9.鉄血の激突
《レイン》
こちらは6人に対し相手はざっと30人。普通ならば、勝負は明らかだと思わせる。数々の戦の歴史も、何かしらの戦略がない限り、圧倒的に不利だ。正直、数分前の俺は諦めていたところだった。
「おらおらおらおらおらぁっっっ!!」
タキトスが巨大なハンマーをグローブのように腕に装着した装備で、機関銃の如く連発で黒マント達を殴り、蹴散らしている。黒マントは吹き飛ばされるばかりで未だ6人の内誰一人始末できない状況。
ハリタロスも負けておらず、2つの大剣を双剣のように使いこなし、彼らを斬り飛ばしている。
「属性武器か……」
彼らの武器には『属性』というものが内蔵されており、それは生物の特性を生かした代物ともいえる。
この時代では武器や防具と言ったものの殆どが生物や鉱石の素材を使用している。自分より何倍もある狩猟対象の生物を狩るハンターにとって属性は極めて重要なことだ。少なくとも、属性の無い武器よりは有力だといえる。
それ以前の話、彼らの強さは人間並ではなかった。それが、この不利すぎる状況を切り抜ける一筋の光だともいえよう。
それでも勝負は決して有利ではなかった。当然、相手の攻撃も受けている。致命傷には至ってないが、このペースで攻撃され続けたらもはや時間の問題だ。
「っ! ……ぐっ、くそッ」
「サニー! 大丈夫か!」
「いいから倒すことに集中しろ! 掠っただけだ」
掠ったにしては横腹からやけに血がドクドクと流れていた。それでも倒れることなく、中型サイズの銃を担ぐように持っては撃ち続けた。しかし、このままではサニーは瀕死に陥ってしまうだろう。
「なんとかしねぇと」
ここは戦うにはかなりの窮屈。それに四方八方に襲い掛かる敵。武器も相当な威力。掠っただけでも肉が抉られる。
当然、狭い故に誤射が結構ある。しかし、内に頑丈な防具を着けているのか、隊長がもっている武器以外のものを喰らっても無傷なようだ。どれだけ強靭な服なんだ。そのマントの下にはどんな強力な素材で作られた防具を装着しているのか。
「なかなかやるね~君たち」
ぺイシスはガドリングを撃ちながら笑う。
「だけど、それも時間の問題。どんどん不利になっちゃうよ~?」
「――あがぁっ」
防具の限界が来たのか、ずっと撃たれ続けてきたタキトスの頑強な防具が壊れ、そこから追い打ちをかけるように銃弾が彼の強靭な身体を打ち抜いた。被弾し、体内に入り込んだ弾は爆発し、血肉を拡散させる。タキトスは苦しそうな表情で痛みを堪える。
「タキトス!! テメェらよくもぉあああああ!!」
ハリタロスが怒りに任せ、ふたつの大剣を振り回し確実に敵を薙ぎ払い、敵を仕留める。
俺もひとつの大剣を駆使し、敵をぶった斬っていくが、相手の防具が硬い為、その身を薙ぎ飛ばす程度。実際はほとんど斬れていない。
そりゃそうだ、大砲でもものともしない防具だ。常人の大剣使いじゃ蚊に刺された程度だろう。
「うぅっ!」
クラウも被弾し、防具が粉砕し腹から赤い何かが噴き出す。破裂弾か。
「あああっぁぁぁぁ!」
サニーも続けて被弾する。足を撃たれたようで、床に打ち付けられるように倒れてしまう。
「サニー! ――がッ……ごふ……っ!」
