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メイドと仲間達

 三人娘に事情が知れて三日が経った。巴経由で高木にも伝わったらしく、珍しいことに、学校帰りの高木が人を連れて我が家にやってきた。

「恵一、どういうことか説明しなさいよね!」

「あはは、こんにちは。仁科君」

 我が親友、五十鈴涼子と高木の彼女、天橋ひとみの二人が、高木の影からひょっこりと顔を出した。一方はひょっこりなんていう可愛らしい表現ではなかったが。

 戸惑う俺に、高木が苦笑して呟いた。

「とりあえず、そろそろ潮時だろうと思ってね。せっかく巴たちにも本当のことを喋ったわけだし、ここらで僕達にも種明かしをしていい頃合じゃないか?」

 お前は全部知ってるだろうとか、お前が全部説明しておいてくれよ、とでも言いたかったが、それで丸く収まるなら今頃、高木は既に話しているのだろう。敢えて俺に喋らせるからには、何かしら意図があるのかもしれない。あるいは、俺がしどろもどろで説明するのを楽しむ算段なのかもしれないが。

「……とりあえず、あがってくれ」

 本当に、とりあえずだが。俺はそう言うしかなかった。


 居間に三人を上げて、珈琲を淹れる用意をしていると、千晴が帰っきた。客が来ていることに驚いたのも束の間、学園祭で会ったことを千晴は勿論、涼子も天橋も覚えていた。千晴がお久しぶりですと頭を下げると、天橋はぺこりとお辞儀で返し、涼子は抱きつきで返した。

「久しぶり千晴ちゃん。相変わらず可愛いわねえ」

 ぎゅうっと抱きついて、涼子は嬉しそうに千晴のあちこちを撫でまくる。くそ、羨ましいヤツめ。同性だというのをいいことに、あんなにスキンシップを取るなんてズルいじゃないか。

「りょ、涼子さんこそ、その、綺麗で、かっこいいです」

 会うのは二度目だという涼子の過度のスキンシップによって、千晴は久しぶりにつっかえながら喋っている。口篭らないだけ、まだましだろう。

 千晴の分も珈琲を淹れて、改めて全員が席に座る。

 いつもと変わらぬ様子で、にこにこと笑う天橋。

 同じく、相変わらず何を考えているのかわからない高木。

 あまり会ったことのない人間に囲まれて、少し不安そうな千晴。

 そして、ものッすごいジト目で俺を見ている涼子。

「えぇと、だな。まあ、どこから話したらいいものなのか」

 俺は会話の糸口を探りつつ、珈琲に口をつけた。まあ、いざとなれば高木もいるわけで、なんとかなるだろう。

「最初からよ。突然休学することになった、六月から」

 涼子が詰問するように真っ直ぐと俺を見ながら言った。なまじ美人なだけに、不機嫌な表情が如実に出る。普段は明るい顔しか見せないが、涼子は怒ると本当に怖いのだ。どれくらい怖いかというと、伊達とマジで喧嘩をするよりも怖い。アバラ三本を引き換えにでも涼子を怒らせたくはないぐらいだ。

「わかった。えぇと、千晴も、いいよな?」

「え、ええ。勿論です」

 千晴がしっかりと頷くのを見て、俺はこほん、と咳払いをして、今までの出来事を話し始めた。

 三日前に三人娘に話したのと、ほとんど同じ内容だったが、ギャラリーの様子はまるで違った。まず、メイドという単語が出てきたところで、涼子は珈琲を吹きだし、半ば成り行きで同居することになったという時点で、眉間に皺がよった。高木に協力してもらったと言えば、高木を睨みつけ、その後の割と穏やかな日々のところは終始真顔だったが、怒っているというよりも、呆れた様子だった。

