邪神様(♀)の無茶ぶりに魔王は禿げそうです。
「え・・・? あの、もう一度お願いします」
魔王は目をパチクリとして、創造主である邪神に聞いた。
魔族を作りし美しき女神は座った眼を魔王に向けて再度言う。「人間とエルフで私の逆ハーレム作って」と。
「人間? 我々では駄目なんでしょうか、創造主様?」
人間やエルフは光の神が作った種族である。魔王としては邪神が作った魔族の中から寵を与える存在を選んで欲しい。
むしろ、自分が選ばれたいくらいだ。
何も、邪神を忌み嫌っている人間やエルフから寵を与える存在を選んで欲しくない。邪神に作られた魔族こそがその寵を得るものであって、人間やエルフに寵を奪われて魔族が創造主に見捨てられるのは避けたい。
それというのも、魔族は光の神をはじめ、多くの神々に嫌われている存在なのだ。
創造主である邪神にすら嫌われれば、どの神からの加護も失くしてしまう。
「嫌よ。あなたたちは私の子どもだもの。自分の子どもで逆ハーレムなんて、嫌よ。幼児が「お父さんのお嫁さんになる」とか、「お母さんと結婚する」とか言うなら、まだ笑ってられるけど、親が「子どもと結婚する」なんて言ったら、人格疑われる犯罪臭しかしないじゃない」
「そうはならないと思いますが」
「それでも、私は嫌なのよ」
「ですが、人間やエルフで逆ハーレムというのは、無理ではないでしょうか? 創造主様は嫌われておりますし」
魔族を作りし邪神は魔王の言う通り、人間やエルフにひどく嫌われていた。実際、魔王と邪神を倒そうと何百回も勇者たちが選ばれているくらいだ。
「そこはあなたたちが何とかしなさいよ。攫ってきて懐柔するなりなんなり」
「人間やエルフが魔族に大人しく捕まるとお思いなんですか? 魔族に捕まるくらいなら、奴らは死にますよ」
人間やエルフが魔族に捕まった場合、所謂「クッ。殺せ」状態どころか、舌を噛んで死のうとするのである。
「それを止めて何とか逆ハーレムにできないかしら?」
「止めることができても、創造主様の気に入るような者ばかりではないでしょう。お望みなのは美形の逆ハーレムですよね?」
「逆ハーレムはイケメンなのが当たり前でしょ」
「無茶ぶりしすぎです」
「人間の王を誑かして村娘から女勇者を選出させて、やる気を出させるイケメンたちを集めさせてこちらに連れて来たらいいじゃない。あとは洗脳でも魅了でもしたら、逆ハーレムを入手できるわ」
「そんな簡単におっしゃらないでください、創造主様。神々もそんなに馬鹿ではありません。我々が騙していることにすぐに気付いて阻止してくるでしょう」
「・・・!!」
生まれたばかりでコソコソと神々の様子を観察していただけでリンチに遭って殺されかかったことを思い出した邪神は、また同じ目に遭うかもしれない恐怖に身震いする。
魔族を作ったことすら、ぼっちで寂しい気持ちを紛らわせるのと、神々から身を守る守護者が欲しいという理由が半々だった。
「とは言え、人間も一枚岩ではありません。人間相手に復讐を誓う者はいくらでもいるはず。試験的に彼らを保護してみましょう」
「ありがとう、魔王!」
邪神は魔王の提案に大喜びした。
しかし、すべてがうまくいくとは限らなかった。
国や王家、政敵に嵌められ、復讐を誓う人間たちをいくら保護しようが、神々への信仰まで失うほど絶望した者はほぼいない。傷が癒え、自らの足で立てるようになると彼らは復讐を胸に人間の国に戻っていく。
魔族の国に残ってくれたとしても、邪神を慕わない。
邪神の逆ハーレム計画はとん挫し、魔物や魔族と人間の混血で獣人や亜人ができるだけだった。
邪神は仕方なく、獣人をモフモフして我慢した。
光の神が作った動物を元に作られた魔物と違って、死と時を司る邪神と彼女に作られた魔族たちは寿命がない存在だった。しかし、人間やエルフ、それに邪神を慕ってくれる獣人や亜人には寿命があるので、邪神が欲しがった逆ハーレムが限られた時間のものであると邪神と魔王が気付くまで「人間やエルフの逆ハーレムが欲しい」と言い出してから数百年かかることになった。
その頃には、せっかく美貌を持つ魔王も心労で禿げそうになっていた。
邪神はぼっちを癒してくれる魔族たちを無駄に美形に作っておきながら、人間やエルフの逆ハーレムを望む我が儘な女神だった。