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最終話 メイド、フォーエヴァー

 月日が流れるというのは早いもので、ただでさえ忙しい毎日だったから、もう一瞬のようなものだった。

 俺が鈴ノ宮千晴という少女のメイドになり、二人で生活を始めてから七年が経つ。

 あれから俺は高校に復学した。出席日数が足りずに二年生をもう一度やる羽目になったが、それでも修学旅行は粋な計らいで高木達と一緒に行くことができたし、大学に進むと、やはり高木や涼子、天橋なんかが一緒で、学年こそ違うものの基本的につるむことが多かった。

 メイドとしての仕事は、勿論しっかりとこなした。早寝早起きの生活がすっかり身体に馴染んでしまっており、朝から掃除と洗濯を済ませ、千晴と一緒に登校して、帰ってくると二人で夕飯を作ったり、洗濯物を畳んだり。あまり暇はなかったが、それだけ充実していた。

 去年の春、俺は大学を卒業した。色々と考えた結果、俺は教師としての道に進むことになった。何故かと問われると、中々答えるのが難しいのだが、誰かの面倒を見るというのが性に合っていたのかも知れない。教科は社会科だが、料理部の顧問を引き受けているのは、もう長年の家事の賜物としか言い様がない。


 折角だから、みんなの近況も報せておきたい。

 いつも俺の味方をしてくれて、アドバイスをしてくれた高木だが、大学卒業後は一年間、フリーターをしていた。あいつのことだから、職なんて探せば幾らでも見つかったのだろうが、「どうせなら、フリーターも経験しておきたい」という理屈で一年間を過ごしたらしい。今年の春から、千晴のコネで鈴ノ宮財閥の系列である出版社に勤めている。

「あたしは紹介しただけです。コネが効くような経営をするところではないですから」

 千晴が言うとおりなのだとしたら、高木はコネで入社したつもりで、実力を認められているということなのだろう。肝心なところだけ抜けているのが、如何にもヤツらしい。


 伊達は武者修行中の両親を捜すと言い出して、自分も世界中を飛び回っているのだそうだ。主な活動資金はストリートファイトで稼いでいるというのだから、もうすっかりゲーム染みた話である。最近、どこぞの格闘家を倒したなどと報道されていた。

「日本に戻ったら、とりあえず異種格闘技戦で優勝しようかと思ってる」

 平然とそんなことを言うだけの実力があるということなのだろう。


 涼子は割と普通で、大学卒業後にOLをしている。姐御肌で面倒見が良い性格だから、既に後輩に慕われているとのことだ。

「なんか、寄ってくるのが女の子ばかりなのよねえ」

 男前という形容が似合う人物なので、それも致し方ないと思う。


 天橋は高木と同棲中らしい。近々結婚も予定しているとのことだ。

 実は高木と天橋。高校三年の途中で一度は破局している。それから大学三年までずっと別れたままだったのだが、何故か急にヨリを戻したのである。その間に、天橋が付き合った男の数は十を超える。

「なんだかね、色々と経験したかったの。けど、全然駄目っていうか、聖人じゃないと、どうしてもね〜」

 おそらく、本心は別なのだろうと思う。ただまあ、今ではすっかり元通りである。

「聖人もね、別れてる間に一人、彼女がいたんだよ」

 天橋の十人に比べて、高木は一人。無論、数の問題ではないのだが、改めて比べると圧巻だ。


 天王寺と姫子は、とっくに結婚している。天王寺が大学を卒業した翌日に結婚式だったから、よく覚えている。

 面倒だったのは、姫子の名字が一ヶ月で二度も変わったことだろう。兄妹での結婚が不味いと言うことで、姫子が他の家の養子という扱いにすることで落ち着いたのだが。

「一ヶ月だけ、仁科姫子です」

 何故か、姫子は俺の両親の養子ってことになっていた。何故我が家が選ばれたのかは解らないが、我が両親は本人の許可無しで息子を財閥に奉公させるアホである。養子にしてくれと言われ、「わかった」の一言で片付けてしまった。

