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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第三章 一節 革命の灯が消える刻
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10.合流、そして暗闇の先の光へ

《ウォーク》

 僕とレウはこの誰もいない長い通路を走っていた。だいぶ走った気がする。僕の身体は既に悲鳴を上げているが、何故だろうか、未だ動けないほどの激痛は来ないまま走り続けている。


「アーカイドとキケノさん、大丈夫かな」

「何言ってんだ、お前が人の心配なんかしてちゃキリがねーだろ。いいからお前は二カロを探して、王女救えばいいんだよ」

「……うん、そうだね……」

 僕はいつも曖昧で、中途半端だ。僕には僕なりのやるべきことがある。レウの言う通りだ。しっかりしなければ。


「つーかよぉ、キケノがいなけりゃどこに行けばいいかわかんねェじゃねェか」

「レウって方向音痴だしね」

「お前も人の事言えねーだろ」

「そんなことないって」

「あったぞ。誰のせいでサトレア湿原から予定より帰国するのに3時間も遅れたんだっけなぁ。あとあんな全体が見渡せるシェイダを一人で彷徨ってみんなに迷惑かけたのは誰だったか? あと、エルベス火山で一人だけ離脱できなくて捜索届出されたのはどこのどいつだったか? あとサルト砂漠で――」

「もういいでしょ!」

 心が折れそうだ!

 というか根に持ってたのかよ! レウのくせにらしくねぇぞ!


「あんときはホンッと、迷惑かけ続けたよなぁ~。ガチで参ったぜあれは」

「そそ、そんなこと言ったって仕方ないことだろ道に迷うのは。あとそれ以外迷惑かけた覚えないし! レウも一緒に迷ったこともあったし!」


「あーあー聞こえね~、何の事だかさっぱり」

「こ、このやろう……」

「つーかマジでどうするよ? ほんとに迷ったぞ」

「えっウソっ!?」


 ああもう、本当にどうしようもない兄弟だ僕たち。

 うう、王宮召使に就いたばかり、何時間も道に迷って時間間に合わなくてクビ寸前だった頃を思い出すなぁ。あれから全然治ってないじゃないか。


「さて、どうしようか」

 立ち止まったレウは腕を組み、僕は屈み、膝に手を当てては息を調える。

 おそろしいほどの長い沈黙の末、編み出した答えは、

「……」

「……」

「……」

「……壊すか」

 やっぱりそーゆう発想いっちゃいますよねーホント。

「おらぁっ!」

 ボゴォン……!


 おらぁっ! ボゴォン! じゃないよ!

