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ベルのビビ  作者: 映画泥棒
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五感の神のデスゲーム(人は神を操ることができるのか)

<目次> 

第1話 出会い

第2話 大きな代償

第3話 視覚のメガネ

第4話 仲間?

第5話 クリスマスプレゼント

第6話 イギリス(1)

第7話 イギリス(2)

第8話 告白(1)

第9話 告白(2)

第10話 2つの死

第11話 帰国

第12話 三神会議

第13話 園子

第14話 触覚の神

第15話 誤解

第16話 友情

第17話 ジョージ

第18話 四神会議

第19話 正月

第20話 店主の告白(1)

第21話 店主の告白(2)

第22話 資格者

第23話 四神会議プラスワン

第24話 瞳美ふたたび

第25話 エマ

第26話 もうひとつの代償

第27話 ニセモノ

第28話 エマの告白

第29話 対決

最終話 神殺し

エピローグ



第1話 出会い

主人公逢音あいねは、高校二年生の女子。勉強嫌い、運動苦手、手先不器用な彼女の唯一の楽しみは、アンティーク物の収集。

ある冬の日曜日、行きつけのアンティークショップで逢音は、埃まみれの古いベルに興味を惹かれる。

とんでもない高値がついたそのベル。そっと値札をはずし。なじみの店主に向かって逢音はチリーンとベルを鳴らし、冗談っぽく甘えた声でこう言う。

逢音「おじさん、これ値札ないからただで譲ってくれるんでしょ?」

店主「いいよ。持っていきな!」

想定外の返事で逢音はベルを手に入れた。

上機嫌で家路を急ぐ逢音。

横断歩道で信号待ちをしている逢音の前にボールを追いかけてきた幼児が飛び出してきた。

女性「お願い。その子を助けて」

背後から聞こえた母親らしき人からの悲鳴に、逢音の意識が飛んだ。

気が付くと目の前に泣き叫ぶ幼児と感謝する母親。

逢音「あれ、わたし?わたしが助けたの?」

幼児を助けたことよりも、脊髄反射的に動いたのであろう自分の行動とその間の意識の喪失疑問をいだきつつ、鞄に入れたベルが無事であったことに安堵する逢音。

自宅に戻った逢音は、母親に幼児を助けた事実を伝える。

母「晩御飯はなにがいい?」

そう聞かれたビ逢音は、高級レストランの客を気取り、ベルを鳴らし

逢音「正義のヒーロービビに、まぐろの大トロ20巻を持てぇーい」

と言ってげらげらと笑う。

一瞬母親の目の色が変わったような気がした。

母「承知いたしました」

母親はすぐに携帯電話で寿司屋に大トロ20巻を注文した。

目の前でそれを見ていた逢音は驚いた。

逢音「ちょ、ちょっと冗談だよ」

母「ご命令ですから」

逢音「め、命令?」

母親の目の色が戻ったように見えた。

母「あ、逢音。年末の大掃除やるから、窓ふきお願いね」

「えー、寒いから嫌だ。部屋の片づけならやる」と言いかけた言葉は

逢音「はい。すぐにやります」

に変わっていた。そして意識が遠のいた。

気が付くと、家の外に立っていた逢音。手にはガラスクリーナーの容器と雑巾を持っていた。目の前の窓ガラスはきれいになっている。

逢音「え、これわたしがやったの?」

腕時計を見ると、母との会話から1時間が過ぎていた。

たった数時間のうちに不思議な出来事が4つ。

・ベルをただで手に入れた

・無意識のうちに幼児を助けていた

・母親が大トロ20巻を注文してくれた

・無意識のうちに窓ガラスの掃除をしいていた。

この4つの出来事の前後の記憶をあらためて辿るビビ

「はっ!ベル?」

4つ全ての出来事が…いや正確には2つの出来事がこのベルを鳴らした瞬間から始まっていた。

常識的に考えれば、高価なベルをただでくれるなんてあり得ない。そして母親が大トロ20巻の無茶な要求をあっさりと飲むわけはない。

その後に生じた現象…自分の意識なき行動。

逢音は、ベルを手にし、あらためてしげしげと眺めた。

ベルの持ち手に英語の文字が刻まれていた。

逢音「Hearing BiBi」

口に出してその英語を呼ぶと

ビビ「やっとお呼びだしかよ」

手に持ったベルがしゃべり始めた。

驚いた逢音。

ベルの鐘の部分に顔が現れた。ニコチャンマークに似た顔だ。

その顔がまた言葉を発した。

ビビ「私がビビ。音の世界をつかさどる神。なーんてな。」

逢音「ひいいいいいい。しゃべった….ベルがしゃべったぁぁぁぁぁ」

ビビ「ほうどうやら、わたしの力を知らないご主人様のようだ」

逢音「あなたの….あなたのせいなの?」

ビビ「そうだよ。いや、正確には君の命令に従っただけだけどね」

逢音「わたし命令なんか….」

ビビ「ちっちっちっち。説明が必要だね」

ビビはこのベルの能力について説明を始めた。

1.ベルを鳴らした時に一番近くでその音を聞いた人間は、ベルを鳴らした人間の命令に従う。この行為が行われている間、命令された人間は一時的に記憶を失う。

2.ベルを鳴らした人間は、その瞬間から他の人間から自分に向けられた命令に従う。これもまたこの行為が行われている間、命令された人間は一時的に記憶を失う。

3.このベルは手にして最初にチカラを使った人間が所有者となり、所有者は他の人間に譲渡する意思をもって渡さない限り、その権限が他人に移ることはない。

ただし、所有者が死亡した場合はリセットされ、それ以降最初に鳴らした人間が新たな所有者となる。

(これは能力なんかじゃない。魔力だ…)

逢音「あなたは悪魔?それとも…」

ビビ「悪魔でも天使でもない。そうだな…あえていうなら神だ」

逢音「神….」

ビビ「そう…人間の五感をつかさどる神だ。わたしは五感の一つ聴覚の神ビビ様であーる」

逢音「でも、そのビビ神様は私の命令を聞くのね。なーんだ人間に操られる神?」

ビビ「うっ….そういわれると….」

逢音「つまり、これまでの不思議な出来事はすべて私がベルを使ったからで、これからも私の思い通りにあなたを使うことができる…..正解?」

ビビ「まあ不正解ではない。ただ、使い道を誤ると……」

逢音「私は馬鹿じゃない。人を操ることもできるけど、操られるという代償も払うってことでしょ?」

ビビ「ま、そういうこと」

逢音「大丈夫、私ならうまく使える。そうか…聴覚の神ビビか….」

チリーン

逢音「ビビ、これから私のすることよーく見といてね。人生大逆転ゲームの始まりだぁぁぁ-」

ビビ「あ、私には魔力聞かないよ」

逢音「あら….」

その夜、逢音はリビングのソファで寝た。胸元には諭吉が三枚置いてある。

ベルを鳴らし父親に小遣いをねだったのだ。

そうして手に入れた3万円。そして払った代償は母からの

「逢音、さっさと寝ちゃいなさーい」

(この力明日学校で使ってみよう)

飲み込まれる睡魔の刹那、逢音はそう思った








第2話 大きな代償

ベルを手にした翌日、逢音は学校にいた。

逢音は私立の女子高に通っている。地元ではそれなりの偏差値が必要な進学校であり、いわゆるお嬢様学校と言われている。

逢音の「制服がかわいいから」という理由だけで、進学を許してくれたのは、そこそこ父親の収入が高いことと逢音が一人娘であることに無関係ではない。

ベルは、スポーツバッグの中に閉まってある。

2時限目が終わった時、同じクラスの友人園子そのこが声をかけてきた。

小学生からの幼馴染で逢音より成績も運動神経も容姿もちょっとだけ上。友達偏差値というのがあれば、園子は65くらいだと逢音は思っている。

園子「逢音、次の物理予習やってきた?」

逢音「うんにや」

園子「え、やばくね。波セン(物理教師波沢先生)さ、日付で当ててくるじゃん。今日の日付だと出席番号からいったらモロに逢音当たるよ」

逢音「そうなんだけど…なぜか当たらない自信があるのだよ。ちょと職員室行ってくるよ」

スポーツバッグを大事そうに抱え、職員室に行く逢音の背中をポカンと見送る園子。

失礼しますと言って逢音は職員室に入り、まっすぐに波沢教諭の席に行った。

逢音「波沢先生、2年C組の篠崎です。お願いがあってきました」

すでに逢音の手にはベルが握られてる

波沢「なんだ?篠崎」

チリーン

逢音「これから授業で私を指名しないでくださいね」

波沢「わかった」

それを聞いた逢音は踵を返し、今度は担任の柴崎先生のところに行った。

逢音「柴崎先生、日直の日報ついでに持っていきますね」

柴崎「ん、ああ頼む」

(はい終了!代償なんてやりかた次第でリスクなくせるんだよ。私天才!)

ほくそ笑む逢音。

当然物理の時間で逢音があてられることはなかった。またこれからもこの授業で当てられることもない。

お昼は弁当だ。同じく弁当の園子と一緒に食べるのが日課となっている。

園子「物理ラッキーだったね」

逢音「あ、うん。なんかもう当たらないよーな気がする。なーんてな」

園子「なんか機嫌よさそ、今日の逢音。なんかあったの?」

逢音「べ、べつにぃー。あのさ、園子、今悩みとか欲しいものとかある?」

園子「なんだ突然。これでも思春期ど真ん中の乙女だぞ。悩みも欲しいもの宇宙規模であるわー」

逢音「すぐにかなえて欲しいことって…ある?」

園子「なに、マジに聞いてんのか?うーんそーだなあ、私、吹奏楽部じゃん。今度のコンクールメンバーの選抜にどうしても入りたいんだよねー。2年だしね。でもトロンボーンうまい一年の子がいてさー。状況はかなりキビシイ」

逢音「それは誰が決めるの?」

園子「顧問の響先生だよ」

逢音「選抜されるといいね。きっと大丈夫だよ」

園子「逢音の大丈夫は逆に不案だな。ま、せいぜい精進しますわ」

次のダーゲットは決まった。

場所と時間は一転して放課後の職員室。

響先生と逢音が対峙している。

チリーン

逢音「次の吹奏楽のコンクールメンバーに園子を入れてください」

響「わかった」

逢音「ありがとうございます。お礼に、先生のごみ箱のごみ捨ててきますね」

(よろしく頼む。ありがとう)逢音が期待していた言葉はこれだった。

しかし…..

響「それより、篠崎も吹奏楽部入ってくれないかな」

逢音「はい。了解です。すぐ入部します」

(あれ….あれれ…..私何言ってるんだろ)

気が付くと音楽室にいて吹奏楽部の部員から歓迎の拍手を受けていた逢音。

(やばい、まずった。これちょっと代償大きすぎ…)

逢音は中学生の時に吹奏楽部でトランペットを吹いていた。園子に誘われて入部したのだ。

ただ、1年あまりで退部している。理由はアンティーク探しに夢中になったからであった。

逢音は考えた。

(せっかく、魔法のベルを手に入れて面白いことやろうとしていた矢先、部活なんてとんでもない。ただ、今更な… 。どうするか… ビビの力を… いや部員全員にかけるのは無理だ。とりあえずトランペットだけは避けなければ…)

園子「びっくりしたよ。あんなに嫌がってたのに… もちろんトランペット吹くんだよね?」

逢音「ああ、いや、その…もう二年だし、正式な部員じゃなくてなんかお手伝いできたらなあーって思って…そう、そうだ。マネージャーみたいな役ってないのかな?こう雑用係的な…」

園子「うーん。文化部でマネージャーなんて聞いたことないなあ。部長に相談してみたら?」

逢音「部長?部長って誰だっけ?」

園子「え、知らないの?曽宮部長よ曽宮瞳美そみやひとみ。」

逢音「ええ、あの生徒会長の?」

園子「そー、今は生徒会室にいるはずだけど…」

逢音「行ってくる」

(とりあえず、マネージャーにしてもらってそのうち幽霊部員になっちゃおう。認めてくれという気はないよ。ふふふ、ビビの出番じゃ)

曽宮瞳美 容姿端麗、頭脳明晰、先生や生徒から絶大な信頼を受けている。秋に圧倒的票数で生徒会長になった人物。友達偏差値75。

生徒会室にいくと瞳美がいた。都合のいいことに一人で生け花に水をやっていた。

逢音「失礼します。曽宮会長。2年C組の篠崎逢音です。この度、吹奏楽部に入部しました」

瞳美「うん。響先生から聞いている。もうすぐ音楽室に行こうと思ってたとこ。」

赤い下ぶちメガネに知性と親しみやすさを感じた。

逢音「実は、入部するに際してお願いがありまして….」

ごそごそとスポーツバッグからベルを取り出す逢音。

瞳美「ほう。ベルをやりたいとか?」

逢音「ち、違います!」

チリーン

逢音「私を自由参加のマネージャーにしなさい。」

瞳美「わかりました」

逢音「じゃあ、よろしくお願いします。あ、水やり私がやりますので、どうぞ吹奏楽部のほうへ」

瞳美「あ、悪いわね。水やりよろしくね」

(代償クリア!)

ほっとする逢音を後に生徒会室を出る瞳美。

(今、なんか記憶がとんだような…え、まさか、私がかけられた? ベル?ベルの音?

こんな身近にもう一人....篠崎…篠崎逢音がそうなのか….)