とうとう俺の防具の一部が壊れ、そこから銃弾がめり込み、被弾部分がパァン! と破裂する。口から血反吐が噴き出る。
「あがっ……うぐぁぁぁああああああああ!!」
ハリタロスも被弾し、彼の身体の4か所から血が飛び散った。
「うぁっ! くっ!」
結界機能に限界が来たのか、ポートの結界が壊れ、彼もまた何発か被弾する。
俺らは窮地に追い詰められる。このままじゃまずい、死んでしまう。
そのとき、ポートは歯を強く噛み締めたような顔つきでいきなり叫びだした。
「みんな! 伏せろ!」
「――っ!?」
ほぼ同時、全員は反射的に身を屈めた。俺はクラウの頭を掴み、無理矢理屈ませた。
ポートは両手の掌から貫通性のレーザーを放った。彼の身体を回転させて放つ両手の光はまるで夜の灯台を連想させた。
そのレーザーに当たった黒マントは背後の壁ごと体が真っ二つになり、切れ目から血を噴き出す。バラバラになった体はごろごろと転がり、骨や内臓がその中からばら撒かれる。
さっきまで銃撃の轟音が鳴り響く戦場だったとは思えないくらい、ここは静寂な場所と化した。
「……ほとんど、倒したか?」
俺はそう呟いた。
「ああ、もう全滅って感じかな。……僕らも辛うじてって感じだけど」
自ら引き起こした目の前の惨劇に、ポートは目を背けていたが、少しばかり目が潤んでいる。わざとらしい咳と作り笑顔で、気を保っているのを見、やはりただの一般市民に過ぎないのだと思わせる。
国を亡ぼす存在とはいえ、人を殺してしまったんだ。身体以上に心はズタズタになっているであろう。
「どうしてこれをもっと早く使わないんだ!!」
ポートの意を知ってなのか否か、タキトスがいつもと変わらない大声で言った。
「……これ、チャージするのに時間かかるから」とポートは変わらぬ口調を保ちつつ答えた。
「とりあえず、敵は全員倒したみたいだな。ウォークたちと合流して、はやくあいつをさが――」
バァン! と静寂の中、ひとつの轟音が反響した。
銃声だ。まだ生きている奴がいたか。どこから撃ってきた。どこへ銃弾は行った。
気が付くと、みんなの視線が俺に集まっている。
なんだ? 俺、なんかしたのか?
それにしてもやけに胸のあたりに違和感がある。緊張しているのか? いや、そんな単純な感覚じゃない。もっとこう、鈍くて、冷たくて、重たい感覚だ。
なんだか視界がぼやけてきた。
どうしたんだ? 何があったんだ? どうしてこうなっているんだ?
ダメだろ、まだこんなとこでボーっとしてるのは。早くサクラを救わねェと。国を救わねェと……いや、国は国軍や四英雄が救ってくれるから大丈夫か。
ウォークは今、黒マントに襲われてるかもしれねぇ。だとしたら今すぐ助けねぇと……。
冷たい床が頬に触れる。なんだろう、この気持ちのいい感覚。どこかで味わったような、懐かしい感覚。
ああ、だんだん眠たくなっていく。こんなことしてる場合じゃないのに、眠たくなっていって、視界が暗くなる。
俺の名前を呼ぶ声は途切れて聞こえなくなった。
*
《ウォーク》
けたたましい爆音の連続。豪雨のように響く人の咆哮。狭い灰色の無機質な廊下で行われる殺戮の花火大会。
レウとアーカイドは獣のような雄叫びを咆え、撃ち続ける黒マントを薙ぎ払っていく。
――ドパァン! グチャッ! ビギュッ!
