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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第一章 一節 王国サルト
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5.召使の願い事


《サクラ》

「では、御進行を開始いたします! 国民の皆様は、王族と衛兵の後についていってください!」

 サルト国軍軍帥「コーダ」が拡音石を使い、9千平方メートル近くの大広場「メリス広場」に響くほどの大音声で、その広場にいる全国民に行進を告げた。

 9時ちょうどに、王宮前の大広場で開会式を行った。そして今、国全体の大移動が始まるところだ。

 それにしても、毎年やっているのにもかかわらず、信仰祭においての祝辞のようなものを読んだり、信仰歌を一人で歌うのはやっぱり緊張する。噛まなくてよかった。指導をしてくれたウォークや先生たちのおかげなんだなと、今になって思う。


 それに……。

 このあとも信仰場で舞踊をやらないといけない。王女は本当に大変な地位だ。一日でもいいから民間人になって、自由に街を歩き回りたい。

 でも、今日は唯一外に出ても許される日。だから、今日は思い切って外で走り回ろう! ……としたいところだけれど、移動中は一人乗りの箱の形をした馬車のようなものの中に、ずっと正座で座っていないといけないし、信仰後は宴会をするといっても、王宮内でやることだし、はっきり言って、まともに外の空気を吸えるのは信仰場にいるときだけだ。

 年中王宮に閉じこもっているよりは何倍もマシだけど。


 ふと外を見てみると、この間訪れた光都の街並みが映えていた。太陽の光を反射したり溜めたりする素材が家の壁や道路に使われているため、常に宝石のような輝きを放っている、と聞いたことがある。眩しいほどではないけど、光都に住んでいる人は、目は痛くならないのかな。

 ウォークによく、外に行きたがっているのに自然が嫌いなのは矛盾していると言われる。実際自分でもそう思っていた。

 だけど、お母さんを殺した自然を好きになるなんて、やっぱりできなかった。


 でも……。

 本当はどうなんだろう。私は、外の世界の事を心の底からどう思っているんだろう。


 気が付くと、すでに王国の第三国門から出ていた。外の景色を、その箱の車についている窓から見てみると、辺り一面鮮やかな緑色に地面は染まっていた。

 年に一回しか見ない、活き活きとしたこの草原に、幼いころお母さんと何度か訪れたことがある。普段外に出られない私を、幻想的な世界へと連れていってくれた。その草原でお母さんとよく遊んだ。それがきっかけで私は人に支配されていない、自由な外の世界に憧れを持った――はずだったのに……。


 太陽の光で輝いている、思い出の場所を通り過ぎ、水田や畑が耕されている、国外でありながらも国の領土とされているサルト農村を行列は通った。村の人たちは、その行列の先頭を見るとその場でお辞儀をした。王族の列が通り過ぎた後、その人たちは直ちに農作業に戻ったのを窓越しで見る。

 そういえば、サルト農村の土壌は奉神アマツメの恵みでとても肥沃なんだとウォークから聞いたことがある。どのようにして肥沃な土壌が生まれたのかということもウォークに熱く教えてもらったが、どんなことだったか忘れてしまった。私にとって大したことじゃなかったので、印象に残ってはいない。


 村を抜けると、三つの分かれ道があったが、左の道を行列は進んだ。その道の先には数軒の神社があった。随分と年期の入ったお寺のためか、ものすごく脆そうで、蔦や苔が壁にへばり付いているほど。

 王宮直属の先生の話によると、確かあの神社はアマツメ教の開祖「ティエラ」の弟子たちが築いたらしい。そして、その神社は当時からそのまま残っている。

 今でもそこで修行をするお坊さんが住んでいるそうだが、こんなボロいお寺にどうやって住むのか疑問に思えてくる。

 その何軒ものお寺の奥地には、鉄に匹敵するほどの頑丈さを持つ(といわれる)ハクモの木でできた、大きな門がそびえ立っていた。

 この威圧感を放っている古の門こそが、アマツメ教の本場の信仰地へと続く道の入り口。サルタリス山脈で一番神聖な入り口である。

 王国を出てから30分も経っている。毎年の経験上、この入口から信仰地に着くまで少なくとも2時間はかかるだろう。よく国民のみなさんは歩いていけるよね、と感心する。一応、鳥羽竜が引く、国民用の竜車があるけども、大方は歩いて登山する。私だったら絶対嫌だけれども。


