第35話 蒼の森 前編
「・・ここは、森?」
〈蒼の森、無人世界です。世界全てが蒼く美しい木々で埋め尽くされています。 ただ、三つの頭を持つ猛犬、ケルベロス、ブラッドテディベア等好戦的な生物が多数生息しているのが特徴です。
この世界で採れる果実はどの世界の物よりも美味しいらしいです、真偽は分かりませんが・・〉
レヴィンがこの世界の事を説明してくれた
「師と一緒ならどんな生物でも平気です」
「僕もアンサとレヴィンがいるからね、どんな奴でもきっと大丈夫だよ」
「あ、これがレヴィン殿が言っていた果実なのでは?」
「本当だ」
アンサの片手にあるのはザクロを少し青っぽくしたような色をした、ミカンサイズの果実
「・・・この果実、いや、この世界の物は食べちゃいけないよ」
「何故ですか? 匂いもとても美味しそうですが・・」
「うん。この世界の植物、果実は基本的に中毒成分が含まれているみたい。麻薬みたいな感じかな?
この果実を食べると、中毒を起こしてこの果実の味が癖になって、この果実を食べないと生きていけなくなる
どの世界より美味しいと言うのはこの中毒のせいだね」
「なるほど・・」
〈もちろん中毒を回復する物は未だ存在していません まぁ、表に出ていないだけなのかもしれませんが〉
キラリと反射で光ったレヴィンの金色の光が、雪矢の頬に当たったのは、雪矢は気付いていない
「・・!」
「お、気付いた? もう少し早く気配を感じ取れるようになってね・・ 大体どの位まで察知できるの?」
「・・まだ800Mくらいです」
ふむ、と考えるような素振りをする雪矢
「でも中々いい線言ってるじゃない。僕は700M位だと思ってた ・・よし、最低でも1Kmは察知できるように。それが今のノルマね」
「はい!」
アンサが返事をしたと同時に木々の間から飛び出してきたのは、赤黒い毛皮の少し可愛らしげでどこか恐ろしい
ブラッドテディベアだった
「グルアアァァ!!!」
雄叫びが辺りに広がる
アンサはあの返事をした時と同時に短剣を二本取り、アイスダガーを発動させ、剣を構えていた
「グアアアアアアアアアッッ!」
クリッっとした目とふさふさの耳、それはテディベアを連想させるような可愛らしいものであった
しかし、それとは正反対の獰猛な性格に、鋭い牙と爪
元から赤く、返り血で更に赤さを増す為、この名が名づけられた
──ブラッドテディベア
振り上げられた鋭い爪を持つ手はアンサ目掛けて振り下ろされる
しかしアンサはそれを軽やかにかわす。
手はそのまま地面は激突しドンッと地響きが鳴る
「グルウアアアァァ!!」
しかし間髪入れず、もう片方の手でブンッと横から薙ぎ倒そうとして来る
アンサはそれもひょいとジャンプして避けてしまう
攻撃全て避けられている事に怒ったのか、ブラッドテディベアは大声を上げて
アンサの元へと突進した
「ウ・・グルアアアアァァ!」
アンサはそれといって取り乱す事も無く、ブラッドテディベアの後ろへと回り込んだ
ブラッドテディベアは目標を急に失い、探そうと止まるが、中々止まれない
そしてブラッドテディベアは前の木にそのまま激突した。熊も急には止まれない
「グルア・・ガアァッ」
後ろで少し距離を取っていたアンサは、短剣を持った腕を胸の手前でクロスさせていた
ブラッドテディベアはぐるりと後ろを向き、起き上がる
その拍子に激突した木は後ろへと倒れていった
アンサの足元にほんの少しだけ薄水色の魔法陣が現れる
キラリと魔法陣が光ったと思うと、アンサはブラッドテディベアをキッと睨んだ
そしてアンサはクロスしていた腕を、バッと横へブラッドテディベアに向けて振るように両方とも同時に解く
「三日月!」
アンサの短剣・・アイスダガーから薄水色、氷のような色の三日月形の刃が二本現れる
物凄いスピードでブラッドテディベアへと向かっていく
そしてその刃はブラッドテディベアの首と足を切った
首は急所を、足は動けなくする為に
ブラッドテディベアは切られた足が痛むのか、よろけていた
そしてアンサはこの怯んでいる隙を逃すわけ無く、ブラッドテディベアへと直進する。
アンサの戦闘中の走る姿は低い姿勢で、とても素早い。夜の闇を駆ける暗殺者のようだ
そのままアンサは二本の氷の短剣をブラッドテディベアへと切りつけていった
「ウグル・・グルァァ・・」
ヨロヨロと力弱く、アンサの攻撃から逃れようとするブラッドテディベア
しかし先ほど負った足の傷で逃げる事も叶わないようだ
ピ、ピ、ピとブラッドテディベアに新しい傷が増えていき、そこからは血が流れ出、滴り、飛び散る
しかしアンサの体には不思議と血一つ付いていなかった
ド・・ッと倒れるブラッドテディベア
辺りには血が付いていて、ブラッドテディベアの死体の周りは赤い水溜りになっていた
完全に動かなくなったのを確認してからくるりと振り返るアンサ
「ふぅ・・、どうでしたか?師よ」
ピッと両手の血まみれのアイスダガーを軽く振ると、氷が消え去り、同時に
血や一緒に付いてた肉も消え去り、刃こぼれ一つ無い綺麗な短剣が残っていた
パチパチと少し上から聞こえる拍手音
「お見事! ここまで素晴らしいなんて。 途中の三日月はオリジナル?」
「えぇ、2年前の訓練の時、ユズキ教官がムーンサファイアを使っていたでしょう、それを元に」
なるほどね。『月』か
アンサにはよく似合うかな。ユズキはどっちかっていうと太陽・・水星かな?
