時として、意外なものが、プレゼントされることもあるかもしれませんね。
初めて、本格的に童話を書きました。
読んでもらえると嬉しいです。
「おかあさん、ミルクとクッキーを買ってきて!」
ねずみ男の子アルフレッドは、目を輝かせて母ねずみにいいました。
町外れの大きな木の下。ネズミの家族は静かに暮らしていました。
「ミルクとクッキー?明日のおやつに食べたいの?」
母ねずみが聞くとアルフレッドは大きく首を横に振りました。
「サンタさんにあげるんだよ」
アルフレッドの後ろから妹のクレアが顔を出した。
「クレア先に言うなよ!」
出鼻をくじかれたアルフレッドは途端に不機嫌になってしまいました。
「ケンカをしてるとサンタさんは来ないわよ。どうしてサンタさんにミルクとクッキーをあげたいの?」
母ねずみは優しくたずねました。
「公園で人間の子供たちが話してたんだ。世界中にプレゼントを届けているサンタさんの為にミルクとクッキーを用意するんだって。」
「まぁ。サンタさんはとても喜ぶでしょうね。わかったわ。明日買いに行ってくるわね。」
「ありがとう!お母さん!」
二人は嬉しくなり、母ねずみに抱きつきました。
次の日。母ねずみは、町外れにある小さなケーキ屋さんに着きました。
そこには町に唯一ねずみと話せる人間の店主が営んでいます。
母ねずみは店主が作ってくれた、ねずみ用の小扉から入りました。
シャンシャン。と小扉に付いた小さい鈴が鳴ると、音に気付いた店主が店の奥から出てきました。
「おや、お母さんねずみさん、今日はクリスマスケーキの予約かい?」
かっぷくのよい店主が笑顔で出迎えました。
「こんにちはケーキ屋さん。今日はクッキーをいただいてもよろしいですか?」
「クッキー?珍しいね、子供たちのおやつかい?」
母ねずみはアルフレッドから聞いた話を店主に話しました。
「そうかい。優しい子供たちじゃないか。懐かしいな。私の息子もよくやっていたよ。今はじゃ、遠方の大学に行ってて、滅多に会えないんだがね。小さいクッキーを用意するよ。少し待っておくれ」
そういうと店主は奥の部屋に入り、クッキー生地をこね、小さくちぎり、形を整えて、オーブンに入れました。
小さなクッキーはすぐに焼き上がりました。
「これぐらいでどうだい?」
店主が作ったクッキーは、店主の小指に乗るほどの小さなクッキーでした。
「ありがとうございます。」
母ねずみは礼を言うと、背中にしょったリュックから、真っ赤な実の付いた小枝を店主に差し出しました。朝、母ねずみが山から採ってきた新鮮な木の実です。
お金を扱えない母ねずみは、いつもこの店で買い物をするときは、山に実る果物や木の実をお金がわりに店主に渡していました。
「おお。これは見事なガマズミだ。確かにクッキー代いただきましたよ。ありがとう。」
艶のある実を見ながら嬉しそうにお礼を言う店主に、深々とお辞儀をし、母ねずみはリュックにクッキーを詰め店を後にしました。
母ねずみは、カラスや野良猫に見つからないように、急いで家に帰りました。
そして、クリスマスイブの夜になりました。
アルフレッドとクレアは朝からずっとそわそわしていました。
なぜって?サンタさんは『いい子』じゃないとプレゼントを届けてくれないからです。
「サンタさんくるかなぁ?クレアや友だちと時々喧嘩もしちゃったけど…」
「私もお兄ちゃんと喧嘩しちゃった時もあるし、大事な食器も割っちゃったし…」
そんな二人を見ていると、母ねずみは思わずクスクスと笑ってしまいます。
「大丈夫よ。きっとサンタさんは来てくれるわ。さぁ、テーブルの上にクッキーとミルクを用意しましょう」
そう言われ、クレアがお皿にクッキーを並べ、アルフレッドがコップにミルクを入れました。
「これで、準備オッケーね。もう今日は寝ましょう。おやすみ、アルフレッド。おやすみ、クレア」
「おやすみ、お母さん」
3匹はしばらくすると、静かな寝息をたてていました。
ちょうどその頃、町外れのケーキ屋さんでは、2階の暖炉の前で着替えをしている老人がいました。
ケーキ屋の2階は、ケーキ屋の主人の自宅になっていて、店主の父親と店主と2人で暮らしていました。
長く白い髭をはやし、赤いズボンをはいた老人は、ズボンと同じ赤い服のボタンを閉めていました。
そこに1階から、三角に切られたケーキとコーヒーをトレイに乗せた店主が上がってきました。
「準備はできたかい?父さん。今年もねずみの奥さんがガマズミをくれたよ。今年の実は上出来だ。」
サイドテーブルにトレイが置かれると、老人は嬉しそうに目を細めました。白い生クリームのショートケーキの上にイチゴの代わりに、ガマズミの実が3つ飾れています。