 名目上、姫子は俺の妹ということになっている。天王寺に「お義兄さん」と呼ばれるのが鬱陶しいが、本人達は幸せそうだ。


 健二と漣は大学生になり、学校自体は離れてしまったが、交際は続いているようである。

 よくよく考えれば、姫子が戸籍上の妹になり、このまま順当に進めば、漣も義理の妹になる。どうしてこう、妹が増えるのだろうか。

「いいじゃないか。そのうち、妹が十一人だ」

「一人足りないぞ」

「健二を女装させればいい」

 納得してしまえるほど、健二が女顔なのが不憫でならない。


 巴は最近、生まれて初めての彼氏ができたと喜んでいる。高木が凄く心配しているとか。

「お兄ちゃん、夜になると電話をかけてくるんです。彼氏が来てないか確認してるみたい」

 高木はあれで兄バカなので、心配でしょうがないのだろう。巴もブラコンだが、最近は彼氏に御執心らしく、高木が嘆いているとか。


 雨宮は、あれからすっかり仲間の一人というポジションになり、よくみんなで遊びに出かけたりした。

 涼子と同じ会社でOLをやっているらしいが、いつの間にか女帝という渾名をもらったとか。カリスマ性はやはり、元々持ち合わせていたのだろう。

「そろそろ、結婚しないとね」

 最近はそれが口癖らしいが、彼氏はいないらしい。



 みんな元気でやっているようで何よりだ。

 そして、肝心の千晴であるが。

「恵一、起きてください」

 勿論、未だに俺と一緒だ。最近は同じベッドで寝るのが基本になってきて、朝に俺を起こすのは千晴の仕事である。

「んー。おはよう。飯作るな」

「はい。あたしはお洗濯しますね」

 メイドという仕事は、俺の大学卒業と同時に解雇された。それでも一緒に過ごしているのは、もう流れ上という他ないのだが、千晴の親父さんは、きっとこうなることも予想していたのだろう。交際していることがバレても、笑うばかりだった。

「何なら、財閥で働いてみないかね。君ならば歓迎するのだが」

 一度、挨拶に行った折に誘われたが、このときはしっかりと断った。高校生の頃は、他にやりたいことも見つから了承したが、既に教師という目標があったので、それを説明したら、親父さんは笑顔で頷いたのだ。

「千晴の傍にいるのが、君のような真っ直ぐな人間ならば安心だ」

 未だに底の知れない人物ではあるが、その辺りは財閥の会長だけあって、俺のような人間には読み切れないと言うことだろう。

「恵一。今日は会議があるので、少し帰りが遅くなります」

 千晴はてっきり大学に進むと思ったが、短大生となり、卒業後に鈴ノ宮財閥系列の企業に就職した。元々、頭も良いし、人見知りも改善されたのだ。勉強よりも仕事に興味があったらしく、早く働けるほうがいいという理由で短大にしたそうだ。

「晩飯はどうする?」

「家で食べます。恵一の御飯は、お店より美味しいですから」

「了解。時間があるなら、いつもより凝ったもの作れるから楽しみだ」

 いつになっても、やりとりは変わらない。

 俺と千晴はもうメイドと御主人様じゃなくなったけど、俺達自身に変わりはないのだ。きっと、この先もずっと、こんな毎日が続くと思う。御主人様が中学生だったあの日から、ずっと続いていくのだ。

「……そうだよな、御主人様」

「へ……ふふ、懐かしいですね。じゃあ、久しぶりに御主人様命令です」

 千晴は俺の冗談をすぐに理解してくれて、悪戯っぽく笑う。そして。

「ずっと、一緒にいてくださいね」

 未来永劫まで遂行されるであろう命令をくだすのだった。


完結しました。

いやはや、長かったです。なんと、この物語を書き始めて六年ぐらい経ちます。

構想五分の物語が、よもやここまで長くなるなんて。最初は五話ぐらいの短い話にしようと思っていました。


あー。うん。伏線を回収しきれなかったりするんですけどね。とりあえず、これにて完結です。三人娘を主役にした話とか、雨宮さんが主役の恵一の過去とかも、いずれ書いてみたいな、なんて思います。構想だけはあるんで。

そのときはまた、お付き合い頂ければと思います。


それではまた、いつかどこかで。

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