リヴァイアサンの饗宴~キール1950~
《もし第二次世界大戦が起きず各国が本気で戦艦を作ったら》そんな世界のお話です。
各国の戦艦のスペックは“コレ位かな?”と筆者の偏見と独断と妄想の固まりから作りました。装甲厚は計算でダウンしたので敢えて除外。
戦艦のスペックに納得できない方は“こんなスペックの戦艦を!”と感想へドシドシお書き下さい。
それでは以上の事をご容赦なされた方は下の本編へお進み下さい。海物は初めてなのでお手柔らかにお願いします。
西暦1950年。ドイツ、キール軍港
この日、キール軍港では一大イベントが開催されようとしていた。それはドイツ海軍による観艦式だ。
それも単なる観艦式ではない。アメリカ合衆国、大日本帝国、ソビエト連邦、イギリス、フランス、イタリア、北欧諸国などのヨーロッパ諸国を始めとしてドイツ第三帝国と交流のある国々の海軍が参加するという一大行事だ。
ドイツ艦と舳先を並べるのは、アメリカ合衆国、大日本帝国、ソビエト連邦、大英帝国、フランス、イタリア、オランダ、トルコ、更にはフィンランドなどの北欧諸国にブラジルなど南米諸国中東連合などの中小国も参加した。
全部で20ヶ国以上もの艦が一ヶ所に集まるのだ。参加艦艇数は実に100隻以上に昇る。
ドイツ軍再軍備化15周年記念の観閲式と周辺諸国との連携を深める為の合同演習。
この2つの催しは世界の平和と安定と云う意味が込められて催される事となっていた。
開催内容はまずキール軍港から各国の艦で編成された観閲艦隊が出航し、そこから外洋に出ていき受閲艦隊と合流して観閲式を開始する予定だ。
受閲艦隊の観閲が一巡すると観艦式は終了。翌日からは大西洋にて合同演習を行うと云うタフなスケジュールだ。
また、観閲式には各国の大統領や首相指などの国家元首、王族、貴族、議員など多数の要人達や政府高官達が出席。
また、艦を派遣してないが代表団だけは送ると言う国もあり、それらの国々だけでも30ヵ国近くに昇っていた。
観艦式のスタートはドイツ屈指の軍港キールにて開催される。艦艇への体験乗艦や陸軍・海軍・空軍・親衛隊の4軍によるの軍楽隊の大演奏会、国内外の軍需企業が出展した企業区画など、様々なイベントなどが催されている。
普段は軍の関係者以外の立ち入りが禁じられている岸壁も人、人、人で埋め尽くされる。
家族連れが出店に集まり、子供達はドイツが誇る重戦車ティーガーⅢやフレットナーFl282“コリブリ”などの体験搭乗に喜び、退役軍人会の有志が案内役を務め、体験談を語り、一部の大きな大人達は望遠鏡のようなカメラを手に夢中になって軍艦を撮る姿が光景がそこかしこで見られた。
余談ながらこの観閲式開幕ではエーリッヒ・レーダー元帥が特に一番大歓喜していた。
周りの視線などガン無視してマスコミ関係者よりも二回りも大きいレンズを付けたカメラを持参して艦を激写していた。
その姿を見た某記者はこう述べた「人間の枠を超えた何かが憑り付いた姿であった」と。
「壮観な眺めだな」
「本当です。再軍備化した時には夢にも思えない光景です。これだけの艦をドイツが揃えられるなんてあの当時は絶対に思えませんでした」
「ホントだな」
「ハイ」
キール軍港の波頭で2人のドイツ海軍兵が艦を見ながら感慨深そうに会話していた。
そしてその隣では間近で見れる万国旗を掲げて彩られた各国の軍艦に心躍らせているマニアが会話している。
「凄いな。これがアメリカのアラスカ型航空巡洋艦か。デカイな。流石、300m級の巨大艦を何十隻も就役しているだけの事はあるな」
「見てください。あっちはフランスのストラスプールですよ。ああ、4連装砲塔!萌えですね!」
「さぁ、次はあの空母を見に行くぞ!」
「待ってくださ~い!」
好きなもの見ると夢中になるのは、どの世界も変わらないものだと実感する光景だ。
そしてそれはマニア垂涎の艦達が眺められる壮観な光景が見られるキール軍港内だけでなく、キール軍港に設けられた観閲艦隊参加者専用の貴賓室もまた違う意味で壮観な眺めが見れたと言える。
ドイツ、アメリカ、イギリス、日本などなど各国の名高い軍人や海千山千の外交官や大使がキラ星の如く一同に集まった光景は壮観であった。
特にドイツ連邦やソ連、日本やアメリカなどの仮想敵国同士の国々は早速、相手から情報を探ろうと会話の名を借りた外交と云う腹の探り合いを始めている。
一方、観艦式開始まで刻々と迫っており、軍港は人で埋め尽くされている。
埠頭には観閲艦に乗り込もうと既に人で埋め尽くされて賑やかな様子で招待された観客の熱気に満ちていた。
また派遣された各国のメディア関係者達も多数、押し掛けてこれから行われる観閲式の模様をバッチリ記録しようとカメラの砲火を向ける。
岸壁には観艦式に向かう各国の艦で編成された観閲艦隊が停泊している。
そして〈グラーフ・ツェッペリン〉が汽笛が鳴らして260mの巨体がゆっくりと動き始めて静かに岸壁を離れる。
『グラーフ・ツェッペリン級航空母艦』
ドイツ海軍が建造していた最初の航空母艦。ドイツが再軍備を進め始めた1935年に建造がスタート。
当初、ドイツに空母の建造ノウハウは無かった為、1番艦のグラーフ・ツェッペリンは日本に発注。
2番艦のペーター・シュトラッサーは空母建造技術、獲得の為にドイツ本国で建造された。
この際、日本は装甲飛行甲板やカタパルトなどのノウハウを獲得。後に大鳳級への建造に生かされた。
ドイツ側もグラーフ・ツェッペリン級空母の建造により空母建造技術を獲得し、O級空母が建造された。
排水量:3万3550t、全長:260m、全幅:33m、最大速力:35kt、航続距離:20ktで10000海里
搭載機:60機、武装:71口径88mm連装高角砲×6基 30mm四連装機関砲×22基
同型艦×2隻:グラーフ・ツェッペリン、ペーター・シュトラッサー
空母と云う事で多数の観客を乗艦させられると云う事で2番艦の〈ペーター・シュトラッサー〉と共に観閲艦に決まった。
岸壁に集まった見物人達が歓声を上げて見送る中、観閲艦隊の各国海軍将兵が制帽を振り答え、観閲艦隊は観艦式の行われる海域へと舳先を向けた。
観閲艦隊旗艦、航空戦艦〈シャルンホルスト〉の前檣楼には海軍旗と国旗が掲げられた。
後部飛行甲板には栄誉礼のためにワルサー Gew43を持って整列した儀仗隊は緊張した面持ちで整列していた。
『シャルンホルスト級航空戦艦』
正式名称:シャルンホルスト級通商破壊用航空戦艦(通商破壊用航空超巡洋艦とも呼ばれる)
建造当初は建造期間の手間を掛けずに戦力化と戦艦建造のノウハウ習得を目指したため、ドイッチュラント級装甲艦の拡大型の超重巡洋艦・巡洋戦艦として就役した。
ドイッチュラント級装甲艦との最大の違いが武装が28㎝三連装砲4基に変更になっている点。
後にビスマルク級の就役により旧式化した為、主砲をビスマルク級と同一の40㎝に換装して3番砲塔・4番砲塔を撤去して飛行甲板を設置。
単艦での通商破壊を行う航空戦艦(航空超巡洋艦)として再就役した。
ヘリコプターの実用化などもあり良好な運用実績が評価され、また航空母艦を購入せずに少ない予算で艦載機が運用できる点で中小国も注目。
後に各国が既存艦の改造・新造艦の建造により航空戦艦・航空巡洋艦を保有。
仏のダンケルク級航空戦艦、スウェーデンのゴドランド航空巡洋艦、日本の利根級航空巡洋艦、扶桑級・伊勢級航空戦艦、ソ連のキーロフ キエフ級航空巡洋艦などなど現有艦の改造や新造により各国が航空戦艦や航空巡洋艦を保有した。
なお、世界初の航空戦艦は1942年に砲塔爆発事故により改装した日向が世界初。正し就航はほぼ同時期に改装をしていたシャルンホルストが先。
同時期に日本側は⑤計画により大和級以外の旧式戦艦の改造計画が持ち上がり、日向の砲塔爆発事故により計画を一部変更して改⑤計画としてスタートした。
金剛級・扶桑級・伊勢級の35,6㎝砲から長門級の40㎝に搭載し直した後、扶桑級・伊勢級は航空戦艦、金剛級は超甲巡洋艦となった。
