最も無意味な最期の一日
私には特殊能力があった。
空は飛べないし、テレパシーが使えるわけでも、手を使わずに物を動かせるわけでもない。
生き物の寿命を一日だけ伸ばすことができた。
それが分かったのは、飼ってた犬が車に轢かれた時だった。
血塗れのタロが目の前で動かなく、冷たくなっていく。
悲しくてぎゅーっと強く抱きしめていたら、傷が治ってた。
見間違いかと思ったけど、血塗れのタロの傷は綺麗になくなっていた。
意味はわからなかったけど、とにかく嬉しかった。
でも、次の日一緒に庭で遊んでいたら、急にタロは傷だらけになって動かなくなった。
それから私は自分が強くぎゅーっと抱きしめると最期の一日だけ寿命を伸ばせると分かった。
病院で心停止した人を片っ端から助けようとしたけど、結局みんな次の日には死んでしまった。
もう一回抱きしめたけど、私が彼らに与えられるのは一日だけだった。
こんな能力に何の意味があるのか。
たった一日与えたところで、結局死ぬのに、寧ろ残酷なだけなんじゃないだろうか。
私はこの能力を使うのをやめた。
病院にお見舞いに行っても、事故を見ても見て見ぬフリ、おじいちゃんが死んでも、私はぎゅーと抱きしめたりはしない。
無意味な能力に嫌気がさしていた。
そんなある日、空から人が降ってきた。
めちゃくちゃに壊れたその人は、私の弟だった。
「ゆうと」
自分の無意味な能力を恨みながら、私は弟を強く抱きしめた。
無傷の弟は、私の腕の中で泣いていた。
「姉ちゃん、ごめんね」
ゆうとは、泣きながら、いじめられていたのだと言った。
いじめられて、つらくてたまらなかったけど、誰にも相談できなくて、死ぬしかないって思ってしまったと、何度も震える声で謝っていた。
本当は死にたくなかった。怖かった。でも、どうしたらいいのか分からなくて、気付いた飛び降りてた。
「でも、もう死なないよ」
ゆうとは私にそう誓った。
それから弟は楽しそうに、本当に楽しそうに最期の一日を過ごした。
でも、翌日には弟はやっぱり血塗れで死んだ。
その手には小さな紙が握られていた。
『嘘ついてごめんね。姉ちゃんのおかげで家族に謝れたよ』
最期の一日なんて無意味な能力にじゃなくて、弟のいじめに気付けなかった自分に嫌気がさした。