そっと生徒会室に戻る瞳美。窓越しにいそいそと花に水をやっている逢音がいる。

(まさか…とは思うが、一度試してみるか)

瞳美はゆっくりとかばんの中から古めかしい黒縁メガネを取り出した。








第3話 視覚のメガネ

瞳美は逢音の水やりが終わるのを待ち、赤の下ぶちメガネは外して逢音に声をかけた。

「逢音さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

逢音「あ、はい。なんでしょう」

(無防備な逢音)

瞳美は黒縁メガネをかけ逢音の瞳をじっと見つめた。

瞳美「あなたが持っているベルについて、知っていることを全て話しなさい」

逢音「あ、はい」

逢音はベルを手に入れた経緯からこれまでの出来事を全て話した。

(あれ、私しゃべらされている。さっきの代償?いや、これは違う…彼女の瞳が私に…)

全てを聞いた瞳美は、驚き、戸惑った。

(やはり、この子は聴覚の神の担い手…どうするか…とりあえず儀式はすませとこう)

瞳美「あら、逢音さん背中にテープの切れ端が…とってあげましょうか」

逢音「あ、すいません。お願いします」

(代償クリア!)

瞳美は音楽室には行かず、校庭の隅の裏庭に足を運んだ。

そして鞄から再び黒メガネを取り出し、つぶやいた。

「Vision GaGa!」

メガネのレンズに顔が現れた。ビビとそっくりなニコチャンマークの顔だ。

瞳美「ガガ!現れたの!五感の神の使い手が!」

ガガ「見てたよ。あれは聴覚のビビだ」

瞳美「こんなに早く。しかもこんな身近にいるなんて…」

ガガ「灯台もと暗しだね」

瞳美「どうしよう。どうすればいい?」

ガガ「ためらうことはない。殺ればいい。それが君の生きる意味だったろ」

瞳美「そうだけど、だけど…」

ガガ「奪うんだよ。視覚の魔力を。向こうはまだこちらの能力に気づいてない。だけどビビはもう気づいた。あの娘がビビと会話をしたら、お前の能力を知ることになる。やるなら今しかない」

瞳美「同級生なんだよ…たぶんいい子なんだよ」

ガガ「所有権を貰えるとでも思ってるのかい?向こうも能力の面白さに気づいてるよ。簡単に手放しゃしないさ」

瞳美「考える。考えてみる。殺すのは最終手段」

ガガ「後悔は先に立たないよ。下手すりゃ自分が殺される」

瞳美「わかってる!もう黙って!」

瞳美は黒メガネをしまった。

場面は変わって音楽室。

逢音はとまどっていた。

(どうしよう。全部しゃべってしまった。なぜ?)

(水やりをやった時点で代償はクリアしたはず。いや、クリアできていなかったのか?)

(それより、なぜ瞳美は、ベルのこと聞いてきたんだろう?)

(あ、ビビなら知ってるかも…帰宅したら聞いてみるか)

瞳美が音楽室に現れた。

瞳美「みなさん。今日入部した篠崎逢音さんには、当部はじまって以来のマネージャーをやってもらうことにしました。逢音さん、よろしくね」

逢音「あ、はい…よろしくお願いします」

瞳美「マネージャーといっても役割がはっきりしてるわけじゃないから、しばらくは私の指示したことだけやってくれればいいわ。早速だけど2人だけで打合せしましょう。悪いけどまた生徒会室に来てくれる?ここじゃうるさくて話もできないから。」

瞳美「みんなは、普通に練習してて」

部員一同「はーい」

瞳美「じゃ逢音さん、いきましょうか」

逢音「はい」

逢音は瞳美の後ろを歩きながら、今まで経験したことのない不安と焦燥を感じていた。

場所はまた生徒会室。だれも入ってこられないように瞳美は内側から鍵をかけた。

瞳美「とりあえず。私の話を聞いてほしい」

逢音「はい」

瞳美「あなたが聴覚の能力者であることはもう知っている。あなたも気づいたかもしれないけど、私も能力者なの。私は視覚ね。」

(瞳美は黒メガネを取り出した)

瞳美「このメガネをかけて、最初に目があった人物に命令を下す。あなたがベルの話を全部話してくれたのも私が命令したからなの。びっくりしたわ。同じ高校に五感の神の力を持つものがいるなんて…」

逢音「私もなんとなく感じていました」

瞳美「あなたがベルを手に入れたのは、昨日よね。私は3年前。祖父から受け継いだの。

祖父は亡くなったわ。同じ能力者に殺された。ただ、殺される前に祖父は私にこれを託したの。」

逢音「………..」

瞳美「私は…私の望みはね、すべての能力を持つことなの。」

逢音「え、えええええー」

瞳美「安心して、あなたの能力をすぐに奪うことは考えていない。でも奪うことはできた。

このメガネをかけてあなたに自殺を命じればいいのだから」

逢音「!!(声にならない悲鳴)」

瞳美「そうしなかったのは、あなたと協力したかったから。私の望みを叶えるためには、協力者が必要だと考えた。あなたなら、あなたとならやっていけそうな気がしたの…」

逢音は自分にこれから起こるであろうさまざまな事象に思い至ることもなく、茫然としていた。ただぼんやりと頭に浮かんだことがあった。

(私が瞳美のおメガネにかなったってこと…?)













第4話 仲間?

瞳美「当然、このことは二人だけの秘密。わたしもまだよく考えがまとまらないから、どうやって協力していくのかは、明日また話しましょう。部活前にまた生徒会室にきてね。」

逢音「あ、はい。あのう一つ聞いてもいいですか?」

瞳美「なに?」

逢音「瞳美さんは、すべての能力を手にしてなにがしたいの?」

瞳美「……復讐…かな」

逢音「おじい様を殺した人…ですか?」

瞳美「いや、ちょっと違う。実は祖父を殺した人が誰かがわかならいの。私は….私の望みはね…五感の神すべてを葬り去ることなの」

逢音「……!!」

瞳美「それにはね。五感の神の力すべてを手に入れることが必要なの…」

逢音「私、この力を自分のために使いたいと思っていたけど、それはダメ?」

瞳美「いや、あくまで視覚の神ビビの所有者はあなたなのだから、あなたの好きなようにすればいい。ただ、代償には気をつけて…あなたの能力、あなたの命に係わることだから…」

逢音「…そう…そうですよね」

瞳美「ごめん。一方的にこっちが主導権持っちゃってるみたいな言い方だね。これからは対等な仲間でいよう。それから二人でいるときには私のことは「瞳美」でいいよ。じゃあまた明日」

逢音は、そのまま帰路についた。いろんなことがあって頭の整理がつかない。

(帰ったらビビと相談しよう)

帰宅して自室に閉じこもった逢音。ベルを取り出した。

「Hearing BiBi」

ビビ「なんかすごいことになってるな」

逢音「全部聞いてたの?」

ビビ「そうだよ」

逢音「どうすればいい?」

ビビ「逢音に視覚の能力者…瞳美だっけ?と対等に渡り合えるとは思わないなあー」

逢音「仲間になってくれって…断ったら殺されちゃうのかな」

ビビ「相手は視覚の神ガガだぞ。しかも所有者と3年も失敗せずやってきている。敵にまわしたくない相手だ」

逢音「仲間になるしかないのか….」

ビビ「お前も相手を利用することを考えたほうがいい」

逢音「利用するったって…瞳美の望みに比べたら、私なんて…。あ、ねえねえ、五感の神の力を全て揃えたらどうなるの?」

ビビ「この世を支配することができる」

逢音「ええええ!どーゆーこと」

ビビ「できないことはないってことさ、全人類が思いのまま」

逢音「そろったことってあるの」

ビビ「ないよ」

逢音「じゃあなぜわかるの?」

ビビ「神だから…じゃ説明にならないな。逢音の知的レベルを考えて説明してあげよう」

ビビが言うには

五感の能力はもともと一体の全知全能の神から別れたもの。全部そろったらその神が復活するので、その所有者は全知全能のチカラを手にするだろう。

ということだった。

ビビ「このことは瞳美もガガから聞いているはずだ」

逢音「瞳美はそうなることを恐れているのか….」

ビビ「いや、わかんないぜ。逢音を利用する方便かもしれない。だって全治全能だぜ。だれだってそのチカラは欲しくなる。それに私が消されるのは御免こうむりたい」

逢音「瞳美はおじいさんから受け継いだと言った。そのおじいさんは能力者に殺された。私なんかとは違ったレベルの野望を持つ当然の理由がある」

ビビ「逢音は大トロで満足だもんなあ」

逢音「う、うるさいわ。とにかくまだまだわからないことがいっぱいあるのは確か」

ビビ「経験値レベル2くらいだもんな」

逢音「うるさ…まあ、それは事実か…。とりあえず瞳美の申し出には応じてみる。能力の使い方を教えてくれる唯一の友達だもの。そして…その間に….」

ビビ「自分が本当にやりたいことを見つけるんだな」

逢音「そう、そうだよね。ありがとうビビ」

ビビ「また呼んでくれ!大トロ娘」

逢音「やかましー」

(とりあえず、瞳美の仲間になろう。いやなったふりをしよう。あとは出たとこ勝負でいいや)

逢音はベルを持ってリビングにいる母親に話しかけた。

チリーン

「大トロ20巻食べさせなさーい」






第5話 クリスマスプレゼント

逢音はいつも通りに起床した。

体が少し痛い。そうだ、昨日の大トロの代償がキッチンの換気扇掃除だったのだ。

(年末の大掃除の一番いやな役目をやらされた…まあこんなもんで済んでるうちは…あ、今日はクリスマスイブ!)

逢音「プレゼント貰おう。へっへっへぇ…」

欲しいものは決めてある。例のアンティークショップにある香水のビンだ。

薄紫色に光るしゃれた香水のビン…ずっとながめていたいくらい美しい。

自分の小遣いじゃとても手が出ない。かといって、店主にベルを使って頂いちゃうのは良心が痛む。

リビングに降りていく途中でトイレから出てくる父親と出くわした。

チリーン

逢音「クリスマスプレゼントにアンティークショップにある薄紫の香水のビンを買ってください」

父「わかった」

逢音「ねーねーお父さん。肩もんであげようか?」

父「あ、いいよ。それよりトイレ汚しちゃったから綺麗にしといて。ママが怒るからさ」

逢音「はーい」

代償クリア!

(こ、このくそ親父め!)

場面はかわって学校。もうすぐ終業式ということもあり授業は午前中まで…午後は全校生徒で学校の大掃除という予定である。

逢音「昨日の晩からずっと掃除だよぉぉぉー」

園子「ははは、昨日のツキの倍返しだな。しっかり働け」

逢音「冬休みも部活あるんだよね?」

園子「コンクール間近だし、休めるのは大晦日と正月三が日くらいだよ。でもマネージャーもずっと出ろって言われたの?」

逢音「ん…ああ、そのことで放課後部長と話すんだけどさ…」

園子「ずいぶんと頼りにされてるな。部長に憧れてるあまたの下級生が泣くぞ。あ、逢音さあ英語苦手じゃん?部長の英語の成績は全国でもトップクラスだよ。教えてもらいな」

逢音「へえー、そんなにすごいの?」

園子「部長はさ、中学までイギリスにいたんだって。いわゆる帰国子女なんだよ」

逢音「へー、初めて聞いた」

園子「なんでもおじいさんがイギリス人だって…だから部長はクォーター」

逢音「くぉーたーって?」

園子「おまえ、まじ英語やばいな。1/4外国の血が流れてるってことだよ」

(そうか…亡くなった瞳美のおじいさんはイギリス人だったのか…)

全校大掃除が終わり逢音は約束通り、生徒会室に向かった。

そこには当然のことながら瞳美がいた。

瞳美「待ってたよ」

逢音「はい」

瞳美「昨日の件、私なりに考えたことを言うね」

瞳美が言ったことはこういうことだった。

1.二人がお互いに能力を使うことはしない。会うときは道具(ベルと黒メガネ)を出しあって、すぐには手の届かないところにおく。

2.安全に代償を払いたいときには、お互い協力する。

3.今後二人は五感の神の道具を全部集めることに協力する。

瞳美「とにかく能力使うのに困ったときは、私が相談に乗るよ。私には3年間の経験がある。だから五感集めには協力してちょうだい。それと….」

逢音「代償の協力…ですね」

瞳美「そう…これはもう信頼するしかない。私を信じてもらうしかないし、私は逢音を信じる。ま、そういう場面があればの話だけど…」

逢音「わかった。でも五感集めって…どこから始めるの?世界中にちらばっているのなら一生かかっても無理なんじゃ…」

瞳美「私もそう思っていた。でも逢音のおかげて手がかりがつかめた。あなたがベルを手に入れたアンティークショップがあるでしょ。あそこにあたってみようと思うんだ。あのベルがどうしてあそこにあったのか…」

逢音「あ、ああそうだよね。店主さんに聞けばわかると思う」

瞳美「うん。それが二人で初めてやる仲間としての共同作業だ」

逢音「わかった。今から行く?」

瞳美「今日はクリスマスイブでしょ。予定いっぱい入っちゃってるし、部活も追い込みの時期だし…また連絡するわ」

逢音「おっけー」

(瞳美なら大丈夫。信頼できる仲間になれる)

家路を急ぐ逢音。逢音は瞳美との距離が急に縮まったような気がしていた。

逢音「ただいまー。クリスマスケーキ買ってる?あとケンタもー」

母「それどころじゃないのよ」

逢音「どうしたの?」

母「お父さんが急にイギリスに行くことになって…」

逢音「ええええー、なんで急に!」

母「よくわからないんだけど、上司の指示かなにかで、イギリスの骨董品を買い付けにいくんだって。明日の朝一番の飛行機だからもう準備が大変…」

父の部屋に急ぐ逢音。

いやな予感がした。

逢音「お父さん、イギリスで骨董品買うって、まさか…」

父「あ、逢音。頼まれた香水のビンなんだけどな、先日イギリス人に売られちゃったみたいなんだ。その人から譲ってもらうしかなくてな。ははは、高いクリスマスプレゼントになりそうだ」

絶句する逢音

(ビビに、いや、瞳美に相談しなければ…)











第6話 イギリス(1)

逢音はスマホで瞳美を呼び出した。

逢音の口調からただごとではないことを察した瞳美は友達とのクリスマスパーティーをぶっちぎって逢音の家に向かった。

逢音の自宅を訪れ、部屋に通された瞳美。

瞳美「なにがあった?」

これまでの経緯を話す逢音。

逢音「これ、もう一度お父さんにベルの能力をかけてイギリス行きをやめさせることできるのかな?」

瞳美「この能力ってさ、契約なんだよ。逢音が代償を払った時点で、最初のお父さんへの命令は確定した。お父さんは履行義務を果たさねばならない」

逢音「瞳美がメガネ使ってもだめ?」

瞳美「やったことないからわからないけれど、無理だと思う。Vision GaGa!」

ガガ「無理」

瞳美「だってさ…」

逢音「いきなりイギリスだよー」

瞳美「イギリスのどこ?」

逢音「あ、住所まではきいていない。そういえば瞳美は中学までイギリスいたんだっけ?」

瞳美「あ、うん。まあ、その話はまた今度。私が能力つかってお父さんに聞いてみようか?」

逢音「いいの?」

瞳美「代償の時フォローお願い」

逢音「わかった。信頼して!」

逢音と瞳美はリビングに行って逢音の父親と対峙した。

瞳美が黒メガネをかけて父親に問う。

瞳美「香水のビンはイギリスのどこにあるのですか?」

父親は詳しい住所を話した。それを聞いた瞳美は驚愕の表情をみせた。

瞳美「ま、まさか…そんな…」

逢音「瞳美。部屋に戻って。」

代償クリア!