なお、伊勢級航空戦艦はトルコ、扶桑級航空戦艦はブラジルに売却。金剛級は超甲巡に準ずる改造なされ、航空機動艦隊に随伴出来る速力と航続距離、そして高い防空能力が評価されて空母をエスコートして守る防空戦艦となっている。
排水量:3万1000t、全長:230m、全幅:30m、最大速力:33kt、航続距離:17ktで10000海里
搭載機:30機、武装:50口径40.6cm三連装砲×2基、71口径88mm連装高角砲×6基、30mm四連装機関砲×20基
同型艦×2隻:シャルンホルスト、グナイゼナウ
特に彼らの上官の親衛隊儀仗隊指揮官などガチガチに緊張して今にも卒倒してしまいそうだった。
実は彼、今回が初めての任務だ。彼の前の上官は1人目が定年退職、2人目は訓練中の事故で足を骨折、3人目は牡蠣に当たり食中毒で入院と立て続けに彼より上の階級の上官が次々と入院したり、除隊したりといなくなり、急遽新任したての彼が儀仗隊の指揮官となった。
昨日は緊張で夜は一睡も出来ず、儀仗の手順を何度も何度も復習して復習をしていた。
そして目の前には陸海空の元帥・提督・将軍などキラ星の如く階級や勲章を付けた面々がいる。
彼より雲の上の階級の方々が軒を連ねているのだ。緊張でここ数日、何も食べられ無かったのに吐きそうになってきた。
(い、胃が痛い。緊張で死ぬ。今すぐ死ねる)
シャルンホルストの飛行甲板には犇めく様いるこの国の雲の上のお偉いさんと各国要人のゲスト達。彼等を前にして倒れるなどドイツ軍人、ドイツの恥である。
もし倒れでもしたら親衛隊儀仗隊の名誉は地に落ち、ドイツは元より世界中に笑われる。ミスしたら田舎に帰れない。
食中毒で入院中の儀仗隊長から直接に“くれぐれもよろしく頼む”と儀式用のサーベルを手渡されながら頼まれている。
この日の為に毎日毎日猛訓練を重ねたのだ。部下達は新任したてのペーペーの隊長の指示に文句も言わずよく訓練に付き合ってくれた。
寧ろと“緊張せず行きましょうや”と隊員達から言われコッチの気を落ち着かせてくれた程だ。
退役した上官や事故で怪我をした上官が車イスに乗ってワザワザ足を運び、指導や助言までしてくれた。
彼の両肩には親衛隊の、ドイツ第三帝国の名誉が掛かっているのだ。ここで逃げたら男が廃る。
文句も漏らさず付いて来てくれた彼等に合わす顔が無い。絶対にミスをしてなるものか。
(逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。 逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ)
「出来る、出来る筈だ。私には出来る筈だ。必ずやれる。絶対にやれる」
ブツブツと小声で、念仏のように、自己暗示のように、自分に言い聞かせながら静かに、深く、深く、深呼吸しながら遠くの空にポツンと浮かび徐々に近づいて来る機影を見据えた。
ドイツ第三帝国の国家元首アドルフ・ヒトラー総統とドイツの要人を乗せた特別輸送ヘリのフォッケアハゲリスFa223〈ドラッヘ〉だ。
ヘルコプターらしくない大ぶりな機体の姿は徐々に大きくなりながら、シャルンホルストに向けて近付いてくる。自分にはもう死神か悪魔の類にしか見えてこないが・・・
フォッケアハゲリスFa223〈ドラッヘ〉はシャルンホルストの後部飛行甲板に接近し、滞空しながらストンと着艦する。
プロペラから吹き起こる風で整列する儀仗隊の服を揺らしながら着陸した。
素早く親衛隊員が近づきFa223〈ドラッヘ〉のドアを開く。
ヒトラー総統が下りてくるのを確認した私は儀礼サーベルを捧げながら声を張り上げて総統の来艦を告げ、儀仗隊員達は捧げ銃をした。さぁ、正念場の始まりだ。
観閲艦隊旗艦〈シャルンホスト〉の艦橋には出席者の一人であるドイツ海軍総司令官エーリッヒ・レーダー元帥が観閲客の熱気に包まれる観閲艦隊に気圧され気味であったが感慨深い気分でもあった。
「再軍備化されて あれから15年……ドイツ第三帝国を取り巻く情勢は大きく変化した。ようやく、やっとここまで艦隊を持つ事が出来たのだ」
「そうだな。起こると起こると言われながらWW2は起こらなかった。平和が一番だ」
そうレーダーに言葉を帰すのはドイツ海軍潜水艦隊司令官カール・デーニッツ元帥であった。
「戦争は無い方が一番いい。ただ、起きてしまったら覚悟は決めないといかん」
「勿論、私だって戦争は無い方がイイと思っているぞ。あの時、総統閣下がZ計画を始動させたから今の平和があるのだからな」
そしてレーダー元帥とデーニッツ元帥はお互いにあの当時を思い振り返った
【Z計画】ドイツ第三帝国が技術力と工業力に物を言わせた計画。戦艦6隻、空母6隻を主力に多数の艦船を建造させる海軍再建計画。
全ては此処から始まった。1935年3月ヴェルサイユ条約を破棄。再軍備化を宣言した。
今でこそ『ドイツの科学力は世界一ィィィ!』であるが再軍備化当時、特に海軍力は全くのゼロからの再建の為に全くお話にならないレベルだった。
“もし、再軍備化中に他国に攻め込まれればドイツは負ける”そんな懸念がドイツ首脳陣や将軍達の頭の中にはあった。
そこでドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーは考え、天才的な閃きをした。
“今のドイツは他国に攻めこまれれば負ける。ならば大建造計画を打ち出して各国を建造レースに引き摺り込み国力を削ごう”
ヴィルヘル・カナリスの国防軍諜報部やライハルト・ハイドリヒのSDなどの諜報機関によるスパイ合戦による設計図の奪取。
イギリス、日本、アメリカなどの各海軍先進国への研修、それと同時に軍艦の発注。
そうして得た各国の技術を無理なく取り入れて作ったのがビスマルク級だ。
『ビスマルク級戦艦』
ドイツ海軍が竣工させたZ計画の最初の超弩級戦艦。攻、守、走、全ての要素がバランスよく優れたレベルで揃った戦艦。
“打倒!16インチ戦艦!”を合言葉に《ビッグ・セブン》やロンドン海軍軍縮条約切れで列強が新たなに建造する戦艦の打倒を念頭に置かれて建造。
その為、ビック7や計画中の戦艦群を上回る装甲と火力を持ち、就役当時《世界最強の戦艦》と言われた。
ビスマルクの就役により保有している戦艦及び計画中の戦艦が全て旧式化した為に《ビスマルク・ショック》《第二次ドレッドノート》と呼ばれ列強による建造レースを開始する。
また精密機械、光学照準器などのその他の兵装もドイツの技術力により高い性能を発揮して本艦の性能を遺憾なく発揮した。
全長:250m、全幅:36m、排水量:4万5000t、最大速力:30kt、航続距離:20kt/20000海里
武装:50口径40.6cm三連装砲×4基、76口径88mm連装高角砲×12基、30mm連装機関砲×20基
同型艦×6隻:ビスマルク、ティルピッツ、ヒンデンブルク、ルーデンドルフ、モルトケ、ヴァレンシュタイン
35年にクラス・ビスマルクの建造を発表。この時、ビスマルクのスペックを知った各国はド級戦艦のネームシップであるドレッドノート級が建造された当初と同じような状況に各国の海軍関係者を陥れた。
列強各国の海軍将校達と造船関係者は荒れた、イヤ“荒れる”というより“奈落に突き落とされた”だった。
保有した戦艦が全て旧式化したのだから。しかも巨額の予算を掛けて建造した最新鋭艦や計画中の艦までもが、だ。
そして総統の思惑通り各国は建造レースに乗った。ビスマルク登場以前に旧式化していた戦艦の一新もあったが、詮無い言い方、とどのつまりが“相手より強い戦艦が欲しい”のだ。
折しもロンドン海軍軍縮条約が切れ、列強各国は第二次ロンドン海軍軍縮条約を棄却し、大規模建造計画をスタート。
軍縮条約と予算の枷から解放された列強は頭のネジが吹っ飛んだような勢いで大建造計画を進めた。
大日本帝国の戦艦8、空母8の【新八八艦隊計画】
アメリカ合衆国の戦艦16隻、空母24隻の【新ダニエルズ・プラン】
ソビエト連邦の戦艦6隻、空母6隻を筆頭に補助艦艇を含めた250隻以上となる大艦隊建造計画、海軍五カ年計画。通称【プロジェクト23】
大英帝国の戦艦10隻、空母10隻の【大艦隊計画】etc. etc.
