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CASE3-5 コスプレチェンジ

 誤算だった。

 コスプレとはそもそも、目立つものである。


 男性用貸衣装コーナーで係員にできるだけ地味なものを要求したのに、煌びやかな装飾が施された白装束にサンタクロースのようなたっぷりとした髭、さらには天使の輪っかまで差し出されたのだ。

 係員の大学生は「超似合う」とサムズアップしてくれたが、偵秀にはこれがなんのキャラかさっぱりわからない。チェンジを要求すると、係員はなにを血迷ったのか魔法少女の衣装を持ってきたのでこの神様的なコスプレで我慢することにした。


「お待たせしました。これが自分の渾身の衣装であります」


 女性用の特設更衣室から最初に出てきたのは、西部劇の保安官のような格好をした水戸部刑事だった。ノースリーブのトップスは胸を強調するように押し上げられており、くっきりと形成された谷間と超ミニのスカートから覗くスラリとした美脚が目に眩しい。頭にはテンガロンハット、腰のベルトには二丁の拳銃を提げているが……モデルガンだろう。いくら刑事だからと言って本物を持ち込むわけがないと信じたい。

 スレンダーな彼女には似合いすぎていて、親戚でなければ危うく見惚れるところだった。


「どうでありますか、シュウくん?」

「気合い入れてるだけあって似合ってるよ、芳姉」


 思い出した。これは彼女の口調に影響を及ぼしたキャラクターだ。偵秀も昔このキャラが登場するアニメのDVDを何度も見せられた記憶がある。ちょっとトラウマになっていて顔が一瞬引き攣ったのは内緒だ。


「こ、コスプレって初めてですけど、思ってたより恥ずかしいですね」


 次に更衣室から出てきたのはシャーロットだった。

 魔法使いのような黒マントにウサギ耳の帽子、両手で握ったダンボール製の物騒な大戦斧には見覚えがある。会場の入口でマスコットキャラ役でもしているように立っていた着ぐるみ――魔装探偵ミスティだ。

 とたたたた、とシャーロットが小走りで偵秀の下へとやってくる。


「えっと、テーシュウ……変じゃ、ないですか?」


 恥ずかしいのか少し頬を朱に染め、もじもじとしながら上目遣いで彼女は偵秀に訊ねた。


「なにを恥ずかしがってるんだ? お前は普段からコスプレしてるじゃないか。探偵の」

「あれはコスプレじゃありません! ユニフォームです!」


 似合うかどうかと問われれば、はっきり言って似合っていない。特に大戦斧がアンバランスすぎる。人によってはそのギャップがいいのかもしれないが。


「ね、ねえ、ちょっとこれ際どくない? なんかスースーして寒いんだけど」


 最後に更衣室から出てきた美玲は――メイド服だった。ただ恐ろしく布面積の少ないメイド服である。フリルはたっぷりだが、半袖で胸元は大きく開き、へその数センチメートル上で途切れている。ミニスカートもちょっと風が吹けば中身が見えそうだった。


「お、お前、よくそんなの着たな」

「仕方ないでしょ。他にサイズの合う服がなかったのよ。……胸の」


 顔を赤らめて自分自身を抱き締める美玲。その盛り上がったFカップはやはり伊達ではなかったらしい。非常に目のやり場に困る。


「似合っているでありますよ、美玲氏」


 ぐっといい笑顔で水戸部刑事は親指を立てた。歴戦のコスプレイヤーは羞恥心というものをどこかに置き忘れてしまったのだろう。


「ていうか、テーシュウのそれなに? どっかの神様? あははは、お爺ちゃんのコスプレって全然似合ってないにゃー」


 思いっ切り笑われた。否定はしない。偵秀自身もこの格好にはいくつも疑問があるのだ。無知のまま選べば恥を掻きそうだったので係員に頼んだわけだが、これなら自分で選別すればよかったと少し後悔する。


「魔装探偵ミスティの天空神ゼウスでありますね。原作に忠実であります」

「はい、こうして見るとテーシュウってかなり似てますよね。あれ? 美玲さんも知ってるんじゃ……?」

「ほわっ!? そ、そうだね。うん、似てる似てる! よく見たらすっごい似てた! 髭の辺りとか!」


 納得した。知る人から見れば偵秀は本当に『似合う』ようだ。気になったのでスマートフォンで画像を調べてみると……気持ち悪いほど瓜二つだった。


 ピンポンパンポーン。


 間の抜けたチャイムの音が会場内に流れた。


《これより『門田木こすぷれフェスタver7~謎を解いて豪華お宝ゲットだぜ!~』を開催いたしまぁす。参加者の皆さんは大展示場中央ステージに集まってくださぁい!》


「お、始まるでありますね」

「テーシュウ! 謎解き勝負です! 今度こそ負けませんよ!」


 張り切って中央ステージへと掻けていく水戸部刑事とシャーロット。二人の背中を眺めながら美玲が苦笑を零した。


「いやはや、シャロちゃんのあの自信は一体どこから湧いてくるんかね?」

「ポンコツ脳が学習も制御もせずに生成しまくってるんだろ」


 でなければあのポジティブさは説明がつきそうになかった。

 もっとも、それが偵秀には少し眩しく映ってしまうわけだが……。


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