耳を塞ぎたくなるような人の身体から奏でる不協和音。弾ける赤飛沫。散らばる無機質と有機質の塊。
「おいキケノ! こっちの道で合ってるんだよな?」
敵をその剣で裂きながらアーカイドは叫ぶ。
キケノさんは相手の動きを読み、手に持っている黒光りする特殊なダガーと拳銃で敵を撃ちのめしていく。
「ええ! そっちで合ってるわよ!」
「ウォーク! 俺から離れるんじゃねぇぞ!」
「ああ!」
肉体的故に戦いに不向きな僕を理解しているレウはそう言った。
レウの身体を見ると、かなり痛々しい傷が何十か所もあった。H・Aである彼の体質はちょっとした傷ならすぐに回復するが、こんなに長時間、ずっと威力の強い攻撃を喰らい続けているので再生機能が体についていけてない。レウはかなり疲れた表情をしていた。
「レウ、大丈夫か」
「あ? 何言ってんだ、この血は全部返り血だよ」
わざわざウソをついた。心配させないようにするためか。
しかし、レウは突然キレた顔つきになり、顔に血管が浮かび上がる。突発的すぎるその短気さは世界記録ものだろう。
「にしてもよぉおい、テメェらいい加減よぉ……そこどきやがれぇぇぇぁぁぁ!!」
地面が抉れるほど脚を踏み込んで、ほぼ一瞬で5メートル先にいるアヌスの眼前に飛び込み、彼の右ストレートがアヌスの顔面にめり込む。
メキメキ、とアヌスの顔面からヒビが入る音が聞こえる。
アヌスの身体をぶっ飛ばし、後列にいた黒マント軍がその吹き飛んでいるアヌスにぶつかり、共に体を浮かばせ、一緒にぶっ飛んでいく。道の幅が狭い為、その通路にいた黒マントたちはそれに巻き込まれ、一緒に吹っ飛ぶ。
壁に衝突する寸前、風を巻き起こす程の速さでレウが走り、アヌスの腹に跳び蹴りを食らわせる。
「や、やめろぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉおおおおぉぉおお!!」
そんなアヌスの声も虚しく。
解体所でプレスされ、バラバラにされゆく廃棄物のように30人ほどの肉体は呆気なくひとつになり、蹴った圧力で赤い塊が爆発を起こしたかのように飛び散った。
*
同フロアにて、その一方。男の怒号に近い叫び、そして剣とは思えない金属のぶつかり合いが部屋中を反響させる。
アーカイドは右から繰り出されるなぎ払いをしゃがんで避け、ディドの顎へ向けて大剣を突き上げる。
だが、ディドは後方へバク転し、同時にアーカイドの顎をサマーソルトキックで蹴り飛ばした。
アーカイドは蹴られた勢いでバク転をし、体勢を整えたとき、風を切る速さでディドがアーカイドに剣を向けて突進してきた。
「くっ」
ガギィン! と力強い音が鳴る。剣の触れ合っている部分から火花が出る。
お互い、鍔迫り合いとなる。ギリギリ、と金属の歯切れる音が耳を劈く。
「くそっ、この野郎、口切ったじゃねーか……っ、どーしてくれるんだ、よっ!」
アーカイドはそう言い、ディドをゴリ押しする。体勢がよろめいたディドを斬りつけようとしたとき、
「うぐぁっ!」
アーカイドの腹部が斬られ、そこから血がビシャリと出てくる。出血量が少ないため、傷口は浅いと自身で判断できた。
「だから甘いんだよ、赤髪くん。何でも勢いでやりゃあいいってもんじゃないんだよ」
ディドがそう吐き捨てる。
「アーカイドっ!」
キケノが悲観の声を上げ、アーカイドのもとへ向かおうとしたとき、黒マントが後ろから銃を撃ってきた。
だが、キケノはこのときでも冷静に弾丸の軌道を読み、避けていった。そして、振り向いて特製の拳銃で黒マントのマント内にある頑強な防具を打ち抜いていく。
「くるなぁッ! 俺に構うんじゃ……ぜぇ……ねぇ、よ……!」
「でも……っ」
「いいから構うな! お前にしかできねェことをやれっつってんだ! ウォークの後を追え!」
キケノは心配そうな目でアーカイドを見てから無言で頷き、踵を返した。
「ハハハハハ、いいねぇ、あんなきれいな人に心配なんかされちゃって。男として情けないぜ? 女に情けをかけることはよぉ」
「うるせぇっ、……ハァ……黙ってろ」
「お疲れのようだね、楽にしてあげようか?」
「余計なお世話だこの目尻ホクロ!」
アーカイドは踏み込み、剣を振り上げる。
