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星座の魔術の話①

 能力者は何を代償に力を振るう?

 無償なわけがない。

 あるはずがない。

 何かを得るにはそれ相応の対価が必要だ。

 魔術師はその人生を対価に魔術を会得した。

 それなら、能力者は?

 僕たちはこの力を得るために何を差し出した?


 ――そんなこと

 ――考えたくもなかった


         ◇


 時は戻り、四月十八日の土曜日。

 テレジア市の中央にはテレジア百貨店という巨大な店がある。

 それは大きな建物で敷地の広さで言えば約四万平方メートルといったところだろう。五階建てで五階と屋上は駐車場となっている。一階から四階には食品類や衣服類など様々な店が配置されていて、案内の地図を見なければどこに何があるか分からないくらいの種類がある。

 そんな中、僕たちがいるのは一階にあるフードコートだ。

 数多くの客が利用できるようにするため、数多くのテーブルや椅子が用意されている。現に僕たちの他にも多くの人がいて、空いている席はほとんどない。それらの周りにはこれまた数種類の店舗があり、そこで選んだ食物をテーブルまで持ってきて食べることができる。

 僕は無難にラーメンと焼き飯のセットを選んだ。値段もいい具合に安く財布にとても優しかったのだ。そして、カレンも何故か僕と同じものを頼んだのだった。

「カレン、せっかく遠出したんだ。もっと別のを頼めばよかっただろ」

 と焼き飯を食べながら言う。

「ネロさん。口に食物を含みながら話すのは行儀が悪いですよ」

 そう言ってから彼女はラーメンを啜る。

 ズズゥーと音を立てながら。

 おまえはおまえで行儀が悪いんじゃないか?

「……そうですね。わたしは外に出るのが初めてですので、そこにあるどの食物が美味しいかという知識が全くありません。本来なら知っているのかもしれませんが、わたしには生前の記憶が残ってませんし。ここに並んでいる種類は研究所の食堂や売店になく、ほとんどが初めて目にするものです。ですから、口に合わずに残してしまうことは避けたかったので知っている中からこれを選びました。ラーメンでしたら何度も研究所で食べたことがありますので」

 ですが、とカレンは続ける。

「どうせ、あそこにある期間限定のステーキは頼んでもダメなのでしょ」

 と残念そうな目をする。

「量は同じくらいなのに、値段がこれの五倍かかるんだ。ダメに決まっている」

「けちですね」

「なんとでも言え」

「冗談ですよ。そんなことより眼鏡が湯気で曇るんですけど。前がぜんぜん見えません」

「拭けば済む話だろ。まったく」

 て言うか外せよ、と言いたくなった。そこまで視力が悪いわけでもなかろうに。

 僕は黙って食べ続け、残りのラーメンを食べ終えた。同じくらいにカレンも食べ終えたので、食器をカウンターまで戻してからフードコートを離れた。

 そして、特に行くあてもなく、人の流れに逆らわずに歩き続ける。

「ネロさん。わたし、もうお腹いっぱいです」

 そう満足そうに言うカレン。

「そうか、それはよかったよ。ならさっそく本題に入るとするか」

 本題。

 つまり請け負った仕事についてだ。

「ですね」とカレンは周りの状況を観察する。

 僕たちと同じように歩き続ける人たち。

 すれ違う人たち。

 店を経営する人たち。

 ここには研究所では考えられないくらいの人がいて賑やかだ。その分騒がしくもあるが、これくらいが丁度いい。

「――でも、その前に人通りの少ないところに行きませんか? 仕事の話について聞かれたりしたら怪しまれちゃいますよ」

 その言葉に僕は首を横に振った。

「いいや。その必要はない」

「何故です? こんなに人がいるのに」

「いるからこそ、その必要はないんだ」

 僕の言葉に眉をひそめる。

「あの、言ってる意味がわかりません」

「そうか? それなら、そうだな……」

 と言って思い出す。

 今さっきすれ違った三人の女の子たちのことを。

 桃色の長い髪をした活発そうな娘。小麦色の髪でカチューシャを着けたおとなしそうな娘。そして金色の髪を後ろで束ねたどこか冷めた雰囲気を持つ無愛想な娘。

 変わった組み合わせの三人だったな、と思いながらカレンに言う。

「さっき、女の子の三人組とすれ違っただろ」

「あ、えっと。桃と茶と金でしたか」

「カレン、その言い方は失礼だ。……が、その三人で間違いない」

「その三人がどうかしました?」

「質問だ。おまえはあの三人の会話の内容を覚えているか?」

「え、そんなの覚えてないですよ。もとより聞くつもりなんてありませんでしたし、この雑音では相当近くにいないと聞き取れませんよ。……あ」

 そう言うと、カレンは納得したように続ける。

「そういうことですか。人通りの少ないところで話すと会話は遠くまで響き、もし人が通ったりしたら雑音もないため嫌でも耳に入ってしまう。逆に人通りが多く、騒がしいところの方が私たちの会話をかき消してくれて、他の人の耳にも入らないってわけですね」

「そんなところだ。それに、まさかこんな賑やかな場所で怪しい話をする人がいるなど誰も思わないだろ」

「では、もしも聞かれてしまい呼び止められたりしたらどうするのです」

「今度行う演劇の打合せをしているとでも言えばいいんじゃないか」

「大雑把ですね。ネロさんはそう言いますけど、相手が魔術師だったらどうするんですか? すぐに見抜かれますよ」

「その時はその時だ。全力で逃げよう」

 と笑いながら言った。

「笑いながら言わないでください」

 と言ってから小声で語りかけてくる。

「そろそろお願いできますか?」

 僕はその囁きに頷く。

「ああ。じゃあ始めよう。この仕事の内容は、この街で星座の魔術を発動することができるかの確認。そのために僕たちのやることは一つだけ。至宝の封印を解き、起動することだ。ルークさんたちのことはひとまず置いておこう。ロゼさんも余裕があるならば、と言っていたしな」

 僕は一息吐いてから続ける。

「さて、おまえは至宝による星座の魔術を知らないないのだったな。仕事の手順を話す前に説明しておくとしよう」

「簡単にお願いしますね」

「簡単にって、難しいことを言う」

 さて、どこから説明すればいいだろう。

 あれは魔術と異能の両方に関係するからな。

「よし。それじゃあ、魔術と異能について復習でもしようか」

「そこからですか」

「そうだ。文句あるか」

「ありま――「まずは魔術について話そう」

 僕はカレンの言葉を無視して話し始めようとしてみる。

 その対応にカレンはむすっと頬を膨らませる。

 その行為が予想通りすぎて、僕はくすっと笑ってしまった。

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