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CASE3-1 シャーロット・ホームズの朝

 シャーロット・ホームズの朝はランニングから始まる。

 早朝五時には目を覚まし、ランニングウェアとハーフパンツに着替えてホテルを出る。

 軽く屈伸やアキレスケンなどの準備運動をし、大きく息を吸ってから一歩踏み出した。バレッタで留めたポニーテールの長い金髪が走る度にぴょこぴょこ揺れる。

 コースは特に決めていない。故郷のロンドンなら何通りかコースがあるのだが、留学して数日の門田木市には土地勘がないため心の赴くままに走ることにしている。


「今日はこっちの道を行ってみましょう」


 昨日は北区→西区→南区→東区と反時計回りに市内を回ったので、本日は逆方向から攻めることにした。毎日軽く二十キロメートルは走らないと走った気になれないホームズ家最強のお嬢様である。


「ほわぁ、焼き立てのパンのいい匂いがします」


 ふらりとコースアウト。

 匂いに釣られて東区のパン屋『サンミルズ』の前までやってくる。が、ランニング中は財布を持ち歩かないことを思い出してがっかりと肩を落とした。そもそもまだ店も開いていない。仕方ないので香りだけご馳走になろうと数分間その場で足踏みしていると、店から優しそうなおばさんが出てきてパンを一個サービスしてくれた。

 おばさんにお礼を言ってその場を立ち去る。

 焼き立ての香ばしさに我慢できず走りながら齧りつく。漉し餡の菓子パンだった。羊羹大好きなシャーロットは当然餡子も大好物である。口の中に広がる幸せの甘さに思わず破顔した。


「む? なんだか愉快な音楽が聞こえます」


 またもやコースアウト。

 南区の公園にお年寄りたちが集まってラジオ体操をしていた。楽しそうだったので割り込み参加する。小さい体でぴょんぴょん跳ねる孫のようなイキモノの乱入にお年寄りたちはもうテンション爆上げ。昇天する勢いでラジオ体操を三セットもやってのけた。

 体操が終わった後もしばらくもみくちゃにされ、羊羹や大福やお煎餅までいただいてしまった。

 毎朝この公園でラジオ体操しているらしいお年寄りたちにまた参加する旨を伝え、手を振って立ち去りランニングに戻る。


「あ、猫さんです!」


 西区で視界の端に野良猫を発見。もちろんコースアウト。

 野良猫は人に慣れているようで逃げることはなく、シャーロットに顎を撫でられてゴロゴロと気持ちよさそうに唸っていた。すると、そこへ大型犬を散歩させていた人が通りかかる。吠えられた猫が驚いて道路に飛び出した。しかもタイミングが悪いことに自動車が走って来る。

 咄嗟にシャーロットも道路に飛び出した。撥ねられそうになっていた猫を抱え、突っ込んで来た自動車の衝撃と同じ方向に自ら体を流し、ボンネットで受け身を取って着地。大型犬の飼い主と車の運転手が慌てて駆け寄って来るが、シャーロットも猫も無傷だった。

 車の運転手が救急車を呼ぼうかと訊いてきたが断り、一応名刺だけを貰ってその場を立ち去る。


「う~ん、今日もいい朝でした」


 北区のホテルに帰ってぐっと伸びをする。

 シャワーを浴びて汗を流し、学校の制服に着替える。探偵七つ道具がしっかり鞄の中に入っていることを確認すると、再びホテルから出て目的地に向かって歩く。

 学校に――ではない。


「グッドモーニングです! テーシュウのママさん! シャーロット・ホームズです!」


 そこはホテルから直線二百メートルほどの距離にある、杜家偵秀の自宅だった。


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