第63話 絶望を砕いた-01
懐かしい親友と、尊敬する王。
それが彼。ポプラリス=ポプル・ケィレリーム。
彼は先代王と同じように民の身になり、自然を愛した。
とても尊敬され、人望が厚い人。
そして少しせっかちだけど、気さくで親しみやすい。
そんな人だった。
僕のせいで変わり果てた世界。そこで再び出会った。
彼は僕の事を責める事はしなかった。
だけど、所々周りを見渡して、少し悲しそうな顔をした。
それはそうだ。あんなにも自然と人が調和した、美しい国だったんだから。
僕はポプラリスの想いを受け取り、ケィレリームの王の騎士となった。
まぁ、タダ働きだけどね。
だけど僕には大切な任務と、ポプラリスの「願い」がある。
それを達成するためにはまず僕が・・・雪矢達が探している敵を倒す。
ポプラリスにも言われたしね。
そんな時、今まで考え込んでいて気付かなかったのか、物凄いスピードで突っ込んでくるものがあった。
これはっ・・!
当たる、と思った瞬間、右手がぐん!と何かに引っ張られるように動いた。
〈──マ、スタァッ!!〉
雪矢に造られたその機械は、機械とは思えない声を上げ、ピキッとヒビの入る音と腕に衝撃が走る。
「・・・これは!」
針のように細く鋭い、木に似た素材でできた槍。
それが今、僕が付けていた腕輪に突き刺さっていた。
「レヴィン!」
雪矢の相棒である、レヴィン。
先ほど敵の攻撃で強制終了したはずじゃ・・・。
〈ふ、ふふ。マスターの危機に、頑張って起動してみました。
・・・ただ、これからの戦闘には・・参加できそうにありません。
それが一つの、心残りでしょうか〉
まるで死ぬ前のように、話す度ノイズが走っている。
〈でも私はマスターの為に身を挺して壊れるのであれば、本望です!
それが私たち、サポートロード。主の支え、サロですから〉
もし実体があれば、笑っていそうだ。
「そんな・・!」
槍を取ってレヴィンを見るが、赤い石の一つが粉々に崩れていて、金色の土台部分もヒビが入っている。
僕にも雪矢の記憶が少しある。
さっきも一人だったが失うのは、辛い。
一人は、辛い。
しかしレヴィンはこれで伝える事は最後、というように言葉を紡いでいく。
〈ふふ。マスター。気をつけて・・・ください、ね〉
パキィン、と。
金属が割れる音が広い部屋に響いた。
ヒビが入った所から割れたのだろう。腕輪が真っ二つになり、僕の腕から零れ落ちる。
またキン、と金属が落ちた音がして僕は急いでレヴィンを拾い上げた。
「ごめん・・・雪矢」
ネックレスを仕舞った場所と同じ所にレヴィンをそっと入れた。
するとゴゴゴ、という音と共に穴だらけの屋根がぶち破られる。
煙を上げながら落ちてきたソレは、人影のようでゆらりと立ち上がった。
恐らく、レヴィン・・・というより僕を攻撃したのはコイツだろう。
「キヒヒヒ、ヒヒヒヒ!!ヒハハハハ!!!オトーサンを殺したヒトが、ワザワザワタシの所に来てくれた、ヨー!」
キヒヒヒと不気味な声で笑う彼女。名前は確か、クラクサス。
クラクサスは、どうやら僕がお父さんを殺したと勘違いしているらしい。
同じ組織には居たけど・・・。
そういえば彼女もアンドロイドだという。
もしかしたら何か不具合でもあったのだろうか?
「キヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒh」
何がおかしいのか狂ったように笑うクラクサスは、ガクンと首を下げる。
〈『サクラサク』プログラム、実行。エラー発生。・・そのまま実行します。
────サクラサク、起動開始〉
感情が篭っていない機械的な声は広い静かな部屋に良く響く。
〈起動時にエラー発生。 エラー削除、及び制御不可能うううううuuuu・・・〉
壊れたゲーム機のように何度も同じ言葉を発する。
警戒して剣を抜き取ったとき、クラクサスの体が一度ぶれた気がした。
「・・・?」
ベリッと何かを剥ぎ取ったような音がすると、クラクサスの顔から何かが生え出てくる。
「木?」
それは紛れも無く、木であった。
金属で出来たアンドロイドじゃないのか?
