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メイド、再び乱心

 一体、どこの誰がこんなに太陽を熱く設定しやがったのだろうか。おかげで、俺たちはだらだらと汗を流して、プールサイドで女性陣を待っている。

「いやぁ、やっぱり女の子っていうのは、着替えに時間がかかるんだねぇ」

 天王寺が間延びした声でのほほんと呟く。オタクと噂の男だが、その肉体はおよそインドア派のものとは思えないほどに頑強かつ、絞りぬかれている。つまるところ、痩せマッチョというやつだ。爽やかかつ甘いマスクと相俟って、とてもオタクには見えない。

「まあ、こうしてぼんやりと待つのも、男の甲斐性の一つさ」

 天王寺とは正反対の無愛想で地味な声とツラをした高木が、言葉とは裏腹に呆れたような顔でたしなめた。こっちは典型的な痩せ型で、細いというより、痩せすぎである。

 筋肉と思しきものはなく、骨と皮だけのような平べったい身体は、貧弱とか軟弱とかいう言葉が似合う。たとえるならば、スルメイカみたいな感じだ。

「僕、シートを敷いてきますね〜」

 健二はどこもかしこも線が細く、女の子のようである。これが海パンではなく、レオタードとかだったら、間違いなく周囲は健二を美少女と思っただろう。

 しかし、遅いな。たかが布切れを身につけるのに、なんでそんなに時間がかかるものなのだか。

「お待たせしました〜」

 やれやれと、しゃがもうかと思っていたところに、女性陣がまとめて現れる。

「ほう」

「へえ」

「おおう」

 巴・漣・姫子・御主人様。

 全員中学生だが、いやはや、どうして中々。

 やっぱ、熱い太陽に感謝すべきだな。


「あはは。どうですかね〜?」

 姫子がくるり、とその場で一回転する。真っ白でシンプルなワンピースタイプの水着で、色気とは程遠いが、可愛らしさの一点においては、かなりのものだ。

「似合ってるんじゃねえか?」

「うむ、魅力がよく出ているな」

 俺と高木がとりあえず批評会。まあ、三人娘と御主人様は揃って可愛いので、安心して批評が出来るというものだ。

「えっと、その、ちょっと恥ずかしいですけど……」

 続いて、巴に目をやる。こっちは大胆に淡い緑色のビキニである。パレオを腰に巻いているが、そんなことよりも、一番すごいのは、巴の胸だ。

 正直かつ、率直な感想を言えば、デカかった。とても中学二年生には思えない。きゅっと締まった腰元といい、あと二年もすれば、十分グラビアアイドルとして通用するんじゃないだろうか。おとなしそうな顔をして、この委員長は中々やりおる。

「……四番キャッチャー」

「言いえて妙だな。巴、似合っているぞ」

 恥ずかしそうに、腕で胸元を抑える巴だが、それが逆に、ふにゅっと巴の胸を強調させてしまい、視覚効果は抜群だ。

 くそ、天橋もけっこうスタイルいいはずだし、高木の周りには、美人で胸の大きい女の子ばかりが寄ってくるということになる。この貧相な身体に、どんな魅力があるのだろうか。

「ふむ、健二はあっちか」

 漣は競泳用っぽい、黒と白のツートンカラーの水着である。なんだか、シャチみたいな感じで、漣の雰囲気に良くあっている。

 漣は漣で、スタイルも悪くないし、特に脚線美に関しては中々のものである。青い果実とかいう言葉が脳裏によぎる。しかし、この漣が、健二と付き合っているとは。

 なんか、全然想像できない。

「お、お待たせしました……」

 最後に、漣の後ろに隠れていた御主人様がひょっこりと顔を出す。

「へえ……」

 御主人様にしては、割と大胆なのではないだろうか。セパレーツと呼ばれる、ビキニよりやや大人しめの水着だ。空色のブラとパンツが爽やかで、案外というか、さっき感じた感触通りというか。胸は割とあるような気がする。

