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CASE4-3 犯人との対話

 答えから言えば、次に行くべき場所は門田木市国際コミュニティホールだ。

 そこには大展示場・中展示場・小展示場とあり、収容人数の合計が八千人とされている。手紙に書かれていた数式と一致するため間違いないだろう。

 そして『中』が丸で囲まれていたため、指示された場所は中展示場になる。閉館日ではなかったが、現在は使用されていないようだ。

 未使用であれば基本的に出入りは自由になっている。中に入ると、昨日まで即売会をやっていたことが嘘に思えるほど物寂しい空間が広がっていた。


「監禁場所……ではないな」


 使われていなくてもホール事態は通常営業なのだ。人が来る可能性だってある。

 しばらく展示場内を歩き回ってみると、封筒こそ見つからなかったが、非常口付近の壁に目立たないように新聞の切り抜きが貼られているのを発見した。まだ真新しい。誘拐犯が残したものだと思ってよさそうだ。

 切り抜きは十一桁の数字だった。

 暗号ではない。携帯の電話番号だ。それも見覚えのある番号だった。


「これ、シャーロットの携帯か」


 アドレス帳を開いて確認すると完全に一致した。


「かけろ……ってことだろうな」


 アドレスの電話番号をタップする。朝かけた時は繋がらなかったが、今度はしっかりとコール音が聞こえた。頃合いを見て誘拐犯が電源を入れたのだろう。

 コール音が途切れる。

 繋がった。


『いよぉ、杜家偵秀。謎解きゲームは楽しんでもらえたかぁ?』


 電話に出たのはシャーロットではなく、ねっとりと下卑た口調の男性だった。やはりゲーム感覚で偵秀を振り回していたようで、電話の向こうでクツクツと不快な笑いを漏らしている。


『予想より早かったなぁ。ちょいとショックだぜ。俺程度が頭を捻ったくらいの問題じゃ名探偵には簡単すぎたか?』

「葛本尚志だな?」


 偵秀はその声だけで嫌悪感を覚えつつ、予想していた誘拐犯の名を口にした。


『おっと、もう俺の正体はわかっちまってんのか。つまんねえ野郎だぜ』

「俺に恨みを持っていそうで、まだ警察に捕まってないのはあんたくらいだからな」


 先日、偵秀が解決した誘拐事件の犯人が葛本尚志だ。直接会ったことはないが、警察の資料を閲覧したことはある。元プロボクサーで、一度負けた相手は反則技を使ってでも徹底的に叩き潰していた凶暴な男だ。

 偵秀のことは当然のように根に持っているだろう。迷惑な話である。


『そうそう、それだ。恨み恨み。てめえのせいでせっかく入念に用意して捕まえた俺のヨメを可愛がる前に手放すことになっちまったんだ。しかも面倒臭えことに警察から追われる身になっちまったしよぉ。……ぶち殺してやりてえよ、ホント』

「黙れ、ロリコンが」

『誉め言葉だなぁ。可愛いものを愛でてなにが悪い?』


 気持ち悪いことに葛本は開き直っている。下衆な喋り方が耳障りで今すぐ通話を切りたいところだが、まだ確認をしていない。


「シャーロットは無事なんだろうな?」

『当然。まだなぁーんも手出ししてねえから安心しな。つか、こんなナリでこいつ高校生かよ。ハハハ、いいねぇ。このまま成長しなけりゃ一生可愛がってやれんのによぉ』

『その電話、もしかしてテーシュウですか!?』


 と、遠くからシャーロットの声が聞こえた。ガシャガシャと金属音も響いている。葛本が警官から奪った手錠を嵌められているのだろう。


『お願いします! 代わってください!』

『うるせえ! 今は俺が喋ってんだ黙ってろ!』


 パァン! と銃声が一発。


「おい! 今撃たなかったか!?」

『落ち着けよ、杜家偵秀。当てちゃいねえよ』


 そう言えば葛本は拳銃も奪っていた。手錠を嵌められたままではバリツは恐らく使えない。葛本がその気になればいつでもシャーロットを射殺できるのだ。


『ちょっと!? いきなり撃っちゃ危ないじゃないですか!?』

『黙れっつってんだろ!? だがまあ、これで無事なことはわかったか?』


 下卑た笑い声を零し、葛本は偵秀に告げる。


『さぁて、このお嬢ちゃんをキレイなまま返してほしけりゃ、俺の下まで来ることだ』

「……どこに行けばいい?」

『さてさて、問題でぇーす。ここは一体どこでしょうか?』

「……」


 まったく舐め切っている。

 電話からのヒントは音しかない。


『テーシュウ来ちゃダメでむぐぅ!? うーっ!? うーっ!?』


 シャーロットがなにか喚こうとしてくれたようだが、葛本が口を押さえたのか唸り声しか聞こえなかった。

 偵秀は目を閉じて集中する。葛本が問題形式で出してきたということは、なにか特定できる音があるはずだ。

 なにか、なにか、なにか。

 なにか。


        キーン

            コーン

                カーン

                    コーン


 聞こえた。

 幻聴でなければ間違いない。この間延びした独特なリズムの音は――


「学校……だと」

『正解正解大せーかい! お前の学校だ。第二グラウンドの倉庫まで二十分以内に来い。一分遅れるごとにこのチビ可愛いお嬢ちゃんが恥ずかしい思いをすることになるぜ』

「二十分って、ふざけ――」


 プツリと一方的に通話を切られた。コミュニティホールから明瑛高校までとなると、歩いて四十分。自転車があるとはいえ、急がなければ間に合わない。


「チクショウ!?」


 何度目かの悪態を吐き、偵秀は即座に踵を返して全力で駆け出した。


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