「これは見事じゃ。これのおかげで、今年も元気に仕事ができる」
老人はパクパクとケーキを食べ、コーヒーを飲み干すと、ゆっくり立ち上がり、赤い帽子をかぶった。
「では、行ってくるよ。メリークリスマス。」
「メリークリスマス。サンタクロース」
ケーキ屋さんのお父さんはなんとサンタクロースでした。
サンタクロースは颯爽とそりを引き、夜空へ消えていきました。
サンタさんは町中のプレゼント配りました。
そしていよいよ、アルフレッドとクレアの所にもサンタさんはやってきました。
そっと小さな部屋にはいると、思わず声が出そうになるのを必死でこらえました。
なんと小さなクッキーでしょう。そして、隣には小さなコップの中にミルクが入っているではありませんか。
サンタさんは、小さなクッキーを割ってしまわないよに、そっとつまんで食べ、ミルクもこぼさないよに、そっと飲み干しました。
そして、テーブルの上に小さな小さなプレゼントを2つ置いて帰っていきました。
夜が明ける頃、サンタさんはケーキ屋の2階に帰ってきました。
「おかえり」
店主が、出迎えました。
「ただいま。君にプレゼントをまだ渡してなかったね」
「俺はもう子供じゃない。プレゼントなんて…」
そう言い終わらないうちに、サンタさんは店主の手に今までかぶっていた帽子を重ねた。
「君にこれをあげよう。私は、もう引退じゃ。次は君にサンタをやってもらいたい。」
店主は目を丸くさせて驚きました。
「そんな、まだ早いよ。それにクリスマスイブの夜もケーキは作らななきゃ。お客さんが待ってる」
「それなら僕達がケーキを作るの手伝うよ」
階段の方から声がして振り向くと、店主はまた目を丸くしました。
そこには、遠方の大学へ行っているはずの息子が肩にねずみをちょんと乗せて現れたからです。
「ジュニア……。肩に乗せてるのは、新しい友だちかい?」
「こいつはジーニー。隣町でカラスに襲われそうになっているのを助けたんだ。話をきいたら、この町に住んでるって言うから、連れてきたんだ」
サンタさんはハッハッハッと豪快に笑いました。
「心強い仲間が増えたじゃないか息子よ。よろしく頼むよジュニア、ジーニー。」
店主は頭をポリポリとかいて困った様子でしたが、次第にいつもの優しい店主に戻っていました。
「サンタさんからのプレゼントじゃ、しょうがないな。この帽子、受け取っておくよ。よろしくなジュニア、ジーニー。」
店主。…いや、新しいサンタは、その功績を讃え、労いを込めて、父を抱き締めた。
「メリークリスマス。父さん。」
「メリークリスマス。」
そして、ジュニアとジーニーとハグと握手を交わした。
「お帰り。サンタの新しい仲間達。メリークリスマス」
「メリークリスマス」
3人と1匹は暫く暖炉の前で、これまでのサンタの思い出、そして新しいサンタの仕事について花を咲かせた。
ねずみの家では、目を覚ましたアルフレッドとクレアの喜びの声が響き渡っています。
「ママ!プレゼントがあるよ!」
「ママ!クッキーとミルクがなくなってるよ!」
二人は嬉しくてたまりません。
「メリークリスマス。アルフレッド、クレア。良かったわね」
「メリークリスマス。ママ。サンタさん来てくれたんだね!」
「メリークリスマス。ママ。いい子にしてたからプレゼントもらえたよ!」
2人がはしゃいでいると、コンコンっと家の扉をノックする音がしました。
「誰かしら?どなた?」
母ねずみが扉をあけると、1匹のねずみが立っていました。その姿に母ねずみはびっくり。
「ジーニー!帰ってきたのね!」
その声に子供たちもよってきました。
「パパ!お帰りなさい!」
「パパ!やっと会えた~!」
「カラスに襲われそうになっている所を親切な人間が助けてくれたんだ。逃げ回っているうちに帰り道がわからなくなってしまって…。その人に町まで連れて帰ってもらったんだ」
「まぁ、そんな恐ろしい事が。優しい人で良かったわね。」
安堵の表情を浮かべる母ねずみ。そのエプロンの端をクレアがくいくいっと引っ張りました。
「ママにもサンタさんからプレゼントきたね」
クレアは嬉しそうにいいました。
「そうね。きっと。サンタさんがパパを助けてくれたのかもしれないわね」
母ねずみはクレアの頭を撫でながら微笑んだ。
「そうだな。確かにサンタに助けてもらったのかもな」
ジーニーは、アルフレッドの肩に手を回し、息子を見つめました。
いつか自分もサンタと店主ように、自分の息子に最高のプレゼントを渡すときが来るのを願って。
「メリークリスマス」
読んでいただいてありがとうございました。
少しでも、皆さんの心が和んでいただけると嬉しいです。