 さて、ここからが長い。何か退屈しのぎになることないかな。

 そう思いつつも結局することはないので、窓に映る自分の嫌いな自然の森を、仕方なく眺めることにした。所々に毛深くてかわいらしい小さな動物や、王宮でも見たことがある草花を見かけた。

 木々の向こう側を見てみると、小さな竜が何頭も一緒に行動している様子が見られた。天候は快晴。正に信仰日に相応しい天気だ。


 坂道が続く。獣道でありながらも、馬車2台分が並んで入れる幅を持つその道は、街の公道のように存在感があった。遠回りのように思われる曲がり道や、ふもとにある農村やサルト国が見える位、崖に寄り添った道を通り、どんどん奥へ進んでいく。時々、前や後ろの方から獣の呻き声や発砲の音が聞こえてくる。

「大丈夫かな、ウォーク……それにレインたちも……」


     *


《レイン》

「うぉりゃぁぁぁああっ!」

 叫びと共に、自慢の大剣で青毛の熊を切りつけた。やっとのことで獣は観念し、その場から逃げて行った。

「くそっ、どいつもこいつも年貢を狙いやがって。クラウ! これで何度目の襲撃にあった!」

 弓を持っているクラウは記憶を思い返すように木々に混じる空を見上げる。頭の中で数えているのか。


「……9回目だ。飛竜1頭、狼竜3頭とその子分23頭、青熊2頭、鳥竜1頭、大猪2頭とその小型の猪13頭、他の列の襲撃回数とこっちの襲撃回数と比べると、明らかこっちの方が多い」

「つまり、奴らは年貢の食糧を狙っているってわけだ。レイン、次もよろしく頼むぞ♪」

「たまにはお前が行けよサニーこの野郎! お前ボウガンもってるんだから援護とかしろし! 他の兵は一般民に襲い掛かっている中型竜4頭を駆除してるから、ここにいる兵はオレら3人だけなんだぞ! それにクラウもさ、頑張っているっちゃ頑張っているんだけどよ、ちっちゃいやつしか倒してないよな?」

 すると、クラウは一度息を吸っては吐きを一度だけ行い、


「……俺はおいしいとこをレインに与えているだけだ」

「いやそんなのいらねぇから! 頼むから平等に仕事しくれ。オレもう疲れがピークに達しているんだよ」

「知るか」とサニー。

「んだとこのやろっ」

「……おい、キレるなよ、また来たぞ」

「淡々と言いやがって! てかキレてねーし。おいサニー! クラウ! たまにはコンビネーション技でいっちょぶちかましてやるか」

「やだよめんどくさい」

「……右に同じく」

 相変わらずこの二人はノリが悪い。今はそれどころじゃないのに。


「ンなこと言ってる場合かよっ、てかこっちに向かってくるやつよく見たら獣竜じゃねぇか! よく冷静にしてられるな!」

「レインが倒してくれるからな♪ 安心安心♪」

「安心♪ じゃねーよっ、これはヤバいよマジでホントに! いいから来い! あのデカブツをぶったおすぞ!」

 二人はしょうがねーなと仕方なさそうな顔をし、レインと並び、目の前に突っ込んでくる大岩のような大きさをし、水牛のような角と苔が生えた背中のコブと、丸い鎚を模した尻尾が特徴の竜に立ち向かった。