「というわけで、現在に至る。ということなんだが」

 ひとしきり話し終え、冷めてしまった珈琲に口をつけつつ、みんなの様子を窺う。

「信じられないかもしれないが、概ね事実だ。正直なところ、何故仁科が選ばれたのかはわからんが」

 俺の言葉を補足するように、高木が落ち着いた様子で涼子に語りかけた。

「知ってたなら、教えなさいよ。私がどれだけ心配したか……」

「それも承知の上で、黙っていた。別に五十鈴さんに心労をかけたかったわけではない。ただ、仁科は嫌なら嫌だという男だ。普通ならば、たとえ天下の鈴ノ宮財閥の誘いと言っても、高校生活と親しい友人を投げてまでやるとは言わないだろう。しかし、仁科はやると言った。これはね、並々ならぬ覚悟がいることだ。仁科本人は気付いていなかったかもしれないがね。僕は、そんな仁科を手伝いたいと思った。常々、仁科は何かを為すことの出来る人間だとは思っていたが、やりたいことも見つけられない状態だったからな。まるで、今までの自分を変えるためのように感じて、それならば、事情を知る人間は少ないほうがいいと思った。頼れる仲間が周囲にいると、頼りすぎてしまうからな。僕は、口ばかりが達者で、実際に何かができるという類の人間ではない。僕ならば、仁科は必要以上に頼ることはしないだろうし、僕にも必要以上に口出ししない自信があった。これが、僕が黙っていた理由だ」

 長い言葉を話し終え、高木はそれきり黙った。その様子を、天橋がうっとりとした様子で見つめている。天橋は、高木のこういうところが好きなんだろうか。

「私じゃ、駄目だったの?」

 涼子はやりきれないという様子で、俺を見た。そりゃ、確かに涼子が近くに居てくれたら助かっただろう。高木よりも付き合いも長ければ、料理だってできるし、女の子と同居っていう中で、聞きたいことなんかいくらでもあった。

 だが、俺はそうしなかった。別にやせ我慢とかじゃない。千晴はなんだかんだで自分の意見をいうことができる子だったし、やるからには、最後までやりたかった。高木にも色々と協力してもらったし、それは本当に助かったと思っているが、実際にメイドとしての仕事を手伝ってもらったわけではなく、人間関係や、俺にはどうしようもないことを手伝ってもらっただけである。

「……涼子が駄目だったんじゃなくて、もし涼子に頼んでたら、俺は涼子に、甘えすぎてたと思う」

 それだけ言うと、涼子は俯いてしまった。決してないがしろにしていたつもりはなかった。連絡を取らなかったのは、意思が折れないようにするためだったし、当時は少しでも甘えられるのなら、甘えてしまいそうだったからだ。

「色々あってさ。こんなことを言うのもアレだけど、俺も少しは自信がついてきたんだ。相変わらず不甲斐ないメイドだけど、飯作るのも上手くなったし、掃除もきちんとできるようになってきた。もう、涼子に言っても甘えなくても大丈夫だと思ったんだ。いっつも宿題見せてもらったり、色々と俺が甘えてばっかりだったけどさ。少しは、強くなったと思う」

 俺がそう言うと、涼子は大きく一度ため息をついて、すっと顔を上げた。

「ほんと、すごく成長したわね」

 久しぶりに見た、涼子の真っ直ぐな、きらきらとした笑顔だった。



「じゃあ、アレか。天橋は最初から気付いてたのか?」

「全部じゃないし、メイドとも思っていなかったけどね〜。兄妹じゃないっていうのはすぐわかったし、なんとなく、千晴ちゃんのお世話係か何かになったんだろうって思ってた〜」

 しばらく、五人で今までにあったことを思い返しながら、たらたらと喋っていた。高木がけっこう無理やり周囲を納得させてくれていたことや、涼子がどれだけ俺を心配してくれていたか。そして、天橋の鋭い洞察力なんかにも驚きながら。

「う、嘘をついていて、ごめんなさい」

 千晴も俺と一緒に謝ってくれた。これは俺の問題だとも思ったが、「雇い主はあたしですから」の一言で黙らされた。確かにそれはその通りだったが、まあ、涼子だって千晴が無理に俺を引き入れたわけではないことぐらいわかっている。ひらひらと手を振りながら苦笑した。

