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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第四章 一節 参人の王
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4.召使の苦悩

《ウォーク》

 病院帰り、王都サンディーノを散歩しつつ、町の様子を見ていく。

 黒龍戦争と神殺しによる天罰――真相を言えば、リオラと王龍の戦いにて刻まれた傷跡はそうそう治るものではなかった。冬を越しても、町の復興作業は健在に続いている。


 冬の間、王宮召使兼王女専属召使(側近に近い)の仕事を辞め、不自由になった身体を機械によって自由に機能させる――機械人ハーフアンドロイドになるための手術と使いこなすための訓練リハビリに徹底した。

 最初はプラトネル国の病院で過ごし、慣れてきた頃には旧友だったアーカイドの経営している龍材屋に移り住むようになった。タキトスとハリタロスの騒音機コンビには悩まされたが、レウもそこに住んでおり、懐かしい空気を住んでいる間、僕は感じていた。

 まるであの頃に戻ったみたいだと嬉しく思っていた時期が僕にもありました。野郎だけで過ごすのも楽しいが、断然王女と過ごす方が良かった。


 冬の期間。一言で言えば、地獄だった。手術の過酷さも尋常ではなかった。ニカロと戦ったときと同じほどの苦痛だったかもしれない。

 いや、それよりも苦痛だったのは、春までずっと王女に会えなかったことだ。


 今、王女は何をしているのだろうか。ちゃんとお勉強につていけているだろうか。お稽古も怠ってたりしていないだろうか。レインたちに過ぎた悪戯をしていないだろうか。ちゃんと好き嫌いせずにお食事を摂っているのだろうか。寂しがっていないだろうか。セクハラされていないだろうか……さすがにこれはない、あったらギロチン逝きだ。

 だけど心配だった。なにより、災龍と関わっていることが不安と不満があって仕方がなかった。今も関わっているかと思うと、いろいろ気持ちが複雑になり、頭が痛くなる。


 一時退職中、王女から毎日来た手紙だけが、僕の生きる希望となっていた。今でもちゃんと保存しているし、酸化して色褪せないようにパックしているから、いつでも新鮮な王女の書き記した思いが読み返せる。


 そういえば、一時期僕がいなくなるから、代わりとして一応同僚のヘディツを推薦させてみた結果、本当に王女専属の召使に認定されたらしい。……が、そこに異動してから僅か三日で元の部署やくわりに戻されたと聞いた。王女の手紙には、過激すぎる緊張に下心が混じった表情と、身の毛がよだつ視線を感じたと書いてあった。

 だから再び王宮に正式に戻った時、王女に会った次に2時間にわたる制裁せっきょう天誅いかりを下した。

 それでも、まだヘディツは王女のことをあきらめていないようだったので、その愚かさを解らせるために社会的苦痛を与えてやろうかと考えているが、それよりも王女のことを考えた方が何倍も幸せだったのでやめることにした。


「今日は降ってきそうだな……」

 今は普通に歩いているものの、自分の腕や脚、一部の内臓は機械でできている。四肢の筋肉も関節も神経も、僕のものではない異物で構成されている。

 外見的にはわからないが、とりあえず、ハンターとしての直感や感覚は失っていないようでよかった。採収材料や天気の臭いや天候の予測はハンター業に精通している者ならば分かることだった。所謂職業病の一つが、施術後でも健在だったのは良かったのか否か。


 そろそろ王宮に戻ろうとしたとき、ある店に目が留まる。

 見たことない店だな、と思いつつ、入ってみると、昨年レウがオススメしていたスイーツ店であることがわかり、店の修理ついでに改築したのだという。

 最近、王女は高級という言葉に飽きてきたという。なんでもかんでも高級じゃあ、何が低級なのかわからないし、国のみんなが食べているものも食べてみたいと駄々をこねていた。贅沢なことだと思いつつ、確かにな、と思う自分もいた。


 せっかくだと思い、今春新しく発売したチョコレートを王女とレイン達3人組、アンヌら同僚数人分を買っては王宮へ戻った。

 案の定、雨が降り始める。すぐに戻ってよかったな。

 早速、王女にチョコを持っていくとしよう。そして、ティータイムで一緒に食べるんだ。想像しただけで今日も満足だ。


 僕は王宮に戻り、王女室のドアをノックしては開ける。

「王女、先程城下町のチョコレート店で新しく販売し――」


 開けた途端、目の前に王女がいた。迫ってきていた。

 そして、胸に飛び込んできた。変な声が出た。お土産を落とした。脳内ショート。昇天しました。


「ウォ―ク! ねぇどうしよう!」

 しかし、何かお困りの様子。話を聞き、助けるべく、僕は舞い上がった意識たましいを取り戻す。

「ふぉあ!? い、いきなりどうしたのですか王女っ! えと、あの……」


 自分でもわかる程、顔は赤くなっていることだろう。憧れの女性が今こうして自分を抱きしめ、泣いて頼られていれば、誰だって戸惑い、同時に喜びを越えた恥じらいを感じるはずだ。