     *


《ウォーク》

「……今何かすごい音がしたような……大丈夫かな、前の方」

 窓越しの景色を見ながらつぶやいた。


 僕たち使用人やメイドは、15班に分けて1チーム各5~6人に一台の馬車に乗ることとなっている。ちなみに僕らは3班で、馬車の中には僕を含め5人の使用人がいる。


「お前何独り言言ってんだ? しかも変わった音なんて聞こえないし、気色悪いぞお前」

 僕の隣でそういった同期の男子使用人「ヘディツ」。その向かいにいた同じく同期の男子使用人「アドック」が、言い返そうとした僕よりも先に話し始めた。


「お前の耳は飾りもんか? はっきりと轟音が鳴り響いたぞ。少しはその飾り物に神経繋げろよ」

「あ? なんか言ったかおい」

「ああ、言ったぞ。お前の頭にはカビが生えているってな」

「! ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞオラァ!」

 喧嘩になりそうな展開になるのをアンヌは止めた。


「あーもうやめなって二人とも! なんでこんなことで喧嘩が起きるの? エミリーもなんか言ってやりなって」

「えっ? あっ、はい! えーと……」

「とりあえず、落ち着こう。みんな行事の仕事で疲れているんだよ。だからイライラするのも無理はないよ」


 そう言ってなんとかその場の空気を静めた。やっぱりみんな疲れが残っているんだな。一度沈着した空気の中、ヘディツが最初にその沈着を消した。

「なぁ、お前らは古寺で何をお願いするんだ?」


 その質問に最初に答えたのはアンヌだった。

「やっぱり病気にならずに健康でいられることじゃない? 元気があれば何でもできる! っていう教えがあるでしょ?」

 アドックも答える。


「おれは給料上げてほしいことだな。やっぱり金だろ金。そういうお前は何を願うんだ?」

「俺? 俺は彼女つくることだぜ♪」

「へ~その顔でよく言えたもんだ」

「うるせぇ! 人の願い事にケチつけんな!」

「……あ、エミリーは何を願うの?」

 アンヌの声にその「エミリー」という黄髪のメイドは反応し、挙動不審に答える。


「えっあっはい、そうですね、えーと…………」

 10秒は経ったであろう沈黙。ちょっかいかけそうな顔のアドックや気の短いヘディツがなにも言わずに彼女の言葉を待っていたのは、一目同然、エミリーが可愛いからだ。さらさらとした金髪とくりんとした青い瞳、ぷにぷにとしてそうな頬。体も雰囲気も柔かそうな彼女の魅力にどっぷりはまってしまう男共はこの二人だけではない。