「いいのよ。まだちょっと信じられないけど、とりあえず元気でやってるようで何よりよ。それより、よく恵一と二人で暮らせたわね。料理も掃除も出来ない男だったのに」

「あ、あはは……最初はちょっと不器用でしたけど、今では本当に美味しいご飯を作ってくれます」

 やっぱり、最初はあんまり美味い飯じゃなかったんだろう。ろくすっぽ料理なんかしたことがなかったんだから仕方が無い。

「ほう。さらに腕を上げたか。せっかくだから、披露してくれないか?」

「あ、私も食べてみたいな〜」

「それいいわね。どれぐらい上達したか、見せてみなさいよ。今まで嘘ついてたことには変わりないんだから、それぐらいいいでしょ?」

 漣のときもそうだったが、こう言われると従うほかない。確かにそろそろ夕飯時でもあることだし、たまには大勢での食事も悪くない。それよりも、これで許してもらえるのならば、幾らでも作ってやる。アバラ三本は覚悟してたのだから、それに比べれば軽いものだ。

「よっしゃ。これまで鍛えた腕前、見せてやらぁ」

 ちょいと江戸前流に口上を垂れて、俺は台所へと向かった。


「巴を呼んだのだが、漣ちゃんと姫子ちゃんも来るそうだ。追加で三人前の用意は出来るか?」

「おうよ。あいつらにも世話になったし、材料は足りる。ついでだから伊達も呼ぶか」

「……まあ、それを邪険にするほど僕は子供じゃない」

 高木の計らいと、俺の思いつきで集まったのは、九人。俺、千晴、高木、涼子、天橋、巴、漣、姫子、伊達。錚々(そうそう)たるメンバーだと思う。なんというか、攻撃力と個人技が高そうだ。

 三人娘、伊達もほどなくやってきて、場所が狭いということで、居間の奥にある和室を使うことにした。普段は俺も千晴も和室を使うことが無く、掃除をするだけの部屋だったのだが、居間より物が少なくて、広い。しかも大きめの机が置いてあるので大人数の食事を並べることも簡単である。

「さて、と」

 流石に九人分の料理となると骨が折れる。食材は買い込んであるし、パーティ用の料理は戸田婦人仕込みでしっかりとレシピも把握済みだ。鈴ノ宮財閥の人間に料理を作るわけだから、こういうものも知っておいたほうがいいと言われて、多人数で食べやすいメニューを教えてもらったのだ。

 しかしながら、手が足りない。時間をかければいいのだが、それにしても仕込みもなしに一から作るには、一時間は優に越す。

「どうしたもんかねえ」

 頭では考えながらも、一番時間がかかるであろう、から揚げの準備を身体は始めている。後は今日の昼に買ってあるマグロを刺身にして出せば、華やかさは演出できるだろう。汁物はシンプルに卵スープでいいだろう。サラダは時間が掛からないし、後にすれば良いとして。一応、米も炊いておきつつ。

 後は、定番だとフライドポテトだ。ジャガイモはストックがあるので問題ない。デザートはこの前に買ってきたアイスに少しだけコーヒーリキュールを垂らせば、カルーアバニラとして通用するか。

「お手伝いしますね」

 考えながら手を動かしていると、千晴がひょっこりと台所に現れた。既にエプロンを身に着けており、臨戦態勢である。これは俺が振舞うべきものであるから、断ろうと思ったのだが、千晴は頑なに譲らなかった。

「たくさん作らないといけませんし、それだと時間がかかります。それに、あたしのお客さんでもありますし、恵一と一緒にあたしも嘘をつきました。あたしも、せめてお手伝いくらいはしたいです」

 この発言には、返す言葉が無かった。反論しようと思えばできたかもしれないし、無理に和室に戻すことも出来たのだろうが、千晴の顔を見たら、そんな考えは全部吹き飛んでしまった。

「わかった。しっかり手伝ってくれ」

「はいっ!」

 嬉しそうにはにかむ千晴を見て、俺も自然と頬がほころんだ。

 大丈夫だ。千晴と二人なら、これぐらいなんてことは無い。たとえアバラが全部砕けたって大丈夫な気がする。俺達にはたくさんの友達がいて、隣にはお互いがいる。こんなに幸せな環境は、他に無いだろう。

 千晴は俺の指示通りにてきぱきと作業をこなしてゆく。俺もなるべく効率よく、料理を完成させていく。

 こんなに料理が楽しいものだとは、今まで気がつかなかった。

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