圧倒的な力
三人称っぽくしたけど……うん。まぁ、努力はしたよ、うん。
黒く、厚い雲が風で流され雲一つない青空が見えた。
起きたのは一瞬だった。フェルを包むようにした緑色の風は天に伸びように竜巻を作り、いつの間にか覆われていた雲を晴らした。それが引き金になったのか一瞬でフェル、基エルフィを覆っていた緑の風が消え、残ったのは空中で浮遊する謎の女だけだった。
腰まで伸びた長い髪に首から下が見えないほどの大きさの胸。見てくれは完全にエルフィなのだが最近表情が変わったあの、迷っている感じではなく無表情だった。何を考えているのか?ではなく、何も考えていない。そんな見た目をしていた。
極めつけは全身が太陽の光を反射して表面を覆う、深い色合いの緑をしていることだ。
絵の具で塗ったような地肌感は全くなく、粘液状、スライムが人の形を真似している。そんな見た目だ。
ゆっくりと女は遠くから見える異形の軍団を見つめ、右手を伸ばす。その仕草だけで女の周囲が暴風に襲われた。
「どうする!このままだとこっちにも被害が及ぶぞ!……それにしてもどうなっているんだ」
確認をとるようにいつの間にかマントとフードを取ったガルバが問い掛ける。だが、返答があったのは二人だけだった。
「……クソッ。取り敢えず、色がおかしくなったこと以外は余り変化はない。戦えるかどうか謎だが今は正面の敵が優先だ」
「しっかり見てたけどお兄ちゃんが出てくる姿見えなかったからあれで間違いないと思うよっ!」
「ってことだ。取り敢えずは正面の敵を蹴散らすぞ!」
フェルと共にいた少女達にそう言った。だが、反応がなかった。相手の攻撃かッ!?そう思った様子だったがそんな感じではなかった。どちらかと言うと忠誠を誓う、家来のような……。
手に持った武器をだらんと下げ、地面に落ちる音が聞こえた。力無く、下がっている腕とは違い表情はプレゼントを貰った少年のような目の輝きを見せていた。だが、品がない。そんな感じではなく、ゆっくりと頭を垂れていく姿は全くの無関係と言って良いリスタート達をも魅了させる姿だった。
その様子に危機感を覚えたリスタートが少し、戸惑いながら叫ぶ。
「な、何があった!?敵の攻撃か?…………え?」
心底心配するような表情を見せるリスタートだったが視界の端で写った理解が出来ない光景に呆気をとられた。
「……やっぱり、良いですね。強そうですし……何より、力になる」
カレス、ルトが頭を垂れている中、不自然な程に口角が上がったドールの姿があった。
その表情は美しさに目を奪われている、といった感じではなく、到底理解しがたい表情だった。
それを見たリスタートは先を行く、ガルバ達を心配し、頭の中で過った妄想を振り払う。
「大丈夫かっ!?取り敢えず、安全な場所に……」
カレスの肩を取り、移動させようと肩を触ろうとした瞬間にドールから声が上がった。
「やめた方がいいと思いますよ?正直言って今の状態で触れたりしたら一瞬で塵になると思いますけど……ああ、因みに私含めて死なないので悪しからず」
「あ、ああ、そうか……なら、正面の敵に向かって……」
「既にいなくなってますよ?」
「は?」
間髪入れずに言ってくるドールに嫌気を指しながらいなくなっている、そんな言葉がほんとうなのか確かめるように振り向く。そこには嵐があった。
少し、進んだ場所にガルバ達がいたがそんな事を気に止めないぐらいの暴風、嵐、圧倒的な光景がそこにあった。
女が手をかざした場所に向かって荒れ狂うような風が吹き、体を粉々にする。死に物狂いで死の風から抜け出したものには女から出る暴力的なまでの風で流され、地面にあたり血肉となる。
そんな言葉通りに近付けない状況に為す統べなく、無数かと思われた異形の大群は姿を消した。
「……ぁ……ぅ……っ……」
にっこりと貼り付けられた表情から漏れ出す風は誰にも聞かれずに流されていった。