 しかし、最近買った水着らしいのだが、普段つけているブラより、やや大きい気がする。あれか。パットってやつだろうか。

 いや、単純に大きくなったという可能性も捨てきれない。そうなるとやはり、ブラを買い換える必要があるな。俺が買うのも恥ずかしいし、巴か天橋あたりに頼むとするか。

 けど、普段見慣れた御主人様も、こうしてみると新鮮だ。やや色素の薄い、栗毛色の髪と淡い空色の水着がよく似合っているし、ちょっと背伸びした感じが、また可愛らしい。

「うん、似合ってるぞ」

「あ、ありがとうです」

 御主人様は少しだけ頬を赤らめて微笑んでいた。

 うーん、なんか普通にぐっと来るのは気のせいかね。俺はロリコンじゃないと思っていたのだが。

 女性陣の水着姿に満足した後、健二の陣取ったシートの場所に荷物を置く。

「軽くでもいいから、ちゃんと準備体操はしとけよ。要らん事故を起こす必要もねえだろ」

 軽く関節を伸ばしながら、周囲に声をかける。

「恥ずかしい真似をせねばならんのだな」

 漣は不服そうだった。こいつは相変わらずだな。

「もう、漣さん駄目だよ。こういうのも楽しむ気持ちを持たないと」

 ふと、横合いから健二がめっ、と叱る。

「う、うむ。まあ、そうだな」

 漣は少し顔を赤らめて、珍しくすごすごと引き下がった。ふむ、健二は健二で、割と漣をコントロールしているじゃないか。

 俺達は適度に準備運動をして、早速遊ぶことになった。とは言っても、俺と高木、天王寺はどちらかというと、付き添いだし、はしゃぐというより、プールサイドでぼんやりと中学生達の様子を眺めている程度だ。

 御主人様たちは流れるプールで浮き輪に乗ったりしながら、無邪気に遊んでいる。やや幼稚な気がしないでもないが、立場的に保護者も兼ねている俺たちからすれば、安心できるというものだ。

「こうして、妹を眺めるのもいいものだねぇ」

 天王寺は発言までオタクくさい。しかしながら、高木はしきりに頷いていた。

「妹の何がいいんだ?」

 俺に妹属性はない。少なくとも、妹という理由で好感を持つことはないだろう。俺の問いかけに、天王寺はうぅんと唸る。

「僕も、妹属性は無いからなぁ。妹の何がいいって訳じゃないけど。姫子は普通に可愛いしねぇ」

「や、妹だぞ?」

 仲の良い兄妹と言ってしまえばそれまでだが、天王寺が姫子を見る目は割とマジだ。家族というのは、恋愛感情を持たないよう、頭が勝手にストップをかけていると聞いたことがあるが、天王寺はそんなことお構い無しなのかもしれない。

「血が繋がってないからいいんじゃない?」

「……はぁ?」

「やー、僕と姫子は血が繋がってないからね。僕は母さんの連れ子で、姫子は義父さんの連れ子さ。仁科……いや、鈴ノ宮になるのかな?」

「仁科で頼む。そっちのほうが慣れている」

「ああ、じゃあ仁科君で。僕と姫子は、仁科君の家ほどではないだろうけど、それでも事情があってね」

「……そうか。じゃあ、いいんじゃないか?」

「だな。血のつながりが無いならば、生物学的にも問題は無い」

 俺と高木は、揃って天王寺を否定しなかった。

 正直なところ、共感なんぞできない。俺には妹なんていないし、仮に血の繋がらない妹がいたとしても、兄妹として育ってきたのなら、血の繋がりが無かろうが、妹としてしか見ないだろう。

 けど、考え方も感情も人それぞれだ。俺がそれを否定する道理なんかない。

「はは、君たちはいい人だなぁ」

「うむ。自負している」

「俺は自負してねぇけどな」

 天王寺は、少し眩しそうに俺達を見て、すぐに姫子に視線を戻した。

「やっぱり、普通に出会いたかったんだけどね。同じクラスになるとか、幼馴染みとか。まあ、同じ家に住んでるから、毎日会えるのは幸せなことなんだろうね」

 天王寺は、あはは、と笑いながら呟いた。

 多分、こいつは本気で姫子が好きなんだろうな。

 俺の周りには、あんまり居ないタイプの男だ。高木のように本当に天橋に惚れ込んでいるのかわからないヤツがいつも近くにいるし、高校に通っていた頃の友達は、べったりイチャついたり、初々しくて見ていられなかったり。

