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魔法と闇と絶望と  作者: 凛莉
最終章~騎士と王~
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第62話 守ります



「──曲、続けて?久しぶりに、リーディの笛が聞けるんだからさ」



広い、神に祈りを捧げる神聖な場所に、二人の少年が居た。


ぼろぼろと涙を流す、禍々しさも感じさせる灰色の髪と、血を思わせる赤い瞳に、黒い小さな翼を持つ少年と、

ニコニコと柔らかな笑顔の明るい橙色の髪と水のように澄んだ青い瞳を持つ、透けた少年。

服は片方は灰色の不気味なローブ。片方は豪華な服を身に纏っている。



灰色の少年は頷いて、手に持っている笛を再び口元に当てて音を出す。

先ほどまで奏でていた曲とはまた違う、穏やかな曲。

まるで今までの平和、日常を噛み締めるような、聞いているだけで幸せになる曲。


目を閉じて曲を奏で続ける少年と、それをニコニコ微笑みながら聞いている少年。

曲が終わったのか、笛を口から離し目を開けた。

目元が赤くなっていて、涙もまだ止まっていないが、にこりと笑った。


「いつ聞いても、リーディの音は綺麗だね」

「・・・ありがとう。でも、何で・・ポプラリスが?」


『あの時、死んでしまったはずなのに』

灰色の少年が最後に呟いた言葉は、誰にも聞き取られなかった。


「僕は幽霊だよ。スピリーツが此処に僕を連れてきてくれて、君の笛の音が聞こえたんだ」

「・・・これ、スピリーツがやったんだ」


橙色の少年は頷いて、笑うように言った。

「本当、スピリーツって怪力だよね」

「ふふふっ本当。怒ったとき凄く怖いよね。鬼みたいで」


けらけらと灰色の少年も笑う。目元の涙をふき取ると、もう涙は出てこなかった。


「また三人で遊びたいねぇ」

ニコニコと灰色の少年は昔遊んだ時の事を思い出していた。


「そうだね。僕も平民だったらもっと遊べたのかな」

橙色の少年もまた、困ったように笑うと、灰色の少年はむっとした顔で大きく口を開いた。


「そうかもしれないけど、きっとポプラリスが王子様じゃなかったら、僕達会えなかったかもしれないよ!

