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異世界最凶の復習者  作者: 深紅
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第六話 初の訓練


「なるほど、そういう事情でしたか……」


 現在、斗真達はアリスの元へ訪れ、遅れてしまった事情の説明をし終えたところだった。アリスは斗真達の話を聞くなり難しい表情で何かを考えている様子だった。


「何を考えてんだ?今日は町の案内をするんだろ?」


アリスの態度に痺れを切らしたのか、斗真は怪訝そうな表情でそう尋ねると、アリスは思案顔のまま斗真に視線を向けた。


「ええ。そのつもりではいたのですが……斗真様のお考えを考慮すると、他のことに時間を使ってもいいのでは無いかと思いまして」

「他の……こと、ですか?」


 恐る恐る聞き返す彩音に、アリスは少し困ったような笑みを向けた。


「ええ。斗真様が旅に出られると言うのであれば、ステータスを最大限に活かすためにも訓練を受けてみては如何かと思いまして」

「訓練?」

「はい、この王都には兵士が沢山います。その中でも王都付きの兵士達の訓練はこのクラリス城内にある訓練場にて行われているのです。その訓練に参加してみてはと、思ったのですが」


 今までずっと旅に出ることを否定していた斗真達に改めて旅に出る準備をさせると言うのが引っ掛かるのだろう。だが、斗真は既に旅へ出るだけの覚悟を持っていたのだ。であるならば、それなりの準備は必要だ。だが、それを真正面から言って、斗真が受け入れるかどうかは怪しい。それゆえ、アリスの聞き方もいつもと違って伺う様子だった。


「もし旅に出られるのであれば自身の力量を知っておくことは必要ですし、そうでなくても何れ普通の生活を送る上でも力のコントロールは必要となるでしょう。皆さんの力の使い方を学ぶにはいい機会だと思います」

「確かにそれは一理あるかもね……どうする?斗真」


 アリスの言い分は確かにいわれてみれば納得できる話だ。しかし、あくまで決定は斗真に任せると言うことなのだろう、守は斗真に決定を促し、他の面々も斗真の言葉を待つように様子を伺っている。そんな視線を受けた斗真は、真剣な表情でアリスの瞳を見つめ返した。


「乗ってやる。……それで俺達が強くなるなら、やってやる」

「兄さん……」


 斗真のあまりに真っ直ぐな言葉に彩音は心配そうな表情を向け、対してアリスは周りに気付かれない程度に息を飲んだ。ここまで真っ直ぐな意思で戦うことを決めたことがあっただろうか。そんなことを思いながらも、お付のフレアに耳打ちするとフレアはなにやら直ぐにその場から引き下がってどこかに行ってしまった。

 そんな出来事があってから一時間もしないうちに斗真達は訓練場へと向かうように指示を受けたため、訓練場に入ると、近衛騎士団らしき人物達は斗真達を待ち受けるかのように訓練所の中央で待機しており、他の人物が見当たらなかったのでその人物の元へ歩みを進めて行く。だが、斗真達はその人の少なさに内心首をかしげていた。近衛騎士団というくらいだからきっと大勢の人がいるのだろうと思っていたのだが、蓋を開けてみればたったの三人。一人は体格のいい巨体といっても過言では無いくらいに身体を鍛え上げられている強面の中年の男。そしてその脇に控えるのはさくらのようにおっとりした雰囲気で、だが、大人の色気を併せ持つ女性。そして最後は、ちんまりとした女の子。何も知らずに三人は家族なのだと言われれば疑うことなく頷いてしまいそうな面々だった。


「君達が噂の異世界から来た救世主だな。私は近衛騎士団長のエドウィンだ。今日は君達の訓練のサポートをさせてもらう」


 そんなことを考えていれば、既に近衛騎士団長の前までやってきていた斗真達。開口一番にそう言われてしまい、どう対応するのが正しいのかと斗真達は顔を見合わせてしまう。そんな斗真達を見た女性がクスクスと口元に手を当てて小さく笑って、団長に視線を向けた。


「エド、ちゃんと説明しないとこの子達も理解できないでしょ? ごめんなさいね、この人、とても口下手だから。私はレイナ。そしてこの子はアウラ。今日は私達が貴方達の訓練をアリス様から任せられたの。今日一日は体験という形で伺っているから、簡単な講義の後、実際に身体を使った訓練を行う予定よ。よろしくね」