 王女は今日あったことすべてを話してくれたが……。

「国王様がそんなことを……?」

 これは驚いた。僕が定期必須検査で外出している間、そのようなことがあったとは。

「うん……」

 婚約。これは人によるが、王女の場合、あまり喜ばしく思ってはいないようだった。

 謝るかのように頷いた。


「もうそろそろその時期だと思っていましたが……まさか何の前触れもなく勝手に婚約されるとは……」

 喜ぶべきなのだろうが、ここはせめて、心の中でも言わせていただく。

 許すまじ。絶対に許すまじ。


 悩む動作をしながらも、少し悲しくなる感情を表にちらりと見せる。

 婚約者制度は王族にとって当たり前。わかっていたはずだったが、自分の好きな人が他の国の王と結婚するのは嫌だった。


「ウォーク。私、どうすればいいの?」

「どうすればいいと言われましても……王女は結婚したくないのですか?」

 建前で僕はそう言った。正直に言える世界があるならば、「ご安心ください、それが正しい選択ですよ」とでも言いたいとこだった。

「……正直したくないよ……親しくもない、好きでもない人と結婚するのはいやだよ」

「そうですか……」


 王子たちと関わったのは今日で最初。どのような人であるかもわからないというのに、好きになれないのも仕方がない。世間に囚われない王女ならば、国の王であろうと一般市民であろうと同じ目で見るだろう。

 それなら僕と結婚しましょう! とは言えるはずもなく。


「それにリオラが殺されちゃう……」

「災龍討伐。国王様はまたとんでもないことを言い出しましたね。リオラは今療養中でとても戦える状態でもないですし、逃げることも困難。何しろ相手は黒龍対策時の戦力を全力で発揮するつもりでしょうし……」

 冬の前でのイルアとの会話をふと思い出した。


 ――これ以上災龍と関わるべきではない。


 国の存亡にすら関わる運命が引き起こされるかもしれない。それを避けるためにも、災龍狩りは適切なのか否か。

 弱っているときに殺すべきか。いや、僕らは災龍の強さをこの目で見たんだ。返り討ちで逆に皆殺しにされるかもしれない。

 どちらの選択が正しいのか。おそらくイルアの言っていた"選択肢"というのは、ここなのではないか。


「どうすればいいの……」

 もう僕にしか頼れない、そんな目で見つめられる。

 こういうときこそ、頼り甲斐ある、男らしい発言をするべきか。それとも同情か。元気づける言葉か。それかやさしく抱擁するか。

 暫く考え込んだ後、ぱっと明るい表情に切り替えては、話を切り出す。


「いっそ逃げ出しますか」

「えっ」

 意外な提案に王女は驚く。僕も随分と無鉄砲な発言をしたもんだ。

 だけど、これが最も平和な結末を迎えられる選択だ。そう僕は思う。


「リオラを連れてこの地方から出るのです。別地方に私が昔住んでいた教会がありますので、そこにずっと住めば大丈夫ですよ」

 王女と二人きりが望ましいが、王女の想いを優先すれば、リオラも必須。3人なら、まぁ大丈夫だろう。

「でもそんなことしたら……」

 流石の王女でも、躊躇いがあるか。だけど自由になりたいというのは、こういうことなんだ。何かを捨て、何かを裏切る。それが、自由なんだ。


「結婚するのは嫌なのでしょう。そしてリオラを救いたいのならば尚更です。ですが、確かにサルト国王女の行方不明は大事件にもつながります。しかし、私にお任せください。必ず王女を――」

「いつものウォークらしくない」

「……え?」


 耳を疑った。

 無茶な案だとは自分でも思っていた。だが、王女にそのようなことを言われるとは予想だにしなかった。

 声が途切れてしまう。

「……ちゃんと立ち向かってくださいとか言うかと思ってたけど、逃げ出すなんて言い出して……ウォークどうしたの?」

「え、そ、そうですか?」

「うん……でもまぁいいかもね。リオラも救えるし、一番いい方法かも! 明日早速リオラに相談してみるよ」


 結果としては賛同はしてくれた。このあと談笑し、部屋を退室した時に、僕は鼻で溜息をつく。

「……」


 何かが引っ掛かる。

 僕らしくない。

 それは彼女の期待に応えられなかった、ということ。

 自分の馬鹿げた提案に情けと後悔が混じる。

 これが、彼女の望む道だと思っていた。だけど、現実の鎖は思った以上に彼女を縛り付けている。


 いや、考え方が違うのか。

 なんで結婚を勧めなかったのか。ありがたいことだろう。なのに、まるで結婚させたくないかのような提案を持ってきた。

 そうだ、自分は彼女と結ばれたいんだ。だからあんならしくないことを言ったんだ。


「……」

 結ばれたいなら。

 何をすべきだ。どう行動するべきか。

「次は……史学か」

 銀の腕時計を見つつ、王女の今日の日程を頭の中で確認する。一時間ほど専属教師が王女の相手をする。この半義体からだになってから、仕事の数は減ったため、休憩時間が増えた。

 確か今日のこの時間だったら、国軍のレインの町の巡回の仕事も交代して自由時間に入っている頃だ。 

 考え事をしつつ、僕は親友のレインのいる兵寮へと向かった。

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