部屋に戻った逢音と晴美。

晴美は黙って困惑した表情。

逢音「どうしたの?」

瞳美「ちょっと…いや、かなりびっくりした」

逢音「?」

瞳美「同じなんだよ。住所が…おじいさんの住んでいた家と」

逢音「えええええー。その家って今どーなってるの?」

瞳美「確か。人に貸しているって聞いた…」

逢音「その人が香水のビン買っていっちゃったのか…」

瞳美「なんかさ…なんかおかしくない?これ偶然なの?」

逢音「だってさ、香水のビンは私がずっと欲しくて….」

瞳美「それがこのタイミングで売られた。しかも私のおじいちゃんの家に住んでいる人に…」

考え込む瞳美…そして決心したかのように逢音に言った。

瞳美「行こう。私たちもイギリスへ!」

逢音「え!ええええええー」

瞳美「次の能力者への手がかりが見つかるかもしれない。いや、次の能力者に会えるかもしれない」

逢音「だ、だって出発は明日だよ!」

瞳美「私たちのチカラをつかえば問題ない。逢音パスポート持ってる?」

逢音「あ、うん。去年香港に行ったし…」

瞳美「じゃあノープロブレムだ。急いで支度しよう。いいか?今からあなたの両親に能力つかう。代償フォローお願い。そのあと私の家に来て、同じように親に能力使うから!」

逢音「うわああああー大変なことになったああああー」

逢音は、不安よりもこれから起こるであろう様々な出来事を想像し、ワクワクしている自分を感じていた。


















第7話 イギリス(2)

逢音「ひぃぃぃー寒うぅい」

ロンドンのヒースロー空港に降り立った逢音はブルブル震えていた。

瞳美「同じ北半球でも、特にこの時期のロンドンは日本に比べて寒いんだよ。あ、おじさん、ここからだとタクシー使ったほうが便利だよ」

父「あ、そうかい。お任せするよ。なんとかクリスマスまでに香水のビンを….」

(まーだ魔法が解けないのか…手に入れた瞬間正気に戻ったら、親父殿はびっくりするだろうな)

逢音は父に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

あれから、逢音と瞳美はお互いの両親に能力を使ってイギリス行を承諾させた。学校に連絡してもらうことも含めて…(とはいえ学校は当日終業式であるから、もう冬休みに入ったようなものだ)

あと園子に初めて能力を使ってしまった。しばらく自分と部長が部活に出れないことを部員たちに伝えて欲しいということを…

(吹部には迷惑かけたくないな…それは瞳美も同じはずだけど…いやこうなっては瞳美にとって部活なんてどうでもいいのかもしれない)

瞳美「逢音!タクシー捕まったよ!早く早く!」

瞳美によると目指す住所はここからタクシーで50分ほどのところらしい。

瞳美「ダリジ・ビレッジ二番街まで…あ、途中ビッグベン観れる道通ってください(英語)」

流ちょうな英語でドライバーに行先を告げる瞳美。

逢音「ビッグベンってあの有名な時計台?」

瞳美「ここまできて持って帰るのが香水のビンだけじゃもったいないでしょ」

瞳美はウインクをよこした。

車はロンドンの中心街を抜けて東へ…逢音が観たビッグベンにはピーターパンはいなかった。

瞳美「着いたよ」

タクシーを降りた3人は大きな庭のある広大な屋敷の前に佇んでいた。

逢音「ここが瞳美のおじいさんのお家」

瞳美「私が住んでいた頃より庭の手入れが行き届いてるな。いい人に借りてもらったみたいだ」

逢音「これからどうするの?」

瞳美「まずは私が挨拶する。ここの家のオーナーだって言う。そしてお父さんに香水のビンを譲ってもらえるよう交渉してもらう。だめな時は私が能力を使う。代償フォロー頼んだよ」

逢音「わかった」

玄関のブザーを鳴らすと、初老の男が出てきた。

男「なんの御用でしょうか(英語)」

瞳美「私はここの家のオーナーです。日本から来ました(英語)」

男「それはそれは遠いところから…私はこの屋敷の使用人です。主人を呼んできますのでしばらくお待ちください(英語)」

現れたのは80代くらいと思しき老婦人だった。

エミリー「これはこれはかわいい大家さん。はじめまして。私がこの家をお借りしているエミリー・アンジェリーナです。電話いただければお迎えをよこしたのに(英語)」

瞳美「早速ですが、エミリーさんは、先日日本のアンティークショップで香水のビンを買われましたか?(英語)」

エミリー「買いました。でも日本に足を運んでくれたのは使用人のダンです(英語)」

瞳美「見せてもらえませんか。私の友人がとても欲しがっていたものなんです(英語)」

エミリー「そのためにわざわざ…ダン、例の香水のビンを持ってきて(英語)」

使用人ダンは二階から木箱を持ってきた。

中には薄紫色に輝く見事な造形の香水のビンがあった。

エミリー「これで間違いない?(英語)」

覗き込む瞳美と逢音

瞳美「逢音、これなの?」

逢音「うん、間違いない。これ」

瞳美「おじさん、これを譲ってくれとエミリーさんにお願いしてください」

父「これを私に譲ってくれませんか、お金はいくらでも構いません(日本語)」

瞳美が通訳してエミリーに伝える。

エミリー「あなたがたがこの香水のビンにこだわる理由が知りたいわ(英語)」

瞳美「それは、ずっとこの子(逢音)が欲しくて欲しくて…(英語)」

エミリー「だから、父親に能力を使って買わせようとしたの?(英語)」

瞳美「!!!!」

(やはり能力使い!この女が…この女がおじいさんを!!!)

あわてて鞄から黒メガネを取り出す瞳美。

なにが起こったのかわからず、あわてる逢音。

その時、部屋になんともいえない芳香が立ち上った。

一瞬動きがとまる逢音、瞳美、父。

「すべてを話して…お願い」

エミリーは香水のビンの蓋をそっと閉めながら瞳美に向かってやさしく言った。





第8話 告白(1)

瞳美はこれまでの経緯を英語で語った。

自分が視覚の能力を祖父から受け継いだこと。

すべての五感の能力を集めようとしていること。

聴覚の能力を持つ逢音と出会い協力者となったこと。

そして、今ここに至るまで…

逢音は、その様子を冷静に見ていた。

(瞳美はこの老婦人にしゃべらされている。この老人が能力者?さっきの香り…

そうか…嗅覚の能力者、そしてあの香水のビンが…)

エミリーは時折、悲しそうな表情を浮かべて瞳美の話を聞いていた。

聞き終わって、ダンに声をかけた。

エミリー「儀式を」

その瞬間を逢音が逃さなかった。

逢音「香水のビンを渡しなさい!」

代償クリア!

香水のビンを逢音に渡したエミリーは我に返った。

エミリー「あ…」

逢音「さあ、ビビの出番よ!」

チリーン!

逢音「あなたのことを全て話しなさい。(英語)」

逢音の英語能力の全てを使った瞬間でもあった。

エミリーはゆっくりと話はじめた。

話の概要はこうだ。

エミリーとロバート(瞳美の祖父)は将来を誓った恋人同士だった。

エミリーは英国貴族。一方、ロバートはその領内で働く農夫の一人。当時では結ばれようのない身分の差があった。

やがてエミリーは同じ身分の貴族と結婚。婿養子として迎え入れた。すぐに子供にも恵まれた。

未練を断ち切るため、ロバートは港の市場で知り合った日本国籍の娘と結婚をした。

お互いはここから違う道を歩むはずだった。

だが、ロバートが怪しげな日本の古物商から黒メガネを手に入れた時、彼の魂に悪魔が宿った。

ロバートは視覚の神をあやつり、次々とエミリー家の財産を奪っていった。

エミリー家は没落していった。婿養子はエミリーを捨て、家を去った。

ロバートはエミリーから貴族の身分をはく奪するのに黒メガネを何度も使った。そしてその代償は日本人の妻との間に生まれた子供に求めた。

結果、ロバートは家庭を大事にした。それが自分の息子の要望だったのだ。

エミリーから奪った財産で事業を起こしたロバートは成功した。

そしてエミリーを自分の家の使用人にした。それもメガネの力だった。

そうして時は経ち、自分の一人息子が事業を継ぎ、日本人女性と結婚をした。

間もなく生まれたのが瞳美であった。

(もう能力は必要ない。自分はすべてを手に入れた。いや、まだ手に入れていないものがある。エミリーの心。これだけはメガネのチカラを借りるわけにはいかない)

そう思い、ロバートはメガネの所有権を瞳美に委ねた。












第9話 告白(2)

一方、エミリーは地獄の毎日を送っていた。かつての恋人に財産も家庭も奪われ、今は使用人として働かされている。彼女のロバートへの思いは疑惑と憎悪に満ち溢れていた。

そんなある日、日本人と思しき古物商が彼女の前に現れた。

薄紫色のビンに入った香水を買わないかという。とても魅力的な香水であったが提示された金額は使用人の給料では手が届かないものだった。

古物商「では、ひとつだけ望みを聞いてあげましょう」

エミリー「この屋敷の主人がなぜ私にこういう仕打ちをしたのか知りたい」

古物商「わかりました。おやすい御用です。」

ちょうどそのときロバートが現れた。

ロバート「おや、お客さんかい?」

エミリー「はい。私の古い友達が訪ねてきてくださって」

ロバート「話したいことがあるんだが….」

エミリー「ではお客さんには別室で待ってもらっていてもよろしいでしょうか」

ロバート「いや、大事な話だ。いったんお引き取り願って…」

その瞬間、かすかな香水の匂いがした。

古物商「なぜ、お前はこのご婦人に向かってこのような仕打ちをしてきたのか、全てを話しなさい」

ロバートが語りだしたことは、エミリーに驚愕と更なる憎悪を与えるに十分な内容だった。

話終え、我に返ったロバートはエミリーに、「僕は君のことをまだ…」

エミリー「この男を殺して!」

代償クリア!

古物商は持っていたナイフで祖父の心臓を抉った。

息絶えたロバートの姿を確認し、あわてて去っていく古物商をエミリーは放心状態で見送っていた。

この事件は押し入り強盗事件として扱われた。犯人はまだ見つかっていない。

エミリー「私は復讐を果たした。でも失ったものは戻らない。私の幸せ、未来をすべて奪っていったロバート。死んで当然よね。でも私はもっと幸せになってもいいんじゃない?

瞳美さん、あなたはロバートから全てを受け継いだ。でもねここにいるダンにも受け継ぐ資格があるの。だってダンは私とロバートとの….」

エミリーは続けた。

「私とダンは何年もかけてあの不思議な香水のビンを探し回っていた。やっと手に入れた。

私たちはこれを使って、失った幸せを取り戻すの!」

告白は終わった。


第10話 2つの死

エミリーの告白が英語であったため、理解できたのは瞳美だけだった。

祖父の過去を知った瞳美は茫然としていた。

逢音「瞳美!早く!」

瞳美「あ、逢音。私のカバンをとって!」

代償クリア!

エミリーが正気に戻った。

状況を察したエミリー。

エミリー「やられたわ。能力使いの経験値の差ってところ。さあ、これからどうするつもり?香水のビンの所有者は、まだ私よ。あなたに嗅覚の能力を譲る気はないわ(英語)」

瞳美「こうするのよ(英語)」

瞳美はカバンから取り出した黒メガネをかけ、エミリーを見つめた。

瞳美「死んでちょうだい(英語)」

逢音はさすがにこのワードは理解した。

逢音「だめー!」

これは代償とはならなかった。命令の否定は契約の代償とはならないのだ。

エミリーはキッチンからナイフを出し、自らの首を掻き切った。

絶命するエミリー。

ダンが発狂したような声をあげ瞳美に殴り掛かった。

ダンのパンチをぎりぎりでよけた瞳美の目から黒メガネがはじけ飛んだ。

逢音「瞳美!」

瞳美を助けようと逢音はダンに体当たりした。がしかし逆にダンに羽交い締めにされ、首を絞められる逢音。

ダン「香水のビンを渡せ!さもないとお前を絞め殺す!(英語)」

(殺される。私も…)

瞳美「逢音!残ってる…代償がまだ…」

声が出ない逢音。

その刹那、瞳美に向かってダンが叫んだ!

ダン「お前も死ぬんだ」

代償クリア!

逢音の意識が消えそうになろうとしているとき、急にダンの腕から力がなくなった。

床に倒れるダン…。

そこには、ワインのビンでダンの後頭部を殴りつけた逢音の父親の姿があった。

父「逢音!大丈夫か!いったいどうなってるんだ?ここはどこだ?この人たちは誰だ?」

どうやら父は逢音が香水のビンを手に入れた時から正気に戻っていたらしい。

(今ここで説明しているヒマはない!)