「……よろしく」

「「「「よろしくお願いします」」」」


レイナの言葉の後にぼそりとあいさつをした女の子のアウラは、無表情で全く感情が読めなくて一瞬だけ戸惑うが、とりあえず挨拶だけ交わして斗真達も順に自己紹介を済ませていく。

その後、早速エドウィンが基礎ステータスの確認をしたいとのことだったので、それぞれにステータスプレートに数字を表示させて見せると、エドウィンとレイナは苦笑い、アウラは相変わらずの無表情だったが、その表情は確実に面倒なものを見てしまったとばかりの表情で、斗真達はどうしたものかと三人の言葉を待つ。


「救世主というだけでこのステータスか……」

「私達の初期ステータスの数倍はある感じね」

「……スキルの数も桁違い」


 エドウィンに見せたステータスプレートを後ろから覗き込んだ二人も斗真達のステータスの高さに驚いているようだった。エドウィンは斗真達にステータスプレートをしまうように促すと、斗真達から少し距離を取った。


「君達のステータスの高さは理解した。どれだけの戦闘センスを見せてくれるのか気にはなるが、その前に説明しておかなければならないことがある。それは、ステータスプレートに書かれているそれぞれの説明だ」

「その中でも戦闘に重要とされるスキルと称号については私から話をするわ。魔法についてはアウラから。大体それで半日を使って、午後から実際に体を動かして貴方達の能力を見させてもらう予定よ」


 そんな前置きから、斗真達は午前中を使って自分のステータスプレートに書いてある内容についての理解を深める事になった。

 

「職業とは産まれ持った才能のことをいい、大きく分けて生産職と戦闘職と言われるものが存在する。基本的にこの世界の人は自分の持つ職業から人生設計を行うことになる。まれに自分の持つ職業とは別の職に就くこともあるが、基本的にはその職業にあった勉強や訓練を行うのが一般的とされている。君達のステータスに記載されている職業については言うまでも無く戦闘職に当たる」

「生まれ持った職業に人生が左右される……それって、本当に自分がしたいことなんでしょうか?」

「あら、面白い疑問ね?」


 エドウィンの話を聞いて寂しそうな表情で呟きを漏らした彩音の言葉に反応したのはレイナだった。とても意外そうな、それでいてとても興味がありそうな表情で彩音に視線を向けている。


「言われてみれば確かにそう取ることも出来るけど、この世界ではそういう風に生きることが当たり前になっているの。そのことに疑問を感じたりすることは殆ど無いわ。自分のステータスプレートに掛かれている職業が自分にとっての才能なんだって納得してしまう人が殆どで、自分の職業を否定して他の職に就く人もいるけど成功例はとても極僅かなの。その言い方だと貴方達の世界ではそういう訳ではなさそうね?」

「はい。個人がやりたいことを見つけてそれに向かって努力するという生き方が一般的ですね」

「それも、良し悪し。……進むべき道が目の前に広がっているのなら個人の自由は広がる。けれどその反面、自身の才能に気が付くことなくその才能を活かせる職業に就けずに人生を終える場合もあると考えられる」


 守の答えに考えを述べたのはアウラだ。確かに言われてみれば、考え方を変えるだけでメリットとデメリットは存在しそうだ。それについて正しい回答はないのだろう。ただ、レイナはそんな世界も楽しそうねと言う言葉でこの話は終了となった。


「話を戻すが、職業として記載されている内容が君達の才能ととらえていい。スキルもそれに関連した内容のものが多い筈だ。ただ、斗真君の職業だけ見たことも無いのだが……救世主であるが故の特殊仕様ということなのだろう」

