SNS令嬢は冤罪によりFF関係を解消される
「ユウロ・ミタケルト伯爵令嬢! 貴女との婚約を破棄する!」
フォロワー100万人を超える人気インフルエンサー、ベア・ノジール第一王子が高らかに宣言した。
「な、なぜですか!? 私が一体なにを……!?」
「お前が俺の悪評を言いふらしている事はこのオルディア伯爵令嬢から聞いた。このスクショを見ろ!」
ベア王子が差し出したのは一通のDMのスクショ。そこには私ことユウロ・ミタケルトのアイコンと共にこんな事が書かれていた。
──あのお方は知性に難がおありのようですわ。100万フォロワーがいるから利用しているまででしてよ。
「これが動かぬ証拠。失望しましたよユウロ嬢。表向きは聖女のような振る舞いをしながら、このような悪辣な考えを持っているとは」
「誤解ですわ! 私はそのような事をするはずがありません!」
ベア王子はふぅとため息を吐くと、ユウロを見下ろした。その瞳には既に情はなく、彼の放つ冷たい眼光にユウロはビクリと肩を震わせる。
「他にも証拠はあるのですよ。貴女がオルディア嬢に危害を加えていた証拠が」
再び目の前に映し出されるスクショ。それは酷いものであった。ユウロのアイコンがオルディアについての悪辣なポストをしているものばかり。およそ記憶にないそのポストに、ユウロは目眩を覚えた。
ベア王子の背後隠れていたオネディア伯爵令嬢は、意を決したように前へと進み出る。
「貴女の悪行もこれまでです! ご覧なさい! 貴女と懇意にしている人々を!」
「皆様がどうしたというの……?」
ユウロがスマホを開き、SNS「X」を開く。そこには恐るべき勢いで減っているフォロワー数が表示されていた。
10万、9万5千、8万……その勢いは止まる事を知らず、あっという間にフォロワーは1000人を割ってしまった。
「そ、そんな……これから私はこの社交界でどうやって生きていけば……?」
「もう君の顔も見たくない。即刻この場から立ち去れ」
衛兵がユウロの両肩を掴む。抵抗する間も無く、ユウロはベアー王子の屋敷から放り出された。
……。
屋敷を追い出され、彷徨うユウロ。途中、このまま実家に帰れば家族に迷惑がかかると考えたユウロは、兵士の目を盗んで馬車から脱出。森の奥深くへと逃げ出した。
「嘘ですわ……私はそんな事……誰かが私を陥れようとしたのですわ……」
疑わしいのはオルディア嬢。しかし彼女とDMを交わしたことなどない。なら、他の懇意にしていた者達が? 人間不信は募り、ドレスもボロボロ。やがてユウロは力尽きて倒れてしまった。
……。
しばらく眠り続け、目を覚ました頃にはユウロは見知らぬ家にいた。大きな釜に煮えたぎる緑色の液体。御伽話で聞いた魔女の家そのものだとユウロは感じた。
「おや、起きたのかいユウロ嬢」
振り返ると、そこにははるか昔にフォローを解除した魔女のフランシスが立っていた。フランシスは、長い鼻を摩りながら細い目をする。
「やはり。お主もはめられたようじゃな」
「はめられた……とは?」
「あのオルディアじゃよ。昔、お前さんがワシのフォローを解除した時の事を覚えておるか?」
「え、ええと……」
ユウロが記憶を頼りにフランシスを追放した時の事を思い出す。そういえば、あの時もフランシスのDMやポストが出回って、最低だと断じた皆が彼女をブロックしたんだった。
「そうだわ……あの時も確かオルディアが……」
オルディアが最初のスクショを上げたのだった。
「そう、それがヤツの常套手段なのじゃ。人のアカウントを偽装し、わざと自分を攻撃する一人芝居を演じ、被害者を装う……そうして、ヤツは邪魔な者を排除してきたのじゃ。
「しかし……どうやって……」
「どれ、見てみるといい」
フランシスはおもむろにスマホを取り出すと、 Xアプリを開いてユウロのプロフィールを開いた。
「ここで……こうじゃ……」
フランシスが、ユウロのアイコンをタップしてスクショ。その後写真を綺麗にトリミング。自信のプロフィールから捨て垢を作り、アイコンをその画像へ差し替えた。
「わ、私のアイコンと瓜二つですわ……」
見事にユウロのアカウントと同じになったフランシス。彼女はDMで別のスマホで作ったアカウントへDMを送り、そのスクショをユウロへ見せた。
「これが、ヤツの魔法じゃ!」
こうして、手口を知ったユウロはオルディア伯爵令嬢を告発。幸い、フランシス他、何人もの被害者達が名乗りを上げ、社交界は一気に燃え上がった。オルディア伯爵は居場所がなくなり、ベアー王子もユウロへと謝罪。2人は再び婚姻を結んだ。
こうして平和が訪れた社交界であったが。オルディアが消えた事で更なる邪悪が目覚めようとしていた。
その邪悪が狙う次のターゲットは、アナタかもしれませんよ……?