逢音は、持っていた香水のビンのフタを開けた。

逢音「ここで見たことをすべて忘れなさい」

父「わかった」

逢音は急いで瞳美を探した…いない。

誰かが二階へ駆け上がる足音がする。急いであとを追う逢音。

逢音「待って!行っちゃだめ!死んじゃだめ!」

二階の窓から飛び降りようとしている瞳美が逢音に気づいた。

瞳美「私の…私の望み忘れてないよね。逢音に託すから…絶対叶えてね。」

瞳美の身体が宙に舞う!

代償クリア!

逢音が嗅覚の能力を使ったことの代償が今払われた。と同時に逢音が香水のビンの所有者となった瞬間でもあった。

たかが二階からの飛び降り…でも瞳美は確実に死んでいた。

(受け身をとらなければ、簡単に死んじゃうんだな…)

逢音には瞳美の死を受け止める余裕などなかった。ただただ瞳美の遺体に縋り付いて泣いた。泣き続けた…ただ、心に確かな決意が…いや自分の意思とは無関係の欲望が心を支配していくのを感じた。独り言のようにつぶやく逢音。

「わたしが、全知全能の神をつくり、そして壊すのだ」

第11話 帰国

3日後、逢音は帰国していた。疲れ果てていた。

ロンドンでの2人の死については、ベルのチカラを使い、ダンに罪を背負ってもらうことにした。

家を明け渡すよう瞳美から要求されたダンが怒って瞳美をナイフで脅そうとした時に、止めに入った母親エミリーを誤って刺したこと。瞳美は追いかけてくるダン逃れようとして二階から落下したこと。

これらをダンに供述させることで、逢音と父は警察の追及から逃れることができた。

英語でこれを伝えるのに苦労したが、スマホアプリの翻訳機が役に立った。

ダンは警察当局に逮捕された。

問題は父親だった。

逢音は、瞳美のロンドン旅行に同行することになったのだと理解させた。能力はつかっていない。

一切の記憶のない父であったが、自分が実際イギリスにいること。切符を手配したのが自分であることから、逢音の話に納得せざるを得なかった。

もちろん事件については、正気であったため、ダンの供述指示どおりの目撃情報を信じるようベルの力を使った。

それぞれの代償はすべて父からのたわいのない要望(水を飲ませろ、トイレの場所教えろ)

だったので事なきを得た。

ただ、現場に居合わせた2人を簡単にロンドン警察が見逃すはずはなかった。

2日間拘留されたが、結局ダンの自供が信用された為、釈放された。

瞳美の棺とともに帰国した逢音。

日本では大変な騒ぎとなっていた。

泣き崩れる瞳美の両親の姿を見るのはつらかった。ただ、両親は逢音と父親が瞳美のせいで事件に巻き込まれたと思っており、2人に対して同情的だったのには救われた。

瞳美の葬儀が終わった夜、逢音はひとり自室にいた。

目の前には3つの道具。ベル、黒メガネ、香水のビンが並んでいる。

逢音は香水のビンを手に取った。ビンのそこに書いてある文字を呼んだ。

「Smell NeNe!」

ネネ「へーい。新しいご主人さまだな。」

逢音「聞きたいことがある。香水がなくなったら、もう能力は使えないの」

ネネ「いや、能力はこのビンにあるんだ。これに水をいれれば、私のチカラで水は魔力を持つんだよ。」

逢音「なるほどね」

次に逢音は黒メガネを手に取った。この呼び出し方は分かっていいる。

「Vision GaGa!」

ガガ「逢音、大変だったな。お!ネネもいるのか」

逢音「聞きたいことがある。もし私がこのメガネを壊したら…再生不能なくらいにバラバラにしたらお前も消えるの?」

ガガ「いや。ビビから聞かなかったか?われら五感の神は、道具が壊れれば、ほかの道具に住処を変えるんだ。持ち主もリセットされる」

逢音「じゃあ、全部五感の道具を全部集めて破壊しても、五感の神を滅ぼすことはできないのね」

ガガ「そういうことだ」

逢音はベルを取り出した。

「Hearing BiBi」

ビビ「そういうことだ。だから壊すなんてもってのほかだ」

逢音「でも、私は瞳美との約束を果たさねばならない」

ビビ「しったこっちゃねーよ…といいたいところだが同情はするよ。できもしないことを一生背負って生きていくんだからな」

逢音「ガガ、あなたは瞳美から何か聞いてないの?」

ガガ「五感の神全部を集めることは知っていたよ。でも全部の神を滅ぼすことは逢音との会話で初めて知ったよ。ビビった」

ビビ「気安く呼ぶな」

ガガ「お前のことじゃない」

逢音「五感すべてを集めれば、全知全能の神を操れるのよね。そういったわよね、ビビ?」

ビビ「ん…ああ、そんなこと言ったかな」

逢音「そうすれば、全て葬り去ることもできるんじゃないかしら…」

ビビ「……」

ガガ「……」

ネネ「……」

逢音「とにかく疲れたわ。みんな今日はもうおやすみー」

ビビ、ガガ、ネネ「おやすみなさあーい」

逢音は深い眠りについた。

逢音が寝息を立て始めた時のこと。

ビビ「ガガ、ネネ、話し合おうぜ」

ガガ「おう」

ネネ「あい」





第12話 三神会議

ビビ「まったくとんでもないことになったな。ガガ、お前の前主人が元凶だよ」

ガガ「彼女は頭がよかった。いろんなことを考えてこの結論に至ったみたいだ」

ネネ「これまでの主人で、全部集めようなんて考えたやついなかったぜ」

ビビ「逢音は、ある意味被害者といえる。さてわれわれはご主人様に従うしかないのだが」

ガガ「どうやら逢音は、まだこの能力のことを全部理解していないようだ。誤った情報与えて断念させることできないかな」

ネネ「無理だ。今逢音は五感集めが代償となっている。彼女の個人的な思いではないんだよ」

ガガ「だとしても、あと二つの五感集めがうまくいくとは限らないぜ」

ビビ「いや、逢音はもうヒントをつかんでいるよ」

ガガ「例のアンティークショップか?」

ビビ「そうだ。あの店主にアプローチするだろう」

ガガ「ビビ、お前なんか知ってるのか?」

ビビ「うんにゃ。でもわたしとネネがあの店にいたのは偶然ではないだろう」

ネネ「お前が持って行かれたときはビビった」

ビビ「気安く呼ぶな!…でも逢音は偶然に手に入れたんだよ。これは間違いない。でもネネ、前は…」

ネネ「うん、あきらかにダンは私の能力を知って買った」

ガガ「エミリーから聞いた話で出てきた日本の古物商とあの店は関係ありそうだな」

ビビ「私もそう思う。逢音も気づいているはず」

ネネ「全部そろっちゃうとまじで私たち消えちゃうの?」

ビビ「それは私にもわからん。前例がないもんな。ただ、全能神が復活することは間違いない」

ガガ「でもさ、私たちはその一部なわけでしょ」

ネネ「そうそう。全能神になったからって私たちは消えないと思うの」

ビビ「それはわかってる。ただ一緒になったら個々の個性が消えるのは間違いないよ」

ガガ「お前それが、いやなのか」

ビビ「違う。問題はそのあと…つまり全能神になって、それを操る主人、仮にそれが逢音であった場合、全能神を葬るかもしれないんだよ」

ネネ「そもそも私たちってなんでバラバラになったの?一緒だったころの記憶ないんだけど」

ガガ「それも全能神が復活すればわかるかもな」

ビビ「私は…私は逢音なら…逢音ならいいと思う…」

ガガ、ネネ「??」

ビビ「まだ付き合い浅いけどさ、彼女は決して悪人じゃないことはわかる」

ガガ「それは感じるな」

ネネ「私たちずいぶん悪人に利用されてきたもんね」

ビビ「瞳美の祖父がそうだったように、この能力は人を悪魔に変えちゃうからな…」

ガガ「すまねー」

ビビ「お前が誤る必要ねーだろ、私だっていろんな悪人を主人に持ったもんさ」

ネネ「で、どうするの?」

ビビ「逢音に全て委ねようと思う」

ガガ、ネネ「……」

ビビ「私たちがなぜばらばらになったのか…全能神がどういうものなのか….そもそも神とはなにか、人間とはなにか…その答えが見つかりそうな気がするんだ」

ネネ「お、かっこいい」

ガガ「茶化すな!ネネ! 瞳美もそれを願っていたような気がする。私は賛成だ」

ネネ「わたしもー」

ビビ「決まりだな。私たちは逢音の望みを叶えてやろう。そして彼女をこの呪縛から解き放ってやろう」

ガガ・ネネ「異議なーし」

ビビ「これにて三神会議を終了する」


第13話 園子

世間的には大晦日。

逢音は吹奏楽部の今後が気になって園子に会いたかったが、逆にロンドンでの出来事を聞かれたら返答に困るので、新学期まで会うのはやめるつもりでいた。

ところが、園子からLINEが来た。

<園子>「今から会えない?」

断る理由が見つからなかった。

<逢音>「いいよ。どこで会う?」

<園子>「逢音がよく行くアンティークショップでいい?」

<逢音>「え!なんで?話ならマックでジュース飲みながらでも…」

<園子>「まあ、そうなんだけど…買い物につきあってほしいんだ」

<逢音>「園子がアンティーク買うの?」

<園子>「まあね。プレゼントだけど…」

<逢音>「あ、そういうことか…ふふふ、了解」

<園子>「なんじゃ、その不敵な笑みは」

<逢音>「プレゼントの相手がわかってるからじゃよ。すぐ支度して行くよ」

<園子>「今度笑ったら殺す。じゃあ先に行っとくねー」

園子には、好きな男性がいた。もちろん女子高だから同じ学校の生徒ではない。

園子が好きなのは家庭教師のジョージである。

英語の家庭教師でアメリカ人である。一度だけ見たことはあるがなかなかのイケメン。

年齢は確か21歳。某有名私立大学の留学生であるとのこと。

このことを聞かされた時、腹を抱えて笑ってしまって、それ以来彼のことを園子が話すことはなかった。

(よりによって外国人とはね。結ばれない恋愛だと園子もわかってるだろうに…)

自分より頭がよくて計算高い園子が、いざ恋愛となって盲目になったことがおかしくてたまらなかったのだ。

店に着くと、ショーウィンドウを覗いている園子がいた。

逢音「寒いから中に入ってればいいのに…」

園子「うん。でもこれが気になって…」

逢音「ほう。どれどれ」

園子が観ていたのは、革の手袋だった。黒のレザー製で、手首のところのバンドに古めかしい金属の装飾物がついている。金額は12,000円。アンティークにしては安い買い物だ。

園子「先生はバイクに乗るから…」

逢音「でもさあ、バイク用ならこんなアンティークじゃなくて、バイクショップでそれ専用のほうが…」

園子「一応私も女だよ。機能だけじゃなく、おしゃれなセンス見せたいんだよ。分れ!」

逢音「ふぉっふぉっふぉっ、いじらしいのぉ~、乙女じゃのぉ~」

園子「笑ったな、殺す!」

逢音「すまんすまん。うんうんいい買い物だと思うよ」

園子「本当!?」

逢音「うん。アンティークの専門家がいうのだから間違いない」

園子「じゃあ買ってくる」

(ずっと前から目をつけていたんだろうなぁー、くっくっく、かわいいな)

逢音はあえて店には入らなかった。

(ここの店主には機会をあらためて気かねばならないことがある…)

園子が出てきた。袋包みを抱えてちょっと浮かない顔をしてる。

逢音「どしたの?」

園子「プレゼント用の包装を頼んだんだけど、ここではそういうサービスしてくれないんだって…」

逢音「あーわたしプレゼント用に買ったことないからなー。いいじゃん自分で包装すれば。100均ショップなら付き合うぜ!」

園子「うん。そうする」

逢音「せっかくだからちょっと着けてみ!」

園子「えー、使用済になっちゃう」

逢音「アンティークだから使用済は当然!」

園子「あ、そうか! じゃちょっとだけ…」

園子は手袋を取り出し自分の手にはめた。

園子「やっぱり男モノだね。私の手にはかなり大きい」

逢音はボクサーの構えをした。

逢音「さー、一発打ってこい!しゅっしゅっ」

シャドウボクシングを始めた逢音に園子はさながらボクサー気取りでシュッっとパンチを出した。

手袋の先端が逢音の腕に触れた。その瞬間、逢音は意識が遠ざかるのを感じた。

(あれ、これは?この感覚は…)

園子「さー、逢音もかかってきなさい」

逢音は無意識に力強いパンチを園子の顔面にぶち当てた。

思いもよらないマジパンチを受けた園子はその場に倒れてしまった。

可愛そうに鼻血が出てる。

園子「だ、だれが当てろつったよ!しかも今本気だったな逢音!」

確実に意識が戻った逢音。

(まさか、まさか…この手袋が…触覚?触覚の神なの?!)


第14話 触覚の神

間違いなかった。なによりこの怪しいアンティークショップで購入したモノだ。

逢音「ごめん、当てるつもりなかったんだ。ほんとごめん!鼻血大丈夫?」

園子「悪意がないのはわかるよ。大丈夫だ。顔にアザとかできてない?」

逢音「うん。もろに鼻にいっちゃったからね。顔は大丈夫だよ」

園子「ジョージに見せられない顔になるところだったぜ」

園子は微笑んだ。

(あ!まだ代償が!)

逢音「もうその手袋つけないで!」

園子「わかった」

代償クリア!