「にしても血が付かなかったね」
「はい、血はなるべく避けるようにするんです これも訓練の一つです」
血飛沫一つ付けないなんて・・僕には出来ないだろうな
「それに、いつでも血を落とせるとは限りません。目立ちますから」
「そっか・・僕はもう犯罪者だから気にしなくていいんだけどね」
〈ノワールやアンサがいます。少しは気にしてください、マスター・・〉
呆れられる様にレヴィンにそう言われた
・・本当に中の人なんていないよね?
サクサクと音を鳴らしながら木の葉の上を踏み歩いていく
「この辺は何も無いね・・木ばかりだ」
「師、あそこに崖が見えます」
アンサが指差した方向を見ると確かに、茶色い岩肌が剥き出しになったの端崖がみえる
〈死路の崖、一面木で道というものが無く、小道を見つけて歩いていくとケルベロスやブラッドテディベアの巣へ
迷い込んでしまい、生きては戻れないそうです。 後はいつの間にか崖の端に居るとか・・
死路の崖から行ける洞窟の最奥には、特別な果実があるそうです〉
「洞窟か・・。 うん、面白そうだね、行ってみようか?」
「はい、師がそう言うのなら」
「ニャー?」
〈おや、起きましたか〉
さっきまで僕の腕の中で寝ていたノワールが目を覚ました
「じゃあノワールの為にも飛んで行きましょう」
「そうだね、そうしよう。その方が早いしね」
スウッと僕達の身体が浮く
アンサって僕に忠実で一筋って感じだよね・・・
王に仕える騎士みたいで、羨ましいな、そういう従う人が居るって
レヴィンは少し違うかな?
「綺麗ですね、一つ一つは蒼っぽいのに、全体的に見ると青緑って感じがします」
「本当だ、不思議だね」
ふと崖へと向かって飛んでいたのを止め、後ろを振り返り森を見る
崖の地面が見えてきた。 近い
〈範囲1Km以内に危険生物は居ません。この辺で降りて大丈夫でしょう〉
と、レヴィンが言ったので僕達は崖の上へ降りた
「・・っ、この旅の途中いつかなるとは思っていたけどこんなに早くなんて」
雪矢は手を離しノワールを手放した。 ノワールは物ともせず優雅に地面に着地して、雪矢の近くで座った
「師・・?」
肩に手をかけようとするアンサにレヴィンが言う
〈アンサさん、少し離れててください〉
アンサはこくりと頷いてレヴィンの言うとおり、ニ、三歩だけ雪矢から離れた
ふらりと雪矢が後ろへふら付く
その一瞬後に背に黒い翼が生える。
翼のおかげでリーディは倒れずにすんだ
「・・・これは」
〈えぇ、これがマスターに宿るもう一つの・・・人格でしょうか・・?何と言ったらいいでしょう〉
リーディがくるりと此方を向く
丁寧に翼を縮めながら振り向いてくれたらしい
その顔は雪矢のものと同じだが、灰色になった髪はより暗く、赤黒い目はより赤く、少しだけ濁っていた
「ふふっ、君が・・アンサ=ナイアントだね? 雪矢から特に壊さないようにって、言われてたよ」
ノワールもね、とリーディの側で座っていたノワールに目を向けた
「今日は・・・・こうやって顔を見せるくらいだね。 ふふふっ、じゃあね」
薄気味悪い、それでいて柔らかな笑みを見せた後、リーディはそっと目を閉じた
今度はリーディが前へふら付く
その一瞬後に背の黒い翼が消える。
「とと・・ アンサ、大丈夫だった!?」
アンサの元へと駆け寄る雪矢
「はい、顔を見せるだけと言ってすぐ戻りました」
「そっか、良かった。約束は守ってくれるみたいだね」
雪矢は側で大人しく座ってたノワールを抱き上げると、優しい手つきで撫でてあげた
アンサに聞こえないようにとても小さな声でレヴィンと会話をする
〈・・本当にどうしたんでしょう?〉
「さぁ・・こういう事は初めてだから分からないな」
〈・・?〉
「師よ、大丈夫ですか?」
「あ、うん 大丈夫だよ。 そろそろ行こうか! 日が暮れないとはいえ、安全な場所が無いから」
「はい」
僕達は再び歩を進めた
そう。本当、初めてだからね・・・僕は
ここに、来るのも───
この木々を見るのも───
この果実を見るのも───
【僕】は初めてなんだ
地味に新章突入です
矛盾点多々あると思いますが、気付き次第修正していきます




