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番外編、御主中日記

今までの話を日記としてまとめてみました。

仁科恵一手記 御主中日記


6月26日

 いきなりメイドになる。

 御主人様の躾など、全て俺に一任するという。

 一応記録ということで、日誌を書かねばならない。

 ――しかし、何を書けばいいのだろうか。


6月27日

 同居2日目。

 基本的な家具が御主人様の家から届く。けっこうな量があったので高校の友人である高木に助っ人を頼んだ。

 下らぬ詮索を受けぬように御主人様と俺は兄妹ということにしておいた。


6月28日

 朝、御主人様に噛まれる。歯型が胸にくっきりとついてしまった。

 午後、戸田のおっさんが訪ねてくれた。奥さんが作ってくれたレシピを貰う。庶民的で作りやすい料理がけっこうな量、丁寧に書かれていた。これからの生活にきっと役に立つだろう。

 夕方、高木に出会う。速攻で兄妹でないことを見抜かれてしまった。

 夕食はカレーを作った。甘いが、中々美味かった。


6月29日

 今日は普通に起きることができた。朝食はトーストを作る。

 本格的に家事を始める。普段はずぼらな母親だったが、毎日家事をこなしていたのかと思うと少し見直す。

 兎に角、身体がくたくたである。


6月30日

 土曜日。御主人様は半日授業である。

 芦田女史が午前中に来てくれて、何かと物入りだろうからと、契約金の名目でけっこうな額を渡してくれた。俺個人の金であるが、食費に回そうかと思う。どうせ給料だけでも相当な金になるのだし、飯は俺も食うのでいいだろう。

 ついでに暇な時間を潰せるように、と小説を貸してくれた。恋愛小説は読んだことがない。少し抵抗があるので今日はあらすじだけを読んだ。


7月1日

 日曜。そろそろ家事にも慣れてきた。

 御主人様も興味があるらしく、掃除や洗濯などを少し教える。

 自分の部屋は自分で掃除するらしい。何のためのメイドなのかと思ったが、仕事が減るので何も言わずにさせたいようにすることにした。躾も任せられているのだが、御主人様は何も躾ける必要が無いぐらいに出来た性格のようだ。世間知らずを直せ、ということだろうか。


7月3日

 前日は特に何も無かったので記入を省く。

 今日は御主人様が芦田女史に借りた本を読みたいというので貸すことにした。俺は読んでいないが。

 午前中に戸田のおっさんが来てくれた。何でも、俺たち専用の運転手なので、屋敷でする仕事が無いのだという。毎日車を磨くだけという話だ。尤も、車が好きらしいので満足はしているらしい。

 帰り際に小説を貸してくれた。剣豪小説である。少し読んでみたが、中々面白い。


7月5日

 やや家事ノイローゼ気味である。高木に連絡すると、学校帰りに寄ってくれて、小説を貸してくれた。著者は高木本人とか嘯いていたが、どうやら自費出版の同人誌らしく、本当らしい。

 内容は―――面白かった、とだけ言っておこう。私小説でないことを祈るばかりだ。


7月7日

 七夕。我が母親の誕生日である。本人は七夕のようなロマン溢れるイベントが似合わぬ人であるが。

 御主人様が夕飯を手伝ってくれた。人参の皮むきだけは一人前だ。


7月9日

 御主人様の友人が3人も家に来た。たまらず逃げようとするが、捕獲される。

 姫子の暴走で事なきを得る。

 その後、初めて御主人様が口を開けて笑うのを見た。こういう笑い方ができるものなら、もっと一杯すればよいのに。

 夕飯は高木に出前をさせた。5分で立派な夕食が届いたのは何故であろうか。

 その後、御主人様に高木に兄妹でないことがバレていたことを教えなかったことについて説教される。30分も続いたが、途中から愚痴になって、なんだか可愛らしかった。


7月10日

 買出しに行く。街中で弟の健二を見かけたが、敢えて声はかけなかった。

 どこか元気が無かったようだが、大丈夫だろうか。男のクセに少し軟弱なところがあるから兄としては心配である。

 そういえば御主人様は健二より一つ年上である。健二もそういえばかなり小さかったことを思い出す。俺はちんまいガキの弟と妹を持ってしまったのか。どこかのオタクが聞いたら羨ましがるのかも知れない。


7月14日

 足りない日用雑貨の買出しに行く。日曜日なので御主人様も行くということで、戸田のおっさんに車を出してもらうことに。

 デパートに行って、日用雑貨を買い揃えた後、自分の下着の枚数が心許ないことに気付き、戸田のおっさんに御主人様を任せて一人、男性物の下着売り場に行く。すると何故か御主人様の友達の天王寺姫子がいた。なんでも、兄と二人で買い物だとか。それで、その兄というのにも会った。どこかで見たことがあるヤツだと思ったら、1年生の時に同じクラスだった天王寺亮平だった。確かに天王寺はオタクである。

 その後、姫子と天王寺を連れて御主人様のところに行くと、何故か御主人様の機嫌を損ねてしまった。どうやら自分を置いて姫子と会っていたのが気に食わなかったらしい。


7月15日

 昨日損ねた御主人様の機嫌を元に戻すべく、夕飯はけっこう凝った。

 しかし、凝りすぎたのか、手伝うと申し出た御主人様に気付かず調理を進めてしまい、余計に機嫌を損ねる。


7月16日

 ちょっとギスギスしている関係修復のため、今日は早朝から起きて、手製弁当の制作に乗り出す。昼食はいつもパンだという御主人様は朝渡された弁当箱に一気に機嫌をなおしてくれた。夕食は二人できちんと作り、いつもの生活に戻る。


