メイド、特に何でもない日を満喫する
「恵一、あ、朝ですよぅ」
ぼんやりとした意識の中で、御主人様の声が聞こえる。
「恵一……恵一、朝ですよぅ」
だんだんと意識がはっきりとしてゆく。遠くに聞こえていた御主人様の声も、鮮明になってきている。
「恵一、恵一……もう、お寝坊さん、なんですから」
「んー、ああ、朝か……」
すぅっと、自然と目が開いた。そしてそこにある御主人様の顔。
鼻の頭がぶつかりそうなくらいの至近距離。大きな瞳。可愛い鼻の頭と、柔らかそうなほっぺた。
「よー、おはよ」
「……き、き……」
「気?木?」
「きゃああああああっ!?」
「ぐあぁぁっ、なんなんだ一体ーー!?」
御免なさい御近所様。今日もこの家はうるさいです。
*
「あぅぅ、あのタイミングで目を覚ますのは、は、反則ですよぅ!」
朝、トーストと目玉焼き、サラダを作っている最中。御主人様は横で手伝いながら、何故か顔を赤くして怒っていた。
「なんだってんだ。起こしたのは御主人様だろうに」
卵を割って、油をひいたフライパンに落とす。丸い黄身が二つ。おお、双子だ。御主人様、見たことあるのだろうか。
「う〜〜、お、起こしたのに起きないし、起きないと思ったら起きちゃうなんて……」
ぶつくさ言いながらも、御主人様はサラダ用の硝子容器を食器棚から取り出して、トーストの焼き加減をしっかりと見張っている。最近は手伝いも板についてきて、こっちとしては大助かりだ。まあ、メイドが御主人様に手伝ってもらっているのも変な話ではあるのだが。手伝わなくてもいいと言っても、手伝いたいと言われてはどうしようもないのだし。
「大体、俺は目覚まし七時にかけてるんだから、わざわざその五分前に起こしに来なくても勝手に起きるし」
着替えてる最中にいきなり目覚ましが鳴り出すのは、けっこう吃驚することでもあるのだし。
「た、たまには、ご、ご、御主人様自ら起こしてあげようと、ですね」
このちんまいのに御主人様の自覚が出来つつあるとでも言うのだろうか。思わず鼻で笑ってしまった。
「笑うこと、ないじゃないですか……」
「いや、すまんすまん。そうだよな、御主人様は御主人様だったよな」
目玉焼き完成。フライ返しを使って、御主人様が用意してくれた皿にひょいと移す。
「どうだ、双子の目玉焼きだぞ」
「わぁ、す、すごいです。恵一、こ、こんなこともできるんですか?」
「いや、本当に双子だったんだ。卵が」
「……へ?」
「たまに卵に黄身が二つ入ってるの、知らないか?」
御主人様は首をかしげたまま、固まってしまった。どうやら知らなかったらしい。
「もう少し色々勉強しなきゃな」
苦笑してフライパンを流し台に置いて、朝食完成。サラダの盛り付けは御主人様の担当である。料理はまだまだ俺のほうが上手いが、盛り付けは御主人様のほうが綺麗である。
「あぅぅ……け、恵一が色々、教えてくれればいいんですよぅ」
そう言って、御主人様はふいと自分の椅子に座る。なんだかんだで教えるのは俺か。それにしても、色々教えるって、何を教えればいいんだろうか。
……保健体育?