列強諸国は“打倒!ビスマルク”を掲げ、後に《ポストビスマルク・クラス》と云われる最新鋭戦艦を次々に就航させていた。
《ポストビスマルク・クラス》の主な特徴は“40㎝以上三連装砲4基・速力30ノット以上・航続距離1万海里以上”の3つの要素が特色だ。
ポストビスマルク・クラスの建造による【戦艦経済】とも言われた建造レースで列強諸国は莫大な建造費用の捻出により何処の国も戦争する余裕は無い。
またこれら新造戦艦の建造費用に《ビスマクルショック》で旧式化した艦艇を売却した費用も宛がわれた。
旧式化した戦艦を含めた艦艇を中小国に売却した為、北欧諸国、南米諸国、ギリシャ、トルコ、ポーランド、中東諸国連合などの中小国の海軍力が大きく上がった。
しかもドイツ空軍とドイツ海軍により【北海演習】により航空機で戦艦を沈められる事が実証されて航空機への対策までしないといけなくなったのだ。ますます金が無いと云う負のスパイラルだ。
(北海演習の発端はゲーリング曰く“航空機で戦艦を沈められる”と豪語した事により行われた。魚雷を搭載したHe111やJu87が演習に参加。因みに一番、沈めたのは某スツ―カの魔王とも云われている)
「艦隊運用方法をイギリス、日本、アメリカ海軍から学び、盗み、血肉にしてきた。そうした血の滲む努力の末にやっと世界と肩を並べられる質と量のレベルとなった新生ドイツ海軍の誕生だ」
「女海軍とか色々と陰口を叩かれましたがね」
「いいではないか。職場が華やかになって良いではないか。お陰で職場結婚率が高くて見合い話を持ち掛け無くすむ」
「文句言う奴はモテない男の僻みだな。まぁ、モテしまってウハウハだが、な」
「ああ、あの潜水艦如くスレンダーな体系は良いモノだな」
「イヤイヤ、戦艦のようなボン・キャン・キュの3拍子だろ?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「・・・刺されちまえ、無スリムめ!」
「黙れ、この大艦巨乳主義者が!」
後にその場に居合わせた某民間人が語る。
“ありのままあった事を話すぞ。あの時、両元帥がお互い顔にクロスカウンターで拳が撃ち込まれた。そしてお互いに拳を顔に喰らった後、ガシッと互いに黙って硬い握手を交わしていました。私が唖然としてる中、その姿を見ていた周りを拍手しました。感動で泣いている奴もいた。アアッ、分かってる。自分でも何を言っているか分からないから”
そう。急増する艦に対してドイツ海軍は人員はお寒い程に少なく女性にも門戸を開いた。
門戸を開く発端となったのは空軍との空母パイロットについてだ。
空軍も人員拡大中で慢性的な人手不足。引き抜かれでは溜まったものではない。
急遽、女性パイロットのベアテ・ウーゼを派遣がキッカケで今ではドイツ海軍の3分の1は女性で《女性海軍》と云われる程の人員となった。
因みにドイツ空軍や親衛隊も規模拡大で人員不足だったのでゲーリングも海軍のマネて女性にも門戸を開いた。空軍の女性パイロットの筆頭はハンナ・ライチュである。
余談ながら有名なパイロット達には各ファンクラブがあり海軍ではハンス・ヨアヒム・マルセイユとベアテ・ウーゼが2大勢力である。
またまた余談ながら海軍で一番モテるのはハンス・ヨアヒム・マルセイユである。
ドイツ軍内の女性軍人の多い順では海軍>空軍=親衛隊>陸軍となっている。
ソ連軍 赤軍のように女性進出が進んで軍隊の一つとなった。
なお、陸軍の女性率が低いのは“重い配嚢と銃を背負って行軍し、泥塗れの塹壕を這い回り、シラミに噛まれながら寝るという世の理不尽が集積され尽くした戦場に送り出すのは忍びさ過ぎる”と云うものがあっる。
主な配属先は戦車や装甲車などの機甲部隊や輸送部隊や整備部隊や事務員など後方支援部隊などで歩兵科は少ない。
そんな昔話をしながらデーニッツ元帥はレーダー元帥に別の話をふった。
「で、噂のH50級の方はどうだ?大丈夫か?」
「安心しろ。順調に航行中だ。今回の観閲式のサプライズイベントのお目見えにはちゃんと間に合うぞ」
「各国は驚くだろうな。防諜で外にはH44級としているのだからな」
「そうでなくても驚くだろう。私なんぞあのデカブツを工廠で見た時は空いた口が塞がらずに唖然としたぞ。あの怪物を見てゲスト達がどんな顔をするのか今から楽しみだ」
再軍備化宣言によるZ計画。ドイツ海軍の編制は終わったものの、本格的な組織改革は難航していた。また、他国ともどう向き合うべきかという問題もある。
(まだまだ足りん。人員、艦艇、組織、戦術、手直ししなくてはならん所は幾らでもある。悔しいが組織としてはまだまだ未熟だ)
ドイツ海軍はこの15年で急速に成長した。Z計画により多くの艦船を建造し、編成し、人員も育成していった。
女性士官や女性兵の育成方法も確立して毎年多くの女性兵士、士官を送り出している。
僅かな前ド級戦艦、ポケット戦艦からスタートしたのが今では戦艦や空母などを多数の艦艇を有する大艦隊までに成長するに至ったのだ。
(急成長したモノの国家と軍の歴史は浅い。これからの舵取りは難しいものだ)
そんな事を胸の内で思っていると観閲式の開幕の言葉が始まった
観閲式の開幕の言葉はヒトラー総統が述べ、そこからは招待された国と代表者が読み上げられ、読み上げられた国の代表者が祝辞を読み上げる。
いよいよ観艦式が始まる。観閲する各国の艦隊の行進に合わせて、軍楽隊が演奏する。演奏する曲はその国を代表する軍歌や国歌などだ。
波を蹴立てて航行する観閲艦隊。艦隊は単縦陣を組み、その向こう側からを受閲艦隊の戦隊が通過していく。
「物凄い船の数です~」
「そうだな。これだけの国の艦が集まれるなんて、滅多に無い事だ」
観閲艦に乗り込み、観閲艦隊の艦にカメラを向けていたカメラマンの2人は感心したような、呆れたような感想を漏らした。
実は今回の観艦式は演習だけではなく、サプライズも含まれているという噂だ。
サプライズの内容はドイツ海軍の新たなる最新鋭艦が就役するお披露目も含まれていると言う話だ。
「噂の最新鋭艦には他国の技術協力があったと言う話ですよ?」
「そうだな。それは耳にしてるが、どの辺り協力したのかが気になる所だ」
「そうですね・・・そろそろ時間ですね。移動した方がいいんじゃないのでしょうか?」
「いいや、私はここで十分だ。見やすい良い場所ですからな」
「そうですか。では、また会いましょう。」
「ああ、貴方とはまた後でゆっくり話をしたいものだ。どうだろう?今度一杯。居酒屋チェーンス○リ○ッ○ィって美味い酒と料理を出す店を知っているが?」
「おっとと往きやがれです♪」
ナンパ紛いな誘いに女性記者は素晴らしく良い笑顔を浮かべて手をヒラヒラ振りながらベストポジションを確保する為に離れて行った。
残された男の記者はガクブルで肩を震えさせつつ、間もなく開式となる観艦式を待ち続けるのであった。
まもなく観閲式の開始となる放送が各艦に流れる。派遣された各国メディアと艦船マニアは“いつでも来い”と言わんばかりにバッチリとカメラを砲列の様に並べてスタンバイ済みだ。
「これだけの艦隊だ。良い絵を取り損ねるなよ」
「分かってますよ、チーフ」
「何たって、噂の最新鋭艦も出るそうじゃないですか。噂じゃ、あのモンタナ級や大和級を凌ぐって話らしいだからな!」
同僚の者達も笑顔が零れる。こんな大規模観艦式なんて滅多にお目に掛かれない。
しかも多国籍艦隊さながらの大艦隊行進である。次にこんな絵をいつ撮れる機会があるかわかない。気合は十二分だ。
「これより左舷から受閲艦隊が参ります」
観閲艦の各艦に放送が流れ、これまで周囲の人達と談笑をしていた者も、艦を激写していた者も揃って左舷へと向き直る。
観閲艦隊の進行方向に向こうから複数の艦影が見えて来た。
一番手の先陣を任されたのはイギリス艦隊であった。国歌の〈女王陛下万歳〉が演奏される中、ライオンを中心に戦艦10隻が、綺麗な縦列陣を組んで悠然と航行してる。
その上空をウェストランド〈ワイバーン〉が編隊を低空飛行する。
『ライオン級戦艦』
イギリスが建造した16インチ戦艦。ビスマルク級に対抗する為に建造された戦艦。
当初は20インチの搭載も計画されたが技術的に難しく、保有戦艦が全て旧式化したので早急に代交艦が必要になったので16インチ砲搭載戦艦として建造された。主砲の40cm砲はネルソンと同一の物を使用。
全長:240m、全幅:33m、排水量:43,000t、最大速力:30kt、航続距離:20kt/15,000海里
武装:45口径40㎝三連装砲×4基、50口径114mm連装両用砲×8基 40mm八連装ポンポン砲×8
同型艦×10隻:ライオン、テレメア、コンカラー、サラマンダー、アンソン、ハウ、キング・ジョージⅤ世、プリンス・オブ・ウェールズ、デューク・オブ・ヨーク、セント・ジョージ