それとも僕が知らない素材でできたものなんだろうか。
そう思う間にもクラクサスの体からニョキニョキと成長して行く木。
生き物のようにもぞもぞと動きながら成長するそれはとても不気味である。
「うわぁ・・・」
戦意を削がれるが剣を構えなおすと、のろのろと成長していた木がギュン、と一気に伸びる。
意思を持ったように動いていくソレはクラクサスの体を全て包んだあとも幹を太くし、枝を伸ばしていく。
この広い場所の半分の大きさと、屋根ギリギリの高さ。
「・・・魔法でサクッと燃やせたらいいんだけど」
この世界にあった魔法は全て、スピリーツがやったものらしい。
世界が滅び、スピリーツもいなくなった。魔力もない・・・か。
確かに僕はスピリーツに教えてもらうまで何も知らなかったし、今になって発見されるのも怪しいとは薄々感じていた。
しかしまさかスピリーツがねじ込んだだなんて・・・。
「便利な力だから、依存しすぎるのも良くないよなぁ」
目の前でウゴウゴと動く、人面樹。
まだ幼さの残る可愛らしい女性の顔がニヤ付いている。その似合わなさがまた不気味である。
枝の先には黒く濁った桃色の花。ヒラヒラと大量に花びらが散っているのに、花が減っている様子も見られない。
・・・桜、か。
「不意打ちもいいんだけど」
ぶんっと剣を一度振り下ろし、再び目の前の敵に剣を構える。
「真面目にやりますか」
動かない人面樹に警戒をしながら、自分の背中にある小さくなった黒い翼を見る。
何故か僕から生まれたこの力の象徴とも言える、黒い翼。
神と互角の、黒い力。
自分で自分を縛り付ける、自分が生んだ忌々しい呪い。
いい加減嘆いてないで、諦めてないで、絶望してないで足掻こうじゃないか。
希望を持とうじゃないか。
縛り付けるモノなんて全て引きちぎればいい。
「破壊しかできない力なんて、もういらないよ」
ふとした事でいくつもの世界を滅ぼした。
怒りで、憎悪で。
うっすらとした意識の中、力に飲み込まれて笑いながら。
「同じ力でも・・・今度は守れる力が欲しい」
力が無かったから、守れなかった。
それは今も変わらないけれど。
傷つけるだけが力じゃないと、そう思うんだ。
思ったんだ。
誰かを怒りや憎悪で不幸に、絶望に陥れたのなら・・・。
「友のための約束にも、禍々しい翼はもう必要ない!」
今度は力を使って誰かに喜び、幸せ、希望を与えよう。
償いにならないとしても、これ以上主を、友を・・皆を悲しませる訳にはいかない。
ボロボロと何かが崩れ落ち背が軽くなる感覚。
光に包まれる感覚と、バサッと音を立てて伸ばした白い翼。
持っていた剣が、安っぽいものから雪矢が作った剣になっている。
この剣、昔ポプラリスに見せてもらった王城にある宝剣に少し似ている。
服も、ケィレリームの騎士の・・・制服。
ふっと頭が軽くなり、視界がより鮮明に映る・・・そんな気がした。
頭がスッキリと冴えている。
そんな感覚。
今まで僕を縛っていたモノが取れたようだ。
ニヤニヤと笑う人面樹は枝をニョロニョロと動かし、何をしようとしているのかわからない。
「木・・・ねぇ」
ふぅーっと深く息を吐いて、もう一度睨みなおす。
グッと持つ剣に力を入れ、特徴的と言われた剣の構え方をする。
「行くぞ!」