「恵一?」
「そうだな、じゃあまず実践から……と、何言ってんだ俺は」
妄想も大概にしなければならない。中学生相手に何するつもりだったのだろう。自分で自分の将来を不安に思う。
「実戦……戦闘ですか?」
「銭湯で実践は流石になぁ。せめて最初はウチの風呂場のほうが……」
だから落ち着け俺。発音が全然違う。
「……?」
「忘れてくれ。それより、冷めないうちに食うぞ」
「あ、は、はい。いただきます」
「うむ、いただきます」
仕切りなおしのようにきちんと手を合わせて食前の挨拶。
―――うむ、この目玉焼きの半熟加減。これぞ最強の目玉焼きなり。
朝食の片付けが終わると、部屋の掃除である。その前に洗濯機で一日分の洗濯物を洗うことを忘れてはならない。
掃除機でリビングと台所の塵を吸い込み、廊下は箒で軽く掃く。通販でやっているモップのような、紙を取り替えるだけでいい雑巾(?)が欲しい。足つきの棚の下とか、簡単に掃除できそうだし。
「御主人様、あの紙のモップみたいの、買っていい?」
夏休みに入って、家に居る御主人様を見て、つい尋ねてしまう。俺の独断で買ってしまってもいいのだが、まあそこら辺は、二人で暮らしている上でのルールみたいなものだ。相談して決める。後腐れがなくてよろしい。
「紙のモップ、ですか?」
「おう、ほら、ついーっとやると、埃が取れるやつ。けっこう便利っぽいしさ」
「あ、はい。アレですね。で、でも、箒で十分ですよね?」
「棚の下とかさ、アレでやると綺麗になるし」
「た、棚の下くらいあたしがやりますよぅ。雑巾持ってきますね」
御主人様、やる気まんまん。紙のモップはお預けらしい。
「……恵一、汚れてるところ、どこですか?」
雑巾を持って御主人様が戻ってきた。
「……いいよ、俺がやるから」
少なくとも、もうちょっときつく絞らなければ、床がびちょびちょになってしまうだろうし。
掃除が終わったら、洗濯物を二階のベランダにある物干し竿に引っ掛ける。シワにならないように、ピンと張って干すのが良いらしい。やりすぎてこの前、ハンカチを引き裂いてしまったので、限度を弁える必要もある。
例の如く、御主人様の下着には閉口する。鼻歌で気を紛らわすのは、今ではもう習慣になってしまっている。
「〜〜♪」
「恵一は、お洗濯好きなんですね」
様子を見ていた御主人様が嬉しそうに呟く。
ああ、御主人様のおかげで毎日ドギマギしてますよ。
洗濯物を干し終わると、昼前まで暇になる。この間に買い物を済ませたり、必要ならば銀行でお金を降ろしたりするのだが、今日のところは特に用事はない。そんなときは読書に限る。
既に戸田のおっさんや高木に借りた本は読破してしまったので、芦田女史が貸してくれた恋愛小説などを読み解いてみる。御主人様が先に読んだはずなのだが。
「なぁ、この主人公、性格悪いぞ」
「あぅぅ、そ、そんなことないですよぅ。最後はちゃんと……」
「言うな。まだ読んでないんだ」
「むー、それなら聞かないでくださいよぅ」
もっともである。
昼飯はヤキソバである。キャベツと豚肉、もやし。ソースを少し焦がしてやることで香ばしい薫りがして食欲が増す。
「け、恵一。ちょっと焦げ臭いです」
「すまん。調子に乗りすぎた」
家事一年生にとっては、ヤキソバとて難しい料理である。
昼食が終わると、夏の日差しに気持ちよく乾いた洗濯物を取り込む仕事が待っている。
「〜〜♪」
「恵一、本当にお洗濯好きですね。今度、あたしも手伝っていいですか?」
今度といわず、今すぐ自分の下着を畳んでくれないだろうか。俺が危ない行為に出る前に。
『犯人は奥さん、貴女ですよ』
『ど、どうして私が主人を殺さなければならないんですかっ!?』
『……残念ながら、証拠があるんですよ。揺ぎ無い証拠が』
また暇になったので、御主人様となんとなく昼の二時間サスペンスを観る。開始30分で御主人様が「犯人は被害者の奥さんですよね」と言っていたのを思い出す。俺が妖しいと思っていたのはあろうことか事件を解決する探偵だった。
「凶器は冷蔵庫の中……だと思います」
『奥さん、冷蔵庫の中にあるんじゃあないですか?』
「『凍った林檎が」』
御主人様、驚異の推理力。つか、凍った林檎で夫を殺害するサスペンスって、どないやねん。
