緑のようで緑な感じの石
颯爽と現れたアイツの名前は……って、お前誰だよ。
轢き殺しながらドリフトを決め、カッコよく下りてきた……まぁ、辛うじてガルバ先輩、孤児院じゃない女の方、リチアナは分からなくもない。いや、どんな経緯とかは分からないし、聞きたくもないが顔見知りなので理解は出来るが……運転席に乗ってる黒歴史の塊みたいな存在は何?知ってる奴じゃないと思うんだけどなぁ……。
「……取り敢えず、昔の事は忘れよう。俺にもお前にも色々あると思うからな……ああ、言い忘れていたが俺の名はリスタート。俺はもう、勇者じゃないんでな……」
「やっほぅ!お兄ちゃんだぜぇ~お兄ちゃん成分が無くなってきたせいで意識が朦朧としてるからハグを頼む!欧米の方の奴で!」
手を顔の前におき、乾いた笑い声を発するアイツはちょいぷよ勇者君だったのだ!意外すぎて話がついていけないよぅ。
それと正反対な態度を見せるリチアナに引きながらダイビングボディプレスを避ける。欧米とかその技とか何処で覚えて……
「いや、だから兄でも弟でもないから……」
「チッ……折角ネズミ色君のお陰で……って、だから本当に兄なんだってば!兄さんっ!」
「幾らなんでも飛び掛かるのは……っと、ガルバ先輩も見てないで助けてくださいよ!」
「お、おう。そうだな……」
何軽く引いてんの?しかもそうだなで明後日の方向を見られても俺が困るんだけど!主に貞操的な意味で!これもう、兄とか以前の問題でお兄ちゃんだけど勢いさえあれば何でもイケちゃうよねっ!?みたいな感じになっちゃうから!R指定かかっちゃうから!
と、そんな事を数分間続けていると勇者……り、リスタート……ぶっ……。つか、何故そんな名前を普通に名乗れちゃうのかが謎だよな。羞恥心と言う概念が存在しないのかしらん?
ミスター中二病が乗ってきた車の方向から深い、地響きのようなものを感じ……えっと、巨人を見た?
全長、確認できないけど多分三から四十の間かな?そんな身長の局部にある筈の穴と突起を無くした女体が地面を這いつくばりながら向かってくるにが見えた。ハッキリ言って俺じゃなくても恐怖を感じると思う。
限界まで見開かれた眼球は少し、乾いているのか黄色く濁り、一歩進むごとに揺れる髪は黒曜石の様に黒く、深い色だ。早く焼いて差し上げたい。
時折、獲物を探すかのように首を上げ、キョロキョロと探る仕草は恐怖を通り過ごして愛着さえわいてしまうようだった。今すぐにでも切り刻んで差し上げたい。
と、心の声が漏れてしまったのか体に引っ付いていたリチアナが説明を始めた。
「見て分かる通り私達は変な巨人に襲われています。……経緯を手短に話すと国を焼いたら封印が解かれて魔王がいる魔界へと繋がる門が開かれたって訳です」
「襲われていますじゃねぇよ……完全に自業自得じゃないか」
やれやれと言葉に出さなくても分かる俺の言葉に反応してフェルズバスター(今命名)が立ち上がった。主に俺だけだけど。
「……ヒャッハー、この溜まりに溜まった鬱憤を晴らすときが来たぜぇ~」
「まずは第三位!」
俺を先頭にカレス、エルフィ、ドール、ルトの順番でなんて不健全な化け物に斬りかかる。その横で後ろにいた筈のドールが飛び出てきて話し掛ける。リズムに乗って叩けば何も怖くないドン。唯一怖いのは著作権だけです。ええ。
「道端で倒れていた謎の女ッ!あれって完全に王女じゃん!この戦いで死んでないよねっ?俺心配で斬り刻んじゃうよ!」
風の魔法によって生み出された風の刃が不健全を覆い、表面に無数の傷を作り出す。あんま、効果なかったけどヘイトが此方に向いたのか天に向かって咆哮を……使用とする前にカレスが口の中を焼き、ルトが上に上がった不健全の体を地面に押さえつける。後はゆっくり、ドールの水で窒息させて終わりかな?と、思った矢先にルトが作り出した土の拘束を意図も簡単に取り払い、近付いていたドールを凪ぎ払う。今度こそ天に向かって声を上げた。
『ん、キャアアアアアアアアアアッ!』
一つ、溜めを作ってからの咆哮は鼓膜が破れるかと思う程、甲高く、実に女らしかった。まぁ、こんな見た目だと女……いや、生物としての最低限かつ、最終目的である繁殖行動がとれない時点で女の皮を被った巨大な肉だと言う結論に落ち着いた。ただ、それなだけなんだけどね。
先程とは違った、俊敏な動きで翻弄する不健全。口を焼いたカレスではなく、拘束をしたルトではなく俺を狙ってくるので何か理由がないかと探っていると……一つ、思い当たる点があった。
「この、緑緑しい石のせいか?……ッ!」
少し、思考が別のことに動いてしまったせいで不健全の初動の動きに着いていけなかった。
気付いた時には既に脇腹を抉ろうと手を伸ばしているのが見え、近くにいたカレスの体に入ろうとする前に抉られ、空中に投げ飛ばされた。
ただ、熱い。腹に感じる感情はただそれだけだった。アドレナリンとか吊り橋効果とかも関係するんだろうが今は動けそうなのでありがたかった。てか、吊り橋効果は全くの別だな。
空中で体制を建て直し、不健全の姿を捉えようとしたのだが不自然に身を丸める不健全の姿が目に入った。何かがヤバい!そう、感じたのか自分でも驚く速度で放った火の魔法はカレスが剣に乗せて斬り裂く攻撃に吸収されながら、相手の胴を真っ二つに……はできなかったが次の一発で決着がつく。そんなときだった。首元に感じる不自然な風を感じた。
もしや、と思い首に手を伸ばし確認してみるがネックレスごとに石が無くなっていた。極々、自然な動作で下を見てみると切られて中身が丸見えの深く静かに光る石を俺ごと食らい付く、そんな感じで口をガン開きにしてジャンプをしていた。
石には何らかの価値はあると思ったが流石に売って良い代物ではなさそうだし、困っていたところだが今、化けモンに食われるのは癪だと思い、エルフィを乗っ取り、足に風の足場をつくって加速させ、口に向かって急降下をする。食われるか、そう思ったのだが俺の方が一足早かったようで剥き出しになっている太陽の光で輝いて見えるグリーンの石に手が触れた瞬間……エルフィの体ごと不健全の体が吹き飛び、嵐のような風がエルフィの体に入っている俺ごと包み込んだ。その風は何処か温かく、安心できるような匂いだったのだが……体が引き裂かれる痛みに声にならない雄叫びを上げた。
……それと同時刻。不健全の先程の咆哮につられてなのか同じ方向から次は不健全より、遥かに大きな生物が鼓膜を直接攻撃するような唸り声や、足音をたてながら近づいてくる。