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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第三章 一節 革命の灯が消える刻
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8.起爆

《レイン》

 ここがどこなのか、地上にいるのか地下にいるのかさえわからない。王女あいつもどこにいるのか正直見当がつかない。ただ、この先を走り続けていれば必ず会える。そう思える自分がいた。


 こちらにはサニー、クラウ、半身兵器らしいポート、龍材屋のハンターのタキトス、そのかつて存在していた国の軍隊長だったらしいハンターのハリタロスがいる。

 二手に分かれてしまったが、あっちの方が人数が少ない。いくらあの強かった赤髪のハンターやバケモノレベルのレウ・ノバルトがいても、厳しいものがあるはずだ。ウォークは肉体的障害で戦えない。激しい運動をすることでさえ激痛が伴うというのに、俺達と一緒に走り続けたのだから、今は疲労を越えて満身創痍になっているだろう。大丈夫だろうか。


「おい、あそこにドアあるぞ!」

 暗くて長い廊下を走り続ける。サニーの声が静穏な通路に響いた。。

「入ろう!」

 バン! と勢いよく入ると、


「……っ」

「まだこんなにいたのかよ」

 サニーが舌打ちする。

 目の前には黒マントの群衆がこちらに銃口を向けていた。数はざっと……いや、部屋がうす暗くて特定できない。だがこちらが劣勢だというのはすぐにわかった。部屋がそこまで広くない分、相手が多く感じるのか否か。


「……待ち伏せか」クラウが呟く。

「名前の通り、蟻みたいに湧いてくるね」

 ポートがそう言い、苦笑した。そのとき、ひとつの声が響いた。


「――そろそろ堪忍してほしいね、誰だか知らないけど」

 黒マント軍から前に出てきたのはいかにも高貴といえるほどのおとなしそうな若い男性。顔の骨格から他国の人族だろう、他と同じ黒マントを着ているが、フードとガスマスクっぽいものは外して、素顔が露わになっている。