「あぅぅ、でも、動機がわかりません……」
「どうせ痴情の縺れだろ。浮気したとか、されたとか」
『ぐっ……あの人が悪いのよっ。他所で女作って!!』
「わ、す、すごいです。恵一、どういう推理でわかったんですか?」
推理でも何でもない。嫁が旦那を……ときたら、大抵そんなものである。
「ふっ……それぞれの人間関係を正確に把握していれば、すぐわかるのさ」
ちょっとかっこをつけてみる。御主人様は偉い人を見るような目で俺を見ていたが……矢張り、どこか世間知らずなのだ。御主人様は。
夕飯は御飯に味噌汁。それに煮物と焼き魚である。
どうやら焼き魚というのは、単に魚を焼くだけではいけないらしく、塩をしっかり使わないといけないらしい。戸田婦人のレシピは一ヶ月経った今でも重宝している。
煮物はみりんと醤油の加減で味が変わる。御主人様は薄味が好みなので、醤油を少し減らすことにした。糸こんにゃくとジャガイモ、豚肉。長ネギ。きちんと栄養バランスも考えねばならない。
野菜不足は味噌汁で補う。今日は豆腐とわかめに加え、ごぼうを加えることにした。ごぼうを切る時は先端を錘になるように削り取っていく。面白そうだと言って御主人様に代わられてしまった。俺だってやってみたかったのだが。
「いただきます」
「おう、いただきます」
今日の夕飯もなかなか上手く作ることが出来た。御主人様が煮物に手をつける。
「……どうだ?」
「あ、はい。美味しいです」
よかった。この前煮物を作ったときは少し味付けが濃すぎたので、これだけが少し不安だったのだが、口にあったようだ。
「あ、で、でもお魚、生焼けです」
「おぅ、じぃざす」
自分の魚を箸で割ってみる。確かに中心が生っぽい。
「こういうときは電子レンジだな」
魚の皿を電子レンジに入れて温めスタート。待っていても仕方ないので、先に他のものを食べる。
つい最近まで母親がしていたことを自分でしている。なんだか不思議な感覚だ。
夕飯を片付けると、風呂を沸かせてしまえば一日の家事は終了となる。
いつもこの時期はシャワーで済ませてしまうのだが、御主人様は風呂好きなので毎日沸かしているのだ。
「御主人様、風呂沸かしたぞー」
「あ、は、はい。で、でも……ちょっと、テレビ……いいところなので、お先にどうぞ」
「ん、そか。まあ御主人様がそれでいいなら」
そういうわけで先に入る。脱衣場で衣類を脱ぎ捨て、掛け湯。温めの湯にゆったりと浸かる。
「くぁー……、やっぱ風呂はいいねぇ」
一日の家事の疲れがとれる。夏場は特に汗をよくかくし、冬は寒さに震えているので風呂は年中好きだ。
桜舞い散る春も、静かな夏も、そして秋が来て、また雪に包まれる冬が来ても―――なんてな。日本人に生まれてよかったと思うのはやはり風呂に入っている時だ。四季折々に風呂はそれぞれの楽しさがある。この生活を始めて、改めてそれがよくわかった。
「ありがとう〜〜言わないよ〜〜♪」
風呂で歌うのは親父くさいらしいが、気持ちいいのは確かである。一番風呂の気持ちよさもあり、ついついメロディを口ずさんでしまう。
「ずっと〜〜仕舞ってお〜〜く〜〜♪」
びばのんのん。反響がエコーになってそれなりに上手く聞こえるのもよろしい。流行ではなく、メジャーでもないが名曲を選ぶのがポイントだ。
「〜〜〜♪」
今日は調子がいい。脳裏には曲から読み取れる情景が広がり、心は雪の降り続ける街に降り立ったようだ。
「さよなら〜〜許せない〜〜僕た〜ちの、弱さが、よかった〜〜〜♪」
まるでドラマのように次々に場面展開してゆく心の世界。流石名曲。何処の誰が歌っているのかも知らないが、高木がCDを貸してくれるだけのことはある。思わず声も大きくなる。
「二人には〜ありふれた〜優しさ〜〜♪」
そして曲は必ずマスターしておくこと。歌詞を忘れて途中で黙り込むと興が殺がれる。
「花のように、恋のように……移ろう〜〜〜♪」
嗚呼、なんだか切ない気分だ。こう、心が洗われて行くというか、純粋な気持ちに触れているというか。涙さえ流してしまいそうな。
「低い雲、風を待つ、しず〜〜けさ〜〜もう〜〜聞こえない〜〜♪」
不覚にもじわっときてしまう。まだだっ、まだ最後まで歌い切ってはいない。最後の、一番いいところっ!
