勇者、二刀使いになる の巻
頭の優れている人は戦いに参加しません。それが無意味なことだと知っているから。
もっと頭の優れている人は剣を握り、杖を抱え戦いに参加します。そうしないと今まで重ねてきたものが無意味になってしまうから。
常人では理解できない域に達している俺は後先考えずに縦横無尽に戦場を駆け回り、魔法を放ち、殺します。力があるものは率先して血を見なくちゃいけないから。
等と考えながら魔法を放つ。既に焼き焦げる肉の臭いで鼻がバカになっているのが幸いだけど……流石に犬と人間じゃあ違うよな……。
国の周りを囲んでいる水は双方から放たれる火の勢いに負け、無くなりつつあるが微かに流れる所もある。まぁ、それも時間の問題だが。
大半の人は……と言うより、俺以外の人は城壁に乗って魔法を放っているがそこで疑問が生まれるだろう。「何故フェルは魔法使いの筈なのに城壁に乗らず、地上で戦っているのか?」と、バカなんじゃないか?と。実際には落ちて乗れなくなったんだけどね。数十メートルはある所から自由落下って……俺、結構死んでるような気がするな。ドールがいたから助かったけど。
相手の装備はまちまちだ。
きちんと純白の全身鎧を着て、行事良く並んでいる者もいれば、手に剣だけを持って特攻する者もいた。そのどれもが必死の形相で何かを誓うように誰かの名前を叫び、地上で構えていたブルンセルクの騎士だと思われる胸や膝、最低限の場所を青空のような鎧で守った騎士が手に持った槍で突き刺す。突き刺すと言うよりは相手が刺さっていく、とそんな感じが見てとれた。
そして俺の方では……
「ぜ、絶対に離れるなよっ!離れたら死ぬからな!主に俺が!」
「こんな時だけにスッゴい情けなく感じる……けど、まぁ、その気持ちも分からなくないけど……さッ!」
俺が中心になって正面で守っていたカレスが敵が放った矢を払いながら言う。うん、まぁ、自分でも情けなく感じるけど命あってこその羞恥心だからね?……なんか、ごめんね。わりとカレスに迷惑になってる感があるからそのうちどっか連れていくかな……ショッピングモールは無いよね?つか、完全に死亡フラグだよな。
「で、でも!そんなフェルs……フェルも良いと思うよ!うん!」
次に俺の右を守護しているエルフィ、通称、俺の右腕だ。あんま変わんねぇな。
なんか、エルフィの反応だと自宅でエロ本を見つけてしまった幼馴染みの反応っぽいんだよね。幼馴染みはいるけどいないようなもんだし……何故、壊れてしまったんだ。マルナよ……。
「女に囲んでもらって魔法を放つ……新手の羞恥プレイですかね? ついにMに目覚めちゃいました?」
うん、本当にそれはやめようね?新手っちゃ新手だけどまず俺、Mじゃないから。どっちかと言うとSを自称している身だから。ほら、今すぐ服をひんむいて食べちゃうぞー!……ただの変態だね。
「この子は許可局ちゃんでこの子は地球儀宇宙服君だね。ねっ、分かりやすいでしょ?」
無邪気に笑顔を見せるルト。このまんま左手をフルに使って包容したい気がするが後ろにいるドールに脅される。流石に事案発生どころか事件は現場で起こってるんだ状態になるからヤバい。後、何度説明して貰ってもクトゥルフ神話に出てきそうな触手の塊みたいな奴は判断つかないから。普通に考えて土でどうやってそんなもん作れんの?
等と守られながら進んでいく。想像するのは宇宙の戦艦の必殺技である波動砲って感じ。普通にポンポン魔法放ちまくっているけど。
そんな人力戦車みたいに殺りまくったら目に見えて数が減っていきたのが分かる。と言うより「撤退!撤退だッ!」の声が聞こえたからだと思う。
見た感じ、城壁を破壊するために魔法を放った後が所々見えるが人的被害は皆無らしく、何十名かの騎士が集まって周囲を観察するようで解散となった。報酬は皆の笑顔なんさー。
「では、無事王都からの侵略を防げた事で解散とする!皆、良く頑張った!酒場を貸し切りにするので家族、娘や息子と共に楽しめ!」
そう言ってブルンセルクの騎士長?まぁ、偉い感じの人が言った後、戦った人達の叫び声で包まれた。
流石に抱き合って嬉しがるものはいないが、大急ぎで中に入っていくものは大勢いた。家族想いなんだね。いるか知らんけど。
どっちしろ酒場に入っても女が一杯いると思うし……うまんまを回収してどっか行こうかな?と、考えていると先程撤退した筈の王都の騎士が走ってくるのが見えた。
「はっ、どうせ上の奴等に言われて帰ってきたんだろうが次は生け捕りにしてやろうぜ!」
「ああ、それは良いな!国ん中交代交代で引きずり回したら楽しそうだよな!」
「その後は木に縛り付けて死ぬまで槍で突っついてやろうぜ!……はぁ、見物だなぁ」
背に魔道書……なのか?まぁ、本を担いだ大人達がそれぞれ言い合う。戦争で性格が変わる、まぁ、戦いで性格が変わるって良く聞くけど……この感じだと日頃からこんな感じっぽいな。なんか知的なイメージがあったこの国だけど気のせいだったか。
それぞれ手に持った剣を握り、相手を待っていると後ろの方が少し、騒がしくなるのを感じた。
「おい、何があった!?」
「い、いや……なんか高速で移動する箱がこっち向かってきてるんだ!」
高速で移動する箱が?……どんな箱なんだろうな?箱って言ってるんだし流線型な感じじゃないよな……。
そんな緊張感の欠片もない感想を抱きつつ、待っていると遠くから少し、地響きのような音が聞こえた。その音の正体は……軽自動車を魔改造した感じのイカツイ車だった。流石に黒はカッコいいで済むけどそこに雷っぽいエンブレムとか付けんなよ……極めつけは飛び出している白銀のエンジンだな。見にくくないのかな?
そう考えながら勇者が来るのを待っていた。
「確実にあれ作るのは勇者位だもんな……あ、轢き殺した」
「しかも横から人が乗り出して銃構えてるけど……あー、撃ったね」
勇者と、見た感じガルバ先輩の姿が見えた。何やってんすか先輩……。
風を切るように進むあの様子だとここに止まるのも時間の問題だろう。あの、ハーレムマンめ。俺が呑気に移動している間にガルバ先輩まで己の毒牙にかけるとは……正に二刀流だな。