逢音「100均ショップ寄るのよそうよ。鼻血止めないと…いったん家に帰ったら?」

園子「うん。そうするよ。じゃーな」

逢音「ごめんねー」

園子「はっはっは、気にすんな」

(いい子だ。本当に友達としてこれ以上の存在はない)

逢音はそんな親友が五感の神にとりつかれたことが悔しくてならなかった。

でも園子はあの手袋を再び身に着けることはない。代償としてそういう命令を受けたから…

(はっ!あれをジョージにプレゼントしたらジョージが所有者となってしまうのか?)

逢音はベルを取り出した。

「Hearing BiBi」

ビビ「わたしばかり呼び出して…もうおまえは三神の主なんだぞ」

逢音「ねえ、園子が能力を自覚しないままプレゼントしても所有権は移るの?」

ビビ「そうだよ。能力の自覚の有無は関係ない」

逢音「どうしよう…ジョージに渡ったらもっと面倒なことに…」

ビビ「お前がもらうのが一番だな」

逢音「でも…今更…」

ビビ「もっといい手袋探して、こっちのほうが良くないか?って言って交換してもらえよ」

逢音「あ!その手があったか」

ビビ「手じゃない。手袋だ」

逢音「いちいちうるさいな。でもサンキュ。そうするよ」

逢音は先日父親からもらった3万円が手つかずであることを思い出した。

急いで家に帰り、お金を持った逢音は、大晦日のショッピング街へ向かった。

その頃、園子は自宅で手袋のラッピングに格闘していた。

逢音と別れた後、内緒で100均ショップで箱と包装紙とリボンのテープを購入していた。

園子が手袋を箱にしまおうとしていた時、ふと手首の部分についているバンドの古めかしい金属の装飾物が目に入った。

園子「これがいかにもアンティークっぽくって…あれ?なんか書いてあるな」

装飾物に刻まれた英語を園子は読んだ。

「Sense of touch TeTe …?」

手袋の甲の部分にニコチャンマークの顔が現れた。

園子「ぎゃあああああー」

テテ「そんなにびっくりしなくても….」

園子「しゃ、しゃべった…手袋がしゃべった…」

テテ「わたしの名前はテテだよ。おやおや、こいつの使い方を知らないご主人様のようだ」

園子「だ、誰なのあなた」

テテ「触覚の神テテだ。いいことを教えてあげよう」

テテはゆっくりとした口調で自分の持つ能力について語り始めた。






第15話 誤解

テテが話したことは園子に衝撃を与えた。

この手袋の持つ触感の能力は無論のこと、聴覚・視覚・嗅覚の能力をすでに逢音が持っていることが園子にとって何よりの驚きであった。

園子「逢音は、私や友達にその能力を使ったのかしら?」

テテ「そこまではわからない。だが彼女が私の能力を欲しがっているのは間違いない」

園子「…部長も…曽宮部長もその能力の犠牲になったの?」

テテ「わからない」

園子「この手袋を使って聞き出せるかしら…」

テテ「それがな、ちょっとややこしいことになっていて…」

テテは、園子が無意識に使った触感の能力の代償が「手袋を使わない」ということになっていることを伝えた。

園子「逢音がそうさせたの?私の能力を封じるために…」

テテ「そう。そしておそらく奪うために…つまり園子は、所有者でありながらその能力を使えないんだよ。やれやれ情けない主人を持ったものだ」

園子「どうすればいいのかしら…私」

テテ「信頼できる人間に渡してしまうしかないな」

園子「私の親友は逢音よ。彼女以外には考えられない」

テテ「でも、その彼女は君に本当のことを伝えていないんだぜ。そんな人間を信頼できるのかい?」

園子「………」

テテ「そもそも君は、この手袋を誰かにあげるつもりだったんじゃないか?」

園子「先生…そうジョージなら信頼できるかも…」

テテ「あげちまえばいい。君が持ってても仕方のないものだ」

園子「待って…もう一度、もう一度だけ逢音を信頼してみる。本当に彼女がこの能力を奪おうと思っているのかを…そしてなんの為に五感の能力を集めようとしてるのかも….」

その頃逢音は、ショッピングモールでやっと良さげな手袋を見つけた。

アンティークの手袋より、上質でおしゃれ。イタリアの有名ブランドで店員の説明によるとバイクの運転にも使えるとのことだ。値段は3万5千円。

5千円は自分の本当の小遣いから出さなければならなかったが、今はそんなことを言っている場合ではない。

園子が果たして交換に応じてくれるのかどうか自信はなかった。

そもそもそうまでする理由がない。

(お父さんがイギリスで買ったことにしようかな…そんでこっちのほうが良くない?って感じで…うんうん。それなら納得してくれそうだ…両方を比べれば、間違いなくこっちのほうを選ぶに決まっている。殴ってしまったお詫びという言い訳にすればよい)

逢音はちょっとだけ楽観的になった。

(あ、ジョージに渡してしまう前に交換してもらわなきゃ)

逢音はスマホで園子に連絡をとった。

逢音「園子、鼻血大丈夫?」

園子「心配してくれてたのか…大丈夫だよ」

逢音「そう…よかった。それじゃあさ、ちょっと今から園子の家に行っていいかな?」

園子「……..」

逢音「ん。まずいの?」

園子「いや、いいよ。私も話したいことがあったんだ」

逢音「らじゃー!今から向かいますです!」

スマホを切った園子はどまどっていた。

(やはり逢音は手袋を手に入れたいんだ…)

逢音は買ったばかりの高級ブランド手袋を抱えて園子の家に向かっていた。

ベルも、メガネも、香水も持たずに….





第16話 友情

園子の家は、逢音の家から徒歩で20分くらいのところにあった。

もう夕方の5時を過ぎている。大晦日の夜だから、長居はできない。

家の前まで来ると駐車しているバイクが目に入った。

(あれ?ひょっとしてジョージが来てるの?やばいっ!もう手袋渡しちゃってくかも…)

逢音「こんにちわー、お邪魔しまーす」

園子「おう。私の部屋においでよ」

二階から声がする。幼馴染の家は気楽でよい。

部屋に入るとそこには園子しかいなかった。

逢音「下でバイク止まってたけど彼氏来てんの?」

園子「え、いや。あの…バイクだけ置かせてくれって言われて…つーか彼氏じゃねーし」

珍しく顔を赤らめる園子。

逢音「じゃあまだプレゼント渡してないんだ?」

園子「うん。今夜一緒に初詣にいくんだよ。彼…いや先生が日本正月初めてだから…」

逢音「いいねえ~いいねえ~。そこで告白ってか?」

園子「いい加減にしないとマジで怒るぞ!プレゼント渡すだけだよ」

逢音「そのプレゼントのことなんだけど…」

ごぞごぞと自分の持ってきたブランド手袋を取り出す逢音。

逢音「こっちの手袋にしない?」

園子「え?」

逢音「イギリスに行ったときにお父さんが買ったんだよ。でも事情を話したら、園子にあげていいって..」

園子「ただでくれるのか?」

逢音「いやあー、それも気が引けるんでさっき園子が買った手袋と交換ってのはどうよ?」

園子「………」

逢音「これさー、イタリアの有名なブランドで…」

園子「そんなにこの手袋が欲しいの?」

逢音「え?」

園子「この手袋の能力が欲しいのかって聞いてる」

(まさか、園子は能力を知っている…あ、神と話したのか!しまった)

沈黙する2人

園子「この手袋の能力のことはテテという神から聞いた。そして逢音が3つの能力を持っていることも聞いた。ねぇ正直に話してくれないか。お前はこの五感の能力で何をしようとしているのか…ロンドンで何があったのか…」

逢音「……」

園子「黙ってないで答えろ!私にも能力使ったのか?部長の…瞳美の死も関係してるのか?」

逢音「もうこれ以上人を巻き込みたくないんだよ」

園子「私はもう巻き込まれてるんだよ。手袋の所有者になったから…逢音は…逢音は一体何をしようとしてるの?」

逢音「知らなくていいこともある。知ってしまったら園子を失う。私はそれが怖いんだよ」

園子「友達だと思ってた….親友だと思ってた…だからわたしは…」

逢音「私だってそう。だから園子には能力つかってない。それだけは信じて欲しい」

園子「じゃあ、瞳美はどう?なぜ彼女は死んだの?」

逢音「……」

園子「わかったよ。よほどの事情があるんだな。でもな、この手袋は渡さない。」

逢音「園子が持ってちゃダメなんだよ」

園子「ああ、お前が命じたからな。使うなって」

逢音「だからそれは園子を巻き込みたくなくて…」

園子「もういい…ジョージ先生出てきてください」

するとクローゼットの中からジョージが現れた。

ジョージ「全部聞いてたよ」

逢音「あ、ああ…能力のことも全部話しちゃったの?」

園子「逢音を信じようと思った。だけど怖かった。だから私には保険が必要だった」

ジョージ「僕がその保険ってわけだ」

逢音「まさか、園子…だめ、だめだよ」

園子は手袋をジョージに渡し、言い放った。

園子「この手袋をジョージにあげる!私は所有権を放棄する!」

逢音「…!!!」

ゆっくりと手袋をはめるジョージ。

そのジョージの手が逢音に伸びてくる。

逢音「いや!来ないで触らないで!」

あっというまに逢音はジョージに腕をつかまれた。

ジョージ「全部話すんだ」

遠のく意識の中で逢音はベルとメガネと香水を忘れてきたことを悔やんでいた。








第17話 ジョージ

ジョージに話したすべてのことは当然園子も聞いていた。

自然とあふれる涙をこらえきれない園子。

(逢音と瞳美は戦ってきたんだ…そして今逢音はひとりで戦おうとしている)

ジョージ「オーライ。なんとなくわかった。園子なんか命令してくれ」

園子「......」

ジョージ「どうした園子?」

園子「あ!今夜の初詣は中止にしよう」

ジョージ「わかった」

代償クリア!

逢音「どうするつもり?私はもう園子もあなたも巻き込みたくないの…」

ジョージ「……」

逢音「手袋私にくれない?」

園子「…ジョージ。わたしからもお願いする。逢音に手袋渡してあげて…」

ジョージ「全部聞いてしまったら、そういうわけにはいかなくなった」

逢音・園子「!!」

ジョージ「悪いけどこの手袋は、僕がもらう。君が目指している全知全能の神なんて興味ないし、僕にはこの能力だけで十分さ」

ジョージ「すごいな。これがあればこんなチンケなバイトしなくていいし…いやもう勉強も必要ない。使いようによってはビル・ゲイツ並みの大金持ちになれるってことだよな」

園子「ジョージ!あなたは….あなたって人は…」

ジョージ「園子、僕がそんなに善人に見えたのかい?それとも僕への好意がそうさせたのかな?言っとくけど僕は善良なアメリカ市民だったよ。犯罪にも手を染めず、まじめに生きてきた。でもこの能力を手にしたら…僕じゃなくても誰でも自分のために使いたくなる。卑怯者でも結構だよ。バイバイ。君の御守りもこれまでだ…」

ジョージはそう言い残し部屋を出ていこうとした。

園子「私の…私の気持ちを裏切ったあなたを許さない!このことは大学やあなたの関係者に全部暴露してやる!」

ジョージ「それは困るな」

ジョージは踵を返し手袋をつけて園子に向かっていった。

ひるむ園子。あっというまにジョージに羽交い締めにされた。

ジョージ「すべて忘れろ!」

この時を逢音は待っていた。

逢音「ジョージ!あなたもすべて忘れるのよ!」

代償クリア!

静寂の中に3人がいた。

うつろな目をした園子とジョージ。

ジョージ「あれ?園子さん。この方は確か、逢音さん?」

園子「なんでここにいるの逢音?」

逢音「なにいってるの。あなたがジョージにプレゼントする手袋、交換してって言ったから持ってきたのよ」

園子「そ、そうだっけ??」

逢音「ジョージ。こっちのほうがいいと思わない?」

ジョージ「あ、うん。園子、交換してもいいの?」

園子「ジョージがそっちがいいのなら…てか絶対そっちのほうが恰好いいよ!」

ジョージ「じゃあこれを逢音さんにあげればいいのね」

この瞬間、手袋の所有権がジョージから逢音に移った。

ジョージ「なんかいいものもらっちゃって悪いね」

園子「いつもお世話になっているから…」

いいムードになったところで逢音は退散することにした。

逢音「じゃあお二人さんよいお年を!」

園子宅のテレビではNHK紅白歌合戦が始まったところだった。



第18話 四神会議

大晦日の夜。除夜の鐘が鳴り始めた。

逢音はこの一週間余りの出来事振り返った。

(まだ、ビビと出会って一週間なんだ)

ジョージの言葉が心にひっかかっていた。

「使いようによってはビル・ゲイツ並みの大金持ちになれる」

「この能力を手にしたら…僕じゃなくても誰でも自分のために使いたくなる」

(私も瞳美と出会わなければそうなっていただろうか…)

大トロ20貫、小遣い3万円…私がビビを使って手に入れたもの…ほっとけばもっともっとエスカレートしていっただろう

(もし、瞳美の代償(五感の神すべてを集めてそれを葬ること)がなければ…私もジョージのようになっていたかもしれない)

能力を手にしたジョージの顔は、やさしい家庭教師のそれではなかった。

(あんな風にはなりたくない…瞳美に感謝すべきなのかな)

