園児と小学生の狭間にいる千恵ちゃんと商店街
なろうラジオ大賞に応募するために執筆しました。なろう自体は初心者ですが、気軽に読んでいただけると幸甚に存じます。
今年から小学生になる千恵ちゃんは純粋無垢な少女であることに間違いはない。入学を目前にしてつい待ち切れず、おばあちゃんが買ってくれた今時にしては珍しい赤で単調なランドセルを背負って商店街を闊歩していた。そんな初々しい光景が溶け込む商店街、働いている人々の頬はいつも綻んでいる。だけど今日はいつもより不穏な空気が帯びている店があった。
「おばちゃーん、キャベツひとつくださいな」
「あら千恵ちゃん、こんにちは」
「こんにちわー!」
大きく右手を上げて挨拶をする千恵ちゃんは太陽のように眩しい。
「ごめんね千恵ちゃん、今ちょっと取り込み中なの。主人がへそ曲げててね」
「お前が俺に煙草をやめろって言うからだろ。人の唯一の楽しみを取り上げようってのか」
「おばちゃん、たばこ……ってなぁーに?」
「煙草はね、すごく体に悪いのよ。しかも周りの人にも迷惑がかかるの」
「けど俺は幸せな気分になれるぜ。ガハハハハ」
おばちゃんは高笑いする主人を見兼ねて額に手を当てた。そんな中、一拍置いてから千恵ちゃんがその小さくて可愛い手を軽やかにポンと叩いた。
「わかったー! おいちゃんにとってたばこはご褒美なんだね!」
ふと首を傾げる主人。
「ちえもねー、ジュースが大好きなんだけど、飲み過ぎると体に悪いのよーってママがいうからね、毎日幼稚園頑張ったらご褒美にジュースが貰えるの。だからね、おいちゃんもきっとお仕事頑張ってるんだね!」
呆気にとられ顔を見合していた二人は次第にくすくすと笑いだした。千恵ちゃんの屈託のない笑顔には敵わなかった。
キャベツ一玉とおいちゃんがこれも持っていきな、とタダでくれた筍が入った買い物バックを重そうに抱えながら、千恵ちゃんは笑顔で度々振り返りながら手を振ってくれた。
「俺、煙草は控えるよ」
「そうしましょう、あなた」
この日から商店街の日常風景だった煙草を吸う八百屋の主人は姿を消した。代わりに千恵ちゃんのマジカルな笑顔が商店街を照らした。
スピンオフのような形態で書いてます。時系列はバラバラでどれも超短編です。ご覧いただきありがとうございます。