ライオンの艦橋では観艦式で先陣を任せてもらえたという名誉に乗員達は高揚感に包まれていた。
「騎士としては光栄の極みですな、提督」
「そうだな。それでは感謝の意を表して、祝砲を撃つぞ。準備は良いな?」
「ハッ! 準備は完了しております!」
この観艦式では観閲艦の前を通る際に祝砲を撃つように組まれている。勿論、空砲だ。
「主砲、斉射!ファイヤー!!」
ライオンの艦長の号令が響き渡った。主砲の40㎝12門が轟音を空に響かせた。
同じく後続に続くフッド、ヴァンガード、ヴァリアントが主砲の50.8cmによる祝砲を撃った。
『フッド』
第一次世界大戦からの古参戦艦。余裕のある大きな船体を利用して50cmクラスの砲のテスト艦として近代改修を行い再就役させた。
当初は倉庫で埃をホコリを被っていたフューリアスの主砲の搭載してインコンパラブル級の設計を利用して改装したリサイクル戦艦。
これらデータはヴァンガード級の建造に役立たれた。後、主砲をヴァンガード級と同一の物と換装した。
全長:262m 全幅:31.7m 排水量:45,000t、最大速力:33kt 航続距離:15kt/10000海里
武装:50口径50,8cm砲連装砲×4基、50口径114mm連装両用砲×12基、40㎜八連装ポンポン砲×12基
『ヴァンガード級戦艦』
イギリス海軍の威信とヨーロッパ最強目指して建造した20インチ砲搭載の戦艦。
また本級の名前の頭文字がVで始まる事からV級とも呼ばれる。
フッドで得られた様々なデ―タを反映させて建造されたイギリス最強の戦艦。
ライバルの大和級とモンタナ級と互角に戦えるだけの充分なスペックは持っている。
全長:250m、全幅:33m、排水量:45,000t、最大速力:30kt、航続距離:15kt/15,000海里
武装:50口径50.8cm砲三連装砲×4基 45口径114mm連装両用砲×12基 40mm八連装ポンポン砲×12
同型艦×2隻:ヴァンガード、ヴァリアント
その戦艦の上空を空母ジブラルタルなどから発艦したワイバーンが飛んで行く。
大柄な機体に二重反転プロペラが飛ぶ姿は機体の名前通り“ワイバーン”のようだった。
『ジブラルタル級航空母艦』
従来のイギリス空母の弱点である搭載機数の問題を解消した大型空母。
また世界で初めてアングルド・デッキ、蒸気カタパルト、|ミラーライディングシステム《発着艦指揮装置》を採用。
後に日本の大凰級、アメリカのユナイテッド・ステーツ級、ドイツのO級など新世代航空母艦が採用した。
全長:280m、全幅:35m、排水量:47,000t、最大速力:33kt、航続距離:15kt/20000海里
武装:50口径114mm連装両用砲8基16門 40mm八連装ポンポン砲×24
搭載機:100機
同型艦×8隻:ジブラルタル、デューク・オブ・エジンバラ、ハーキュリーズ、パーシュース、マジェスティック、オーディシャス
イギリス艦隊が過ぎ去ると、後に続いたのはフランス艦隊だ。曲は〈ラ・マルセイエーズ〉
特徴的な四連装砲塔を振り翳しながら巡航する姿は艦船マニアや海軍軍人の間では密かな人気を集めている。だってカッコいいじゃん!四連装砲塔!
『ガスコーニュ級戦艦』
建造当初は世界最強、そしてヴァンガード級が登場までは欧州最強戦艦、現在でも40㎝砲搭載戦艦の中では一番最強のフランス最強戦艦。
全長:280m、全幅:40m、排水量:70,000t、最大速力:33kt、航続距離:18kt/10,000海里
武装:50口径40㎝三連装砲×4基 45口径10cm連装高角砲×16基
同型艦×4隻:ガスコーニュ、リシュリュー、ジャン・バール、アルザス
そして空母〈クレマソー〉からは新型艦載機〈アルセナルVB.10〉が飛び出し、青・白・赤の三色のスモークでトリコロールを作るパフォーマンスを披露して他の国の艦とは違うパフォーマンスで観客を“アッ”と言わせた。
『クレマソー級航空母艦』
クレマンソー級航空母艦はフランス海軍が建造した航空母艦。中型空母ながらバランスのとれた航空母艦。
全長:265m、全幅:51,2m、排水量:24,200t、最大速力:32kt、航続距離:18kt/7500海里
武装:55口径100mm単装砲×10基 40mm機関砲×26基
搭載機:44機
同型艦×4隻:クレマソ―、ベアルン、ジョッフル、パンルヴェ
「ほう、フランス艦隊も中々、派手な事してくれるじゃないか」
そんな事を呟いたのは、次を控えたイアリア艦隊の提督だ。座乗する艦は地中海最強戦艦のローマだ。
『ローマ級戦艦』
イタリアの威信を掛けて建造された世界初のガスタービン機関を搭載した高速戦艦。
攻防能力は列強40㎝クラスとほぼ同クラス、速力は世界最速の戦艦。
だが、航続距離は辛うじて1万海里は有るモノの燃費が悪く、特に航洋性と凌波性がすこぶる悪い。が、地中海での運用に特化させている為、特に問題は無い。
全長:250m、全幅:33m、排水量:50,000t、最大速力:40kt、航続距離:10kt/10,000海里
武装:50口径40.6cm三連装砲×4基 50口径90mm連装高角砲×12基 20mm連装機関砲×20基
同型艦×4隻:ローマ、リットリオ、インぺロ、ヴィットリオ・ヴェネト
全艦が機関にガスタービン機関を搭載して【韋駄天艦隊】と異名を取る駿足のイタリア艦達が〈マメーリの賛歌〉が流れる中、最大船速の40ktで水飛沫を上げて爆進しながら観閲艦の前を通過していき、その上をアクィラから発艦したRe.2005〈サジタリオ〉が飛ぶ。
『アクィラ級航空母艦』
イタリア海軍初の中型航空母艦。日本から飛龍(史実の雲竜型)の設計図を購入。1番艦は日本に発注。2番艦以降も技術指導の下に建造。元より全長と幅は広め。
全長230m、全幅:30m、排水量:20,000t、最大速力:35kt、航続距離:18kt/8,000海里
武装:50口径90mm連装高角砲×6基 20mm連装機関砲×22基
搭載機:60機
同型艦×4隻 アキーラ、スパルヴィエロ、エトナ、ヴェスヴィオ
次は大日本帝国海軍。戦艦4・空母4・巡洋艦8の艦隊を態々、地球の裏側から参加させてきた。
〈軍艦マーチ〉が流れる中を大和級の戦艦群が進んで行く。鉄の城の様な前鐘楼のデザインには国内外の艦船ファンはもとい一般人からも人気が高い。
『大和級戦艦』
世界初の51センチ搭載艦。モンタナ級より少し口径の大きい51cm砲を搭載した戦艦。
世界最強の戦艦と云われている。アメリカが建造する新造戦艦を叩き潰す為に建造された日本最強の最大の戦艦。また同型艦数も日本の戦艦の中で最多。
全長:280m、全幅:40m、排水量:70,000t、最大速力:30kt、航続距離:16kt/15,000海里
武装:50口径51cm三連装砲×4基、65口径10cm連装高角砲×12基、30mm連装機関砲×24基
同型艦×8隻:大和、武蔵、信濃、美濃、紀伊、尾張、甲斐、越後
「相変わらず大和級は綺麗ですね~」
「やっぱり。参加国の中ではトップクラスのデザインだな」
なお、そのドッシリとした日本の城を思わす艦橋デザインと砲塔配置でファンが多い。
そして大鳳級から〈陣風〉が次々と発艦していく。その周りには秋月級防空巡洋艦が随伴している。
『大鳳級航空母艦』
グラーフ・ツェッペリンの建造の経験を反映させた大型装甲空母。日本初の装甲飛行甲板やカタパルトを装備。
またジブラルタル級の出現によりアングルド・デッキ、蒸気カタパルト、|ミラーライディングシステム《発着艦指揮装置》を日本で初めて採用した。
全長:300m、全幅:40m、排水量:5万t、最大速力:35kt、航続距離:18kt/15,000海里
武装:65口径10cm連装高角砲×16基、30mm連装機関砲×22基
搭載機:100機
同型艦×8隻:大鳳、白鳳、翔鳳、瑞鳳、龍鳳、祥鳳、虎鳳、鳳凰
『秋月級防空巡洋艦』
帝国海軍が航空機の脅威の為に建造された防空巡洋艦。空母随伴する為に充分な速力と航続距離、高い防空能力を持っている。
全長:180m、全幅:17m、排水量:9000t、最大速力:35kt、航続距離:18kt/10000海里
武装:65口径10cm高角連装砲×6基、30mm連装機関砲×12基
同型艦×24隻:
大日本帝国海軍の次はアメリカ合衆国だ。曲は〈星条旗よ永遠なれ〉
この観艦式に戦艦6隻、空母6隻、巡洋艦8隻、駆逐艦14隻と参加国では最大数の大艦隊を投入してきた。
300mクラスを誇る巨大戦艦と巨大空母に圧巻される観客達。超大国たる所以がそこにあった。
世界最強の戦艦と云われるモンタナ級が6隻、単縦列で進んで行き6隻同時に一斉射撃する。合計72門の40㎝砲の一斉射は圧巻であった。