除夜の鐘が108つ目の煩悩を消し去ったと同時に逢音は深い眠りに落ちて行った。

ビビ「眠ったみたいだ。みんな起きろ」

ガガ「おう」

ネネ「あーい」

テテ「はいはい」

ビビ「ついに四神そろっちゃったぜ」

ネネ「あっけなかったね」

ガガ「あやうくテテはアメリカに行くところだったな」

テテ「そのほうがよかったのに…」

ビビ「おい!テテ!わたしたちの主人は逢音だ。逢音はこれまでで一番まっとうな主人だ」

テテ「わかってるよぉ」

ネネ「しかし、逢音は能力の使い方覚えてきたよね」

ガガ「ジョージへの切り替えしは見事だった」

テテ「アメリカ行きなくなった」

ビビ「こら!テテ!…お前に聞きたいことがある」

テテ「なんだ?」

ビビ「わたしはあのアンティークショップでネネと一緒にいた。だがお前はいなかったぞ。いつあの店に来たんだ」

テテ「クリスマスの日だったかな」

ビビ「前の主人は?」

テテ「死んだ」

ガガ「まあそうだろうな。ビビもネネもそうなんだろ?」

ネネ「そう」

ビビ「わたしもだ。でも重要なのはそういうことじゃない。数百年と世界中に散らばってた五感の神がこの短期間に集まったことなんだ」

テテ「ぐーぜん?」

ガガ「あほか、おまえ」

ネネ「誰が集めたの?」

ビビ「店の主人だろ」

ネネ「意図的に?それは無理だろ?」

ビビ「だからテテに聞いてるんだ。お前はどこから来た?」

テテ「裏の倉庫」

ビビ「なんだって!?」

テテ「前の主人が死んでここの先代の主人が引き取って…ずっと倉庫にしまわれてた」

ビビ「お前それいつくらいの話だ?」

テテ「かれこれ30年…」

ビビ「それを早く言え!」

ガガ「つまり、逢音がビビを手に入れてから、急に五感の道具の動きが早くなったんだ」

ビビ「そういうことだ」

ガガ「あやしいな」

ネネ「だれが?」

ガガ「店の主人だよ!」

テテ「店主は能力のこと知ってるのかな?」

ビビ「おそらく知ってるんだろう。知っててそれを人にばらまいているんだ」

ガガ「なんのために…知ってりゃ自分で使うだろうによ」

ビビ「そこだ…自分では使えない理由があるはずなんだ」

テテ「あの店の倉庫にはまだもうひとつ神がいるぜ」

ビビ・ガガ「なに?!」

ネネ「味覚の神しか残ってないよ」

ビビ「どういう道具だ。それ?」

テテ「姿カタチはわからない。お互いしまわれてたからな。でも感じたよ。味覚の神ミミの存在を」

ビビ「話したのか?」

テテ「うんにや。呼びかけても答えねー。」

ガガ「ますます怪しくなった」

ネネ「味覚の神ってどういう道具にとりつくの?」

ガガ「おそらくお前と一緒だ。食器類が怪しいな」

ビビ「おい。あそこの主人お客さんにコーヒー出すよな」

ネネ「出す出す」

ビビ「逢音…やばいかもな」

テテ「なんで?」

ビビ「あいつ食いしん坊なんだよ…」















第19話 正月

年が明け元日。

雑煮とおせちを食べて三社参りというのが篠崎家の慣習であったが、逢音は三社参りの同行は断った。

逢音「いろいろあったから…」

と両親には言外に瞳美の死を匂わせるようにしたが、本当はそうではなかった。

(私には4つも神様がいるもん)

両親が出かけて、逢音はすぐに4つの道具をだし五感の神を呼び出した。

「Hearing BiBi」

「Vision GaGa」

「Smell NeNe」

「Sense of touch TeTe」

ビビ「あけましておめでとう、逢音」

ガガ「Happy New Year !」

ネネ「ご主人さま、お年玉を…」

テテ「一富士二鷹三茄子」

逢音「のんきな神様だなあ。そんな気分じゃないのよ」

ビビ「逢音。昨夜四神で話したんだけどさあ…」

ビビは、アンティークショップの倉庫に最後の五感の神、味覚のミミがいることを伝えた。

逢音「間違いないの?テテ?」

テテ「たぶんねー。わたしたち五感の神はもともとひとつだったから、近くにいると存在を感じるんだよ」

逢音「そうとなったら…みんな出かけるわよ」

ネネ「三社参り?」

逢音「神様はあんたたちで十分。アンティークショップの偵察に行くのよ」

ビビ「正月だぜ。店開いてないよ」

逢音「中に入るとは言ってない。裏の倉庫を調べにいくのよ」

ガガ「不法侵入?」

逢音「場合によっては…ね」

逢音は4つの道具をカバンに詰め込んでアンティークショップへ向かった。

おそらく瞳美の代償の効果が逢音を動かしているのだろう。

アンティークショップは家から10分ほど歩いたところにある。

繁華街から反対方向になるので普段は人通りが少ないが、今日は正月とあって初売りやお参りに行く人を多く見かけた。

店は当然閉まっていると思い込んでた逢音はドアノブに掛かっている「OPEN」の札に驚いた。

馴染みの店ではあるが、正月に来たことはない。

(掛け間違いじゃ…)

ドアノブに手をかけゆっくりと回す。果たしてドアは開いた!

店主「あら、逢音ちゃん、あけましておめでとう」

たばこをふかしいつもの場所に店主はいた。

逢音「あ、あけましておめでとうございます…あ、あのここって正月もやってたんですね?!」

店主「いや今年は特別なんだよ」

店主はゆっくりと立ち上がり、ドアの表札を「CLOSED」に変えた。

店主「君がくるんじゃないかと思ってね」

カチリというドアの鍵が逃れられないステージの幕開けだということを逢音は感じとり、戦慄を覚えた。







第20話 店主の告白(1)

店主「寒かったでしょ?コーヒーでもいれよう」

逢音は「いや結構です」と言いかけてその言葉を飲み込んだ。

(味覚の神が出てくるかもしれない…飲まなければいいのだ)

逢音「すいません。いただきます」

店主がひょっとして裏の倉庫に食器を取りに行くんじゃないかと思ったが、期待は裏切られ、いつも逢音に出されるコーヒーカップと受け皿が温かいコーヒーとともに出てきた。

店主「四つの神を手に入れたようだね」

逢音「!!」

(やはり…この店主がすべての元凶だったのか…しかしなぜ?)

無言でいる逢音の返事を待たずに店主は続けた。

店主「うちの店はね、もう8代も続く老舗なんだよ。とはいってもここに店を構えたのは私の代になってからなんだが…。ここに落ち着くまでは世界中を歩き回る古物商だった。」

逢音は黙って聞いた。

店主「私が10歳の時に父から五感の神の話を聞いた。実はもともとひとつの神であったものを5つに分けたのは私の祖先、初代の古物商なんだ。ヨーロッパ中世末の15世紀には、悪魔と契約してキリスト教社会の破壊を企む背教者という新種の「魔女」の概念が生まれるとともに、最初の大規模な魔女裁判が興った。ふふふ。魔女も魔術も空想のものだったのに…人間の無知による社会不安から発生した集団ヒステリー現象なんだよあれは」

店主「コーヒーが冷めてしまうよ。飲みなさい。大丈夫。味覚の神が宿ったものじゃないよ」

逢音は心を見透かされてるようで恥ずかしかった、でもそれ以上に店主の話は興味深かった。

逢音「いただきます」

逢音はコーヒーをすすった。いつもの味であった。なにも起こらなかった。

店主「ところが、神はいたんだ。ゼウスのようなギリシャの物語上の神ではない。本当に全知全能の神がいたんだ。どこにいたと思う」

逢音「…日本?」

店主「逢音ちゃん、君は頭がいい。そのとおり日本にいた。その神は普通の人間だった。自分が全知全能の神だと知らずに普通に生きていた。」

逢音「それはいつの時代の話ですか?」

店主「今から400年以上前、歴史でいうところの戦国時代だな」

逢音「その人の魔力に気づいたのが、初代の店主?」

店主「冴えてるね。そのとおり。最初に気づいたのは私の先祖だ。その先祖と恋仲だったんだよ。つまり、神は女性だった」

店主「彼は恋人のまわりで起こる不思議な出来事を何度も目撃した。そしてこれはまずいと気づいた」

逢音「日本にキリスト教が布教しはじめたころ…」

店主「そう。彼女が日本の魔女狩りに遭うことを恐れていた。ただ気づいたときは手遅れだった。彼女は追われる身となった。追手はバテレン追放令を出した豊臣秀吉の軍。しかし能力を使うことでかろうじで生き延びていた。そして能力を使うたび彼女は覚醒していった」

逢音「ごくり(つばを飲み込む)」

店主「彼女の一挙手一頭足で、追手の軍が全滅することもあった。そのうち軍は彼女を殺すより、手に入れようと考えた。そうして利用されたのが私の先祖だ。人質とされ、彼女が軍門に下れば彼を開放することを条件とした…結果、彼女は全知全能の力で彼を開放するとともに自害したのだ」

店主は続けた。

店主「彼が開放された時に、彼の手にいつの間にかベルが握られていた。そう、今は君が主の聴覚の神ビビがその時生まれたんだよ」

店主のたばこの灰がポトリと床に落ちた。




第20話 店主の告白(2)

店主の話は続いた。

店主「ベル…聴覚の神を手にした彼…名前は三太というらしいんだが、三太はその能力をつかって何をしたと思うかい?」

逢音「追手から逃げた?」

店主「もちろん、そのためにも使っただろうな。この他にも4つの能力があることをビビから聞いた三太は、その能力が宿った道具探しの旅に出かけたのさ」

逢音「…道具を集めてなにをなさるおつもりだったのかしら?」

店主「亡くなった恋人…名前は比美子というんだが、彼女を生き返らせることができると信じていたんだよ」

逢音「比美子、ひみこ…卑弥呼?邪馬台国の末裔?」

店主「それは今でも謎だ。とにかく三太は常人とは言い難い神の能力を持っていた比美子は甦るチカラを持っていると信じた。なぜなら崖から身を投じた彼女の遺体は見つかっていなかったからだ」

逢音「……」

店主「そこからわが一族の道具探しの旅が始まった。三太が亡くなってからは、もう恋人という感情を抜きにして、神を再生することが目標となった。最初こそやみくもに各国を飛び回っていたが、手っ取り早い方法があったのさ」

逢音「その時代に低い身分から急速に金と権力を握った者を探したんですね」

店主「おやおや、本当に君は聡明だ。そのとおりだよ。君が知っている有名どころでは、ナポレオン・ボナパルト、アドルフ・ヒトラーだな。イタリアのマフィアのボスもそう。

彼らは偶然手にした五感の能力で英雄となった」

逢音「そして非業の死を遂げた…」

店主「そう。彼らの没落の原因は能力の代償だよ。分不相応な欲望は、その対価を死として求める。これが必然だ」

逢音「比美子さんも代償を払っていたのかしら…」

店主「それは謎だ。少なくとも三太はそれはなかったと思っていたらしい。三太もビビから代償の話を聞いたときに疑問を感じていたそうだ」

逢音「全知全能の神…それは代償を伴わない能力を使えるってことなんですか?」

店主「それを証明するのは君だよ」

逢音「なぜですか?おじさんは少なくとも四つの神は手に入れてたはずでしょ?なぜほかの人にあげちゃうの?」

店主「私の望みは神じゃない。神のチカラを手に入れることなんだよ」

逢音「??」

店主「全能の神は人の体に宿る。比美子がそうであったように…。三太は比美子の復活を願っていたが、私はそれは不可能だと知っている。五感をすべて手に入れた者はね、人のカタチをした道具になるんだよ。その道具を操るのはこの…」

逢音「…いや…嫌です。私は瞳美の代償として五感の神すべてを葬らなければならない!」

店主「どうやって葬るつもりだい?」

逢音「そ、それは…」

店主「聞こえはいいが、それの意味するところは「君の死」なのかもしれないんだよ」

逢音「そ、そんな…」

店主「理屈の上での話だ。実際どうなるのかは私にもわからない。確かなことは、四つの神を手に入れた君が目の前にいる。そして五つ目は私が持っているということだ」

店主はゆっくりと立ち上がった。










第22話 資格者

店主は棚の引き出しから1本のスプーンを取り出した。

店主「これが五つ目の…味覚の神の道具だよ。今所有権は私にある」

店主はスプーンの柄の部分を逢音に見せた。

そこには「Taste RiRi」という文字が刻まれていた。

(間違いない。味覚の神だ…)

逢音は身構えた。

店主「はっはっは。心配ご無用。これを今君に使うことは考えてないよ。だからといって君にすぐにあげるつもりもない」

逢音「どういうことですか?」

店主「この味覚の神の道具は非常に使いづらい。この能力が発動するのは、スプーンに口をつけた時だ。ほかの道具は瞬時にチカラを発揮できるが、これは飲食の機会がないと発揮できない」

逢音「……」

店主「私を殺せるかね?」

逢音「…できません。もう人が死ぬのは嫌です」

店主「そう。君はそういう人だ。五感の神は君にこそふさわしいのだろうね」

逢音「だったら…」

店主「早まってはいかん。もう一人、五感の神たる資格をもつ人がいるんだよ」

逢音「え!?」

店主「私はその人間にこのスプーンの所有権を委ねることにした。そして君はその人間と五感の神の主の座を争っていただきたい。つまり、君が味覚の神を手に入れるか、もう一人の人物が君の4つの神を手に入れるか…そういうゲームだ」

逢音「なぜそんな必要が…?」

店主「その人物は、私に近い考えをもっている。そしてこの能力のことも知っている。君が神の能力者であることもだ。君と似ているが根本的なところで君とは違う人間だ」

逢音「…わからない。そんな人…いないはず…」

店主「そう…いないはず。君の中ではいないことになっているはずなんだ。近いうちに君はその人物と出会うだろう。その時にその人物からスプーンの所有権を奪いたまえ。ただその人物は全力で君の四つのチカラを奪いにくるだろう。五感の能力では圧倒的に君のほうが有利だ。だが、相手は触覚の神のチカラ以外にも君にない武器を持っていることを忘れないことだ…」

逢音「どういうこと?」

店主「会えばわかることだ」

逢音「誰?誰なのその人は?!」

店主「現実と真実の違い。君は現実を理解しているが、知らない真実があるんだよ。」

逢音「……」

店主「今日はよく来てくれたね。私の店の一番のお得意様が私の…私の一族の長年の望みを叶えてくれるかもしれない。こんなにうれしいことはない。できれば君が勝者となることを祈ってるよ」

