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Blue-Bird  作者: 秀田ごんぞう
2章 ―― トポルの森 ――
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―― 悲鳴 ――

 南に歩いていくとウィンリーブスの街が見えた。盗賊団ブラックシルフィーの襲撃にあったせいで、かつてのきれいな街並みの面影はなくなってしまっている。通りを歩いている人もほとんどいない。街は不自然なほどに静かだった。ティアも同じように感じたみたいだ。

 何だか、早くこの街から出て行った方がいい気がした。幸い何事もなく、僕たちはウィンリーブスの街を通過することができた。だが、この時僕たちは気づいていなかった。街を歩く僕たちを見つめる視線に……。



 「あいつが、アニキを……許さねえ」



 街を出てさらに南へ進むと、森が見えた。

 地図によると、この森――トポルの森を抜けると、ランド大陸の王都イルブリーゼに着くらしい。

 ポポの話を参考にしてオーブの一つはイルブリーゼにあるのではないか? というのがティアの意見だ。

 僕もそう思って、この森を抜けることにした。

 〝冒険者セット〟から懐中時計を取り出し時刻を確認すると、十六時くらいだ。森の中での野宿は魔物の夜襲を受ける危険がある。そう判断した僕たちは、まだ日が出ているうちに、森を抜けてしまおうという結論に至った。故に今もこうして、足が疲れているのにも構わず歩き続けているわけだ。

 森の中に入ると木々が生い茂っていた。わずかな木漏れ日が差し込むだけで、まだ日が出ているにもかかわらず、森の中は薄暗かった。

 ……と、ティアが僕の服の後ろをつかんできた。

 「ティアどうしたの? 具合悪いの?」

 「……何でもないわよ。ほっといて」

 なんか妙な感じだが、僕にひっつくようにしているティアを、僕は気にせず歩きつづけた。

 木々が生い茂っているだけでなく、一つ一つが大きいので、大変歩きづらく、当然、遊歩道のようなものは存在しない。迷ってしまわないように、僕らはコンパスの指針を頼りに森を進んでいく。時折、リスなどの小動物が顔をのぞかせるだけで、魔物の気配はしない。

 突然、静寂を破るようにティアが甲高い悲鳴を上げた。

 何事かと思って後ろに目を向ける。しかし、魔物らしい姿は見当たらない。

 「シュウ~! 早く助けて~!」

 ティアは何に襲われているんだ? まさか姿の見えない敵? マンガとかで、光学迷彩って見たことあるが、この世界にはそれが実在するのか? このままではティアが危ない。僕はどうすれば……

 しかし、僕の心配は杞憂だった。

 「早く、これとってよ!もう~!」

 泣きそうになっているティアの肩に、一匹の蝶が止まっていた。蝶の羽をやさしくつまんで、空に離してやる。すると、蝶はひらひらといずこかへ飛んで行った。

 「はぁ~死ぬかと思った」

 「…………もしかして、蝶が怖かっただけ?」

 僕が真顔でそう尋ねると、ティアは妙に焦った様子で、

 「そ、そ、そんなことあるわけないでしょ! 虫くらいでビビってられないわ!」

 「ホント~に?」

 僕が近づきながら聞くと、

 「バカ!」

 ……ビンタされた。何とも理不尽だ。虫が苦手なら苦手って言えばいいのに……。何故僕がビンタされなければならないんだ? と、思ったが、僕は声に出さないでおいた。ティアが頬をぷくっと膨らませていたからだ。まあ、人には知られたくなかった弱点だったのだろう。こういうことは、そっとしておいてあげるのが、一番だ。ティアは頬を膨らせたまま付いて来ている。だが、僕の服の後ろは握ったままだ。……そんなに虫こわいのかなあ?

 森を奥へ奥へと進んでいくうちにだんだん日が落ちてきた。懐中時計を見ると、間もなく、十七時三十分というところだ。急がないと日が暮れてしまう。

 「ねえ、ティア、少し急いだ方がいいかも。日が暮れる前に森を抜けないと」

 しかし、ティアはまだ頬をふくらして怒っているようだ。

 「……あたしここで野宿することになったら、あんた殺すからね」

 ……理不尽すぎる。が、ティアが僕を睨み付けるので、笑ってごまかすわけにもいかず、僕はいっそうペースを上げて歩き始めた。


お読みいただきありがとうございます。

二章の始まりです。一章ほど長くはないかもしれません。

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