 人に聞いておいて答える前に壁壊すとかどんなせっかちだよ。ああ、自分のツッコミの下手さに悲しさを覚える。


「よし、道あったぞ」

「あったんじゃなくて、作ったんだろ」

「なんだよお前、浮かない顔してよお」

「なんかね~まぁ何でもないですよ、ははは」

「棒読みすんな。さっさと行くぞ」

 丁度その時、僕らを呼ぶ声が聞こえた。反響して聞こえてくるあたり、少し距離がありそうだが。読む能力で遠くにいる僕らの存在を捉えたのだろうか。


「この声……キケノさんだ!」

「やっと追いついたか。ったく、あいつら迷子になりやがって」

「迷子になってたのはあんたたちでしょーが!」

 暗い通路の中、キケノさんが遠くからエコー付きのツッコミを入れる。

「聴こえてたのか……」

「嫁にはしたくねぇな」

 そして、彼女の姿が暗闇の中から出てきた。よく見ると、なにかを背負っている。


「ははは、すみませ――ってアーカイド!? 大丈夫なのか、この傷!」

 キケノさんがおぶっていたのは、傷だらけで血みどろの赤髪プロハンターの姿だった。

「大丈夫、そう簡単に死にはしないわよ、この死にぞこないは。まぁ、命に関わるのは事実だったけどね☆」

 キケノさん。そこ、爽やかに笑うとこじゃないです。


「まぁとにかく、無事でよかったわよ。てかいい加減、目ェ覚ましてほしいんだけど……いつまで私に負担をかける気なのよ!」

「わぁキケノさん! 落としちゃダメですって!」

 ごすっ、と傷だらけ(致命傷)のアーカイドが床に衝突する。

 しかし、その衝撃でアーカイドは目を覚ました。


「――あイタァッ! なんだぁ突然。ってあれ、お前ら」

「アーカイド! よかったぁ! 意識が戻って」

 さっきまでの表情とは一変し、目をうるうると潤わせてアーカイドの手を両手で握った。

「よくわからん女だな」とレウはぼそりと呟く。右に同じく。


「……キケノ、お前……わざとらしいぞ」

 アーカイドはじと目でキケノさんを見つめる。この痛みはあいつのせいだな、と把握したような顔をしていた。意識を取り戻したばかりでその推察力、天晴です。


「……っ! 本気よこのバカたれっ!」

「痛っ、叩くな馬鹿野郎」

「バカはどっちよ! ほんとに心配したんだからね!」

 心配してたなら落とすなよ。キケノさんのコロコロ変わる性格はほんとに予測できないっていうか本音がわからないっていうか。

「マジでめんどくせー女だな」とレウ。


「おーい!! アーカイドー!! そこにいるのかー!!」

「――! タキトスか! おーい、こっちだ! 早く来いよー!」

 タイミングが随分と良い。タキトス達もなんとか突破できたようだ。かなりの深手を負ったようだけれど、まだ歩けるほどの体力は残っているようで安心した。クラウやサニーは特にひどいが、なんとか生きていて……。

 ……?

「な、なぁ。レイン、どうしたんだよ」


 まさかとは思うが……嫌な予感がしてくる。

 ポートの背中に担がれているレインに目が行った。

 かなり重傷なサニーが掠れたような声で答える。

「ああ、俺たち、途中で襲ってきたアリ野郎を全滅させたはずだったんだけどよ、一人生き残っていて……撃たれたんだよ。で、気を失ったままだ」

「助かるのか?」

「はっきりいってわからん。心臓部に被弾したからな」

「……そうか」

「すまねぇ。俺らがいながら、全滅させたと思い込んで油断してた……」

「いや、それだけひどい状況での戦いだったんだ。誰も死んでないだけでも奇跡だ。自分を責めるなよ」


 しかし、もし万が一、レインが――いや、考えたくない。助かってほしいことだけを願おう。 なにもできない僕には、それくらいしかできることはないのだから。

 それに反し、レインの顔はとても穏やかだった。こいつ、こんな顔するのか。


「全員そろったことだし、改めて二カロを探そう」

 僕がそう言うと、みんなが「おう!」と答えてくれた。共に先の薄暗い道を歩む。


「なぁ、誰か手ェ貸してくれ。なんか力でなくて立てないんだよ」

 アーカイドはへたり込んでいて、立とうともバランスを崩しては尻餅をつく繰り返し。


あれだけ斬られて血を流したんだ。普通は意識無くなっていてもおかしくはない。世間がS級ハンターのことをバケモノ呼ばわりするのも今更になって頷ける。


 その中に僕も入っていたのが信じられないことだけれども。


「はぁ? 情けないわね~、男としてほんっとに情けないって思わないの?」

 そんな彼に毒を吹っ掛けるキケノさん。アーカイドに対しては本当に厳しいというかドライだな。


「うるせぇな、動けないもんは動けないんだからよ」

「しょうがないわね~。はい、肩ぐらいは貸してあげるわよ」

 さすがにそのような情はありますよね。キケノさんも非道じゃなくて安心した。


「なんだよお前、結局貸すのかよ」

「アーカイドが頼んでるからこうしてるんじゃない! あ~あ、やっぱり私とは嫌なんだ。じゃ、他の人に助けてもらえば?」

「なんだよはっきりしろよ、お前の肩でいいから頼むって」

「……ほんとにわたしでいいの? タキトスとか、もっと力のあるやつ――」

「あ? だからなんだってンだよ。てか貸すなら貸してくれよ」

「わ、分かったわよ……はい、しっかり立ってよ?」


「……なぁウォーク」

 サニーが僕の方へ話しかけてくる。「やっぱりキケノさん情緒不安定なのかな」と思っていたときだった。

「どうした」

「あのふたり、付き合ってんのか?」


 どうしてそのような思考へたどり着く。

「まさか。でもあのふたり、前からずっと犬猿の仲だよ」

「いやあれ絶対女性の方想ってるって。なんていうの? なんかツンデレな彼女が彼氏に想いを伝えたいけど彼氏は鈍感だから伝わらなくてもどかしい! みたいな」

「ごめん、よくわからなかった」

「そうか、ごめん」


 こいつの話は相変わらずわからない。そもそもツンデレってなんだ? レウの言う通り、ただのよくわからないめんどくさい女性だと思うばかりなのだが。

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