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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第三章 一節 革命の灯が消える刻
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13.超越者と覚醒者 ~散り往く紅は想いを馳せる~

流血、グロテスクな描写が多々見られます。

苦手な方はご注意ください。

《ウォーク》

「……ん?」

 二カロは何かの気配を感じ、目を向ける。

「お、やっと刀を抜けたねぇ~、お疲れちゃーん」

 にぃっと二カロは余裕の笑みを放っていた。


 僕の視界はあいつだけしか映っていない。


 そいつを狩る為に。この命を尽くし、あの驚異を絶つ為。

 何年ぶりだろう、こうやって刀を手にして、本気で相手を狩ろうとした衝動は。


 ただ、今は想いが違う。

 狩るのではなく、守る。ただそれだけの為に。

 みんなを救えるなら、この体が失っても構わない。


 両足、両腕の骨、筋肉と共にかなりの損傷がある。普通ならもう立てない状態だが、どうしてだろう、立てるどころか、痛みさえ感じられない。

 腹部も肉が抉れ、出血が激しく、内臓が少し見えている。頭部は殴られた左頬が赤く腫れ、頭蓋骨に罅が入っている。

 だが、そんなことを気にしている場合じゃない。なにが怪我だ、なにが障害だ。


 そんなもの気にしたところで何になる。

 この体が後でどうなるかはわからない。最悪死を迎えるだろう。

 それでもいい。大切な人――好きな人を救えればそれでいい。


 だから、ここで散ろう。



「――うおっ!」

 僕は折れている足で踏み込み、二カロのもとへ走り、太刀を振る。

 突然の相手の迅速な動きに二カロは驚いたが、バク宙して避ける。そして、急接近する。


「もう一発、殴っておくか」

 グチュッと嫌な音が殴られた腹から聞こえた。殴られた勢いで吹き飛びそうになるが、その瞬間、二カロの腕をつかみ、共に吹き飛ぶ。そして、二カロを壁側へ引っ張り、激突させると同時に、その太刀で二カロの腹を刺す。


「うぅっ!」

 二カロは呻きつつも、僕の顎を蹴り上げる。

 グシャッ、グシャッ、グシャッと不気味な音を立ててバウンドして倒れるが、僕はすぐに体勢を立て直した。


 その瞬間、動体視力では確認できない程の速度で二カロの左フックが襲い掛かるが、僕はそれを視認し、避けた。

 ――はずだった。


「――ごぼぉッ」

 明らかに拳の軌道から避けたのに、まともに背中に左フックを喰らい、吹っ飛ぶ。

 刹那、二カロは僕の傍に来て、踵落としを繰り出す。

 それも避けたはずだった。その追撃の軌道から体が外れているのに、踵の衝撃を受け、叩きつけられる。床に罅が生じる。

 しかし、それと同時に二カロの脹脛ふくらはぎからブシュッと鮮血が噴き出す。


「ハァ―ン、抜かりなく斬ってくるな」

 僕は体勢を戻し、血濡れた地を蹴っては二カロに刃を向け突進する。が、二カロはそれを避けたかと思うと、僕の全身からビシュッと鮮血が吹き上がっていた。

 その人体的運動法則を無視したような動きはまるで水のように滑らかに、風のように素早く。

 それでも怯まない。僕は太刀を床につけ、第三の脚として機能させる。体重の掛け方、身体の使い方を変え、負担がかからない運動をこなしては、次の攻撃に移った。


     *


「……何が、どうなっているんだ?」

 サニーが唖然し、驚きを隠せずにそう呟く。

 さっきまで死に掛けていたウォークが突然立ち上がり、難なくとあの化け物じみた二カロと互角に戦っている。何が彼を動かしたのか、わからぬままだった。

 その問いにタキトスが答える。


「火事場の馬鹿力って奴だ!! こーいう差し迫った状況ができたから、普段にはない力を発揮した!! ウォークも元々はS級の英雄的ハンターだったんだ!! そのときの実力が発揮されたんだろう……だが、それも所詮は諸刃の剣だ。永くはもたない」

 アーカイドがタキトスの台詞を繋げるように補う。


「確かに時間の問題だが、二カロの攻撃だろうが障害の身体だろうがあいつの身体はもう何事にも動じない。あいつの目には二カロしか映ってない。それだけ集中して、闘争本能の『領域』に入っているということだ。……もう一度見るとは思いもしなかったけどな」