剣と剣がぶつかり合い、そのたび火花がはじけ飛ぶ。
「おまえっ、なかなかっ、しぶといっ、なっ!」
「赤髪くん、戦闘中におしゃべりは禁物だよ」
ズバッ、と肉が斬れる音が周囲に響く。
「集中力が途切れるからね」
ディドが後から低い声で付け足した。
「うぐ、ぁ……ガハァッ!」
びちゃびちゃびちゃっ、とアーカイドの口から血が吐き出される。
「はぁ……ハァ……くそがっ」
倒れかけたアーカイドは立ち上がり、剣先をディドに向け突進する。
が、それも意味無く簡単に避けられ、また斬られる。そこから鮮血が溢れかえる。
「ぐっ!」
それでも倒れない。再び剣を振ろうとしても、簡単に避けられ、体をズバッと斬られる。が、それでも立ち上がる。
何度も、何度も、斬られては倒れ、立ち上がり、その繰り返しが続いた。
アーカイドの身体はもう斬られるところがないくらい、ズタズタに切り刻まれていた。そうと喩えてもおかしくないほど、彼の身体は血の色で染まっていた。
「ふー……、お前さ、いつまでこんなこと続ける気なんだよ……はぁ……もう無意味だってことだとわかってねぇのか? いい加減くたばれよ! ひとりの小娘の為になんか頑張っちゃってよぉ……はぁ……うざってぇんだよ、このロリコンが!」
ディドがドスのきいた声で怒鳴りつける。いい加減疲れてきたのだろう。彼から余裕の表情は消えていた。
瀕死の身体とは裏腹に、その口から発するアーカイドの声ははっきりとしていた。
「なんとでも言え目尻ホクロ。別にいいじゃねぇか……勝てそうだから戦う、勝てそうにないから戦わないとか、そんなのは関係ねぇ。負けだとわかってても……この体の息の根が止まらねェ限り、俺は挑み続ける。そこで逃げたら……ただの……卑怯者だ」
「は? お前馬鹿じゃねェの? 結果がわかっても諦めねェって、ただの視界の狭い良い子ぶったどっかの政治家みてぇだな。やっぱお前……死ぬことをお勧めするよ」
そう言ってディドはその剣をアーカイドの腹に突き刺した。背中から何かとがったものがはみ出ていた。
「ごふっ! が……ぁ……はぁ……」
アーカイドは自分の腹に突き刺さった剣を左手で掴み、引き抜こうとしたが、掴んだ手は白刃で切れて、血が出るばかりだった。
「なんだよ、いまさら命が惜しいのかよ?ほんと、お前は人間のく――」
――ストン。
なにかが落ちた音が聞こえる。それは、とても小さいが、重たく、生々しい音。
アーカイドは腹に刺さった剣を抜き、投げ捨てる。目の前から噴き出す赤い体液を浴びながら。
「……え……?」
ディドは唖然とし、自分の手に目を向けてみる。
彼の両手首が無くなっていた。
「あ、ああ、あがぁ、うぐっ、いあああああぁぁああああああああああああああぁああああああ――」
ディドは一瞬何が起きたのかわからなかった。しかし、自分の手首が無くなったと気付いた瞬間、激痛と驚愕が走った。そして、嘆き叫ぶ。疑問の意を込めて。
「なんで! どうして! おまえ! 死に掛けだったじゃねぇか! いいい一瞬で、こんなことでぎる……ぱずが……な、いぃ……!」
アーカイドはゆらりゆらりとディドへと近づいていく。右手の剣を引きずって。
ディドは両手首を失っているので、剣を持つことはもうできない。彼が今できることは、その足で逃げること。だが、ショックで立ち上がろうにも立ち上がれない。
手を失ったことで精神が壊れかけていた。
「やめろっ、くっ来るな!くるなぁああああああああああああああああ!!!」
「……なんだよおまえ、口だけじゃねェか。中身は全然大したことのない貧弱な志もちやがって」
「頼むから! 殺さないでくれ! 嫌だ! 死にたくない! じにだぐないよお! だずげでぐで!」
もうこれ以上ないくらいの情けない声で命を乞うその男は涙と涎でぐちゃぐちゃになっていた。
「別にひでぇように殺したりしねぇよ……ただ、俺らの仲間に手ェださねぇようにトドメ刺すだけだ」
「おでおまえばのごどぼうおぞばべぇから! やめでぐで! ぼうばいっだがら! じにだぐないぃぃぃじにたぐ――」
「あばよ。また、来世でな」
アーカイドはディドに向けて剣を振り上げる。
そして、剣先を真下に向け、勢いよく振り落とした。
弱き者の耳に残ったのは、己の断末魔のみ。




