第42話 運命-サガシモノ
〈ランダム転送:ディスティーノ〉
この世界に降り立ったときにまず感じたのは、「何か変な感じ」という事だった。
「ここは・・中々綺麗な所ですね。 しかし、何か変ですね。何でしょう?」
僕達が今見えるものは、緩やかに流れる小川と、花、そして木、上には空しか見えなかった。
「只こういう場所は・・・ 嫌いではないですね・・」
アンサが何か喋っていたようだが、ボソボソとしていて聞き取れなかった。
「? アンサ、何か言った?」
「い、いえ! 何でも有りません! そ、そうですね、あちらでも散策して見ませんか!?」
「何でもないならいいや」
「気にしないで下さい」
アンサは何故か顔が真っ赤だ。
熱かな?風邪か何か引いたのかなぁ?
レヴィンがピピッと笑うように音を鳴らす。
〈ふふふ。その気持ち、分かりますよアンサさん。〉
「れ、レヴィン殿!」
仲が良いんだね。
こっちは森なのかな?木ばっかり でも蒼の森程ではないけど・・
アンサはスタスタと先へどんどん進んでしまう。
〈あ、この世界の説明。忘れてました〉
そういえば、ディスティーノって知らないなぁ
〈とても穏やかな気候で、花は色んな世界の花々が咲いており、小さな魔法が存在します〉
「ふぅん・・ 魔法があるって事は、人も居るの?」
レヴィンはチカチカと石を点滅させた。
〈はい。ありますよ ただ、地域がほぼ完全に二つに分かれていまして、この世界の中心部は科学がとても発展しています〉
「つまり、ここは中心部じゃないのですね」
そうみたい。風も気持ちいいし、空気もいい
〈しかしその中心部から離れた場所はこのように穏やかです。村も点々と存在しているようですね〉
「へぇ・・ここは結構遠いのかな?」
全然科学らしき物が見えないなぁ
あ、飛んだら見えるかも!
〈えー・・中心部は結構遠いですね 多分空からでも見えないと思います〉
そうなんだ・・結構遠いね。
「ここからどこかに抜ける見たいです」
アンサが前のアーチのように塞いでいる枝を潜り抜けた。
「これは・・・」
〈絶景ですね〉
「ヘクチッ!」
「ノワール。出てきたの?」
ノワールがくしゃみをしながら突如空間に現れた渦から出てくる。
ノワールはさっきの世界で王都に来た時に魔法で小屋見たいな空間を作ってそこに入れておいたんだっけ
結構苦労したんだよなぁー 空間を操るって結構難しいよ?
・・少し衰えたかな?
「ほらノワール。 ここ、綺麗だね」
そこは一面の花畑で、色んな種類と色の花があってとても綺麗だ。
開放感もあって空もよく見えるし、遠くには山があるのもとても良い。
「うなぁー」
「・・あれは?」
「あれ、本当だ。何かあるね。 何だろう?」
端っこにぽつんと何かの木片のような物が落ちている。
そういえば変な感じが強くなってる。
前にリンラが言ってた「不思議な力が家に染み付いているからすぐ分かるだろう」
って言ってた不思議な力ってこれのことかな?
「少し気になりますね。行ってみましょう」
ふわりとアンサが浮く。
確かに飛んでいった方が早いね、ここ崖みたいだし
近くまで行って、謎の木片の正体を確かめる。
「・・・これが・・・・家?」
〈これは・・〉
その木片は・・・
「残骸・・・」
家だったものの残骸・・らしき物だった
らしき物と言うのは、もう原型がほとんど無く、家だったのかも分からないものだったからだ。
でもリンラが言っていた家に染み付いている不思議な力・・この変な感じは間違いなくこの残骸から出ている。
だからこれは家。まぁ今は家だった、が正しいかな
でも何でこんな・・?
「家でしょうか。 それにしてもどうやったらここまで・・・」
〈あっ〉
ピピピッといつもよりも音が大きく鳴らす。
〈ここ!反逆ロボですよ! そうです!ここがあの・・!〉
「レヴィン・・一人でテンション上げられても分からないよ」
「・・私も知りませんね」
赤い石が点滅していたが、光はシュウゥと小さくなって消えてしまった
〈う、すいません。何年か前にここで一体のロボットが反逆を起こしたんですよ。そのロボットは戦闘用ではないのですが〉
「ふぅん・・それで?」
〈はい。それでですね。被害者は・・ゼリスクの職員5名、幹部2名計7人です〉
「!!」
まさかゼリスクの職員と幹部が、ロボット一体に負けた?
戦闘用でもないロボット、小さな魔法しか存在しない世界で・・
たった一人で・・・・?
〈本当は、反逆というより、そのロボットを性欲処理用とする為にあちらが連れて行こうとしたのです。
しかし何者かに殴られ、制御プログラムの破損での暴走なんです。
しかしあちらはその責任をロボットに全て被せました。その方が都合がいいのでしょう〉
「暴走により力も高まったのでしょうか」
「多分そうなんじゃないかな?」
うぅん・・あんまり良い話じゃないねぇ。
ノワールはあの空間の中に入っちゃったし・・
〈それと、そのロボットにはプログラムされた物ではない感情がありました〉
「感情?人間のような?」
〈えぇ、通常プログラムされているのを状況に合わせて出しています。
ですが通常私達は何も感じません。
喜んでいる時も、悲しんでいる時も、何も。・・・ですが稀に感情が芽生える事があります。
それは神が創ったもの、造られてから数百年以上経ったもの、そして・・・ いえ、これはいいでしょう〉
・・?
最後の気になるけど、レヴィンがいいならいいや。
「もしいかして、レヴィン殿にも感情があるのですか?」
アンサがそう聞くと
レヴィンはピピピッと笑うように音を鳴らして言った。
〈ふふ、まさか〉
でも正直な所、レヴィンにはありそうなんだよねぇ・・・
「・・おや。これは」
アンサが家の残骸の中から何か見つけたようだ。
「本ですね。 魔道書でしょうか・・ 鎖が巻き付いていますし、鍵も掛かっているようですね」
「どれどれ?」
アンサの手には、一冊の厚い白い本。
その本には装飾が施されているらしいが、鎖が何重にも巻きついていて見えない。
「外せないかな?」
グイと鎖を引っ張ってみるが、ビクともしない。
結構力入れてたから、普通の鎖程度だったら千切れるのに・・・
やっぱりそう簡単には行かないか
「これを外すのは無理そう・・」
諦めるか・・
「中々価値のある魔道書のようですが・・・魔力が一切感じられませんね」
「あれ、そうなの?」
普通魔道書には魔力が微量ながらも込められている。
どんな初歩的な魔道書でも、ニセモノの魔道書でも。
そして価値や貴重性、内容の質が高ければ高いほど魔道書の魔力は上がっていく。
これは紛い物でもなさそうなんだけど・・
全く魔力が感じられないなんて、魔道書だったら有り得ない・・・
もしかしたら魔道書じゃないのかな?
〈魔力が無いのは謎ですが、これは間違いなく魔道書です。 しかも特別な〉
ノワールはいつの間にかあの空間・・小屋から出てきていたようだ。
「うにゃー」
ノワールはそう一鳴きした。
少し目的までの道が短すぎた気もしますが、それは運と私の限界という事にしてあげてください。