『モンタナ級戦艦』
アメリカ初の20インチ砲を搭載した戦艦。大和級と並ぶ世界最強の戦艦と称される。
このモンタナ級と大和級との二クラスの戦艦は“ツイン・バハムート”と愛称で呼ばれている。
性能面では両艦ともほぼ互角と言って良い。厳密に比較すると攻守などのハード面では装甲などでやや大和の方が若干ばかり上だがレーダーなどの電子機器などソフト面ではモンタナ級が優っている。
全長:280m、全幅:40m、排水量:70,000t、最大速力:33kt、航続距離:15kt/20,000海里
武装:50口径20インチ三連装砲×4基 54口径127mm単装速射砲Mk47×12基 ボフォース40mm四連装機関砲×16基
同型艦×16隻:モンタナ、オハイオ、メイン、ニューハンプシャー、ルイジアナ、コンステレーション、コンスティチューション、アイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシン、イリノイ、ケンタッキー、サウスダコタ、インディアナ、マサチューセッツ、
〈ユナイテッド・ステーツ〉と僚艦の〈フォレスタル〉〈ミッドウェイ〉〈シャングリラ〉〈レプライザル〉〈コーラル・シー〉から続々とF7F タイガーキャット、ファイヤーボールが飛び立ち、大編隊を組みながらアクロバット飛行をしていく
『ユナイテッド・ステーツ級航空母艦』
日本の大鳳級の建造に触発されてアングルド・デッキ、蒸気カタパルト、|ミラーライディングシステム《発着艦指揮装置》を装備して建造された世界最大の超大型空母。双発爆撃機や双発戦闘機の運用も視野に入れられて建造された。
全長:350m、全幅:50m、排水量:80,000t、最大速力:35kt、航続距離:15kt/20,000海里
武装:54口径127mm単装速射砲Mk47×12基 ボフォース40mm四連装機関砲×22基 20mm機関砲×34基
搭載機150機、同型艦×24隻
眺めていた一般客や関係者も息を呑む。その艦の巨大さと数を目の当たりにし、圧倒されて言葉が出てこない状態だ。
「こんなに大きいのか……」
「す、凄いです」
「流石、チート国家と云われるだけはあるな」
アメリカの目論見は成功した。ココまで圧党的な艦隊を見せつければアメリカの力を誰もが分かり“こんな国にケンカ売ったら消費税に利息を付けて3倍にして返してくるだろう”“こんな軍艦が何百隻と押し寄せてくれば、まず勝ち目はあるまい”と思い戦う事をやめないまでも躊躇させる事はできる。
現に・・・(((((この国を敵に回してはならない)))))と観衆一同、心の底から思った。
そして視界から次第に消えていくアメリカ艦隊を眺めていると、次はソビエト艦隊が姿を現した。曲は〈祖国は我らのために(ソビエト連邦国歌)〉
ソビエト艦隊はプロジェクト23で新たに建造された新鋭艦の艇群だ。参加艦隊は戦艦2隻、空母2隻を中核となって編成されている。
先頭に〈ソビエツキー・ソユーズ〉と〈ソビエツカヤ・ロシア〉が進んで行く。
『ソビエツキー・ソユーズ級戦艦』
ソ連海軍の超弩級戦艦。一番艦のソビエツキー・ソユーズはアメリカに発注され建造。
2番艦以降はアメリカから技術提供を受けて建造自国で建造。後記の空母も同じように技術習得して建造された。
攻・防・走に優れていた本級は、比較対象となるビスマルク級戦艦の機動力を除いた全てと同等の戦闘能力を持っていた。
また自国内での建造に置いてはソビエトマネーやコミンテルンの力をフルに使い各国から〈ビスマルクショック〉で旧式化した戦艦を購入して各国の技術を取り入れてた。
全長:270m、全幅:40m、排水量:6万t、最大速力:33kt、航続距離:15kt /10,000海里
武装:50口径40.6cm三連装砲×4基、56口径100mm連装高射砲×10基、67口径37mm四連装機関砲×20基
同型艦×6隻:ソビエツキー・ソユーズ、ソビエツカヤ・ウクライナ、ソビエツカヤ・ベロルーシヤ、ソビエツカヤ・ロシア、ソビエツカヤ・ウズベキスタン、ソビエツカヤ・トルクメニスタン
「どの艦隊も個性が良く出ているな。なぁ、同志副長?」
「同感です同志艦長。航空隊の発艦準備できました。発艦許可を願います」
艦橋で赤軍らしく女性の艦長が感心している傍で、同じく女性の副艦長が発艦準備を伝える。
「よろしい。全機!ソ連海軍の魔女の力、見せて来い!」
「此方、艦橋。発艦許が下りた。ウィッチ達、出撃!」
「了解!〈カチューシャ〉出ます!」
ソ連の最新鋭空母〈エリザヴェータ〉と〈エカチェリーナ〉からエカテリーナ・ブダノア中尉が乗る〈ラボーチキンLa-11〉が発艦し、後続機が次々とそれに続いていく。
『エリザヴェータ・アレクセーエヴナ級航空母艦』
ソ連海軍初の航空母艦。建造は建造中のエセックス級を購入して一部改装。
そして技術者をアメリカに派遣して建造技術のノウハウを習得した。
艦名はエリザヴェータ・アレクセーエヴナから。以後の同型艦の艦名には全て女性の名前を用いられた。
排水量:3万4000t、全長:270m、全幅:30m、最大速力:33kt、航続距離:15ktで15,000海里
搭載機:80機、武装:56口径100mm連装高射砲×8基 67口径37mm四連装機関砲×20基
同型艦×6隻:エリザヴェータ・ペトロヴナ、オリガ、アンナ・パヴロヴナ、アナスタシア・ロマノヴナ、アンナ・イヴァノヴナ、ソフィア・アレクセーエヴナ
ソビエト艦隊が観閲艦隊から離れていくと、進行方向に新たな一群が現れた。
オランダ、トルコ、ギリシャ、北欧諸国、ABC3ヶ国、中東連合などの中小国の国々だ。
これからの国々は列強諸国が保有している艦は〈ビスマルクショック〉で旧式化し、売却された艦船を購入してる。
観閲艦・受閲艦の双方の海軍関係者は自国の艦達が他国で活躍する姿を見る目はどこか懐かしげに見つめていた。
そしていよいよ最後のトリであるドイツ海軍の登場。参加艦艇は戦艦〈ビスマルク〉を筆頭にビスマルク級4隻、O級空母4隻、巡洋艦4隻、駆逐艦8隻。更にサプライズとして噂されている最新鋭艦を含めて26隻。
観客達も、最大の見せ場だという事で興奮止まぬものであった。
『では、皆さん! 次はドイツ第三帝国艦隊です!』
「「「おぉーっ!!」」」
演奏曲が《ドイツの歌》に変わり、雰囲気を変える。最初はビスマルク級の4隻の一斉射撃。ドイツ海軍随一の40㎝砲の火力が一気に放たれた。
“ワァッ”と観客は歓声を上げる。全48門の一斉射はアメリカ艦隊には劣る者のやはり迫力の一言である。
鋼鉄宰相の名を与えられた艦達は、今なお健在している証拠だ。
観客、特に海軍関係者にとってもビスマルクという戦艦がより特別な意味を持つ戦艦である。
「鋼鉄宰相、今だ顕在、か・・・あの頃、俺を徹夜漬けの日々に突き落としやがってこん畜生」
とある造船関係者の毒付きながらのコメントである。ビスマルクなど所詮は只の戦艦にしか過ぎない。
しかし、そんな只の戦艦が世界を動かした。ビスマルクにどんな思いを寄せているのかが窺い知れる一言である。
大和級やモンタナ級などの20インチクラスの戦艦には見劣りはするものの、その存在感は圧倒的である。
「次はザイドリッツ級揚陸艦〈ザイドリッツ〉〈リュッツォウ〉です。飛行甲板上に居るのは親衛隊の精鋭達です」
『ザイドリッツ級揚陸艦』
海上からの上陸能力を持たないドイツ海軍が軽空母〈ザイドリッツ〉〈リュッツォウ〉を改造したヘリコプター揚陸艦。
改築には帝国陸軍の〈神州丸〉〈あきつ丸〉を参考して改築された。
全長:220m、全幅:32m、排水量:20,000t、最大速力:33kt、航続距離:20kt/8000海里
武装:76口径88mm連装高角砲×6基、30mm四連装機関砲×12基
搭載機:フォッケアハゲリスFa223“ドラッヘ”×12機、フレットナーFl282“コリブリ”×8機、エア・クッション型揚陸艇2隻
同型艦×2隻:ザイドリッツ、リュッツォウ
空母に似た全通甲板を持つ揚陸艦。その甲板の上で観閲艦に向けて敬礼するのは親衛隊だ。
【ドイツ親衛隊】
創設時から現在までに紆余曲折あったが、現在ではフランス外人部隊とアメリカ海兵隊を掛け合わせたような武装集団に落ち着いた。
男女問わず外国人の志願者のみで編成し、総統の命令で世界の何処にでも即展開できる緊急展開部隊となっている。
司令官はエルンスト・レーム。また隷下には特殊作戦群のブランデンブルグ戦闘団や創設時と同じく総統の身辺警護もしている。
余談ながらドイツ国防軍諜報部と親衛隊のSDは統合されて国家保安省となった。
そして艦尾からホバークラフトが登場して海上を驀進した。
『ゼーレヴェ型エアクッション揚陸艦』