     *


《ウォーク》

「――ぬぐぁっ!」

 二カロの横腹を深く斬る。その瞬間、鞭のように不規則な動きをした蹴りを喰らう。二カロは蹴ったまま体を捻り、僕を床に叩きつける。

 僕は叩きつかれた反動で一瞬浮かんだ体を捻り、遠心力を駆使して二カロの腕を斬りつける。


「――ッ、しねよォラァッ!」

 二カロが僕の身体を引っ張り上げ、そのまま投げ飛ばす。その先は、壁に突き刺さったままの十数本の鉄の資材だった。

 僕は体勢を整え、床と平行に刺さっている資材の上に着地し、靴の摩擦で飛ばされた衝撃を緩める。二カロを凝視したまま。

 10メートル先の二カロは、血反吐といっしょに言葉を吐き出す。黒い服の下に着ていた軽量素材の鎧に手を触れながら。


「なんなんだよこいつは――がはっ……ぜぇ、この鎧ごと斬りつけるなんてよぉ……つーか、思い出したぜ。王都で俺にぶつかってきたひ弱な召使野郎じゃねぇか。ヒャッハハ……まったく、テメェもやっぱり……サルト国の奴らと同じ――正真正銘のバケモンだな!」


 二カロは今まで何処に隠していたのか体から白色の両手剣を出した。それを軽く振り回し、ウォークへと剣先を向ける。

「ここまで追い詰められるのも、情けねェ話だ!」


     *


「あいつっ、剣だしたぞ!!」

 タキトスが指を指して言う。

「やっと本気を出したってようね」

「おい!! このまま見てていいのかよ!!」

「ハリタロス、堪えろ。ウォークは本当の意味で全身全霊、『領域』に入っている。俺らから銃とか一発でもあの部屋の中に撃ってみろ。あいつはその瞬間、集中が途切れて再び倒れてしまう。その瞬間を狙ってニカロがトドメ刺すかもしれねぇ。降りるのもダメだ」

「……あのレウとポートを一撃で意識を失くさせたんだ。もう、ウォークしか頼りはいない」

 そうクラウは静かに言う。それをサニーは一瞥し、あのひ弱だった頼りない召使の変わり果てた姿を見つめた。

「見てるしか……ないのかよ……!」


     *


《ウォーク》

「うぐあああああああああああああああああ!!!」

 剣と刀の正面衝突が繰り返される。だが、尋常じゃない速さだ。人間同士がやる剣捌きじゃない。人間業じゃない。

「――ぐっ」


 またあの不規則な動きが繰り出される。

 多少のリーチがなく、攻撃が届かなくても。

 軌道がずれ、外れたと思っても。

 なぜか当たる。当たってないのに、当たる。

 こいつの腕や体はゴムでできているのか。半液状化しているのか。そう推測させるほど動きが人間じゃないかのように滑らかに動く。目の錯覚かと思わせる。


 その鞭みたいな腕の先に繰り出されたのは、いかにも斬れそうな両手剣だった。体が引き裂かれる。はやく、不規則なため、避けられない。

 斬り返そうとするも、二カロはクニャッと曲がり、上流の水流の如く体を接近させ、斬りつける。だが、僕はカウンターで二カロの胸を思い切り刺し、そのまま二カロの身体を太刀で刺したまま持ち上げ、投げ飛ばした。


 二カロは鉄やら石やらの資材の山に衝突し、砂埃が舞う。鉄臭いのは資材の粉末からか。それともこの流れている血からか。


 資材にもたれかかった二カロの胸部からドクドクと鮮血が溢れ、噴き出す。そこからさらに追い打ちをかけるため僕は前のめりになり、走った勢いをフルに使い、腹部を深く刺した。

 そして、右にギチュチュチュと内臓と肋骨ごと斬る。血や肉、内臓が飛び散る。

 当然、その激痛は例えようもなく。


「ぁああああああああああウザッてェンだよくそガキがぁぁぁっ!!」

 二カロは座った体勢のまま剣を僕の腹に突き刺す。

「うあぁがっ!」


 二カロが僕の身体に突き刺した剣を真上に振り上げる。立て一直線に切り刻まれた一筋の傷跡から血飛沫が飛び散る。幸い、傷はそこまで深くなかった。それが決着をつける決めてとなった。