 天王寺のように、静かに、見守るような愛し方ってのも、あるんだな。

「しかしまた、随分とカミングアウトしたものだな。合宿の夜でもあるまいに。惚れた女を言い合うのはちと時期尚早だぞ?」

 高木が天王寺に話しかける。しかしながら、高木の視線も巴に向いている。仕方ない。俺も御主人様でも見ておこう。

 運動神経は悪くないし、泳げないわけでもないらしい。背丈が足らないので少し大変そうだが、仲良く三人娘や健二と遊んでいる。

「姫子ってさ、やっぱり可愛いんだよ。特に年上にモテるんだよね」

「ほう。確かに、愛らしいな」

「まあ、確かにな」

 姫という名に相応しい、ふわふわした女の子だと思う。

 別段、世界改変能力も持たないのに、姫子ワールドなる不可思議空間を生成しちまうこともあるが、天然ってのは基本的にモテるからな。

「それでね。悪い虫がついたりするのは、兄としては嫌なものでさ。男としても、姫子は渡したくないし」

「……つまり、僕たちが姫子ちゃんにちょっかいを出さないようにと、敢えて教えたと言うことか?」

「うん。姫子に手を出したら、闇討ちするよ」

 のほほんと、空恐ろしいことをのたまう天王寺に、流石の高木も少々面食らったようだ。

 俺としては、早くも先ほどの感想を打ち消そうと躍起である。こいつ、見守るんじゃなくて、積極的に駆逐していく気だ。

「生憎、僕はこれでも恋人がいる身でね。他の女性には興味がない」

「俺は彼女なんざいねーが、姫子と付き合うとか、考えられないな」

 姫子が悪いというわけじゃなくて、そもそも恋愛とかよくわかんねえ。

 今まで好きな人がいなかったかというと、そういうわけでもないのだが、あんまり、彼女とか事態を考えたことがない。

「……良かった。君たちとは友達で居られそうだよ」

「恋敵の可能性になる人間とは、友達にもなれぬか。難儀な性格だな」

 高木は呆れたように呟くが、確かに高木がそうなら大変だ。

 天橋は、それこそウチの学校のアイドルみたいなもんだからな。俺だって、天橋の容姿はとても気に入っている。

「自分でも大変だと思うよ。ただ、困ったことに全然抑える気にもならなくてさ」

 本当に困ったことだ。自重しろよ。


 そうこうしているうちに、中学生一同は疲れたらしく、プールから上がってきて、昼食タイムと相成った。

 流石に弁当を用意する時間は無かったが、巴が全員分作ってきてくれた。

「将来は良い嫁になるな」

 何故か漣が満足げに頷く。しかし、最近料理に対して一言を持つようになった俺から見ても、中々料理に慣れている感じだ。おにぎり一つとっても、塩加減も絶妙で、具材も凝っている。

「最近は千晴も料理を覚えているようだし、うかうかしていられんな」

「大丈夫だよ、僕も最近は料理始めたんだ」

「ふむ、健二までもか。ならば、私はますます覚える必要がないな」

「あー、でも、漣さんの料理も食べてみたいかな」

「ならば覚えるか」

 案外というか、漣は健二にデレデレだった。


 昼飯を食い終わると、高校生組も加わり、水球と洒落込んだ。

 ちょうど、中学生対高校生という構図になったが、巴と漣の動きが良い上に、御主人様はアシストが巧い。

 人数的にどうしても不利は否めないが、男女の差と年齢の差で、なんとか食らいつく。

「えぃっ!」

 巴の鋭いアタックに、高木が的確にレシーブを返す。それを天王寺が軽くトスして、俺が撃ち込むというのがセオリーだ。

 しかし、巴の胸、マジでかいな。アタックするたびに、割としっかり揺れる。

 思わず目が吸い寄せられてしまう。

「……不埒者めが」

「うぷっ!?」

 高木が俺に水をかけてきた。いいじゃねえか、減るモノじゃねえんだし。

 んー。しかし、単純に胸の大きさだけでアルゴリズムなんかを作ってみると、中々面白いな。

 巴>越えられない壁>御主人様>姫子=漣。

 ちまっこい割に御主人様は二位と健闘している。さらに、ここに割と俺の親しい人物を加えるとどうなるだろうか。

 対象としては、涼子に芦田女史、天橋ってところか。

 芦田女史>天橋=巴>断崖絶壁>涼子>御主人様>姫子=漣。

 流石、大人の女性だけあって芦田女史に軍配があがるか。天橋も大したものだが、巴は今後も成長が期待できるというか、大いに成長するだろうし、一年後あたりには、巴が芦田女史すら追い越す可能性もある。