「は?銃を見たことない?」

「ああ、その銃とやらが何なのかは全く想像がつかんな。ただ、スキル内容から見て弓に似た道具だと言うのは分かるが」


 エドウィンの言葉に唖然とする斗真。他の面々も微妙な表情で斗真とエドウィンを見つめている。


「ちょ、ちょっと待て。なら俺はどうやって戦えばいいんだよ!? 銃術士なのに銃が無かったら職業の意味ないだろ!?」

「うむ、確かにそうなんだが……それは多分解決できるだろう。一旦それについては置いておいてくれ。最後に話をしよう」


 斗真にとっては重大事項を最後まで置いておくと言われてしまい、そんなんで大丈夫かとジト目をエドウィンへ送るが、それはサラッと流されてしまい、話が続く。


「そして、レベルとステータスの値についてだが、レベルに関しては自身の成長度を示すものとなる。つまり、レベル一の段階では何も成長が無い初期の段階。レベル百は自身の成長限界に到達したことを意味する。とは言っても百まで上げ切った人物など、この世界の歴史上では片手で数えられるくらいしかいない。大抵はどんなに努力を重ねた所で八十手前まで行けば相当なものだと言われている。そして、ステータスの値だが、これは自身の現在発揮できる能力を数値化したものだ」

「と言われても、この数値がどの程度か全然分からないんですけど……」


 斗真達、仲間内で数値の比較をしてみてもある程度のバラツキはあっても結局平均化すると似たり寄ったりの数値に落ち着いてしまうため、どれほどの力を身に着けているのか判断がつかなかったのだ。紅葉と斗真の一件から、人外の力を身に着けてしまったことは理解しているが、これが一般的なのだと言われたら、この世界の暴動などを考えただけでも冷や汗ものである。

 だが、そんな考えは杞憂に終わることとなった。


「さっきも少し話したが、君達のステータスは異常なまでに高い。私達で言えばレベル二十程度の力はあると考えていいだろう。レベル一だとしてもある程度訓練さえ積めばすぐにでも最前線で活躍できるほどだ」

「そ、そんなに、ですか?」


 流石にそこまでステータスが高い物とは思わなかった斗真達は思わず驚きで表情が固まる。


「さらに言えばスキルの数も規格外ね。ここからは私がエドから説明を引き継ぐわ。あなた達が持つスキルは、本来であればその人が己を鍛え続けた先に現れるものとされているの。ある程度の適性によっては産まれながらに持つスキルもあるみたいだけど、レベルが一の時点では多くて二個ぐらいが一般的よ。自分の適性と思われる職業の練習や訓練を続ける事で、自身の得た技術を更に昇華させた先にあるのがスキルというわけ。つまり、訓練を続ければ続けるほどスキルは増えていくし、そのスキルが限界を超えて次の段階に進化、又は派生する事もあるのよ?そういう訳だから何も経験のない貴方達が、色んな貴重なスキルを持っているというのは本当に特殊なの」

「ってことはさくらって私達以上に規格外?」

「な、何でよぉ~、ステータスの値だってみんな規格外だって言ってたじゃない!! それを言ったら私、皆に比べてステータス低いもん!!」


 レイナの言葉を受けて紅葉が視線をさくらに向けると、さくらは慌てた様にステータスプレートを見せながら弁明するが、完全に説得力皆無なステータスプレートに全員がジト目を向ける。

 それもその筈、確かに接近戦闘と言う一点に注目すれば誰よりも戦闘能力は低いだろう。だが、それは最前線で敵を相手にしたときの話だ。後方で前線を戦う仲間へのサポートとして魔法を放ち、さくら自身への接敵を許さなければどうだろうか。確実に斗真達を越える能力を持っていることは明白である。しかも、さくらの強みはそれだけでは終わらない。斗真達が持たない索敵能力と治癒能力を持っているのだ。スキル構成を見れば完全に後方支援型として優秀を越えたチート過ぎる能力のオンパレードといえる。

 つまり、斗真達の回答は無言の圧力となる訳だった。そんな斗真達に怯えた様子のさくらは後退りして無意識のうちに守の後ろに隠れてしまい、守はそんなさくらに苦笑いを浮かべるのだった。

 レイナはそんな救世主一行の様子に微笑ましそうな表情を浮かべながら手を叩いてから注目を集めると、説明の続きを始めることにしたようだ。


「さくらちゃんが、皆の中で最強なのかは午後の訓練で確かめてみてね。今は説明の続きよ。 まだ話してないのは、称号。これは何かを成し得た人間のみが与えられる常時発動型のスキルと考えていいわ。基本的に称号は一つとされていて、称号持ちは条件さえ整えば意識せずともその効果が発揮されるの。普通のスキルでは成し得ないことすら可能にすることから称号持ちはそれだけで一目置かれるようになるくらいなのよ。みんなが持っている救世主がどのような効果を発揮するのかは、実際に発動するまで分からないけれど、相当強力なものであるはずよ。それに関しても今後調べる必要はありそうね」

