第2話 「かわいい服を着て、戦争に行く話」
「……で、なぜ私たちは今、“ペアコーデ”してるの?」
日曜の午後。
志乃はファミレスの入り口に立ち尽くし、自分の服装を見下ろしていた。
フリルのついた白ブラウスに、うすピンクのカーディガン。リボン付きのバッグ。
パステルカラーのスカート。ついでに、真宵とほぼおそろい。
「これ、どう見ても“こじらせ女子”が着ていい服じゃないよね……」
「でも、かわいい」
「否定はしないけども! 精神が持たないのよ、これで外歩くの!」
真宵はといえば、まったく動じる様子もなく、優雅にストローでココアを吸っていた。
その様子はまるで“姫”。むしろ天然素材の姫。
――きっかけは、昨日の部活帰りだった。
「かわいいものは、見せてこそ意味がある」と謎理論を展開する三好あんず先輩に、「今度の日曜、一緒に街に出て“かわいい”を広めなさい」と無茶ぶりされたのだ。
そして今。
完全に罠だとしか思えないフリフリコーデで、一般市民の中に放り出されている。
「ねえ、志乃。ここのパンケーキ、うさぎの形してるって」
「だからなんであんたはそんなに平然としてんの!? 恥ずかしくないの!?」
「恥ずかしい、って思うのは……心の防衛反応かも」
「は?」
「かわいいものを受け入れたら、心もやわらかくなる。志乃も、もっと気楽にすればいい」
「こちとら三年間、恋愛の地雷で心の柔らかい部分が全部焼け野原なんですけど!」
志乃が半ば叫びつつ椅子に座ると、ウェイトレスの女子高生が笑顔で注文を取りに来た。
「ご注文はお決まりですか〜?」
真宵は一拍の間もなく、
「うさぎパンケーキセット×2、あとピンクラテお願いします」
「即決っ!?」
「かわいい服には、かわいいスイーツが似合う。戦場には戦場なりの装備がある」
「それ戦場って言ってる時点で内心ビビってるじゃん……!」
店内のざわめきの中、二人のフリフリ服は完全に浮いていた。
けれど、真宵はその視線すら「観測データ」として処理しているようだった。
「ねえ、志乃」
「なによ」
「これって、戦争かもしれないけど、たのしいね」
「……っ」
不意にそんなことを言われて、志乃はドリンクのストローをかむ。
「かわいい服着て、スイーツ食って、何が戦争だよ……でもまあ……たのしいっちゃ、たのしい……かも……」
顔を背けながら、志乃はそっとつぶやいた。
その小さな声は、真宵の耳にはちゃんと届いていて、彼女は満足げににこりと笑った。