漂流物
海で泳ぐことになったから近所の浜に行ったのだが、まるで空から降ってきたかのようにごみが浜に散乱していた。しかし、不思議なことにそれをした人物がいないことを知っている者が多い。なぜなら、浜の面積に問題があるからだ。
浜は引き潮の時は現れ、満ち潮の時は浜に下りる階段までも呑み込むのではないかというくらいまでの高さになる。とどのつまり、引き潮の今が絶好の海水浴日和である。
友達にオススメしてしまったのが間違いないだったかもしれないと後悔しているけど、散乱しているごみ、全ては漂流物だから、偶然が重ならない限りはどこかしら空いているはず。
そんな甘い思いだったから今日の浜での遊泳は無かったことになって、一人でも泳ぐしかないと責任がのっかかった気がした。
過去を振り返っても仕方がないので準備体操を始め、階段に服を置いて海に駆け出してごみに阻まれながらも浅瀬を抜け、沖に浮かんでいるように小さく見える島を目指して泳ぎ出すと、始めは良かった水面も沖にも近くなれば漂流物ばかり。島に無事に着いても遠目で見た通りの小ささで癒しなんかない。
小高い丘で気持ちが休まる暇もなかった気分で、陸地に戻ってみても何もないだろう。だが、帰り際にそれは起こった。
「いたっ……」
脹ら脛から向こう脛に重たいものが乗っかったような痛みと傷口に水がしみる痛みが同時に走り、ばた足をしていたはずの足が重くて上手く動かせず、片足で何とか浮上してみせようとするも持ち上がらない。
訳が分からないままでは意味がないので、乗っかった痛みだけになった足になったのを境に水中で直立になって、顔を水に浸けた。
すると、何かが蠢いていた。
それは硬い、ゴツゴツとしたシルエットで、ピラミット型に下に広がっていくようなみたらしだんごが水中でもよく見える。
数珠繋ぎの見た目の何かが気になった俺はそれに手を伸ばし、痛みの通りに脚を掴むそれを掴もうとした瞬間、また、噛まれた痛みが走った。
「いたい、いたい、イタイッ」
指が持っていかれそうな痛みに堪えきれずに引きはなそうと手を振っても水中で意味がなく、海面から引きずりだすと、シオマネキと同じ構造でも大きさが違い、硬い甲羅にフジツボを背負ったみたいな容姿の巨大ガニに似た何かがぶら下がっている。
それに驚く俺は、その奇妙な体をした何かの、右手らしき人の手ほどの大きさのハサミに手を掛けた時、大きな陰が顔を覆っていた。
まるで他からの漂流物の集合体みたいなそれが、力一杯。