ドイツが開発した装甲ホバークラフト。揚陸中に敵の砲火を受ける敵前上陸を想定して居る為、敵の砲火から守る装甲や上陸支援用に武装を施されている。また河川沿いに奇襲すると云う戦法も想定されている。
全長:40m、全幅:20m、搭載容量:100t、最大速力:60kt、航続距離:50kt/400km
武装:30mm2連装機関砲×2基、15cm10連装ネーベルヴェルファー×1基
「続きましては潜水艦隊の登場です」
アナウンスがドイツ潜水艦隊の到着を告げると同時に海面に多数の気泡が現れ、やがて黒い影がはっきりと見えてきた。
黒い影は海面を突き破り、その鋼鉄の胴体をあらわにする。
海中から潜水艦が次々と緊急浮上して勢い良く飛び出して着水する。来賓の観客はいきなり登場した潜水艦群に驚いた。
『U-1000型ラインゴルト級潜水空母』
ドイツ海軍が建造した潜水空母。日本の伊400型に触発されて建造した潜水空母。
本格的な潜水空母として運用する為、飛行甲板とカタパルトを備えたラインゴルト級潜水空母は空母艦上機を使用するため、優れた航空展開能力を獲得した。
艦橋一体型の密閉型2段格納庫を備えており、十分な航空燃料と弾薬を搭載していたが、搭載機数の少ない。
最初は実験艦的な意味合いが強く1隻のみの建造だったが、予想に反して良好な運用実績を上げてた為、続艦の建造が決定された。その運用特性上、建造数は機密。
現在は特殊作戦用やV2ミサイルを搭載したティルフィング級弾道ミサイル潜水艦・巡航ミサイル潜水艦などに転用されている。
また世界中に潜水艦隊への“補給潜水艦”として運用されているタイプもあり、元が潜水空母なだけに潜水艦の乗員を休養させる為の充分な設備が整い、潜水艦を整備するための設備も持っている。
全長:200m、全幅:22m、排水量:6000t、最高速度:水上22kt/水中18kt 潜航深度150m、航続距離:50,000海里、搭載機数:12機、武装533mm魚雷発射管×4
『U-2000型ティルフィング級戦略ミサイル潜水艦』
ラインゴルト級潜水空母の船体を利用して建造された戦力ミサイル潜水艦。
初期段階ではV1ミサイルを搭載していたが現在では潜水艦発射型のV2弾道ミサイルを搭載している。
現在、世界の7つの海に全て展開して海中に息を潜め、命令があるその日まで沈黙を守り続けている。
全長:200m、全幅:22m、排水量:6000t、最高速度:水上20kt/水中18kt、潜航深度150m、航続距離:50,000海里、武装533mm魚雷発射管×4、V2弾道ミサイル発射管×12
『ⅩⅩⅠ型モービー・ディック級潜水艦』
モービー・ディック級と各国から称され“世界最強の潜水艦”と恐れられている水中高速潜水艦。
ワルター機関の搭載により従来の潜水艦とは比較にならない性能を持っている。
現在、原子炉を搭載した“ウラルマシーン”のコードネームで呼ばれる原子力潜水艦が実験航行中。
全長:80m、全幅:8m、排水量:1600t、最大速力:水上15kt/水中20kt、潜航深度300m、航続距離:15kt/15,000海里、武装:武装533mm魚雷発射管×6、同型艦×200隻
“ドイツの潜水艦は世界最強ッッッ!!!”そう自ら自負して世界最強の潜水艦隊の座を守り続ける彼らは他国の艦船を悉く海の藻屑に変え、世界中の海で通商破壊を行う“海の狩人”として他国に恐れられている。
そして自らの体内に搭載したV2ミサイルで世界中の都市を焼き払い“ハルマゲドン”を演出する世界を破滅させる力をもった沈黙の艦隊である。
そして後方からO級航空母艦の登場。オルデンブルクを筆頭に僚艦6隻の飛行甲板の上に並んだ新型のメッサーシュミットMe262-HG3〈シュヴァルベⅢ〉が次々とカタパルトから勢いよく飛び出して発艦していく。
シュヴァルベの新型派生タイプ〈Me262-HG3〉時速1000km近く出せる亜音速戦闘機。
世界で唯一ジェット戦闘機で編成されたドイツ海軍航空機動艦隊である海鷲達の新たな翼だ。
『オルデンブルク級航空母艦』
O級空母の二つ名で有名なドイツ大型空母。日米英の新型大型空母に触発されてアングルド・デッキ、蒸気カタパルト、|ミラーライディングシステム《発着艦指揮装置》を採用したドイツの新型空母。
全長:300m、全幅:35m、排水量:52,000t、最大速力:33kt、航続距離:20kt/20000海里
武装:76口径88mm連装高角砲×12基、30mm四連装機関砲×20基、搭載機数:130機
同型艦×6隻:オルデンブルク、オストンリースラント、アドミラル・フォン・ブリュンスタッド、フォン・ルンシュテッド、ハンス・ラングスドルフ、エルンスト・リンデマン
「続いては、航空部隊の受閲を行います。先頭は“大西洋の星”ハンス・ヨアヒム・マルセイユ少佐です!」
放送と同時に、人々は一斉に視線を上げる。前方から小さな点が近付いてくるのが見えた。そして低飛行のまま高速で観閲艦隊の上をフライパスした。
グラーフ・ツェッペリンなど大きな船体を持つ艦は大した揺れはなかったが、駆逐艦やフリゲイトなど小さな船体の参加艦などは風圧で揺らされた。
その様を見ていたドイツ海軍の将官の1人は青筋が浮かびあがらせながら「あの小僧が・・・」と小さく呟く。
マルセイユに続いた3機のMe262-HG3は、少佐の行いにコックピットの中で苦笑を浮かべながらも編隊を崩さず観閲艦隊の上空通過していく。
ドイツ海軍の各艦が通り過ぎる間際に祝砲を撃ち放つ。その様子を艦橋から眺める女性がいた。
イヤ、艦橋と云うのは正しくない。戦艦の眼――測距儀の上にいる。
しかもドレスを着てだ。こんな所に人間はいない、船魂だ。西洋・東洋、過去も現在も問わず船乗り達の間で囁かれ続かれている伝説。
軍艦・商船問わずありとあらゆる船は魂を持っている。船を守護し、乗り込む人々を守り、航海の安全を守る海の守護神。
彼女達を見る事が出来る人間は多くはない。そして見える事が必ずしも幸せとは限らない・・・
「ビスマルク、久しぶりだな」
「モンタナか。そっちは大和だな。観閲式、御苦労さん」
2人の船魂が近寄って来た、1人はビスマルクと同じようにドレス姿だが、もう1人は振袖の着物を着ていた。
「それにしても何だ、その格好は?いつもの海軍服や騎士甲冑はどうした?」
「ほっとけ。そっちこそ人の事を言えないだろう」
「観閲式はドレスコードで着飾るのがマナーだろう」
「・・・他の奴等は見あたらんが?」
「彼女達なら、ホラ」
大和が指差す方へ視線を目をやると容姿や肌の色など千差万別の様々な女性達がいる。
敢て共通点を挙げるなら全員が身目麗しい美しい美女達で各国の民族衣装や様々なデザインの美しいドレスで着飾っていると云う点くらいだ。
「空母の奴等はユナイテッド・ステーツの所に集まってるよ。空母には空母の集まりがあるからな」
「で、何でみんな私の所に来るんだ?」
「イヤ~お前の所の新造艦がどんな奴かなと思って?会ったのか?どんな奴だ?」
「まだだ。まだ誰とも会っていない。ドイツ艦でも今回のサプライズで初顔合わせだ」
「そっちの総統や夫人も見える人だっけ?珍しいよな。海軍の人以外で見えるのって」
「ライバルのゲーリングやヒムラーも、だ。まぁ、だからあの人達は軍艦が嫌いなのだけどな。私達が傷付く姿を見たくないだ、そうだ」
「そういや、ゲーリングは見えるようになってから激ヤセしたよな」
「私の所ですと天皇家の方々ですね。陛下は特に比叡を気に入っていて売却の話が持ち上がった時は大変でしたね」
「うちのドゥーチェやバチカンのローマ教皇が見える人だよ」
「王室の人は~見えてたね~後~英国国教会の人とか~空軍のダウディング大将も見える人でした~」
「お、そろそろその噂の新顔が来る頃だぞ」
そんな観閲客やゲスト、そして船魂達で賑わ盛り上がっている観閲式の様子を艦橋のTVから流れる放送で見ながら噂のサプライズ艦ではこんな会話がなされていた。
「どの国も気合が入ってるな。なぁ、副長?」
「同感です。ですが、艦長。我々も負けてはおりません」
そして今まで登場した戦艦達を凌ぐ、本当の圧倒的存在感を醸し出した巨龍が人間達と船魂達の前に姿を現す。
「……? 何だ?」
その兆候はまず、船魂が気付いた。“何かいる”そんな気配を感じたのだ。
次に各国の受閲艦・観閲艦のレーダーが捕らえた。スコープに明らかに大き過ぎる影が浮かび上がったからだ。
そして各艦の艦橋にいる面々、最後に観閲艦にいるゲストの一般人だ。
船魂達も思わず息を飲んでいる。オーラが違う。何か途轍もないモノが近づいて来ている。
「な、何だよ、この感じ。戦艦の船魂の気配じゃないぞ?」
「こ、これ、三笠お姉さまクラスですよ?新造戦艦がこの霊力なんてありえません」
(((((一体、なんだ??)))))