「ボクの名前はぺイシス。第4番隊隊長を務めている。よろしくね」

 そう言い、軽くウィンクをした。おばさんウケしそうな顔立ちと性格をしているが、俺らの前ではただの痛い人だ。

「あ、もう逃げられないよ、後ろにもいるし」

 後ろを振り向くと、いつからだろうか、音沙汰もなく黒マント軍が出口を塞いでいた。

 そこにもペイシスと同じくマスクを外した人が二人。なんとも余裕そうな顔して腹が立つ。


「紹介するよ、右の人が6番隊隊長ワット、左の人が8番隊隊長のトムだ。あ、トムはちょっとやらかして声帯潰れてるから喋れないよ」

 ペイシスそう言った後、ワットと呼ばれた人物が文句ありげに言う。

「紹介とかそんなんいいだろ。どうせこいつら死ぬことになるんだし」

「あ、そうだったね、悪い悪い」


 わざとらしく笑う。生理的に嫌気がさしてきた。

 すると、それに乗じるかのように、一回りも二回りも大きな笑い声でハリタロスとタキトスが笑う。もうこれだけで音響兵器だ。傍に居るこっちが鼓膜が破けそうだ。


「ガハハハハ!! お前らが俺らを倒す? 笑わせる!! お前もそう思うだろタキトス!!」

「だはははは!! まったくもってその通りだ!! 俺らを倒すなんざ100年早いわ!!」

 大声で笑い飛ばしたタキトスとハリタロスだったが、ぺイシスは無垢に笑っていた。同時、相手全員が武器を構える。

「じゃあその台詞、期待するよ?」


     *


《ウォーク》

「くそっ! ここは迷路かよ、分かれ道が多すぎる!」

 僕らはこの迷宮のような通路に迷い込んだ。この組織の人たちはこの道を把握しているのか、疑問に思えてくる程の広さだ。

「確かに広いわねぇここ。もう走るの嫌になってくるわ」

 キケノさんも文句を言うようになった。「ま、ウォーク君がいるならいくらでも走っちゃうけどね」という台詞は右から左に受け流した。


「メンドくせぇ……ウザってぇ……」

 レウがキレ気味だ。何かストレス発散させるものがないと僕らが被害を受けてしまう。

「――この壁、邪魔くせぇな……」

 そう腹黒い声で呟いた瞬間、レウは通路の壁を素手で破壊した。山の石でできた洞窟の壁は破裂するように呆気なく粉砕した。


「あぁーあーあーあー……」

 アーカイドが呆れる。キケノさんは深い溜息をついていた。

 でもまぁ、良い近道だと思うけど。

 レウはどんどん壁をぶっ壊していき、空間が増えていく。

「あいつ、いつになっても無茶苦茶だな。自分勝手つーかなんつーか」

 あ、そうだ、ここまで通路が繋がっていれば……。


「キケノさん」

「ん? なぁに?」

 きょとんとした声で対応するキケノさん。その振る舞いは年下の僕でも少しドキッとしたが、正直ワザとらしい。そう考えた時点で僕は冷めているのだろうとどうでもいいことを考える。


「キケノさんって『読める』力をお持ちですよね。ここでこの建物の部屋や通路の構造を『読む』ことはできますか?」

 少しだけ悩んだ顔。できない訳ではなさそうだが、リスクというか、体力消耗しやすいのだろうか。


「う~ん……初めてだけど、まぁやってみるね」

 そう答え、真剣な顔つきになる。瞳から僕たちの姿が消えた気がする。きっと集中しているのだろう。

 周りを見渡す。天井、床、四方八方の壁、壁、壁。

 そして目を瞑る。

 1,2,3,4,5……。

 そして、ゆっくりと目を開けた。


「サクラ王女のいる可能性の高い部屋は分かったわ。とりあえずそこへ急ぎましょう」

「え? ちょ、おい、鍵はどうするんだよ?」

「やっぱりアーカイドは馬鹿ね、レウがいるからドアだろーが鎖だろーがそんなの壊せばいいじゃない。少しは考えなさいよバーカイド」

「だっ、誰がバ――」

「はいはい! 今はそんなことしてる暇はないよ! キケノさん、どこに行けば着きますか?」

「こっちよ」


 そうして僕らが行こうとしたその時、

『おい! 何チートしてるんだよ。少しはこの迷宮を満喫しろっての!』

 反響した憎たらしい声。つい立ち止まってしまう。


「っ、今の声……!」

「二カロの声! どこから!?」

 必死にあたりを見回しても通路の先が暗いのでどこにいるのかわからない。スピーカーらしきものもない。しかし遠くから響いてくるような音とも傍で話しているような音とも捉えきれない、違和感のある声。キケノさんでさえも位置を特定できていないようだった。


 しかし本拠地の首領でさえも迷宮と言ってしまうあたり、本当に迷いやすいのだろう。

「ツレねェ奴らだなぁおい。壁も壊すしよぉ。つーか少しは俺に目を向けたらどうだ。こんなに放置プレイされちゃったら俺ぁ寂しすぎて逆に興奮しちゃうぜ?」


 アーカイドは通路に響き渡るくらいの大きな声で言い返す。

「ンなこと言ったって、お前の持ってるやつ部屋のカギだろ? こっちは壁壊すからそんなの意味無ェよ」

 途端、ニカロは小馬鹿にしたように「ハン」と鼻で笑う。

「わかってねぇな、俺がもっているのは部屋の鍵じゃない。王女の身柄を開放するための鍵だ」

「だから縄でも鎖でも全部壊すから意味無ェって」


「壊したらどうなるかも知らずに?」

 姿の見えない二カロは意味深なことを告げ、不気味な笑い声を低く響かせる。

「? どういうことだ!」

 アーカイドが聞き続ける。


「嫌な想定は当たってたわけね。私も随分甘い考えだった」

 キケノさんも、僕も既に気づいていた。できれば違ってほしいと願うが、もう確実だろう。


「ただ拘束するだけの鎖だとか思ってんのか?」

「――っ!」

 どうやらアーカイドも気づいたようだ。

「そのまさかだよ。ぶっちゃけ言っちゃえば、王女様を拘束しているモノ、爆破機能付きなんだよな」

「最初から王女を殺すつもりだった、てことか」


 推測通りだった。わかっていたことだが、こいつらはハナから身柄開放なんてことを微塵にも思ってない。計画の為なら手段を択ばない。そんな奴らだ。

「ンなわけないだろ少年。国王とかに向けた脅しの為の装置だ。サルト国からがっぽり貰って滅ぼした後、あの王女様は俺らがたっぷりと可愛がってあげるんだよ。あんな上玉、そう見当たらないぜ?」