会えないなら、遊ぶ時間が減っても僕は構わない!!」


どうだ、と胸を張って言い切った灰色の少年に、ポカンとした橙色の少年は間を置いて、クスクスと笑った。

灰色の少年も何がおかしかったのかまた笑い始めた。


一通り笑い終えると、ふんわりとした光が二人の少年を包む。

光が消えると二人は青年になっていて、服も変わっている。

灰色の青年は白く染められた無地のシャツに、ゆったりとしたくすんだ橙色のズボン。

橙色の青年は白をベースに橙色や金や銀の装飾が入った服と、橙色のマントを羽織っている。


そして二人共、形は違えど腰に剣を下げている。


落ち着いた二人はふぅ、と一息つく。

そこで灰色の青年が口を開いた。



「守れなくって、ごめん」


「もう少し早く行けたら」


「もっと早く騎士になれていたら」


「ポプラリスを、王を守れた。世界を、守れた」


「ごめんなさい」


「ごめんなさい」


「ごめんなさい」


「申し訳、ございません」


俯いてただ謝り続ける青年が、再び謝罪の言葉を口にしようとした時に青年の声が被る。


「気にするなよ。僕が弱かったんだからさ」


「仕方ないよ。人間、何でもできる訳じゃないんだ」


「僕がもっと仕事を早く終わらせてれば」


「でもさ、リーディが死ななくて良かったよ。それに起こったのは仕方ないよ、僕は許すよ」


「僕のために、こんなに傷ついてさ」


「ごめん。でもさ、ありがとう」


「僕はとてもいい友達を得たよ」


「『私』は・・・とてもいい部下を見つけた」


一つ一つ、先ほどの灰色の青年に答えるように言葉を返していく。

口を閉じると、橙色の青年は生きていた頃民に向けた、笑顔を灰色の青年に見せた。


そして一つ瞬きをして、未だ俯いている灰色の青年に近づいて、そっと灰色の頭を撫でた。

橙色の青年は、少年の頃から変わらない太陽のような、空のような、包まれるような笑顔浮かべている。

ぐすぐすと鼻を啜る音がして、灰色の青年は自分の目元を乱暴に拭った。


「ありがと。・・・っはは。僕も情けないものだね、こんなんで泣くなんて」


撫でていた手をおろし、灰色の青年は顔を上げた。

「本当に、ポプラリスは変わらないね」

「そうかい?」

ニッと歯を出して笑う。


「僕はこんな姿になっちゃってるのに」

灰色の青年は自分の髪の毛を弄る。


「そりゃ僕は生きていないんだから当然じゃない?」

「・・・そういえば」


橙色の青年は呆れたようにハァ、と一つため息を吐いた。

「・・見れば分かるでしょ。どうみても透けているし」

「ははは・・・」

灰色の青年は乾いた笑いしか出なかった。


「で、話は変わるけど・・・リーディ。僕の騎士になる気、ない?」

「はい?」

灰色の青年は首をかしげた。


「僕の騎士になる気、ない?」

「あ、うん」

橙色の青年の迫力に押されて適当に返事をしてしまうが、灰色の青年はまだ理解が追いついていないようだ。

しかしすぐに思い当たったのかニヤッと笑った。


「よし。さっさとやっちゃおう」

「あー・・・ポプラリスって結構せっかちだよね」

ポプラリスは「そうかい?」と言いながら、ズボンのポケットの中からネックレスを取り出した。


ジャラリという音を出したそれは、小さな鎖で繋がれた輪の下に、丸い飾りが付けられている。

飾りは小さな宝石が所々に散らばり、光が当たるとそれぞれの色に輝いて綺麗だ。

真ん中には葉っぱの形に彫られていて、橙色に塗られている。


「これ・・・あ、本物じゃん。昔、王と騎士ごっこした時はレプリカだったよね?本物持ってきていいの?」

「いやいや一応僕王様だよ。これやるのも久しぶりだな、懐かしい」


どうやら騎士の誓いの儀式は昔ごっことして遊んでいた記憶があるらしい。

笑顔と浮かべながら、灰色の青年は少し離れて跪き、頭を下げる。

橙色の青年はネックレスを灰色の青年の前に出すと口を開く。


「我、ポプラリス=ポプル・ケィレリーム。我に忠誠を誓うか?」

「誓います」


「ならばその剣を持ち、我が手足となり忠誠を示せ!」

「はっ!」


灰色の青年は立ち上がり、腰の剣を抜いて自分の顔の前まで剣を持ち上げる。

しばらくシンとした時間が続いたが、橙色の青年はフッと笑った。


「ははははっ!昔と本当まんまだな」

「ふふっ、そうだね。いやぁ懐かしい」


灰色の青年は懐かしみながら剣を納めた。

ごっこなのか本気だったのか、良く分からないが恐らく彼らは本気だったのだろう。


「ほいっ!」

突然橙色の青年はニコニコ笑っている灰色の青年に何かを投げつけた。

「うわっ!?」

何とか受け止めると、それは先ほどのネックレス。


このネックレスは貴族や王族が持つ一種の家宝のようなもので、部下になる者の中で一番信頼が出来る者に見せ、誓いを立てるという風習がある。

それを投げられたのだ。

「ちょっと、あの・・・これ」

うろたえている灰色の青年に、橙色の青年は事も無げに言った。


「いやぁ、ほら。僕死んじゃってるからさ。主守るにしても居ないじゃん?

──だからさ、僕の代わりにこれ、守ってよ。それが僕が・・・私が君に課す最初で最後の任務だ」

いたずらっ子のようにニヤリと笑う橙色の青年。

ぽかんと口を開けている灰色の青年だったが、微妙な笑みを浮かべた。


「分かりました。傷一つ付けませんよ」


受け取ったネックレスを丁寧に仕舞いこんだ。

灰色の青年は気付いていないが、橙色の青年の身体が最初よりも大分薄くなっている。


橙色の青年はそれを見てふっと笑い、真面目な顔をして灰色の青年に告げる。

「そして私の最後の願い。・・・・また、緑溢れる世界にして欲しい。

自然を愛した民の為にも。そして私のためにも、ね」


クスリと笑うその姿は民を想う王の姿だった。


「・・・給料は無いけどさ!」

「はい!」

バッと敬礼に似たポーズを取る。


「まずは邪魔をする奴を蹴散らし、この世界に平穏を!」

「我が主の為。主が想う民の為、世界の為!!」

剣を抜き取り上に掲げると、橙色の青年は満足したように笑う。

すっとその存在がさらに薄くなる。


「頑張れ!リーディ!!」


その存在が完全に消える前に、一言だけそう呟いた。



カラン、と橙色の青年が立っていた場所にあった十字架が倒れた。

灰色の青年は橙色の青年を見送ると、ふっと力を抜いて寂しそうな顔をした後、にこっと笑った。


「分かったよ、ポプラリス!」


その直後、灰色の青年が何かの気配に気が付いて振り向こうとした瞬間。

〈──マ、スタァッ!!〉


強制終了されたはずの、人に作られた機械である彼女は悲鳴に似た声を上げた。

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