店主はそう言うと、店のドアを開けた。

店主「またいらっしゃい。完全なる五感の神として…」













第23話 四神会議プラスワン

逢音は重い足取りで帰宅した。

逢音「ただいまあ-」

母「おかえり。どこいってたの?」

逢音「んーちょっと散歩」

母「逢音の分ももらってきたよ」

母が差し出したのはおみくじだった。

開けてみるのもおっくうだ。

母「見ないの?」

逢音「あとでー」

部屋に戻った逢音は四つの神を呼び出した。

「Hearing BiBi」

「Vision GaGa」

「Smell NeNe」

「Sense of touch TeTe」

ビビ「びっくりしたぜ」

ガガ「リリがいたな」

ネネ「誰だろ。もう一人の資格者って」

テテ「おみくじー」

逢音「おみくじなんか中身わかってるの!」

テテ「神社の神様の占いだろ?同じ神として興味あるな」

逢音「こういうのはお正月だから決まって大吉とか吉とか…」

開けたおみくじには「凶」の文字が。

逢音「………」

テテ「め、迷信 迷信」

ネネ「そうだよ!1/1000くらいの確率でぐーぜん….」

ビビ「あほ。慰めになってねーわ!」

ネネ「それよりもう一人の資格者ってだれだれ?」

逢音「それがわかれば苦労はしない」

テテ「すぐに会うっていうからご近所さんか学校の友達だぜ」

ビビ「能力のこと知ってるっていってたな」

テテ「まさか園子?」

逢音「それはないよ。記憶消したもの」

ネネ「ジョージは?」

逢音「ネネ。うっさい」

ビビ「なぜ店主はもうひとり候補を立てたのかだ。私は逢音がふさわしいと….」

逢音「違う。きっと私には欠けているものがあるからなんだよ」

ビビ・ネネ・テテ「??」

逢音「殺意」

ビビ・ネネ・テテ「!!」

逢音「自分が殺されることも含めてね。殺すことの覚悟。死ぬことの覚悟…」

ビビ「じゃあ…相手が持ってて逢音にない武器っていうのは…」

逢音「殺意なんだと思う」

ビビ・ネネ・テテ「……」

ネネ「ガガ?起きてるか?返事しろ」

ガガ「ああ、しっかり起きてるよ」

ビビ「どうしたガガ?」

ガガ「あのさ、私に心当たりがあるんだ…その相手」

逢音・ビビ・ネネ・テテ「えええええええー!」

逢音「誰なのよ」

ガガ「言っても信じてもらえないよ」

逢音「言いなさい!」

ガガ「私の前の主人…瞳美」

逢音「あり得ない!瞳美は死んだのよ!目の前で見たし、もう火葬もされている」

ガガ「でも、あの店の主人が唯一持ってなかったのが私だよ。それにそれに…」

逢音「なに?」

ガガ「瞳美はいざとなったら逢音を殺すつもりだった…」

逢音「!!」

ビビ「で、でも現実、瞳美は死んでるんだよ。どうしてまた会えるの?」

逢音「…現実と真実は違う…お店の主人はそう言った…」

ビビ・ガガ・ネネ・テテ「……」

逢音はカレンダーを見た。明日が瞳美の初七日であった。

(確かめる…私の知らない真実とやらを…)










第24話 瞳美ふたたび

初七日は、通常命日を含めて7日後に行われる。本来は大晦日に行われるべきであった。

曽宮家では、1月2日に親族のみで執り行うことに決めていた。

逢音は瞳美の親に電話をし、列席を許してほしいと伝えた。

瞳美の死を目撃した一人でもある逢音の出席は、曽宮の両親にとってもありがたいことであり快く了解された。

逢音は瞳美の家庭事情をよく知らなかった。

(なぜ、中学までイギリスにいたのか?)

(家族と一緒ではなかったのか?)

(英語ができるのは当然として中学までイギリスにいたとすれば日本語が堪能なのはなぜか?)

逢音は求める真実がそこにあるような気がしていた。

1月2日の午後、逢音は1万円を入れた御霊前袋と4種の神の道具が入ったカバンを持って曽宮家を訪ねた。

逢音は好意を持って迎えられた。

霊前には、瞳美の遺影と白い布で包まれた骨壺があった。

瞳美の遺影は笑っていた。しかし逢音には瞳美の目が語りかけているように思えた。

(私との約束…忘れないで)

列席者は瞳美の両親を含めて6人いた。

全員に逢音が紹介された。4人の親族はいずれも瞳美の両親の兄弟であった。

直に、住職が現れ、読経が始まった。

(イギリス人の血をひいてるのに仏教なのかあ…)

読経と焼香が終わり、会食となった。

住職も含めて7人の会食が始まったが、用意されている食事は8つだった。

(こういう時って瞳美の陰膳を用意するのか…)

葬祭になれない逢音は特に気にしなかった。

逢音の隣は瞳美の母親だった。話し相手のいない逢音に配慮された席順だった。

おそるおそる逢音は母親に聞いた。

逢音「あのう、瞳美さんって中学校までロンドンにいたんですよね?」

母親「そうですよ。事情があって瞳美は中学をロンドンで過ごしたんです」

逢音「中学だけ…ですか?」

母親「英語の語学力をつけたいってことで…父方の親戚があちらの…そのイギリス人なので、そっちにお世話になったのよ。それまでは、主人の仕事の関係で家族ごと日本とイギリスを2~3年毎に行ったり来たりしてて、やっと日本に落ち着くことになったんですけどね」

逢音「瞳美さんは中学生の期間だけ、一人でイギリスにいらっしゃったんですね」

母親「一人といっても、親戚がいるし、仲の良い従妹もいるし…あ、そうそう、もうすぐ来るころだわ…(父親に向かって)ねえ、あなた!エマさんまだ来ないんだけど」

父親「12:00には成田に着いてるはずだから、もうすぐ着くよ」

逢音「あ、あのエマさんって…?」

母親「瞳美の従妹にあたる人よ。逢音さん見たらびっくりするかも…」

父親「しばらくこっちにいるんだ…荷物も多いからタクシーで来ると思うんだけど…」

その時玄関のチャイムが鳴った。

母親「あ、着いたみたい」

出迎える母親。

間もなく座敷のふすまが開いた。

そこには…そこには死んだはずの瞳美がいた。








第25話 エマ

逢音「瞳美…」

そう口に出さずにはいられない。それほどエマは瞳美に似ていた。

エマは祭壇に駆け寄ると瞳美の遺影を抱きしめ号泣した。

「どうして、どうして私の国でこんなことに….」

日本語の発音はしっかりしている。

エマの姿は親族の涙を誘った。

泣き止んだところで、エマが逢音に視線を送った。

母親「いまちょうどエマさんの話をしようとしていたのよ。こちら瞳美の友達の篠崎逢音さん。逢音さん、さっき言いかけた瞳美の従妹のエマさんですよ。瞳美にそっくりでしょう?従妹でもこんなに似るものなのよね」

エマ「初めまして逢音さん。瞳美を看取ってくれてありがとう。」

エマは流ちょうな日本語で話した。近くで見るとますます瞳美と似ている。ただ一箇所だけ違っていた。彼女の瞳の色はグリーンだった。

逢音「こちらこそ。瞳美さんにそっくりな従妹さんに会えて、うれしい。まるで…まるで瞳美と話しているみたいで…」

逢音は泣いた。偽らざる悲しみの涙であった。

母親「エマさんはしばらくここに滞在するのよ。」

エマ「おじさん、おばさん、お世話になります」

父親「いいんだよ。私たちもエマさんがいてくれて…」

涙声になる父親。

(瞳美に生き写しのエマの存在は瞳美の両親の心の慰めになるだろう。そうだ、まだ瞳美が死んで10日も経っていないのだ)

全員そろって和やかな会食となった。

特にエマの笑顔は遺族の心を和ませた。

逢音はちょっと救われた気がした。

会食は1時間ほどでお開きになり、逢音は曽宮家を辞することにした。

エマと話がしたかったが、今日は曽宮の親族だけにしてあげよう。そう思い玄関に向かうときにエマとすれ違った。

エマ「You are Thief !」

小声でよく聞き取れなかったが、重く沈んだ声色だった。

逢音「え!?」

振り返ったがエマはスタスタとトイレに向かっていった。

母親「これ、ご両親に。お葬式の時に本当によくしていただいたから…」

高そうな菓子折りを渡された。

逢音「あ、はい。今日はありがとうございました」

母親「また。遊びに来てね。エマちゃんと友達になってくれたらうれしい」

逢音「はい。あのう…エマさんはいくつなんですか?」

母親「瞳美と同じ17歳。誕生日も同じなんですよ。まるで双子でしょ?」

逢音「・・・・」

母親「あらあら冗談よ。だって瞳美を産んだのは私ですもの。偶然よ。」

逢音「そう。そうですよね」

母親「ご両親によろしく」

逢音「失礼します」

(そうきっと偶然。瞳美が二人いるなんて…。でもエマはなんと言ったのだろう?)

逢音が自分の英語力のなさを嘆いている時、カバンの中の四神は大騒ぎしていた。









第26話 もうひとつの代償

逢音は自宅に戻り、早速4神を呼び出した。

ビビ「逢音!やばいぞ!」

テテ「エマ、やばい」

ガガ「……」

ネネ「お土産なんだった?」

逢音「なに?エマはなんていったの?」

ガガ「 You are Thief ! この泥棒め!ってこと」

逢音「ええええええ!」

ビビ「やっぱりわかってなかった…」

テテ「つまり、能力のことをエマは知ってる。そして瞳美の視覚の能力が今逢音にあることも…」

逢音「そんな…どうして?エマとはロンドンでも会わなかったんだよ!」

ビビ「おい、ガガ!お前エマのこと知ってるのか?」

ガガ「エマは中学時代、ほぼ瞳美と一緒に過ごしていた。瞳美はエマから英語を習い、エマは瞳美から日本語を習っていた。そういう仲だった」

テテ「能力のことを瞳美はエマに話したのか?」

ガガ「いや、そういう場面に出くわしたことはない」

ビビ「なんで従妹がクリソツなんだ!?しかも誕生日も同じだって…」

ガガ「わからない」

ネネ「ガガを責めちゃかわいそうだよ。知ってるならもっと前から逢音に言ってるはずだよ」

逢音「泥棒…そうかそう思われてるのか…経緯はどうであれエマは私から能力を奪うために日本に来た…」

ビビ「アンティークショップのジジイが言ってたもう一人の資格者って…」

逢音「そう。おそらくエマ」

ガガ「だったら、店主がエマにスプーンを渡す前になんとかしないと…」

逢音「……もう遅いかもしれない」

逢音はスマホを取り出し曽宮の家に電話をした。

<逢音>「あの篠崎です。先ほどはお世話になりました」

<瞳美の母親>「あら逢音ちゃん。こちらこそ。なにか忘れ物?」

<逢音>「あのう…エマさんは御在宅でしょうか?」

<瞳美の母親>「あ、エマちゃんね。なんかこっちに知り合いがいるとかで、さっき電話して出かけて行ったみたいだけど…」

(やはり…)

電話を切った逢音はすぐに出かけようとして思いとどまった…

(エマがスプーンを手に入れたことを知らないふりをしたほうがよいのかも…もう相手が味覚の神の能力者であることを前提に対策を考えよう。エマは全てを店主から聞くだろう。その上でどう出てくるか…)

ビビ「逢音。行かないのか?」

逢音「もう遅いと思う。もし間に合ったとしても、彼女はいずれスプーンを手にする。そして私は彼女からしかスプーンを奪うことはできない」

ビビ・ネネ・テテ「……」

ガガ「あの言い方からして、エマは躊躇なく逢音を殺しにくるよ」

逢音「瞳美の意思を引き継いだのは私…私が五感の神全てを手に入れて葬らなければ…それが瞳美からの代償」

ガガ「ひとつだけ気になることがある」

逢音・ビビ・ネネ・テテ「なに!?」

ガガ「確か一度だけ、瞳美はエマに能力を使ったんだよ。」

逢音「何を命じたの?まさか…」

ガガ「いや、たわいのないことだったと思う。だけど…」

逢音・ビビ・ネネ・テテ「だけど?」

ガガ「瞳美はその代償をエマから受けたはずなんだ」

逢音「どんな代償だったの?」

ガガ「それが…エマは瞳美の耳もとで小声でささやいたので私には聞こえてこなかった」

ビビ「じゃあなんで代償だってわかるんだ?」

ガガ「瞳美が黙ってうなずいたから…」

全員が黙った。















第27話 ニセモノ

エマが瞳美に命じた代償がなんだったのか。それがエマに能力を知られるきっかけとなったのか。

これ以上の推論は無駄だった。

(エマが祭壇で遺影を抱きしめて流した涙。あれは本物だった。エマは本当に瞳美を好きだったのだ…だとするとちゃんと事実を話し、自分が瞳美の意思を継いでいることを理解してくれるのではないか)

一瞬、逢音はそう思った。だが店主のあの言葉が頭をよぎる

「手は触覚の神のチカラ以外にも君にない武器を持っていることを忘れないことだ…」

「現実と真実の違い。君は現実を理解しているが、知らない真実があるんだよ」

(まだだ、まだ私は真実にたどり着いていない。全てを…全てを知ったうえで五感の神のチカラを手に入れるんだ。だからエマと会おう。神のチカラを頼らずに…)