「両手には〜〜降り注ぐかけらを〜〜いつまでも、いつまでも、抱いて〜〜〜♪」
そして締めっ!
「最後まで、笑ってる強さを〜〜もう……知っていた〜〜〜……」
―――嗚呼、なんていい曲なんだろうか。今度、御主人様にもCDを貸してやろう。きっと気に入るに違いない。
ついつい長湯をしてしまった。歌に夢中で、身体を洗ったり髪を洗ったりするのを忘れていた所為だ。
手がふやけてしわしわになってしまったのを見て、そそくさと浴室を出る。
「さぁってと………?」
いざバスタオルで身体を拭こうとしたその時だった。脱衣場に御主人様がひょっこり顔を出したのは。
「恵一、大丈夫……で、ですか……?」
御主人様、なんか上の空。俺の顔を見て、そしてそのまま視線が下のほうに……
「ぬわぁぁぁっ!!?」
「き、きゃあああああっ!!!??」
慌てて浴室に引き返す。み、見られてしまった。
「なななな、なんで来るんだ!?」
「あぅ、あぅ、あぅ……け、恵一が遅いからですよぅっ。お風呂でのぼせてたら、た、大変だと思って……」
「あんな温い湯でのぼせるかーーーっ!」
「だったらもっと早く出てきなさいっ!」
おおぅ、動転して命令口調になってやがる。
「と、兎に角っ。ちゃんと服着てくださいねっ!!」
御主人様が音を立てて走っていってしまった。言われなくても服は着るつもりだった。
くそう、普通逆だろ。こういう展開。
取り敢えず服を着て居間に戻る。御主人様は俺に気付いたようだが、目をあわそうとせず、ずっとテレビの方を見ている。見られたのは俺だから、恥ずかしがるのも俺の方のはずなのだが。
「……風呂、開いたぞ」
「あぅぅ……わ、わかってますよぅ!」
御主人様はテレビから視線を逸らさずに叫ぶ。よほどショックだったのか。俺の裸は。
しかしあれだ。こうも恥ずかしがられるとこちらとしては、悪戯心も出てきてしまうわけだ。
「しかしだな、御主人様。思わないか、俺だけ見られるというのは不公平だと」
「……へ?」
「俺は見られた。だったら、御主人様も見られるべきだと思わないか?」
「……恵一?」
「御主人様はけっこう長風呂だからなぁ。そうだな、40分ってところかな」
「な、なにを言って……るんですか?」
御主人様がじりっと俺と距離をとる。
「だから、俺だけ見られたんじゃ不公平だから、御主人様も俺に見られろってことだ」
「な、な、な……」
「菜?名?奈?」
「何言ってるんですか、恵一のヘンタイっ!!」
脱兎の如く、御主人様がひでぇ捨て台詞を残して居間を飛び出した。むぅ、少し悪ふざけが過ぎたか。
珍しく、だんだんっと御主人様が音を鳴らして階段を上がってゆく。部屋まで逃げることはないだろうに。
で、結局御主人様は30分後に姿を現し、絶対風呂場に近寄らないことを約束させられて、わざわざ巴に電話までかけて、俺と30分話をするように頼んでから、風呂に行ってしまった。
『あはは……駄目ですよお兄さん、千晴は恥ずかしがりやなんですから』
「……おう、よくわかったよ」
って、ここまでするか、普通。
『それより、お兄ちゃんのコト、色々聞いていいですか?』
「ん、ああ。高木のことだな。いいぞ、知ってる限り教えてやろう」
巴、妹モード全開である。高木の趣味から好きな芸能人まで、次から次へと質問が飛び出す飛び出す。
『お兄ちゃんの将来の夢って、何か聞いたことあります?』
「んー、そういえば教師になりたいって言ってたな」
『へぇ、いいですね。なんかピッタリです』
「でもなぁ。アイツあんなことしてるからなぁ」
『え、どんなことですか?』
「……聞きたいか?」
『是非!』
ついつい盛り上がってしまう高木談義。
「……それでな、高木のやつ、幼稚園児に……」
『よ、幼稚園児にっ!?』