「……外道が」

 アーカイドは低く、ハッキリとした声を出す。「こいつもそれなりにゲスだな」とレウも呟いた。

 これについては僕からは何も言えない。腹の底から何かが煮え滾ってくる感覚だった。

「まぁそれはともかく、俺から親切に説明してやる。王女の首、手首、足首、腹部に装着されている金属製の輪に鎖が繋がっている、そんな感じだ。その首輪とかにはさっきも言ったが、爆破機能が付いている。威力はまぁ、人を豆腐みたいにぐちゃぐちゃにできる程だろ。強いて言えば、助からんってことだ。その爆破装置全部に鍵穴があるが、俺がもっている鍵ひとつですべて開錠できる」

「つまり、テメェからカギを奪えばいいってことだな」


 レウが殺気立った声で言う。

 二カロは不規則な声のトーンで挑発する。随分とわざとらしく、また苛立つ声だった。

「あ、そうだったぁ~、俺、起爆スイッチ持ってたんだったぁ~、これあればいつでも王女様をペーストにできちゃうな~。あ、でもあんな上玉、殺すのは勿体ないな~、どうしよっかなぁ~ぁあっと」

「……っ!」

 起爆装置もあるとは、下手すれば大変なことになる。迂闊にこちらからは手が出せない。

「いいから出てこいっつってんだクソ野郎! 舐め腐ったことしてんじゃねぇぞ!」


 レウが怒鳴り散らしたときには、二カロの声はもう聞こえなくなった。

 その代わり、全通路の奥から足音が聞こえてくる。数は、かなり多い。


「ざっと50人ってとこね」

「ご、50!?」

 僕の予想を軽く上回った事実をキケノさんは告げた。便利な能力だが、時に知りたくないことも知ってしまうのが辛い。


「正確には55人。普通ならもう死を悟って自分の走馬灯ディスクを1枚目から観返してるわ」

 圧倒的な数の差に、アーカイドは「こりゃあ参ったな」と笑う。笑うしかないほどの絶望的な状況だが、僕はレウを一瞥する。特にまずいといった顔はしておらず、何故か苛立ちが雰囲気から漂っていた。絶対八つ当たりの対象にする気だ。


「まだそんなにいたとはなぁ」とアーカイドは肩を落とす。

「ホント、餌を求める蟻みたいにぞろぞろとこちらに来るわね」

「何人でも来い、すべて捻り潰してやる」

 レウが骨を鳴らしたそのとき、誰かの声が響く。


「初めましてサルトの国民たちよ、私は第1番隊隊長のアヌスだ」

「2番隊隊長のディドだぜ」

「3番隊隊長のパガンと言う」

「5番隊隊長のメリシウス。侵入者とはいえ、挨拶はしておかねばな」

 ひとりひとりが名を上げる。どの人も他とは違う、強者の覇気を放っていた。逆に述べれば、なぜここまで強く、志を貫いた猛者が、あのような低俗なニカロの下についているのか不思議でならない。


「これはどうもご丁寧に自己紹介をしてくれるとは。隊長自らサルト国を放っておいて僕らの駆除に優先ですか。これはまた大変なことで」

 アヌスが答える。

「二カロ総督の緊急命令だ。しばらく80人程の部下たちが私らの代わりに国の制圧に努めている」

 なんて考えの無い。効率が悪いだろう。これでも小国を強奪し続けたプロの集団なのか。


「しかし、君たちはサルトの人だろう。君たちがここにいようが国にいようが我等にとって邪魔であることに変わりはない。それに、ただの一般市民じゃなさそうだしね。

 だから、今のうちに始末をしておくのだよ。隊長自らでね。運よく、君らのような主力たちはこのアジトにわざわざ来てくれた。この幸運に感謝しないとね」


「残念だけど、主力は僕らじゃない。サルト国の王都に何人もいるよ、この背の高い金髪眼鏡さんぐらい、強い人がね」

「おい、余計なこと言うな」と睨まれる。

「ほう、それはお目にかかりたかった」

 

「ウォーク! いつまで話してんだ! そんな暇ないだろ!」

 アーカイドが怒鳴る。この近距離で言われたから、耳が痛かった。

「では、あなたの味方も言っていることですし、始めましょうか」


 すぐに終わりますけど、とアヌスが付け足したとき、四方八方から数多の銃弾が飛んできた。

 狭く、迷宮のような枝分かれした通路で、人数的に不利すぎる交戦が開始はじまった。

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