7月18日

 夕食の材料を買ってきたら、御主人様が居間で本を読んでいた。先日芦田女史に貸してもらった本とは別である。どんな本かと聞いたが、秘密だといわれてしまった。


7月19日

 朝、何故か御主人様が起こしにきた。とりあえず礼を言うと、なにかそわそわした面持ちでこちらを見るので、頭を撫でてやると、複雑そうな表情をしたが、嬉しそうだった。当ては外れたが結果オーライだったらしい。


7月20日

 高木が昼飯時に来る。なんでも明日は文化祭で手伝って欲しいという。

 一度は断ったが、御主人様が構わないというのでOKした。

 メイド喫茶をやると知っていれば、何が何でも断っていたのに。


7月21日

 メイド喫茶で働く。恥ずかしい上に人気が出た。御主人様は突然別人のようになるし、許婚という伊達いう男まで出てくる始末である。

 しかし、久しぶりにクラスメイトに会えたのは嬉しかった。残念ながら食中毒で、仲のよかった楠木や、大多数の面子には会えなかったが、いずれまた会う機会もあるだろう。


7月22日

 筋肉痛になる。原因は昨日の文化祭の所為である。

 特に後夜祭のダンスが堪えた。

 家事はとりあえず一通りこなせたが、体中が軋むのは辛い。


7月23日

 御主人様、期末試験である。

 どうも普段から勉強する御主人様にとって、試験とは休みと同義であるらしく、勉強もそこそこに、昼間はテレビを見たり、本を読んだりとかなり寛いでいた。姫子から電話がかかってきて、勉強について質問されたが、さっぱりわからなかったので、御主人様にバトンタッチした。どうやら、俺より相当できるらしく、教科書も見ないですらすらと姫子に問題の解き方を教えていた。

 俺が馬鹿なのだろうか。


7月24日

 御主人様、期末試験二日目。

 昼食を食べたあとに、三人娘がやってきた。なんでも、勉強会をするらしい。

 御主人様は自分は余裕であるのに、みんなの先生役として、一緒に勉強していた。見上げたものである。

 せっかくなので、お菓子作りに挑戦。試作一号のクッキーは漣に碁石と間違われた。

 悔しいので、次は美味いクッキーを焼くつもりである。


7月25日

 御主人様、期末試験終了。

 また三人娘がやって来た。ついでに高木もやって来た。

 高木にお菓子作りのコツを聞いたが、残念ながらお菓子作りは興味がないらしく、素っ気無く「しらん」と言われてしまった。

 それでも何とか、見た目はクッキーに見えるものを作る。姫子が試食したところ、どんなときでも崩れないはずの笑みが崩壊した。自信まで崩してしまった。


7月26日

 御主人様、終業式。

 お菓子作りの先生を紹介してくれるというので、高木を招くと、先生は天橋とのことだった。

 どうやら俺は、小麦粉をふるいにかけていなかったようである。道理で粉が固まりで入っているはずである。

 あと、生地を寝かせることを省略していたのも不味かったらしい。

 試食を高木にしてもらったが、天橋が作ったものだけを食べやがった。偶然と本人は言っていたが、そんなことはないだろう。中々、高木もしっかりと恋人をやっているようである。


7月27日

 御主人様、夏休みの宿題を終わらせる。

 昨日姿を見せないと思っていたら、二日、集中してやってしまったらしい。残すは絵を描くという宿題のみだそうだ。10月まで夏休みの宿題をしていた俺とはえらい違いである。

 テーマは「家族」。俺を描くと言い出して、少し嬉しいような、恥ずかしいような。

 高木から電話がかかってきて、「巴が僕を描きたいと言い出した」と焦っていた。そう言えば、あの二人。めでたく兄妹になったらしい。仲人(?)が天橋というから、まあこじれることもないだろう。

 御主人様は明日、俺の絵を描くのだという。どうなるものやら。


7月28日

 夏休み、二日目。ただし、家事に休みはない。

 御主人様が俺の似顔絵を描き始めた。勉強はできるが、絵は下手だった。

 俺は既に俺ではなく、怪獣になっていた。渾身の作品とは本人の談だが、提出された絵を見て美術の先生は恐竜を飼っていると勘違いするかもしれない。


7月29日

 夏休み、三日目。やはり家事に休みはない。

 最近は暇な時間を見つけて、料理の勉強をしている。戸田夫人のレシピは役に立つのだが、俺の腕では満足に使いこなすことが出来ていないからだ。

 テレビのお料理教室が俺の目下最大の先生である。


7月30日

 御主人様は一日図書館に出かけていた。

 普段はあまり小説を読まない俺だが、御主人様が俺用に一冊の本を借りてきてくれたので読んでみた。

 一人の執事が奮闘して、主を救う話だった。


7月31日

 御主人様や三人娘、高木達とプールに行く。

 弟の健二と漣が親しい間柄だったことに衝撃を受ける。

 御主人様には色々申し訳ないことをした。

 反省文なんて初めてだ。


8月3日

 御主人様が巴達と出かけたので、休日を言い渡される。

 折角の休みなので、普段出来なかった大掃除をしてみた。

 家全体がかなり綺麗になった。


8月4日

 休みに働くなと御主人様に怒られる。振り替え休日となってしまう。

 ゲームをしながら日中を過ごす。夕飯は御主人様に高級レストランに連れて行ってもらった。

 料理も気配りも最高だったが、自分が今までやってきたことがおままごとに思えてきて、少し凹んだ。

 でも御主人様はそれでいいと言ってくれた。ちょっと泣きそうだった。


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