「おうぶ……はがぁっ……ぐぶぅッ……。――?」

 呼吸をするたび血反吐が消化器官を逆流して胃液と共に吐き出される。そのとき、目に着いたものがあった。

 起爆装置。

 二カロの胸あたりに一角を表した起爆装置。僕はそれを取ろうとしたが。


 ――まずこいつを殺さないと。

 二カロは今の攻撃が効いたのか、次の攻撃に移れず、怯み続けた。

 だが、剣を持っていない左手から拳銃を取り出し、僕の顔面に向け、発砲する。


「――っ!!」

 反射的に避け、何とか免れられたが、猶予も与えず二カロは太ももに向け、発砲する。


「ぃぐっ!」

 今度は被弾するが、近距離だったため、僕の足が破裂することなくその銃弾は貫通した。

 その弾が壁に着弾した瞬間、バゴォン! と轟音と共に、壁はただの石へと変えては破裂する。小型の拳銃でも威力は相当のようだ。


 その間に二カロは何発も発砲する。僕は何発か被弾し、肉を貫通される。それでも怯まず、歯を砕き、歯茎が潰れんばかりに歯を噛み締め、呻くように喉を震わしては込めた力を発火させ、拳銃を太刀で二カロの左手首ごと斬り飛ばす。

 清々しいと言えるほど、いとも簡単に斬り落とせた。


「はぎゃがっ! ああぁな……ぐぁあがぎっ!」

 二カロは悲鳴を上げる。同時に、痛みがあとから襲い掛かってくる。僕の膝が崩れる。

 ついた膝からパシャリと音が響く。下を見れば、血が水溜りのように溜まっていた。


 ふと風を感じ、見上げる。

 まずい。

 二カロが立ち上がっていた。その剣は僕の身体に突き刺そうと――。

 このままじゃ脊髄ごと体の中央に穴が開くだろう。

 そうなれば、もう助からない。


「とう、とう……くた……ばっ、た……か……くそガキ、が……っ」


 二カロは血みどろの瀕死になり、ふらふらと体を支えられない状態に陥っても、その右手に持っている剣は1ミリもぶれることなく、僕に向けられていた。


 もう一度だ。ここで終わってたまるか!

 全筋肉よ、細胞よ。

 爆ぜろ。

 その太刀を二カロに向け――そして、互いに刃を突く。

「がぁぁぁあああッ!」

「はぁぁっ! ……ぐぅあ……」

 ほぼ同時に互いの剣が体の奥深くを突き刺し、背中を貫通する。

 どうやら僕の方が早かったようだ。僕が先に刺したことで二カロの剣の軸にずれが生じ、狙いを定めていた脊髄と心臓に深い傷をつけられずに済んだ。


「ぐっ……! ――ああああああああああ!」

「――っ! ああああああああああああ!」

 二カロが僕の身体に刺さったままの剣を動かそうとしている。

 引き抜こうとしていない。奥にスライドさせている。

 冗談だろ。

 自分の身体を真っ二つに切り分ける気か!


 ――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


「ぁぁぁぁああああああああああッ!!!」

 僕は力を振り絞り、ズブズブズブと刺したままの太刀でそいつの肉を鎧ごと斬り上げた。

 太刀の刃が二カロの腹部から右肩に達する。

 そして、ドサッと二カロの血管張った筋肉質な右腕が落ちる。


「ギャアアアアあぁああああっううううぐあああぁあああああぁぁあぁああぁ!!!」

 その号哭は獣のよう。叫び狂う様は、恐怖を煽らせる。

 しかし、それで力尽きたのか、横にゆっくりと倒れる。

 と思ったときだった。


 ――ビュオッ


 それは、風だった。風そのものだと思わせた。

 ただ違うのは、それに多大な質量があったということ。

 二カロが倒れると同時に左足で僕の横腹を思い切り蹴る。それは今までよりも、強く、重い蹴りだった。


 こいつ、まだこんな力があったのか。だが、化物に冗談も常識も通じない。

 僕は一瞬だけの浮遊感と風を感じ、壁に叩きつけられる衝撃、痛みが一気に襲い掛かる。

 ドシャアッ、と床に強く落ちる。

 もう、声すら枯れた。目を開ける力もない。筋肉繊維の一本も動かせない。

 僕の背中には、二カロの右腕とその腕に握られている両手剣が刺さったまま。しかし、その痛みすら感じることはないほど、体は悲鳴をしすぎて、叫び疲れたようだ。もう、感覚がない。


 ああ、なんか呆気なく意識が無くなっていくな。

 このまま、死ぬのかな。

 でももう、大丈夫だよね。みんな助かるよね。

 あとはアーカイドたちに任せよう。

 身勝手なりの独断行動だったけど、悔いはないよ。みんな無事なら。

 だけど、最期にサクラ王女の可愛らしい顔、見たかったな。

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