「告白されたんだ。お嫁さんにしてくださいって」
『わっ、すごい!』
「それでなぁ、高木のやつ、一瞬考えてた」
『え〜〜。イメージ崩れます』
「いやいや、そこら辺がヤツらしいというか」
『ひどいですよお兄さん〜〜。お兄ちゃんは普通の人ですよ〜〜』
いや、それは断じてない。あいつが普通の人間だったら、世の中の人間全員が普通の人だ。
「仕方ないな。とっておきのエピソードを披露してやるか」
『とっておきですか!?』
「うむ。これは誰にも話したことはないんだが、他ならぬ高木の妹だ。耳かっぽじってよぉく聞けよ」
『は、はいっ』
…………
………
……
…
『えぇ〜〜っ!?』
「どうだ驚いたか?」
『ほ、ほんとですかっ!?』
「勿論。俺はこの目でしかと見た」
『す、すごい……お兄ちゃんにそんな秘密があったなんて……』
「俺もアレには驚いたなぁ。いいか巴、高木っていうのはそういう一面もあるんだぞ」
『は、はい……けど、お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんです』
「よく言った。ここまで聞いてヤツをまだ兄と思えるなんて、巴は最高の妹だ。いつまでもいい兄妹でいるんだぞ」
『はいっ、ありがとうございます!』
うむ。巴もいいキャラになってきたなぁ。これからが楽しみだ。
一息ついたところで時計を見る。げ、一時間喋ってるし。
「も、もうこんな時間か。もういい頃合だろう。また今度な」
『あ、ほんとですね。またお兄ちゃんのお話、聞かせてくださいね』
「おう、じゃあおやすみ」
『おやすみなさい。千晴にもよろしく言っておいてください』
がちゃん。つーつーつー。
ふう、ついつい喋ってしまった。内輪ネタというか、特に高木に関してはネタの宝庫だからな。話も弾むってものだ。
「……恵一」
「おう御主人様。ちゃんと巴と電話してたぜ」
御主人様がパジャマ姿でじっとこっちを見ていた。どうやらゆっくり風呂に浸かって落ち着いたらしい。
「……楽しそう、でしたね」
何故か御主人様、ジト目である。
「うむ、高木の話題でなぁ。今度御主人様にも聞かせてやろうか?」
「……いいです。恵一は巴ちゃんとお話してるほうが楽しいでしょうし」
御主人様は投げやりな調子で言う。むぅ、ほったらかし過ぎたか。
「いや、御主人様と話してる時だって楽しいぞ」
「……でも、あんなに楽しそうに喋ってる恵一、見たことありません」
フォロー、全く効果なし。自分で巴と電話しろって言ったくせに。
「少し話があります。恵一、そこに座りなさい」
「え゛、ここ廊下なんですけど?」
「座りなさい」
「……はい」
仮面被ってるわけじゃなさそうだけど、なんなんだこの威圧感は。これはもしかして。
「い、いいですか。そもそもメイドというのはですね……」
……うぅ、やっぱり。御主人様説教モード。
「聞いてますか、恵一?」
「は、はい」
…………
………
……
…
結局、御主人様の説教は前回の記録の倍を行く一時間にも及び、俺の脚は完全に痺れてしまっていた。
「……ま、まあ、今回のことはこれで許してあげます」
元は自分で俺の裸を見たくせに。こんなときだけ御主人様風吹かしやがる。まあ、可愛いっていってしまえば、可愛いんだけどなあ。
「い、以後気をつけるように」
「おう、御主人様も以後覗かないように気をつけること」
「あ、あ、あぅぅ……アレは恵一が遅いから…っ!」
「はいはい。次からはちゃんと見たいって言えよ。こっちにも心の準備ってもんがあるからな」
「う〜〜、恵一ーー!」
よし、御主人様も元に戻ったことだし、明日も頑張って働きますか。
こういう、何でもない日を書くのは個人的に好きです。
御意見、御感想、お待ちしております。