「……最後は魔法について」

「アウラちゃん、大丈夫?」


 とても心配そうな表情で、アウラにそう尋ねるレイナ。全員が何故そんな事を聞くのだろうかと様子を見守っていると、アウラはレイナの言葉に小さくコクリと頷きを返すと、ゆったりと口が開かれた。


「魔法とは……自身の身体を巡る魔力を体外に放出する行為のことを言う。つまり、スキルに表示されているような火魔法や水魔法と言う表現は実際には適切ではない。あくまで、人が行うのは魔力を体外に放出する行為。それに加えて、詠唱と呼ばれる言霊によって世界へ呼びかけ、世界の魔力と自身の魔力を組み合わせることで、魔法陣を形成し、それをステータスプレートで言う魔法と成す。つまりは、人が行うのは体内にある魔力を外へ吐き出す行為だけであり、人知を超えた事象が目の前で起きるのは世界が人間の言霊に呼応し」

「アウラちゃ~ん、大丈夫ってそう意味じゃないのよ?初心者でも分かり易く魔法について説明できるって意味だったの。説明が足りなくてごめんなさいね?でも、魔法学会での注目トピックスに上がって協議中の内容をこの子達に話しても全然意味が分からないと思うから、幼稚園児でも分かるようなとっても分かり易い魔法の説明してくれる?」

「……ん」


 アウラ額内を開けてからと言うもの全員がポカンとした表情で完全に右から左に垂れ流していた斗真達がレイナの言葉を切っ掛けに我を取り戻す。そうしていると、レイナの言葉に頷いたアウラがまた、ゆっくりと口を開いた。


「詠唱する、魔力を注ぐ、魔法陣が現れる、発射。以上」

「いや、簡略化しすぎだろ!? 逆に幼稚園児でも分からねぇよ!?」

「なるほど……。つまり、魔法の原理としては詠唱で世界に協力を要請して、魔力を放出、そのまま一定量の魔力を放出すれば魔法陣が完成。魔力の放出を止めれば自動的に魔法が完成して発射されるってこと、かな」

「え?今の説明でどうやったらそこまで理解できんの?」


 難しい表情で顎に手を当てながらそう呟くさくらに目が点になる斗真。そしてほかの面々も驚いた表情でさくらを見つめる。そんな視線に気が付いたのか、さくらは急にアタフタし始めると、さくらの目の前には今まで表情を変えなかった筈のアウラが目を輝かせてさくらを見つめていた。


「え、え~と?」

「その通り。つまり魔法とは世界と人間が織りなす奇跡ともいえる。人間の言葉に世界が答えてくれるからこその魔法」

「ん~と、つまり、世界と人間の繋がりが魔法と言う形にして現れる……あれ?そうなると、世界と密接に繋がることが出来るのなら……」

「っ!? そこまで、考えが及びますか!! そうです、世界との繋がりをさらに強固にすることが出来たのなら、魔術師としての境地、魔術師であればだれもが目指す事象、無詠唱が可能となるのです!! そこまでの境地に至ったものは今まで過去の文献を見ても現れていませんが、この説が正しければ、無詠唱は確実に存在し、それどころか」

「はいはい、そこまで。さくらちゃんも、アウラちゃんを煽らないの。こうなるとアウラちゃんは周りが見えなくなっちゃうから。その話はまた時間のある時に二人っきりでしなさい、周りの人達が置いて行かれてるでしょ?」

「……む」

「あ、あはは」


 ヒートアップしすぎて口調が変わって来たアウラの首根っこを掴んでさくらから引き剥がしたレイナに、あからさまに不機嫌な様子のアウラと、周りを見てバツが悪そうに苦笑いで頬を掻くさくら。不満そうな表情のアウラが少し不憫に思えたのか、さくらはこっそりと後でまた色んなお話しようねと呟くと、アウラの表情は見るからにパァと輝いて首がもげるのではないかと言う程に縦に振って答えた。

