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プロローグ≪少年の名は。前編≫
少年は聡明であった。
文字を覚える早さも、掛け算九九を暗記するのも誰よりも早く成し遂げて見せた。
少年には四歳年の離れた一人の妹がいた。
少年は妹のことが好きでよく母と一緒に保育園に迎えに行ったりもした。
妹の迎えの帰り道、仲良く手をつないで歩く。少年はふと空を見上げた。
空にある大きな文様が見えた。それは少年にしか見えない。文様は文字ではない。明確な読み方はなかった。しかし少年は頭の中で自然にその文様をこう訳していた。
――死にたい――と。
少年の名は――