ビビ「逢音…どうする?」

逢音「明日、エマと会う。あなたたちは連れていかない」

ビビ・ガガ・ネネ・テテ「ええええええー!」

ガガ「危険だよ!逢音」

逢音「わかってる。でも私がスプーンを使わなければいいこと。五分の条件でないとエマは真実を語ってはくれないと思うんだ」

ビビ・ガガ・ネネ・テテ「……」

逢音「まだ、冬休みの課題に手をつけていなかった。今夜は勉強する」

ビビ「逢音…なんか変わったね」

逢音「瞳美や園子に比べたらまだまだ劣等生だよ」

ビビ「いや、そういう問題じゃ…」

その時、リビングから母親の声がした。

母「逢音―!晩ごはんだよぉー!今夜はお寿司だよー!大トロなくなっちゃうよー!」

逢音「いやあああああー」

シャーペンを放り投げて、リビングへと駆け下りていく逢音。

ビビ「あ…変わってねーや」

ガガ「ふふふ。逢音らしーや」

テテ「あのさあ、ちょっと気になってることがあるんだよ」

ビビ・ガガ・ネネ「??」

テテ「店主が見せたあのスプーンな。あれ本物かな?」

ネネ「どしてどして?ちゃああああんとRiRiって刻まれてたよ」

テテ「それくらいの細工はできるだろ。あのなあ…倉庫で一緒にいた時のRiRi感覚があのスプーンからは出てこなかったんだよ」

ビビ・ガガ・ネネ「!!!」

ビビ「ニセモノってか?」

ガガ「ありうるな。現に店主はあのスプーンで能力使わなかったし…」

テテ「だとしたらやばいぜ」

ネネ「逢音に知らせなきゃ」

ビビ「ニセモノだとしても本物の味覚の神はどんなモノに宿ってるかだ…」

ガガ「普通にコーヒーカップとかお皿とかじゃないの?」

ネネ「そうそう。基本私と同じ容器の構造だと思うよ」

ビビ「まあ食事に一切手をつけなきゃいいんだが…なんか悪い予感がする」

テテ「いずれにせよ。逢音一人で行くのは危険じゃないか」

ビビ「説得してみよう」

その夜、寿司をたらふく食べた逢音は、曽宮家からのいただきもののお菓子にまで手をだし、満腹状態でリビングのソファで寝た。

4神たちのいる二階に上がってくることはなかった。






第28話 エマの告白

翌朝、目覚めると雪が積もっていた。

この冬初めての積雪だった。

朝食を終えた逢音は、早速曽宮家に電話をいれ、エマを呼び出した。

<逢音>「エマさん。篠崎です。昨日お会いした篠崎逢音」

<エマ>「ああ、逢音さん。おはよう。どうしました?」

<逢音>「瞳美が留学していたころの話を聞きたくて…これからそちらにおじゃましていいかしら?」

<エマ>「……」

<逢音>「お忙しいの?」

<エマ>「いいですわ。おばさまには私から言っておきます。私、瞳美の部屋を借りてるの。そこでお話しましょう」

<逢音>「ありがとう。これから行きます」

<エマ>「雪道気をつけてね」

逢音は、身支度をして出かけた。母から昨日のお返しにと大量の苺を預かった。

(やれやれ、贈り物のやりとりって永遠に続くのかしら、代償みたいに一回で終わればいいのに…)

3cmくらい積った雪道を慎重に歩いた。お土産の苺以外は手にしていない。

ほどなく曽宮家に着いた。

母親が出迎えてくれた。お土産の苺に恐縮しつつも受け取ってもらった。

(また帰りになんか持たされなければいいけど…)

エマの部屋(正確には瞳美の部屋)に通された。そこにはコーヒーを飲んでるエマがいた。

エマ「Good Morning 」

逢音「おはよう」

エマ「あら?英語わかるんだ」

逢音「あ、それくらいは…」

(「Thief」を聞き取ったと思われたくない。もう戦いは始まってるのだ)

エマ「私と瞳美の関係を知りたいんですって?」

逢音「電話では、そう言ったけど実は違います」

エマ「やっぱり?聞きたいのは能力のことだよね?泥棒さん」

逢音「違うの!なぜ私が瞳美の能力を引き継いだか…本当のことをお話ししたいの」

エマ「Tell me please」

逢音は自分が聴覚の能力を手にしたことから、時系列的にこれまでの経緯を話した。

五感の神すべてを集めて葬ることが瞳美からの代償であることについては特に強調して話した。

逢音「わかってくれた?わかってくれるよね。エマさんは瞳美の親友だもの」

エマ「親友?ふふふ。そう思うの?」

逢音「ちがうの?だって昨日はあんなに…」

エマ「まあいいわ。すべては私が生まれた時から始まっていだんだもの…」

逢音「…どういうことなの」

エマ「従妹である私と瞳がなぜこんなに似てると思う」

逢音「……」

エマ「私たちはね。従妹ではなくて姉妹…双子だからなのよ!」

逢音「そんな、だって瞳美のお母さんはそんなこと…」

エマ「視覚の神のチカラよ」

逢音「!!」

エマ「私たちは双子で産まれた。容姿までそっくりだったのは当然。でもただひとつ違っていたのは目の色。瞳美は茶色、私はグリーン。私たちの祖父ロバートはね、茶色の瞳のほうを選んだ。自分の能力の後継者として…」

逢音「どうしてそんなことがわかるの?」

エマ「すべて使用人のエミリーから聞いたわ。ロバートに人生を奪われたエミリーにね…」

逢音「エミリーさんと…つながってたの?」

エマ「私はロバートの弟夫婦の子供として育てられた。もちろん弟夫婦にもチカラを使って自分たちの子供だと思い込ませてね。弟夫婦…私の父と母は私を大切に育ててくれたの」

逢音「……」

エマ「でもね。エミリーに本当のことを聞かされた時、私は祖父ロバートを呪った。本当の親から引き離されたこと。そして視覚の神の能力を瞳美に与えたこと」

逢音「あなたが能力のことを知っていることを瞳美は…」

エマ「知るわけないじゃない。私は留学中になんとかして瞳美からその能力を奪おうとした。そして瞳美が帰国寸前にそのチャンスが来たのよ」

逢音「瞳美があなたに能力を使った…」

エマ「あら。わりと頭はいいじゃない。そうよ私は帰国しようとする瞳美に泣いてすがった。「帰らないで!帰らないで!ずっとここで暮らそう」ってね。瞳美がメガネを取り出し私に「お願い。帰国させて」と言った。私はその瞬間を逃さなかった」

逢音「あなたは、あなたは代償に瞳美に何を命じたの!?」

エマ「五感の神すべてを集めろ…だ」

その時部屋の扉が開いて母親が入ってきた。

母親「遅くなってごめんなさい。寒かったでしょ?温かいうちに飲んでね」

母親が持ってきたのは、湯気が出ているポタージュスープだった。

そして受皿にはあのスプーンが添えられていた。


-

第29話 対決

目の前に出されたスープ。しかも添えられているのは味覚の神が宿ったスプーン。

エマ「飲みなさいよ。熱いからスプーンで冷ますとよいわ」

逢音はじっとスープを見つめた。

そしてスプーンを使わず、直接カップに口をつけた。

エマ「ふふふふ。あはははは。本当にあなたはお人よしね。店主のことをそのまま信じるなんて!味覚の神が宿ってるのはスプーンじゃなくてカップのほうなのよ」

逢音「!…そ、そんな」

エマ「さあ泥棒、覚悟しなさい」

逢音「私を殺すの?」

エマ「最初はそれも考えた。でもさ、私が全能神になってもつまらないじゃない。私は神を操る側に回ることにする。あなたはもうアンティークショップに行く必要はないの」

逢音「どうするの?」

エマ「これから私の命じるとおりに動きなさい」

逢音「はい。わかりました」

エマ「あはははは、なぜみんなこのことに気付かなかったのかしら!この命令はオールマイティなのに!リスクは一回で済むのに!」

エマ「おっと代償クリアしなきゃね」

エマは席を外し、二階から下のリビングに向かって言った。

「おばさま!玄関の雪かき、私がやりましょうか?」

母親「あ、お願いできる?」

エマ「はーい」

エマ「はい代償クリア。簡単ね。さて逢音さんあなたには五感の神になってもらって私の命令に従ってもらうわ。今からそのカップはあなたのものよ」

この瞬間、味覚の神が宿ったスプーンの所有権は逢音に移った。

逢音「……ついに、ついに手に入れた。五感の全てを…これで叶えることができる瞳美の望みを…」

エマ「逢音。あなたはこれから私の命令どおり動くのよ。神の道具を壊したりはさせない」

逢音「信じられるのは人より神か…」

エマ「?」

逢音「私はあなたの能力にかかってはいなかたんだよ。」

エマ「なんだと。おまえはカップからスープを飲んだ。スプーンを神の道具だと思って…」

逢音「私はカップに口をつけただけ、スープは飲んでいない」

エマ「なぜ?あなたはスプーンを疑っていたんじゃないの?」

逢音「私は4つの神の主人だったんだよ。神の忠告は聞くもんだね」

そう、逢音は家を出る前に自室にコートを取りに行っていた。その時にビビ達から聞いたのだ。「スプーンを疑え」と…。

逢音「でも私には5つめの神を手に入れる術はなかった。でもあなたが自らそれを与えてくれた。あなたは神のチカラを操るために神を失った。私は神のチカラを葬るために神を得た。そういう力学が働くんだよ。この世界では」

エマ「そ、そんな…」

逢音「おそらくこれが真実」

エマ「私をどうするつもり?殺すの?」

逢音「そんなことはしない。する必要もない」

逢音はコートのポケットから視覚の神のメガネを取り出した。

逢音「瞳美からもらったチカラ…これを使わせてもらう」

エマ「!!」

逢音「すべてを忘れてイギリスにお帰りなさい。そして瞳美の分まで生きてね」







最終話 神殺し

翌日逢音は雪の山道を歩いていた。

背中にしょったリュックには五感の神が宿った5つの道具が入っている。

アンティークショップにはいかなかった。

(もし、本当に全知全能の神が生まれるんだとしたら、それは人間の手で操つられてはならないものだ)

瞳美の代償のせいかもしれなかったが、もはやその思いは確固たるものとなっていた。

どうやって葬るのか…

その答えをもたないまま…その決断がつかないまま逢音はもくもくと山道を登って行った。

どれくらい歩いただろう。

急に視界がひらけ、太陽の光が差し込んだ。

山頂だった。周りには誰もいない。なにもない。

静寂の中、逢音は、澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

(儀式にはぴったりの場所だ)

これから五感の神をすべて召喚する。何かが起こるとすればその時だと思った。

リュックから、ベル、メガネ、香水のビン、手袋、カップを取り出した逢音は、深呼吸をして大きな声で叫んだ。

「Hearing BiBi !」

「Vision GaGa !」

「Smell NeNe !」

「Sense of touch TeTe !」

「Taste RiRi !」

「…………」

どの神からも返事がなかった。

そのかわりに全ての道具が赤く光り震え始めた。

赤い光の輝きはどんどん大きくなり、もはや道具の原形が見えないくらいになった。

逢音の前に赤い光の玉が5つできた。

ビビ「いくよ逢音!」

赤い玉のひとつが逢音の耳に飛び込んできた。

逢音の聴覚が覚醒する。

逢音に飛び込んできたのはさまざまな音であった。

波の音、風の音、動物の声、ビル工事の音、車の音、銃声、そして人間の叫び声…

ガガ「ガガ行きまーす!」

また赤い光の玉が今度は逢音の目に…

逢音の視覚が覚醒する。

逢音に見えたものは様々な光景。

深海のクジラ、ナイアガラの滝、草原のライオン、発射されたミサイル、泣き叫ぶ子供…

キキ「どうなっても知らないよ!」

逢音の嗅覚が覚醒。

砂漠の匂い、潮の匂い、アスファルトの匂い、硝煙の匂い、血の匂い…

テテ「耐えろ、逢音!」

触覚が覚醒。

身体中の皮膚があらゆる触覚を感知する。

ザラザラ、ゴツゴツ、サラサラ、ヌルヌル

リリ「逢音!わたしで最後よ!」

五感全てが覚醒した逢音はこの世で起こる全てを感じ、一瞬にして理解した。

今この世の理りの全てが逢音の手中にあった。

全人類の感情が逢音の手の平で踊っていた。

喜び、哀しみ、怒り、憎しみ…

音、映像、匂い、手触り、味…

逢音はそれらを慈しみをもって感じ、そして抱きしめた。

(許そう…人の弱さも愚かさも、そして母なる大地と海に全てを委ねよう)

(だから、もうこんなチカラは必要ないんだ)

逢音はゆっくりと切り立った断崖に向かって歩いていった。

(わたしと一緒に消えて無くなれ!)

崖から飛び降りようとしたその刹那、逢音に語りかける声があった。

比美子「逢音、その役目はわたしだ。あなたに負わせる訳にはいかない。やっと…やっと現れた。わたしは400年あなたを待っていた。ようやくわたしも眠れる時が来た。ごめんね。ありがとう逢音」

その場に倒れる逢音。逢音の身体から大きな閃光が空に向かって放たれそして消えていった。

しばらくして足音がした。

その足音の正体は倒れている逢音を抱きかかえ、背負って雪山を下って行った。

店主「比美子に会えた。やはり彼女は生きていたんだ。三太さんこれであんたも満足じゃろ。逢音さん、ありがとう。やはり君は比美子の…」

背中の逢音は穏やかな寝息を立てていた。







エピローグ

1月も終わる頃、元気に学校に行く逢音と園子の姿があった。

逢音の肩には楽器のケースらしきものがかかっている。

園子「でもびっくりしたよ。逢音がトランペット吹いてくれるなんて」

逢音「部長の抜けた穴はマネージャーが埋めないと…というより瞳美がトランペットのパートだって初めて知ったんだよ」

園子「それでもマネージャーかよ!でも良かったな。瞳美のご両親から形見分けでトランペットもらえるなんて…。な!ちょっと見せてくれよ」

逢音「いいぞ!ついでに進軍ラッパ吹いてやろうか」

逢音はケースからトランペットを取り出した。今度の課題曲のイントロが高らかに冬の空に鳴り響いた。

トランペットの持ち手部分に刻まれた小さな文字にまだ逢音は気づいていなかった。

「Hearing BiBi」



ー完ー



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