「……か、考えていません。すみませんっ」

「いや、謝られても……」とアンヌは苦笑。「まぁ決まってないのなら信仰地に着くまで考えないとね」

「えっ、あっ、はいっ」

 ただ、新人のエミリーは挙動不審だ。苦手ではないけど、彼女より一つ年下の僕としては話しづらい。

「なんだよみんなして普通の願い事じゃねーか」

「なんだよヘディツ、普通じゃ悪いかよ」

「いや別に?」

「あ、ウォークは願い事決まってる?」

 アンヌの質問に便乗してアドックも言う。


「おっ、そうだった、ウォークの願い事聞いてなかったな。言ってみろよ」

 僕はにっこりとして答える。

「サルト国の繁栄と国民の平和の維持だよ」

「ほんとは?」「……からの?」

「え?」

 ふたりの声が重なって聞き取りづらくての「え?」という意味も含まれている。アドックは口を開く。


「ほんとのこと言えよ。お前らしい答えだと思うけどよ、一番の願いじゃねぇだろ。なぁヘディツ」

「ああ、こいつはウソをついている。そんな聖人のような答えがあるかっ、お前は聖人か? 違うだろ、人間だろ!」

 なんでこんなに熱くなっているのか。でも確かに100%本当のことは言っていない。

 見破るの上手いなぁ。違う答えを言おう。


「今年中にグリス国の特産品のアルグの実を調理して食べることだよ」

「違うっ! しかもアルグの実が使われている料理は王宮でも食べられるじゃねーか! なぁヘディツ」

「ああ、こいつはウソをついている。そんな子供のような答えがあるかっ、お前は子供か? 違うだろ、思春期真っ只中の青年だろ!」


 同じフレーズを使うなよ。心の中で溜息をつく。

 少しは本当のことを言うか。減るものではないし。

「この身体を完全に治して僕の昔の仲間と一緒にいろんな竜を狩猟することだよ」

「……ほぉ、いい答えですね~」

 アドックが感心して頷いている。どこの面接官だよ。

 その一方でヘディツが不思議そうな顔をしている。


「ん? お前どっか怪我してんのか? 全然怪我してないよな?」

 その質問にアンヌが答える。

「知らないの? ウォークは昔、災害に遭って大怪我をして、筋肉や骨に障害ができたんだよ。それが今でも残っているの。その怪我がきっかけで、この王宮の召使になったわけなの。今の年齢で思いっきり走ったり飛んだりする活発な運動ができないなんて、不自由だと思わない?」

「へぇ、そうだったんだ。おいウォーク、そーいうことは隠しておくもんじゃねーぞ」


 隠しているわけじゃなかったが、別に人に言うほどのことでもないだろう。

「ははは、ごめんごめん」


 作り笑いをして誤魔化した。アドックが疑問に思った表情をして聞いてきた。

「でもさ、そんな障害者がなんで王女の召使を担当することになったんだ?」

「障害者って……」と僕は苦笑する。

 アドックの言葉に再びアンヌが答える。


「王女が気に入ったから。しかも仕事は効率よくこなすし、真面目で礼儀正しくて人に愛着があるからって侍女長が言ってた」

 あの侍女長がそんなこと言ってたのか。でも言いすぎだ。みんなが言うほど、真面目ではない。


「お前羨ましいな~。あの可憐な王女と1日中いられるなんて! いいないいなー! 頼む! 後生の頼みだ、替わってくれ!」

 ヘディツが悔しそうな顔をして僕の肩をとって願い乞うた。


「正直、骨が折れるよ」

「それでもいい! 腕を一本やっても構わん! 一生のお願いだ!」

「その一生のお願いは侍女長と国王様に言うんだな」

「ううっ」

「お前下心丸見えだぞ」

 アドックのトドメの一言で力尽きたのか、ヘディツの肩はガックシと下がった。その様子からしてどうやら本気だったようだ。でも百歩譲って僕が許可しても国王が許可を下さないと全く意味がない。

 そんな彼の様子にも気にせず、アドックは外の様子を見た。


「おっ、おい外見てみろよ、渓流に入るぞ」

 外を見てみると、密林のような山内を抜け、視界に入り込んだものはまるで山水画に描かれているような岩山の林がいくつも立ち並んでいた。その岩山の林みたいなものを"タワーカルスト"というらしい。それは炭酸カルシウムから成る、石灰岩の厚い層が高温多雨気候のもとで溶食を受けてきた岩峰だという。

 何にしろ、タワーカルストの絶景はいつみても美しい。


「やっぱりいつみても綺麗だねー。ね、エイミー」

「はい……! とっても」

「ただ高いよなここ」

「案外ヘディツって高いとこ苦手だよな」

「アドック、おまえも暗所恐怖症の時点で人のこと言えねーぞ」

「……」


 昔、アーカイドたちとよく来たものだ。懐かしいな。この渓流に来るのは1年ぶり。王宮の仕事が忙しかったからな。

 それにしても高い。信仰地に続く聖なる道だからと言ってこんな崖っぷちに沿っていくなんて、万が一落ちたらどうするんだろう。しかし、この高地から見える絶景はいつみても感動する。美しい渓流が流れる谷を挟んで、向かい側の山地までも見渡せる。

 王女も同じく1年ぶりだから、きっと今頃感動しているんだろうな。

 そう思いながら、彼女の顔を頭に浮かべた。


 ひとつ、みんなには嘘をついてしまった。願い事。この障害を持つ身体が治ることよりも望むことがあった。叶うのなら、この身体が本当に使い物にならなくなったって構わなかった。あるときからずっと、この信仰祭で願っていること……。

 サクラ王女と両想いになる、これが僕の本当の願いだ。

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