(第1話)
40歳の誕生日、俺は天命を知った。
そうだ。俺はV6になろう。
長時間保温で少し黄ばみだした飯をわさび漬けと桃屋の茎わかめで食べながら俺はそう決意したのだ。卒然と。
なぜV6なのか? そんなことはどうでもいい。
TOKIOでも嵐でもなくV6なのだ。俺にはそれがわかる。何故なら世界と直結しているから。世界と直結している人間には答えだけがあり途中の式はない。ただ、それが正しいとわかるだけだ。
V6に俺はなる! そう叫んで立ち上がる。さらに田中真弓に声を似せてもう一回叫んだところ、隣の住人が壁を思い切り蹴ってきた。
俺は、うるっせえっ! と怒鳴って壁に低空ドロップキックをきめた。敵は完全に沈黙した。暴力には暴力だ。思い知ったかこのキチガイが。
だが40歳になった俺がいきなりトップアイドルになるのには幾つかの手順が必要だろう。いきなりなろうとしてなれるものではない。そこで友人の森野福郎に電話することにした。こいつは名前の通り、森のフクロウのような知恵者だ。
「もしもし」
「誰だ」
「俺だ」
「おまえか。なんだ?」
「V6になりたい」
「そうか」
「どうすればいい?」
「事務所に行け」
「ジャニーズか」
「そうだ。手土産を忘れるな」
「わかった」
さすが森野だ。やるべき道が決まった。だが手土産は何が良いか? やはり先方の気に入るものを持っていくのが礼儀だろう。そこで俺はジャニー社長のために浣腸を二本挿し、腸内を清めた。ワセリンも持った。俺自身が手土産だ。手塚治虫の『ブッダ』にも、自分を焼いて仙人に食べさせる兎の話が描いてあった。これで間違いないだろう。早速俺は自転車に乗ってジャニーズ事務所へ向かった。風が冷たい。梨が美味しい季節になってきました。
事務所の窓口で俺は用件を尋ねられた。俺はV6になりたいので社長に会わせてほしい、と答えた。慇懃に。ジェントリィに。
受付嬢はうるんだ瞳で俺を見ている。未来のV6が目の前にいるのだから仕方あるまい。
受付嬢はしばらくお待ちくださいと言ってどこかに電話した。俺が素直にしばらくお待ちしていると屈強な警備員が二人連れでやってきた。もうSPをつけてくれるのかな? ご苦労ご苦労、と思ったら、俺の両脇をホールドしてどこかに俺を連れていくようだ。おいおい、俺はここでしばらくお待ちしてたんだぞ? なんだこれは。ドッキリカメラか?
不安そうな目で俺を見る受付嬢に俺は心配ないよ、すぐ戻るから、とウインクした。馬鹿だな。泣きそうな顔をするんじゃない。俺は大丈夫だ。なんてったってV6だからな。