 そして、時間もいい具合にお昼となったので、休憩を挟むことになり、昼食を取って少しの休憩の後でまた、午前中と同じ面々が訓練場に集まっていた。


「それでは午後の訓練を始める。実際に体を使って剣や弓の扱いと魔法を体験してもらうのだが、先に君達へ渡すものがある。それが、午前中に斗真君が気にしていた武器だ。本来であれば王都で保有している武器倉庫の中から自身に見合った武器を選んでもらうのが通常だが、王女様より君達にはこれを渡せと言われている」


 そう言って、エドウィンを含めた三人が斗真達の目の前で掌を開けると、そこには指輪があった。武器を渡すと言いながらなぜ指輪なのかと疑問に思いながらもそれを受け取る斗真達。

 それに対して、理解が及ばないのも仕方のないことだと三人は斗真達から少しだけ距離を取って、斗真達と同じリングの填められた指のある手を正面に翳す


「「「魔装展開!!」」」


 そう唱えた瞬間に三人がそれぞれ光に包まれ、その光が収まると先ほどまで訓練着だったエドウィン、レイナ、アウラの三人は色違いの甲冑に身を包んで、その手にはそれぞれ剣、弓、杖が握られていた。


「これが固有魔装と言うものだ。王都の中で認められた者だけが手にできる個人で所有する防具と武器。このリングが使用者の特性を検知してその者に合った武具を生成、具現化させる。原理については聞きたければアウラから聞いてくれ。私は一度たりとも聞こうとは思わなかったが……。斗真君の疑問を解決できるものだとは思うのだが、結果は見てみないことには分らん。試してみてくれ。因みに私は見ての通り剣士だ。午後の訓練は職業が剣士である、御剣彩音君、狩谷守君、火野紅葉君を私が担当することになる」

「私は弓術士。さくらちゃんと斗真君を担当することになるかな?」

「最後は私。魔術師。全員の魔法に関して担当する」


 固有魔装についての説明が終わるとエドウィンは斗真達に魔装を展開するように促した。斗真達は不安げな表情ながらも、どんな武器が自分に適しているのかを想像しながら自分の職業と目の前にいる三人が持っている武器を参考にして形を決めていく。

そして、全員が大体イメージが整ったことを伝えると、初めての経験に緊張が走り始める。


「行くぞ……」

「「「「「魔装展開っ!!」」」」」


 斗真の掛け声に合わせて全員がリングを掲げると、それぞれに眩い光に全身を包まれ、体が軽くなるような感覚に身を任せているとほんの数秒でその光から解き放たれた。そして、それぞれに手にしたものは。


「私は、剣と盾、ですね」


 想像したものとは違っていたのか、少し戸惑い気味の彩音が手にしていたのは、純白の刀身に金の柄の片手直剣と、同じく純白の中央に金の文様が描かれている、片手用のラウンドバックラーだった。そして、彩音の纏った衣装もシンボルカラーと言わんばかりの純白に包まれており、七部袖の袖部分が広がっている金の刺繍が入ったワンピースに、腰には金色のバックル、そして肩にかけられた純白のマントを止めるための紐は胸元で蝶結びなっておりワンポイントとして可愛らしく結ばれている。まさしく純白の美少女救世主と言わんばかりの風貌だった。


「う~ん、まぁ、こうなるわよね」


 紅葉は手に持った自分の身長ほどもありそうな大剣を嫌そうな表情で見つめていた。怪力ステータスと職業を見た時に大体の想像は出来ていたが、隣の彩音と比べるとどうしても気になるらしい。しかし、紅葉の自己評価は置いて置き、真っ赤に染まった刀身は紅葉のポニーテールとマッチしており、刃幅は30cm弱くらいあるだろうか。そんな重量がありそうな剣を両手でしっかりと持つ紅葉の衣装は彩音とは違い、動きやすさを重視したのか、ノースリーブの黒いシャツに白と赤を基調とした袖なしジャケット、下は上に合わせた色合いのスカートだった。元気印の彼女にピッタリな衣装と言えるだろう。


