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第4話:出雲神社と任那

 やがて二人は、目的地である出雲神社にたどり着いた。

 町の案内については、妖怪退治のあとで――と、道中で約束していたため、ジブリーヌと千夜はまず任務を優先していた。


 神社の境内は、朝靄のなかに静まり返っている。古代から連なる檜や杉が凛と立ち並び、石畳の参道には草の匂いとともに、どこか神聖な空気が満ちていた。

 ジブリーヌは百段ほどもある石段を登りきると、肩で息をしながら手水舎へ歩み寄る。本来は手や口を清める場所だが、慣れない彼女は水をすくって、そのまま喉を潤してしまう。


 そのとき、境内に大きな声が響いた。


「こらー! そこは水を飲む場所ではないぞ!」


 ジブリーヌがびくりと肩を震わせて振り向くと、紅白の巫女装束をまとった十代前半ほどの少女が、こちらへ駆け寄ってくる。小柄ながらも眼光鋭く、仁王立ちのまま見上げてくる。


「す、すみません……知らなくて……」


 ジブリーヌは作法を知らなかったことに気づき、恥ずかしそうにうつむいた。


 千夜がすぐにジブリーヌの肩にそっと手を置き、やさしく声をかける。


「大丈夫、気にしなくていいよ」

「千夜さん、この方は……?」


 ジブリーヌは不安げに千夜を見上げる。


 千夜は優しい声で紹介した。


「この方は、出雲神社の巫女・出雲任那さんだよ」

「任那じゃ。して、金ぴかのお主は何者じゃ? まさか、妖怪の類ではあるまいな?」


 巫女装束に身を包んだ任那は、胸を張って少し得意げに言う。そのやや意地悪な言葉に、ジブリーヌはさらに肩を落とした。


 任那は腕を組み、背丈こそジブリーヌより低いが、その雰囲気では完全に主導権を握っているようだった。


 千夜は任那にジブリーヌの事情を簡単に説明する。両親の仇討ちのため、遠くローマから日本へやってきたこと、航海の途上で嵐に遭い、仲間たちと死別したこと――。

 その話に、任那の表情も少し和らいだ。


「……そういうことか。異国の旅路はさぞ厳しかったろうな」


 少し照れくさそうに、任那は言葉を継ぐ。


「まあ、せっかく来たのじゃし、案内くらいはしてやろう。ついてくるがよい!」


 任那は境内を先導して歩き始めた。

 木の香りがまだ新しい社殿、威厳を感じさせる本殿、高く聳える柱、磨き抜かれた板張りの床。素朴な祭具や、堂々たる大しめ縄が静かに神域を守っている。鳥のさえずりや、遠くから響く太鼓の音が、ヤマトの世の神域に独特の空気を添えていた。


「すごい……本当に立派な神社ですね」


 ジブリーヌは感心して、きょろきょろと周囲を見回す。


「手水の作法も知らぬ者でも、ここが神聖な場所とわかるのじゃな」


 任那は少し意地悪そうに微笑む。ジブリーヌは視線を逸らし、気まずそうに小さくなった。


 やがて、境内の案内が一通り終わると、任那はふいに真剣な表情になる。


「さて、本題じゃが……最近、この神社の裏手の森に、土蜘蛛の類いの妖怪が巣食っておる。人にも害をなす厄介な奴じゃ。千夜、退治を頼みたい。そうしてくれれば、町の案内も存分にしてやろう」


 千夜は静かに、力強く頷く。


「わかった、任那。私に任せて」


 そのやり取りを見ていたジブリーヌは、少しためらいながらもおずおずと口を開く。


「あの、私も……一緒に行ってもいいですか?」


 任那はじと目でジブリーヌをじっと見つめる。その視線に気圧され、ジブリーヌは肩をすくめるように続けた。


「妖怪は……正直怖いですけど……。でも、千夜さんのそばにいると安心できて……。それに、何かお役に立てるかもしれませんし……たぶん……」


 千夜は思わずくすりと笑い、任那も「ふん」と鼻を鳴らして背を向ける。


「好きにするがよい。ただし、無理だけはするなよ、金ぴかの嬢さん。千夜はともかく、お主はあっさり食べられてしまうかもしれんからのう」


 任那の言葉に、ジブリーヌは思わず青ざめてしまう。


「安心して。ジブリーヌには、指一本触れさせないから」


 千夜がやさしく声をかけると、ジブリーヌは顔を赤くしながらも、小さく頷いた。


 こうして千夜とジブリーヌは、土蜘蛛の妖怪が潜むという森へと向かって、二人だけで境内を後にした。

 朝陽が木々の間から射し込み、古代の社に響く鳥の声とともに、静かでどこか厳かな空気のなか、森はゆっくりと二人を迎え入れていくのだった。

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