 涼子と御主人様は、最終的に一緒ぐらいになるんじゃないだろうか。

「……とりあえず、キサマは一度水没すべきだな」

「同感だね」

「兄さん、顔がえっちぃ」

「お兄さん、あんまりじろじろ見ないでくださいよ〜」

「あはは、お兄さんも男の人ですね〜」

「ふむ、なんだか馬鹿にされた気分だな」

「……あぅぅ」

 気付けば、全員が俺を白い目で見ていた。

 そんなにマジマジ見ていたわけではないんだがな。

「お兄さんは考えていることがすぐ、顔に出る。自重しろ」

「んな馬鹿な……うわっ!?」

 漣がばしゃっと、俺に水をひっかける。

「まったく見られないのもちょっとアレですけどね」

 そう言いつつ、巴も漣と一緒に攻撃してくる。

「あはは、私も〜」

「……あとで、お話がありますからねっ!」

 姫子と御主人様までもが。

「兄さんの変態」

「仁科が悪いな」

「同感だね」

 男衆まで。周囲に囲まれ、全方位射撃を食らいまくる。

「て、てめぇら……くそ、俺のターン!」

 体勢を整えるために一度水の中に潜り、潜ったまま、健二の脚を狙って、一気に持ち上げる。

「うわぁ!?」

 健二があえなくバランスを崩して水中に沈む。俺はさらに潜り、標的を御主人様へと向ける。

 水底ぎりぎりの素潜りなので、おそらく視認は出来ないはず。斜め後ろから一気に腕を伸ばす。

「きゃあッ!?」

「!?」

 しまった、目測を誤った。腕を伸ばしたときに身体が浮いてしまった。さらに、予想以上に御主人様の背が低かった。

 俺が引っ掴んだのは、御主人様の脚ではなく、ちょうど胸あたり。むにっとした感覚が掌に当たっている。

「!!?」

 俺は、モロに御主人様の左胸を握っていた。むしろ、鷲掴みという表現が正しい。やーらかい。

「ごぶっ……ぶはぁッ!?」

 慌てて手を離したが、混乱していて思わず息を吸っていた。当然ながら、水を飲み込み、慌てて水面へと顔を出す。

「げほ……がは……」

 涙目になって、激しくむせる。気管に水が入ってしまったようだ。

「あ、あ、あぅぅ〜〜〜」

 御主人様は、顔をこれでもかというぐらい紅潮させて、涙目で俺を見ていた。

「げほ……す、すまん」

「あぅぅ〜〜〜」

「あ、あの、その……なんつーか、すまん」

「うーーー」

「すんませんっしたっぶほぉ!?」

 思わず頭を下げたら、水面に顔を突っ込んでしまい、再びむせる。

 あぁん、泥沼。

「ふむ、君は相変わらず、憎めない男だな。誰が笑いを取れと言った」

 高木の言葉に、ようやく俺が周囲に注目されていることに気付く。

 全員、笑いを堪えていた。

「一度、休憩しようか。巴、漣ちゃん。千晴ちゃんを頼むよ。この馬鹿は僕がシめておくから」

「あ、うん。頑張って、お兄ちゃん」

 巴よ、高木を応援するな。少しは不幸な偶然が重なっただけの俺の身を案じてくれ。

「自業自得という言葉、知っているか?」

 漣が俺の心を読んでいるかのように言う。くそ、言い返せないのが辛いところだ。


「さて、そういうわけで狼藉者の処置なのだが」

 御主人様は漣と巴に連れられて、シートで一休み。俺は人目につかないトイレの裏側で高木に捕まっていた。

「待て、あくまでもこれは偶然の副産物だ。俺に悪意はない」

「行為に変わりはあるまい」

「ぬぅ……」

 高木と口で争うのは、やはり無理があるか。端的かつ効果的な言葉で俺を追いつめてくる。

「まあ、幸い、他の人間にはしっかりと見えていなかったようだから、安心しろ。妹の胸を揉んだ変態ではなく、妹に悪戯して泣かれた不器用な兄というポジションで済んでいる」

「お前は見てたのか」

「否。反応で解った。君と千晴ちゃんのことだ。少々の悪戯であそこまで顔を朱くすることもあるまい。よほど大胆な行動に出たことぐらい、想像に難くない」

「……そうか」

 少々の悪戯どころか、最初は話しかけるだけでもビビってた御主人様なだけに、あんまり納得できないのだが。多分、どこ触っても同じ反応だったと思う。しかし、本当に申し訳ないことをしてしまった。まだ誰にも触らせたこと何て無かったろうに。よもや専属メイドに胸を揉まれるとは思わなかっただろうな。後できちんと謝らないといけない。