船魂を含めた全員がそう思いながら海を見ていると“ソレ”がゆっくりとゆっくりと近づいて往き艦影を露わにしていった。
「なッ・・・・・・なんだ、あの艦は!?」
「お、大きい!!」
「・・・・・・馬鹿デカ過ぎるだろ」
「イヤイヤ、デカ過ぎるだろ!?」
「何だ!この規格外の大きさは!?」
各国代表や観客達は揃って衝撃的な光景に打ちのめされ、唖然としていた。
その規格外の何かの全貌が唖然とする彼等の前に露わになる。
騒然となる観閲式の中、スピーカーから観閲式の司会進行をしていた女性が大きな声で発表した。
『皆様、これこそが我がドイツ海軍が作り上げた最新鋭艦!栄えあるドイツ第三帝国海軍の総旗艦となるべくして、Z計画が発表されて凡そ15年。長年の歳月を掛けたZ計画艦の最期の戦艦が完成を見ました!』
司会者が紹介を続ける中、最新鋭艦は悠然としながらゆっくりと、ゆっくりと、その巨体を進まさせて行く。
最早、誰の口から言葉が出てこない。全体の雰囲気はこれまでのドイツ艦と同じだ。だが、デカイ、デカ過ぎる。
ヨーロッパ諸国の戦艦達が駆逐艦に見え、あの〈大和〉や〈モンタナ〉ですら巡洋艦に見えてくる程にデカイ。
そして艦の大きさにやっと慣れてきてくると戦艦の命である主砲に目が往きまたも唖然とする。
砲塔が艦橋を挟み前後に3基ずつで合計6基。これだけでも驚愕なのに明らかに砲口が大き過ぎる。
20インチや22インチ、ましてや24インチ所ではない。
もっと大きな砲ではないか?一体、どれ程の砲口なのか見当さえ付かん。
イヤ、ちょっと待て。アレと似た者をどこかで見た様な覚えが・・・何処だ?くそっ!思い出せない。何処だ?何処で見た!?
艦側などには高射砲や機関砲が目一杯、整然と配置されている。生半可な航空攻撃では対空砲火の餌食となり逆に殺られる。
そして所狭しと並んだ高射砲や機関砲の間にミサイル発射機と思しきもの見える。
更によくよく見てみると煙突らしきモノが全くない。普通、イヤ、どんな艦にも絶対にあるべき筈の煙突がないのだ。
煙突が無いと云う事は・・・まさかあの戦艦の機関は・・・
「全長400m!全幅50m!排水量20万トン!主砲は30口径100㎝砲3連装4基!」
そして、前代未聞かつ史上最大のドイツ海軍最強の巨大戦艦、いや《世界最強》の巨大艦の艦名が明らかとになる。
「原子力戦艦〈フリードリヒ・デア・グロッセ〉!!!」
【フリードリヒ・デア・グロッセ級原子力戦艦】
コードネームH50級戦艦。正式名称《フリードリヒ・デア・グロッセ級原子力戦艦 1番艦フリードリヒ・デア・グロッセ》
ドイツの技術力の粋を結集させて作った世界初の原子力戦艦。そして世界最強の戦艦にして最後に建造された戦艦。
登場以降、各国からは〈キング・オブ・ドレッドノート〉〈カイザー級〉の異名を称された。
当初はH44級というコードネームで300m級の船体に20インチクラスの砲という極めて常識的な範囲で建造予定だったが、列強各国の技術進歩の速さと将来現れるであろう新鋭戦艦群を片っ端から沈める為に敢えて400mの船体に100センチ砲を搭載する文字通り化け物の戦艦を建造することに踏みきった。
主砲の100㎝砲は元々、マジノ線の対抗用に配備された100㎝列車砲“ドーラ”を流用し、艦載砲用に手直して搭載した。
給弾機構も100㎝という巨弾を使用する為に自動装填化し、毎分1~2発ながらも何とか艦砲として運用できるレベルに漕ぎ着けた。
機関には艦船で世界で初めて原子力機関を搭載。400mの巨体でありながら33ノットの推力で爆進しながら無限(∞)に近いの航続距離を手に入れた。
そして400mの巨体には航行性・旋回性の向上の為に艦首にシリンドリカル・バウ(内部にソナーを搭載。世界最大のソナーにより聴音性能は抜群)とフォイト・シュナイダープロペラを二基、艦首下・艦底中央部下に引き込み副舵を並列二枚配置して搭載した。
これにより400mの巨体とは思えないほどに微細で俊敏な機動が出来る。
防御は各部に対ミサイル装甲及び空間装甲、多層式液層防御機構、更にはNBC兵器への対策も全面導入された。
だが、こう云った防御装甲も戦艦の基本命題である“主砲戦距離で自らの砲弾に耐える”ことを考えられてはいない。
フリードリヒ・デア・グロッセには安全距離と云うものが最初から想定されていない。
ドイツの技術者達は自ら製作した100cm砲の圧倒的なまでに暴力的な攻撃力を前にして対抗する力を与えるの事を初めから諦めていた。
無論、これはフリードリヒ・デア・グロッセ単艦で考えた問題であり、他国の戦艦と比較すれば十分過ぎる程の防御能力を持っている。
また各種に他国の技術等も流用し、50年代に考えうるありとあらゆる最新技術を融合させて建造した究極の戦艦。
全長:400m、全幅:50m、排水量:20万t、最大速力:35kt、航続距離:∞海里
武装:30口径100cm三連装砲×6基、54口径5インチ単装速射砲Mk42×24基、30mm四連装機関砲×40基、4連装対艦ミサイル発射機×8基
同型艦×2隻:フリードリヒ・デア・グロッセ、グロース・ドイチッチュラント
驚きでまだ呆然としている各国の船魂達の前にフリードリヒ・デア・グロッセの船魂が現れた。
服装は観閲式に合わせてドレス姿。足まである翡翠色の長い髪に金の瞳。神秘的で神々しい独特の雰囲気を持った美女であった。
「お姉さま方、お初にお目に掛かります。フリードリヒ・デア・グロッセです。よろしくお願いします」
そう言いながらドレスの裾を持ち上げながら優雅に一礼して、名乗った。
「アメリカのエレトニクス技術に速射砲のライセンス生産、イギリスのファン・スタビライザー、イタリアのガスタービン、そして日本の五十万トン戦艦の設計図、よくもまぁ、これだけの技術を詰め込んだものだ」
「それにしても他国の技術を取り入れたとはいえ、ドイツがこれ程の巨大艦を造れるようになったのだな」
「まぁ、他国の技術は無くとも造れたが、それにしてもデカイな」
レーダー元帥とデーニッツ元帥がシャルンホストから〈フリードリヒ・デア・グロッセ〉を見上げながら呟いている。
両元帥の内心では“ここまで巨大な艦にしなくても良かったのではないのか?”と云う疑問は確かにあった。
無論、その疑問は彼等だけではない。“大和級やモンタナ級と同程度の大きさで良いのではないか?”という声は確かに多くあった。
だがこの〈フリードリヒ・デア・グロッセ〉は戦艦としては今現在ある戦艦は勿論のこと将来登場するであろう世界各国の新鋭戦艦群を叩き潰す為に作られた戦艦だ。
400mとなった巨体は、鉄壁ともいえる重装甲を纏う。更に巨大化した事で艦内部のスペースに余裕があり、今までの戦艦を超える指揮管制能力や情報処理能力などがあり、1隻で1000隻近い艦隊の指揮や海上司令部のようなこともできるようになった。
実際には1000隻クラスの艦隊を指揮する機会は滅多な事ではないが“動く司令部”しても大いに活躍する事が期待されている。
また、余裕のある艦内スペースにより多数の人員を収容でき、後年、災害救助に派遣され多数の人々を救出した。
「あ、主砲が動きだしたぞ!」
「撃つ、みたいですねッ・・・」
「オイオイ、100㎝の砲撃って、想像も付かんぞ・・・」
〈フリードリヒ・デア・グロッセ〉の100cm主砲全門が動きだし、6基全ての砲塔が真横に向け、発射前のブザーが鳴った。
そして巨砲は一斉に轟音を立ててその力を解放した。砲音や砲光が今までのどの艦とも桁違い。観客達の様子は驚愕の一文字の尽きる。
“あの大和やモンタナ51㎝を上回る100㎝の巨弾なら掠っただけでもどんな戦艦も轟沈してしまうだろう”や“あの巨砲の前ではどんな物も破壊出来るのではないか?”と砲撃を見た者達がそう思わせる程に強烈であった。
