赤トンボ
腐葉土の臭いが風に乗って、鼻を弄ぶように通りすぎ、誰もが口ずさめる曲が村へと届かせるように、拡声器型のスピーカーから響き渡る。
「夕やけ小やけの赤とんぼ、負われてみたのはいつの日か」
ただそれだけしか口ずさめないが、今の自分ならこの歌詞にある間違いだけなら答えれるだろう。
腕を押さえる自分は、遠退く感覚をここに留めるだけしかできなくて、とても非力なようにも思えるが、自分には携帯がある。しかし、そう考えが過っても手に取らなかった。
嫁に行ってしまって繋がらない姐さんのアドレス。
それはメールの返事もなく、今までの付き合いが嘘のように連絡が来なくなり、一切の者を引きつけないようにしているようだった。
今の自分の状況が、山の中で一人、息を上げていることも幻のようで空気を掴む話に思える。
そんな今、自分の首には、たった今掛かった冷たくて鋭い感覚の雰囲気に呑み込まれながら、息を荒げ続ける他なく、声にならない声で最後を待つばかり。
夕やけ小やけの赤とんぼ
おわれてみたのはいつの日か
山の畑の桑の実を
小篭に摘んだは幻か
十五で姐やは嫁に行き
お里のたよりも絶えはてた
夕やけ小やけの赤とんぼ
とまっているよ竿の先
その歌詞が頭を過ったのは、赤とんぼが里に降りてきた時。