「僕は想像通りかな」


 ロングソードを眺めながらそう呟いたのは守だ。長さは地面にロングソードの先端をつけて守の胸ほどまである。紅葉の大剣と違って刃幅は短いものの、鋭さや切れ味は何倍も良さそうな雰囲気を持つ鉄色のロングソードは彼の衣装にも合っている。青を基調とした服に身を包んでいて青と白が織り交ざったズボンに胸を少しはだけたシャツの上からジャケットに身を包んでいる。更に、間接部分を守るためか肩、肘、膝の各所には鉄のプロテクターが設けられており、イケメンならではの衣装と言っても過言ではないだろう。


「な、なんか私だけ雰囲気が違うような」


 さくらの衣装は、オフショルダーで大きく胸元を露出させた、ふわふわしたトップスにミニスカート。際どいスカートの短さを守るように、後ろからスカートを覆うアウトスカートが取り付けてあり、水色と白が基調となっている。腕にはシュシュのような物が付いていて、戦闘服と言うより女の子らしく、何よりさくららしいふわっとした衣装。手に持っているのは弓術士ということもあって、水色に白いラインが描かれたアーチェリー。弦の部分はどういう原理か光り輝いていた。


「……これはどういう反応をしたらいいんだろうな」


 斗真は自分の格好と言うよりも、手にしている武器を見ながら困ったようにそう呟いた。確かに斗真が手にしているのは銃で間違いない。間違いではないのだが、そのフォルムがあまりに異様過ぎて反応に困っているのだ。斗真の両手には二対の純白の銃が握られており、大きさは元の世界で見たことも無いような大型口径。銃身は軽く60cmを越えており、それだけでも異様と言えるのにも拘らず、更にフィンガーガードのすぐ傍から銃口までを走る刃が取り付けてある。銃は遠距離武器だと言うのになぜ刃が付いているのか疑問しか浮かばない。因みに格好は彩音とお揃いで純白の衣装となっており、白いシャツの上から彩音が突けているマントの代わりにアウトコートを羽織っている。

 取り敢えずは第一段階をクリアした斗真達が三人に視線を投げ掛けると、斗真達を満足そうに見つめる三人の姿があった。


「それでは、これから訓練を始める。最初は武器の扱いについて、その後で全員には魔法を体験してもらう」

「「「「「分かりました」」」」」


 こうして斗真達の訓練が始まる事となった。

 まだ、戦闘のイロハも知らない斗真達は、教えに対してそれを確実に行って行くことだけを考えて体を動かしていくが、訓練を始めた直後に教育監督として斗真達の訓練に付き合っていた三人は、知らず知らずの内に笑みを浮かべていた。

正直な話、教育者として選ばれた三人は救世主とは言えまだ子供、さらに言えば戦闘に関わったことの無い平和ボケした人間だと理解していた。だからこそ、王女の決定にはとても疑問を抱えたのが事実だ。しかし、王女の決定を覆すような発言権を持たない三人は、ある程度簡単にステータスの説明をして、少し訓練で戦闘の難しさを知れば、きっと嫌気がさして訓練から手を引くだろうと思っていたのだ。

だが、目の前の光景を見たらどうだろうか。いや、ステータスプレートを覗いた時にある程度予感はしていたのだが、実際に目の前で見せられるともう笑うしかない。今日の朝に、ある程度のステータスについて説明をして、今さっき武器を手にしただけの子供がたったの一瞬で、化け物へと変貌したのだから。

そうは言え、今の斗真達と三人が戦ったところで負けることはないだろう。だが、三人は斗真達の姿を見て悟った。近い将来彼らに追い抜かされる、いや、もう既に自分達の足元に彼らの手が掛かっており、訓練を続ければ確実に数日で自分達を追い越してしまうことを。

 だが、不思議と嫌な気分ではなかった。むしろ彼らの行く末が見てみたいと本気でそう思ってしまうくらいに彼らの強さは尋常ではなかった。だからこそ、彼らなら成し遂げてしまうのではないかと期待してしまう。自分達が成し得なかったことを彼らならと。

 それを切っ掛けに、三人はそれ以降斗真達の教育係を勅命され、斗真達の一番近くで成長を見守ることになる。








それから一月が経ち、武器と魔法の扱いに慣れた斗真達は初めての実地訓練に参加することになるのだった。


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