「イヤハヤ、とんだ化け物だなこの艦は。そう思わんかね、副長」
「同感です、艦長。新鋭艦にしても大きすぎる気もしますがね」
〈フリードリヒ・デア・グロッセ〉の艦橋では自分達の乗っている〈フリードリヒ・デア・グロッセ〉の祝砲に艦長と副長は凄過ぎて呆れ返っていた。
「で、副長。このH50級に匹敵する艦艇はあったか?」
「確かアメリカ合衆国には本艦に匹敵する巨大な艦はありました」
副長が言うのはアメリカ海軍が建造した〈ユナイテッド・ステーツ〉級航空母艦である。
これは今まで最長の巨大艦で350mを誇った超空母だ。現在、観閲式に参加しているハルゼー提督が座乗している。
今、彼らが乗艦しているH50級の登場により世界で2番目に巨大な艦と記録されただろう。
「しかし、まぁ、同型艦を作るのは難しいでしょうね」
「当然だ。2番艦の建造はギリギリ許可されたが、3番艦・4番艦はどうなる事やら・・・・・・」
《大艦巨砲主義を具現化した戦艦》と云われるフリードリヒ・デア・グロッセ級戦艦。
巨額の予算が注ぎ込まれたのは予想するのに難しくはない。
この艦1隻でビスマルク級が4隻は余裕で建造できるであろうと言われている。
大和級やモンタナ級なら2隻分に匹敵するかもしれなかった。
予算食いと見られても仕方ないが、その建造コスト以上の性能は確かにある。
と云うか活躍してもらわねば困る。そして沈まれても困る困ったちゃんな巨大戦艦だ。
因みに3番艦4番艦は空母として就役。世界初の原子力空母で世界一大きい空母となった。
「当分は実戦には出ないが、沈められては困る。そして戦争なんて真っ平ゴメンだ」
艦長が言うように、世界は戦争はしていない冷戦状態。最も戦争を起きそうだったのはドイツ第三帝国とソビエト連邦、大日本帝国とアメリカ合衆国だったが同盟を結び、今の所は平和だ。
だが、お互い同盟を結んではいても表向きではお互いが肩を組み合い仲良くしているが後ろでは互いに手に匕首を持って付き付けあっている剣呑な平和ではあるが。
「明日にも世界大戦は起きる」と云われながらの緊張の糸の上だが平和が保たれている。
「ソビエト連邦も侮れませんね。まさか“4流海軍”と呼ばれたあの国がまさかここまで海軍力を付けてくるとは思いもよりませんでしたよ」
「いつまでも同じだと思ってはいけないという良い例だ。我々も少し前までは“三流海軍”と呼ばれていたのだからな」
相手が侮ってはいけない。相手だって進歩するのだ。そういう奢りが相手に付け入る隙を与える。これは政治も軍事も同じ事だ。
やがて〈フリードリヒ・デア・グロッセ〉のお披露目も終わりに近づいてきた。
「艦長、これより外洋に向かいます」
「ウム。よろしく頼むよ」
艦長が了解すると〈フリードリヒ・デア・グロッセ〉は操舵手の舵取りに敏感に反応しながら巨体に似合わぬ軽快な動きで世界最大の戦艦は観閲艦隊から離れるのであった。
観閲式に参加した観客やゲストは〈フリードリヒ・デア・グロッセ〉が見えなくなるまで見つめ続けた。
「観艦式はこれにて閉幕となります。皆さま、お疲れ様でした」
観艦式の終了を知らせるアナウンスが流れる。観閲艦隊がキール軍港へ寄港する為、舳先を向け始めた。受閲艦隊はそのまま翌日の合同演習海域の大西洋に向かう。
そんな中、参加者である山本五十六海軍大臣はシャルンホストの飛行甲板艦尾で海を見ながら思案に暮れていた。
(全くドイツ海軍もとんだ怪物を造ったものだ。コレを本国に伝えたら海軍将校と造船関係者はビスマルクショック以来、イヤ、ビスマルクショック以上の阿鼻狂乱の大騒ぎだな。
敗戦と恐慌を乗り越えたドイツは伊達じゃない。苦境にあっても折れない不屈な精神には感心するものだ。
そしてドイツ第三帝国は各国と友好関係を築き上げてきている。
普通、友好な関係を結んだ相手と戦争をしようとは思わないし。ましてや技術大国ドイツと交流があるのは経済的にも魅力あるものだ。
とはいえ心配が無いとは言い難い。今は刃の上の薄氷の平和だ。隙あらばいつでも相手の背後を一刺しする。もしくは何処かの国が暴発するかもしれない。
中には理由をこじつけて戦闘を吹っかけてくる国もあるだろう。我が国も此方から仕掛けると云う可能性も一昔前には実際にしようとしたのだ。今後も大いにあり得る。
他国と如何にして協力的な関係を築き上げ、世界を戦火に晒さぬようにすべきか?他人事ではない頭の痛い問題だ)
「より良き平和な未来を作るのはまだまだ時間が掛かる事だな。先の長い話になりそうだな」
タメ息を吐きながら呟く。と、そんな彼に話しかける者がいた。
「どうなされたのですか?タメ息などなされて?」
そこに居たのは白いドレスを着て、柔和な柔らかな笑みを浮かべた美しい女性であった。
「シャルンホストか。イヤ、なに、少しこれから先の世界について考えていたのでな。君達船魂のお陰で今の平和を築く事が出来たからな。それを守っていく責任は重いな、と」
「そうですよ。今の平和はヒトラー総統が私達の事が見えたのが発端なのですから。頑張って下さい、長官」
「ああ、だからこそ、辛うじて蜘蛛の糸のような仮初め平和でも平和な事には変わりは無い。誰も死なず、誰もその死を悲しまず、そして君達 船魂 が悲しまない世界。後はそれをどう真の平和にするかが、我々が努力すべき事だよ」
顔に苦笑の笑みを浮かびながら決心の言葉を残して山本五十六は艦内へと足を運んだ。その姿をシャルンホストが静かに見つめながら見送ってた。
後に<|ラスト・オブ・ドレットノート《史上最強にして最後に建造された戦艦><アルティメット・ワン>と称される就航により各国の建造レースはストップ。
各国が計画中の|22インチ~24インチ砲《55㎝~60㎝》搭載した戦艦の建造計画は頓挫した。
そして戦艦の巨額の建造予算と維持費用によりソ連は財政破綻しロシア連邦となり、ヨーロッパ諸国はEUとなる。
その後、世界はアメリカ、イギリス、ドイツ、ソ連、日本など列強諸国による冷戦構造となり幾つもの戦争は起きるが世界大戦に発展するような大戦争にはならず世界は一定の平和な世界は実現した。
因みに後にハ○ウッド映画で「バ○ルシップ」と云う映画に出演。各国の戦艦達と共にエイリアンの宇宙船と激しい砲撃戦を展開した。
後年、この時代を生き抜いた幾名もの人物、特に海軍軍人の日記にはこんな一文が書かれていた。
「この儚くて尊い平和は悲憐な運命を背負った美しい海の女神達によって築かれた平和である」
国も所属も違う彼等が何故、同じ言葉を使ったのか?学者達は様々な論説を唱えるが未だ答えは出ていない。
西暦1950年。世界は平和です。
*この世界の各国について少し紹介。
・ドイツ第三帝国は史実よりユダヤ人の迫害はしていない(当時のアメリカの黒人差別程度)
それなりに上手く他国とも付き合い大国となっている。ヒトラーは圧倒的な国民の支持で選挙で連続当選。エヴァと結婚して1950年現在17年目に突入中。
史実の皆様はきれいなゲーリング、ちっぱい主義者のデーニッツ、巨乳派のレーダーと愉快なメンバーになっております。
・中国は国民党と八路軍(中国共産党)の戦いは共倒れに終わり、残存両勢力を満州国が吸収して“中華人民連邦”となり中国統一がなった。
・大日本帝国は石原莞爾により大慶油田の発見と中国大陸の資源開発が進み、経済大国の道を進んでいる。
この世界はロシア、欧州、アジア、アメリカなどが列強諸国による冷戦構造となっている。
因みに筆者自身の好きな戦艦は1位モンタナ級、2位大和級、3位リシュリュー級。
だってカッコいいじゃん、四連装砲塔!燃えるでしょ!因みに皆さまは?感想へお書き下さい。