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ふたりの  作者: ももきちうね
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しりとりしよう


読み終わった小説をパタンと閉じたら、もう午後の授業が始まっていた。

ふとまわりを見ると、水を打ったように静かになっている。

集中してたから気付かなかったな。こんなに静かだもんね、読書もはかどるわけだ。

というか、誰か教えてくれればいいのに……もう授業時間の三分の一は終わろうとしちゃってるよ。



それにしても、なんだか忙しないな、と思う。

朝早くに起きて当校、お昼まで勉強をしてご飯、少し休憩してまた勉強、帰ったらまた勉強、そして寝る。

こんな毎日じゃ、何かに追われているみたい。

何かって、それは勉強なんだけど。


ぼうっと教室の前の方を見ると、数学の先生が黒板にグラフをかいているところだった。

ああ、コサインのグラフね。あの緩やかな「ひ」の形をしてるところが素敵だよね。低反発マットが沈んだような感じで。

なんてどうでもいい感想を思い浮かべながらゆったりとノートを机から取り出す。


「玉村っ、玉村っ。小説終わり?」


そう聞いてきたのは、隣の席の田中くん。運動神経は良いのに部活をやってないことで有名だ。高校三年生の秋にもなると、もうみんな部活は終了しているからやってないのは当たり前なんだけど、田中くんは三年間一度も部活をしないままだったらしい。

私たちの高校では生徒の九割九分が部活に入っているのに、一体なぜなのか。その理由は特に追求したことがない。けど、田中くんのことだ。きっと面倒だったとか、そんなところだろう。


「ねー、終わった?小説!終わったら遊ぼうよ」


口の横に手をあててコソコソと小声で話しているつもりなんだろうけど、かなり目立つ。そんなに元気をもて余してるなら運動部に入ればよかったのに、と本気で思う。


「え、今、数学の時間なんだけど」

「絵しりとりね、絵しりとり!」


私の話を聞いちゃいない。

田中くんは嬉しそうにノートの最後のページを破って、いそいそと何かを書き込み始めた。


「……ほんとにやるの?」

「はい、見つからないように渡せよ」


私と会話をする気のない田中くんが、二つ折りに畳んだ紙を投げてよこす。

仕方なく紙を開くと、左上には力強い筆圧でかかれたウサギ?らしき何かがいた。

あ、しりとりの「り」から始まらくてもいいんだ。

横から田中くんの早くしろと言わんばかりの視線を浴びて、なんだかつらい。渋々とペンを握って、おそらくウサギであろう物の隣に、小さく絵をかく。

先生が目をそらした隙に、隣の机へ放り投げる。

田中くんはまるで飼い主にボールを投げてもらった子犬のようにそれに飛びつく。

「田中くん、黙っていたらわりとかっこいい部類に入るんじゃないかと思うんだけど、子どもっぽいところが残念だよね」とまわりの子たちがよく言っている。

でも、こんな姿を見ると、子どもっぽいというより子犬っぽい、の方がしっくりくるような。


隣からは、「えっ、牛肉?うまっ。玉村、絵うまっ」と呟く声が聞こえる。

うん、私、実は美術部なので、一応いろいろとかいたことがあるんです。でも、こんなに純粋に誉めてもらえると結構うれしい。田中くん、ありがとう。


次に投げてきた紙には、牛肉の隣に靴がかかれてあった。

革靴っぽいけど、「く」で始まるから靴であっているはずだ。

その後は、私が積み木をかいて渡すと、田中くんは黄身をかいて返してきた。

田中くんの絵は特段うまいというわけではないけど、分かりやすい。黄身は目玉焼きをかいて、真ん中の盛り上がった部分に矢印を指していた。


ちょうど、といったら何がちょうどなのか分からないけど、私がその黄身を眺めているときに、授業の終わりをつげるチャイムがなった。

田中くんは「あー楽しかった!」と言って私から紙を奪うと、かなり満足げにそれを近くの友達に見せびらかしている。

ちょっと田中くん、まだ先生いるから。田中くん。

私は普通に授業をうけるよりも体力を使ってしまったのかとても眠い。

あ、お昼ご飯を食べた後だからってのもあるかな。

次は、古文だ。

ああ、休み時間は仮眠しておこう。

古文の先生は流れるように喋るから心地よくて、すぐに眠たくなってしまうんだよね。

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