「やれやれ。まあ、その辺りが仁科らしくて良いのだが。まあ、多くは語るまい」

 高木は、シめると言っておきながら、これ以上は何もしないらしい。

「千晴ちゃんにきちんと謝れば、それで済む話だろう。まあ、嬉しいハプニングと思えばいいだろう。幸い、千晴ちゃんも怒っているわけではないのだし」

「お、怒ってないのか?」

「困ってはいたがな。端的に言えば、それだけ君は気に入られているということだよ」

「……なんか、余計に申し訳ないな」

「そんな君だから、許されるのだろうな。仮に僕だったら、多分口をきいてもらえなくなるだろう」

 こいつの場合、そんなヘマはしないだろうがな。


 少々怖かったが、みんなのところに戻らねばなるまい。

 高木の言葉に安心はしたものの、御主人様に嫌われてはしないかと内心、割とビビっている。

 いきなり解雇とか言われたら、なんだか寂しいしな。華の高校生活に戻れるのはありがたいが、今は夏休み。家事は慣れてしまったし、苦痛というわけでもないので、さっぱりわからない宿題を解くよりは、余程性に合っている。

「やあ、戻ったよ。馬鹿兄には、きちんとオトシマエをつけておいたから、安心して良い」

 高木が御主人様やその他の面々に説明すると、一同はそれで納得したようだった。

 なんだかんだで、こいつらは気の好い奴らだ。御主人様も含めて、嫌われるのは勘弁して欲しいので助かった。

「さあ、折角だからもう少し遊んでいこう。ウォータースライダーでも行こうか」

 高木の言葉に、みんなが動き出す。

 俺は最後尾について、丁度前を歩いていた御主人様に声をかけた。他の人間には聞こえないように、小声で。

「改めて、ごめんな。えっと、何と言えばいいのか」

「あぅぅ、も、もういいですよぅ。ちょっと痛かっただけですから」

 御主人様は少々頬を赤らめているが、落ち着いたようだった。けど、痛かったのか。割と思い切り掴んでしまったからな。

「ほんと、悪かった。なんか、詫びに言うこと聞くぞ」

「……恵一があたしの言うことを聞くのは、その、普通のことだと思うんですけど……」

「……そういやそうだな」

 改めて考えてみれば主従関係なのだから、当然のことだった。むしろ、割と御主人様の言うことを聞かない今までの俺の方がおかしいんじゃないだろうか。

 まあ、躾も仕事のウチだと言われたし、それは良しとしておこう。だが、詫びぐらいはしないとな。

「じゃあ、そうだな。仕事とか抜きで。そういうの関係なしに、俺が出来ること。何か無いか?」

「恵一はお仕事じゃなくても、恵一ができることを何でもやってくれます」

「そ、そうだっけ?」

 そんな大層なこと、した覚えはないのだが。

 御主人様は俺の様子を見て、くすくすと笑った。

「今朝したばかりじゃないですか。普通のメイドは、外に出かけようって言ったりしないです」

「そ、そうなのか?」

 俺としては、ごく普通に提案しただけだったのだが。まあ、メイドって意識が無かった発言ではあったかもしれないけど。

 共同生活をしてるんだから、それぐらい当然だろう。

「ふふっ……わからないほうが恵一らしいです」

「む、随分と偉そうな物言いだな」

「あぅぅ、あたし、御主人様ですよ〜?」

「普通の御主人様なら、今頃俺はクビになってるよ」

 敬語なんて使った試しがないわ、料理を手伝わせるわ、挙げ句の果てに胸を触るわ。

 俺ならこんなメイド即クビだね。

「い、いいんですよぅ。べ、別に普通じゃなくていいじゃないですか。あたしも、恵一も」

「……そうだな」

 御主人様の言葉に、深く頷く。

 俺達は確かに御主人様とメイドだけど、既存の型に当てはめる必要なんてなにもないのだ。俺達の流儀でやればいい。

 御主人様は自発的にメイドの手伝いをするし、メイドは要らん心配までする。それでいいんだ。

「……あ、折角ですから。さっきの、言うことを聞いてくれるっていうの、一つお願いして良いですか?」

 感慨に耽っていると、御主人様が何やら思いついたように呟いた。

「勿論だ。何なりと」

「そ、その……あたし、ウォータースライダー、は、初めてなんです。い、一緒に……滑りませんか?」

「お、おう。それぐらい、当然だ」

 アレ、割と恥ずかしいんだけど、まあ、それぐらいいいだろう。

 なんせ、俺達は普通の主従じゃないんだからな。

 

 さて、余談だが、二人してウォータースライダーに乗った結果。

「きゃああっ……恵一、お、お尻に触ってます〜〜っ!!」

「うぁ、暴れるなっ。離れないように掴んだだけだ!」

「ひぁあっ、そ、そこも駄目ですよぅ〜〜〜ッ!!」

「え、うあ、ちょ、御主人様こそ、そこ持つなーー!」

 帰宅後、反省文を四百字詰め原稿用紙二十枚分を言い渡された。

少し間が空いて申し訳ありませんでした。

段々恵一がエロくなってきました。我ながら不思議です。

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